逃亡犯条例案を「香港独立」問題にすり替えた「民主派」 一昨年の春、香港政府は中国本土、マカオ、台湾から香港に逃亡した容疑者を引き渡せるようにする「逃亡犯条例改正案」条例を制定しようとしました。イギリス統治下にあった1992年に制定された現行の逃亡犯条例には、米・英など20カ国とは犯罪人引渡協定が結ばれていましたが、中国とは取り決めがなかったからです。これは中国で重犯罪を犯しても、中国の一地方都市である香港に逃げ込めば逮捕できないという、通常では考えられない事態だったのです。 直接のきっかけは、台湾で起こった潘暁穎殺人事件です。台湾で交際相手の香港人女性を殺害した容疑者が香港に逃亡し、中国(中国の一部としての台湾を含む)との協定がないため、香港当局は殺人容疑で台湾当局に引き渡すことができませんでした。結局容疑者は、香港で起こした窃盗罪のみで起訴され、有罪判決で刑に服した後出所しました。当然、両親や親族、友人・知人をはじめ市民は怒り、法改正を強く訴えました。香港政府は、こうした民意に応えようとしたのです。条例改正案の提出は2019年2月のことです。 ところが、同年6月に、議会審議を目前に控えて事態は急変します。「民主派」や西側政府・メディアが突如騒ぎ始めたのです。彼らは、全く異なる次元の問題にすり替えたのです。一斉に“香港市民を強制的に逮捕・拘禁するものだ”“表現の自由がなくなる”“暗黒社会になる”などと騒ぎ始め、デモを開始したのです。 この2月から6月までに、いったい何があったのか。実は、この間、「民主派」活動家が頻繁に訪米し、米政府関係者と謀議を重ねたのです。一番露骨なのは、ペンス副大統領の下で開かれた安全保障会議(NSC)に香港「民主派」が招かれたのです。その後、香港で起こる出来事を計画したことは容易に想像がつきます。 「民主派」の常軌を逸した破壊・暴力活動と民衆からの孤立 香港デモを先導したグループとして2つの勢力があります。一つは、米英と深く結びついている「民間人権陣線」、もう一つはその行動部隊として登場し「勇武派」と言われる過激行動を行う若者グループです。両者は、一体のものでした。最終目標も、「香港の分離独立」であり、デモ行進では、民間人権陣線の一群が勇武派の若者達を挟み込む形で、警察隊から守る陣形をとりました。両派は、道路や鉄道、大学や空港を占拠し、略奪や破壊行動を組織しました。大規模な集会やデモが半年も限りなく続けば、香港の社会経済機能は麻痺します。 とりわけ勇武派の犯罪行為は常軌を逸していました。日本をはじめ西側メディアで盛んに登場する周庭や黄之鋒らです。彼らは、警官やデモを批判する住民へのテロを行い、公共交通や道路など公共物を攻撃し、あちこちで放火しました。親中派の商店は焼き討ちに遭いました。議会や警察署をも襲撃し、破壊と暴力の限りを尽くしたのです。 しかし、日本のメディアは、こうした破壊・暴力行為は一切報道しません。産経新聞から朝日新聞まで、彼らは英雄扱いでした。 また、民間人権陣線には、メディア王や土地・住宅投機や汚職にまみれた香港富裕層、香港に中国本土から逃亡してきた富裕層も加わっていました。条例改正の容疑項目には殺人などの他、贈収賄・不正蓄財・脱税等の経済重犯罪が含まれており、自分たちの資産を凍結されるのではないかと震え上がったのです。 たしかに、香港デモには当初、社会や生活に不満をもつ一般市民も多数参加しました。しかし、民間人権陣線は、一度も生活改善や雇用問題などを要求に掲げたことはなく、一般大衆を利用したに過ぎませんでした。 そして遂に9月に局面が変わります。香港行政長官が条例案を撤回したことに加え、民間人権陣線や勇武派の破壊・暴力行動がエスカレートし、彼らの目的が単に香港の社会経済活動を麻痺させることだと市民が気づいたことで、一般市民が完全に離れてしまったのです。そうなると困るのが彼ら「民主派」です。「香港の分離独立」まで突き進むしかありません。彼らは、条例案撤回後も「トランプ政権の介入」「中国への制裁」「香港政府打倒」などをスローガンに破壊活動をエスカレートさせ、自滅していったのです。日本のメディアは、こうした「民主派」の自滅過程すらきちんと調査報道もせず、ただ彼ら「分離独立派」を英雄視し、彼らの主張だけを垂れ流し続けたのです。 ※ドキュメンタリー「もう一つの香港」第一回 香港騒乱 ※ドキュメンタリー「もう一つの香港」第二回 騒乱はどこから 米をはじめとする西側諸国は国安法が“言論を弾圧するもの”“市民の自由を剥奪するもの”などと批判しています。しかし上の動画を見て下さい。これが「言論活動」と言えるでしょうか。「市民の自由な活動」と言えるでしょうか。略奪・暴行・破壊の限りが尽くされています。国安法に反対する人は、このような行為を「民主的な活動」として共感を寄せることができるでしょうか。映像ではまた香港警察の「暴力行為」の場面だけが切り離して報じられるフェイクニュースや、「民主活動家」黄之鋒や黎智英らが外国で支援を要請する様子などが克明に記録されています。 米国と「民主派」は不可分一体 米国の「中国共産党打倒宣言」 「民主派」は米国と一体となって動きました。米国は「全米民主主義基金(NED)」を通じて、明らになっているだけでも、1995年-2013年に計190万ドル、2018年だけで35.5万ドルもの資金を「民主派」に提供しています。NEDはCIA(米中央情報局)の隠れ蓑です。後者がスパイ・謀略・要人誘拐・暗殺などの非公然活動を行ってきたのに対して、前者は資金提供の形でパナマやニカラグア等への反革命工作を行ってきたのです。NEDは米国務省が毎年1億ドルもの資金を供給して中南米、中東、欧州をはじめ世界各地で反革命勢力への資金援助や宣伝工作、政権転覆工作などを繰り返してきた団体のことなのです。 ※香港デモの陰でうごめく「無責任な外国諜報機関」の存在に注意せよ(現代ビジネス) 米国は「中国共産党政権打倒」の目論見を明言しています。昨年7月トランプ政権のポンぺオ国務長官はわざわざ(中国との外交関係を樹立した)ニクソン大統領記念館の前で演説し中国のことを「残忍な共産主義の国家」と呼び「共産中国を変革する(つまり共産党政権を打倒する)」と明言しました。米国の香港への介入はその一環であり、中国政府としてもそのような介入活動、破壊活動に対しては強硬な措置を取らざるを得なかったのです。 ※「共産主義の中国 変えなければ」米国務長官の演説要旨(日本経済新聞) 「民主派」自身も積極的に意識的に西側諸国と結びつきあからさまに介入を要求しました。香港デモでは、常に星条旗や英国旗が打ち振られました。米国領事館まで行進したデモ隊の横断幕には「トランプさん、香港を救って下さい」と書かれていました。「民主派」は一昨年8月に日本経済新聞に意見広告を発表し、日本政府と国会に対して介入するようあからさまに要求しました。 ※「香港を救うため国会に陳情してください」日経新聞に意見広告。現地の市民団体が日本にメッセージ(HuffPost Japan) 「民主派」の組織「香港衆志」のリーダーである黄之鋒は一昨年米国、ドイツ、台湾を訪問し活動への支持を訴えました。特に米国では「香港人権・民主主義法案」の成立を前にした議会の公聴会に出席し、中国に対する制裁の必要性を訴えました。黄は2012年11月にNEDから10万ドルを受け取っています。中国政府は黄を名指しして「外国勢力にしっぽを振り介入を求めている。香港の繁栄と安定を壊す災いのもとだ」と厳しく批判しました。もう一人の指導者である周庭は、流暢な日本語で何度も日本の介入を要求しています。 このように香港には、国家分裂(香港の分離独立)、政権転覆、テロ、外国勢力の介入の差し迫った危険が存在していたのです。 国安法は遡及適用されたのか 昨年8月10日、黄之鋒や周庭ら勇武派活動家が逮捕されました。そして12月2日、一昨年6月に「逃亡犯条例」改正案に抗議して警察本部包囲の無許可集会を企画し参加を扇動した罪により、黄は禁固13.5ヶ月、周庭は同10ヶ月の実刑判決を受けました。西側メディアはこれを民主主義への弾圧、言論の自由を奪うものなどと報じましたが、有罪の理由は、既に述べた深刻な破壊活動を扇動した罪です。 これに対して西側メディアは国安法の「遡(そ)及(きゆう)適用」(国安法をその法の施行時以前に遡って適用すること)と非難しています。法制定と同時に「香港衆志」のリーダーである黄之鋒と周庭は組織を脱退し「香港衆志」自体も解散しました。同法の適用を防ぐためです。このこと自身が、金銭的な援助も含めて英米の支援を受け続けたことを証明しています。 しかし、現時点で「遡及適用」の事実はありません。彼らは国安法違反の疑いももたれていますが、それは周らが海外にいる民主活動家らと協力して団体・SNSグループを作り、国安法施行後も、海外に中国、香港両政府への制裁を求める活動資金をクラウドファンディングで募ったからです。それが「海外勢力との結託」にあたる疑いとされているのです。あくまでも、6月30日以降の「海外勢力との結託した国家安全への危害」の罪、国安法施行後の犯罪行為が処罰対象になっているのです。 ※周庭氏と黎智英氏の本当の逮捕容疑は 香港警察が注視する1.8億円(日経ビジネス) 同じく逮捕された「リンゴ日報」の創業者黎智英も、外国の銀行口座を使ってこのSNSグループに資金援助した疑いがもたれています。同グループは、国家安全維持法が施行された6月30日以降も国際制裁を求めるメッセージやスローガンを掲載し続けました。クラウドファンディング・キャンペーンも同様に続けられ、8月14日までに170万米ドル以上、日本円で1億8000万円以上を集めてたと報じられています。 ※何をしたら“有罪”?周庭さんたちはどうなる?(文春オンライン) 2021年2月25日 関連記事 (No.14)香港国家安全法(下)――特殊な歴史的経緯で生まれた「一国二制度」における特権と制約 (No.12)香港国家安全法(上)――西側帝国主義に蹂躙されてきた被抑圧国の視点から捉える |
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