中国が大陸間の極超音速兵器を実験とフィナンシャル・タイムズ 10月16日にフィナンシャル・タイムズが「8月に中国が核兵器を搭載でき、音速の5倍で飛行する極超音速飛翔体と地球の反対側から相手を攻撃する部分機動爆撃システムFOBSの実験を行った」と報道しました。日本のメディアはすかさず追随して大きく報道し、中国が新しい極超音速兵器の実験を行い、軍拡競争を仕掛け、脅威であるかのように報道しました。「中国、新ミサイル実験成功 宇宙利用の極超音速兵器 米MD網回避か」(毎日新聞10月17日)「音速の5倍以上、米軍が極超音速兵器の実証実験に成功」(読売新聞10月22日)「ゲームチェンジャー脅威 極超音速兵器世界中が射程か」(朝日新聞10月29日)。中国の軍事的脅威を煽り立てるかのような扱いです。 一方、中国側はこの「極超音速ミサイル実験」報道を直ちに否定し、ミサイルではない、再利用可能な宇宙船の実験だったと反論しました。 ※中国は極超音速ミサイルで新しい宇宙能力をテスト(フィナンシャルタイムズ10月17日) ※西側で誇大宣伝された「核搭載可能極超音速ミサイル」は、再利用試験の宇宙船(グローバル・タイムズ) 米軍部とタイアップしたプロパガンダ 一体どちらが正しいのでしょうか。情報源はフィナンシャル・タイムズです。しかも7月26日の実験を10月になって報道したのです。しかもロケットやミサイル実験を監視し、情報を知る米軍当局しか判断できない内容を報じています。今回も米軍筋の意図的なリークとプロパガンダではないのかと疑うべきなのです。現に米軍はこの報道の直後に「中国軍が極超音速ミサイルの実験に成功した」と追認し、27日にはミリー統合参謀本部議長が「スプートニク1号打ち上げの時のような衝撃を受けた」と発言し、別の軍高官は28日に「過去5年間で中国は極超音速ミサイルの実験を数百回行ったが、米国は9回だ」と自分たちも大急ぎで極超音速ミサイル開発を行っていることを棚に上げて、中国の活動を大きな脅威と打ち上げました。フィナンシャル・タイムズの記事は米軍とタイアップしたものであり、それと同調した日本を含めた主要メディアの宣伝は、もう一つの反中国キャンペーン、もう一つの中国脅威論と考えるべきです。 フィナンシャル・タイムズはいまや反中国プロパガンダの主要な情報発信源の一つです。世界保健機関WHOを巻き込んだ「新型コロナウイルス起源問題」でも、フィナンシャル・タイムズ、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストやCNNなど主要メディアが反中国宣伝のために、米政府発の偽情報や意図的にねじ曲げた情報を何度も垂れ流しにしてきました。いまや、フィナンシャル・タイムズは中国に関する情報では米政府の反中国キャンペーンの宣伝塔であり、その内容はまずは疑ってかかる必要があります。 巨大な人工衛星打ち上げ用ロケットは兵器に適さない フィナンシャル・タイムズは中国が宇宙ロケットである「長征」ロケットに極超音速滑空体を乗せて、地球軌道を一周して反対側から極超音速滑空体を飛ばして攻撃する部分機動爆撃システム(FOBS)の実験をしたと報じています。地球の反対側(裏側)の軌道から攻撃すれば、中国やロシアを向いている探知レーダーに捕捉されず、目標近くでマッハ5を超える極超音速滑空体なら従来の対空ミサイルで迎撃できない、ミサイル防衛の無効化を狙ったものだと言い、中国はその実験をしているのだと宣伝しています。極超音速滑空能力をもつと言われる中国の東風17(DF17)中距離ミサイルが引き合いに出して、まるで大陸間弾道弾ICBMでも同じような能力を持つことを中国が追求しているかのように宣伝しています。日本の新聞やメディアは何の検証もせずに、オウム返しにこの内容を繰り返しました。 しかしFOBS+極超音速ミサイルの実験という内容は、日本でも一部の識者が指摘するように、まったく不自然な話なのです。そもそも使われたと言われる「長征ロケット」は人工衛星打ち上げのためのロケットで、ICBMではありません。 「長征5型ロケット」は全長55メートル、800㌧の巨大ロケットです。初期の「長征2型ロケット」でさえ30メートル、200㌧もあり、液体燃料で注入までに一定の時間を要します。どちらも人工衛星打ち上げ用ロケットですから巨大な発射台で打ち上げます。「長征ロケット」は兵器にはまったく向いていないのです。それに対して新型のICBMである東風41(DF-41)ミサイルは全長16.5メートル、80トンの固体燃料で、短時間で打ち上げることができます。発射は地下のサイロまたは移動式発射台から発射されます。だから巨大な「長征ロケット」にDF17ミサイルの先端部のような滑空体を付けたものを飛ばしても、新しい兵器開発にはなりません。まず、兵器にするにはICBM並の大きさに納めないと実用性がありません。さらにFOBSを考えるならICBMより長距離を飛ばないといけないので大型になります。果たして、そのために新しい大型のミサイルを一から開発しているのでしょうか。とても嘘くさい話です。それに、米国本土のミサイル防衛MDは実際には極めて限定的な能力しかないので、中国のICBMを防ぐ能力はないので、わざわざFOBS+極超音速の新兵器を開発する必要などありません。そんな巨額の費用を投入する価値がないのです。 ※中国が実験したのは宇宙船か、それとも部分軌道爆撃システム+極超音速滑空弾頭か 実際には中国版スペースシャトルの実験では それよりも、もっと現実にありそうなケースがあります。衛星打上げ用の巨大なロケットで打ち上げ、滑空で地上に帰ってくる--フィナンシャル・タイムズの伝える実験はスペースシャトル、あるいはミニスペースシャトルの飛行そのものと言えます。だから中国側が言うように、「回収型で再利用できるロケットの開発」の可能性は大きいのです。スペースシャトルも当初は「再利用による効率化・経費削減」を掲げて開発されました。中国が同じ原理を追求しても何の不思議もありません。むしろ新兵器開発よりずっとありそうなことです。 中国脅威宣伝は自分が軍拡競争で勝つため この実験については中国側の説明が正しいと考えるほかないのです。では、何のためにフィナンシャル・タイムズはこれを新兵器開発実験と宣伝したのでしょうか。それは、情報源と思われる米軍の動きを見れば見えてきます。フィナンシャル・タイムズの報道に、米軍高官は中国側の実験が新兵器の開発であると裏打ちの発言をし、ミリー統合幕僚本部長は「スプートニク1号以上の衝撃を受けた」と大いに宣伝しました。ました。そして、結論はお定まりの「米は後れを取っている、技術開発競争に勝つために予算を投入することが必要だ」という事です。何十年も前に冷戦下で繰り返された「ミサイルギャップ」(ソ連がミサイル分野でリードしているから米は追いつけなければならないと大騒ぎし大軍拡へ・・・全てウソでした)と同じ構造です。相手を過大に描き出し、自分が大規模な軍拡に突き進むことを国民に飲み込ませるための宣伝戦です。米軍部は、[1]衛星探知システム強化、[2]極超音速ミサイルを撃墜できるミサイル、[3]自分自身の極超音速ミサイルの開発、に突き進むのに予算と合意を取り付けようとしているのです。同時にあらゆる機会を通じて反中国宣伝に利用し、国民に中国に対する敵視感、反感を煽り立てようとしています。 日本のメディアの騒ぎようも、中国の軍事的脅威を煽り立て、日米同盟による対中軍事対決強化、軍事費の大増額(GNP比2%化)、敵基地攻撃兵器増強などを国民に受け入れさせる下地作りになっています。 新しい分野での軍拡競争・技術競争にも、そのためのプロパガンダにも反対します 極超音速ミサイル開発--これらの分野が現在の軍拡競争の最前線になってきていることは間違いありません。中距離の極超音速滑空体ミサイルは中ロや朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)なども保有していると言われています。ICBMでもロシアのアバンガルド・ミサイルが開発されています。これらの多くはまだ実証のレベル、あるいは実戦配備の初期段階にあります。この分野で従来の防護手段(例えばミサイル防衛MD)等を無効化する新兵器の開発競争が始まっています。現在の米の対中軍事政策は、対中国軍事包囲と挑発、軍拡競争と軍事技術競争によって相手に優越し、押さえ込もうというものです。 今回の米政府とメディアによる中国=極超音速ミサイル脅威の意図的な宣伝はその一環です。しかしそれはインド太平洋での軍事的緊張をますます増大させ、米中間の軍事的対立と新冷戦をますます危険なものにします。私たちは、このような軍事新技術での競争に反対すると共に、対中国のデマ、プロパガンダのばらまきに反対します。 2021年11月3日 関連記事 (No.40)中国の軍事力を誇大宣伝する国防総省報告書 |
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