シリーズ 「新冷戦」に反対する ~中国バッシングに抗して
(No.41) 気候危機との闘い(上)
「共通だが差異ある責任」を巡る、先進諸国と中国・途上国の闘い

 気候危機の深刻さが一段と深刻になっています。特にこの数年、気象の極端化がエスカレートしています。今年だけに限っても、北米での記録的な熱波、世界各地で頻発する山火事、欧州等での洪水など、甚大な被害が生じました。昨年6~8月の3カ月間の世界の地表面は過去最高の気温を記録しました。大気中の温室効果ガス、CO2だけでなくメタン、亜酸化窒素の濃度が記録的な上昇となりました。北極海の海氷面積は過去12番目に低いレベルになっています。日本もまた毎年のように豪雨被害に見舞われています。
 国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が、2021年10月31日~11月13日、英国のグラスゴーで開かれました。気候危機を解決するためには、一刻も早く石炭・石油などの化石エネルギーを廃棄し、再生可能エネルギーへと転換すること、気候危機の根源である温室効果ガス排出を限りなくゼロにすることが喫緊の課題となっています。COP26では、その方向への第一歩を踏み出せるかどうかが問われていました。
 最終日に合意された決定文書は、温室効果ガスの実際の排出量をゼロを目指す「リアルゼロ」ではなく、排出量と吸収量の差をゼロにする「ネットゼロ」をベースに、「気温上昇1.5℃未満」問題では様々な但し書きが付けられ、石炭火力問題については「廃止」から「削減」へ表現が弱められ、途上諸国への支援や損失補償は棚上げされ、排出権取引をはっきり明記するなど、大きな問題を含むものとなりました。
 それでも、気候変動枠組条約の決定で、化石燃料対策が直接取り上げたことは初めてであり、石炭火力廃止の必要性が国際的に理解され、実際に各国が脱石炭に向けて動き出していることは成果として確認できます。肝心なことは、「1.5℃未満」の目標を言うだけではなく、具体的な行動を取っていくことです。

「中国は気候危機対策に消極的」というのは本当?
 気候危機についての日本での報道では、中国について、「世界最大のCO2排出国」であるにもかかわらず、「石炭火力の廃止に消極的」で、「カーボンニュートラルの目標も2060年であり、先進資本主義諸国より10年も遅い」と批判するものばかりです。COP26についても、「英国など先進諸国が石炭火力廃止に積極的だったのに対し、中国やインドが反対したために後退した」と報道されました。しかし、気候危機について、先進諸国の責任を小さく見て、中国に責任を押しつける、こうした報道は事実を伝えているのでしょうか?
 そもそも先進諸国は、ほとんど実質的な排出を削減していません。国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)事務局によれば、先進諸国全体では2018年までに1990年比でわずか13%の排出削減しか達成していません。また、議長国の英国がとりわけ石炭火力に焦点を当てたのも、英国では電力に占める比率が1%程度と低く、自国に有利なためです。
 先進諸国は、自らの責任を棚に上げ、排出削減を中国を含む発展途上国に転嫁したのです。「共通だが差異ある責任」(後述)を果たさず、カーボンニュートラルの目標期限を早めるよう中国はじめ途上国グループに執拗に圧力をかけました。途上諸国が要求していた支援・補償をことごとく拒否しました。先進諸国から途上国へ排出削減に向けた資金支援について、COPの場でこれまで先進諸国は2020年までに年1000憶ドルを支援すると約束していましたが、達成は22~23年にずれ込み、約束は破られました。さらに途上国は、温暖化にともなう異常気象など「損失と被害」に対し、先進諸国に対して具体的な資金支援計画をつくるよう求めていたましが、これについても米国と欧州連合が拒否しました。
 先進諸国の途上国への責任転嫁に対して、途上国グループ(中国、インド、ボリビア、バングラディシュ、スリランカ、イラン、インドネシア、マレーシア、サウジアラビアなど22か国)が怒りを露わにしました。ボリビア代表は、「すべての国で2050年までにネットゼロを受け入れよという要求は途上国にとって非常に不公平であり『共通だが差異ある責任の原則』に反する」「強化された対策を可能にする必要な資金や技術の支援はどこにもみあたらない」「我々は炭素植民地主義に対して先進諸国と闘う必要がある。先進諸国は歴史的な責任を完全に無視している」など先進諸国の横暴と闘う姿勢を明確に示しました。本会議最終日の最終局面でインド代表が合意文書の石炭火力の「段階的廃止」を「段階的削減」に修正するよう求め、中国がこれを支持したのは、インド・中国の後退姿勢などではなく、「共通だが差異ある責任」を放棄する帝国主義に対する途上国の怒りを代弁するものだったのです。
COP26、立ちはだかった中印 土壇場で文書修正(日本経済新聞)

「共通だが差異ある責任」の重要性
 「共通だが差異ある責任」(先進諸国が途上国よりも重い責任を負う)は気候危機対策の根本原則です。産業革命以降先行して工業化を果たし、300年以上にわたってCO2を排出し続け、今日の気候危機を作り出した最大の元凶である先進諸国と、もっぱら植民地主義支配にさらされ、気候変動の被害を受け、1980年代以降ようやく工業化の道を歩み始めた中国を含む途上諸国と同列視することは、到底許されることではありません。
 「共通だが差異ある責任」の原則は、1992年にブラジルのリオデジャネイロで開かれた「地球サミット」(環境と開発に関する国際連合会議)で合意され、宣言に盛り込まれた、長い歴史を持つものです、国際連合の気候変動枠組み条約の前文や主な条文にも明記されています。
 こうした原則をないがしろにし、先進諸国は中国への攻撃を繰り返しました。英ジョンソン首相と米バイデン大統領が先頭に立ち、西側メディアとともに中国攻撃を繰り広げました。中国が打ち出した2060年までのカーボンニュートラルの目標に対して、先進諸国が2050年を目標としていることを引き合いに、目標を前倒しすべきだと迫りました。
 確かに中国は、世界最大のCO2 排出国ですが、今日の気候危機の最大の原因は現在大気中に充満する「累積排出量」です。これに最大の責任を負うべきは先進諸国であるのは当然です。1850年以降に最もCO2を排出した国は米国で、過去の排出量で約20%を占めます。また、1人あたり排出量で見れば、中国は先進諸国に比べてはるかに少なく、米国の3分の1に過ぎません。1人あたりの歴史的累積排出量では米国は中国の8倍に達するのです。
 
OECD諸国内に占める米国の排出量は半分超なので、米国1国の総排出量がアジア全体の総排出量と同程度ということになる。
「IPCC第5次評価結果報告」の「世界のCO2排出量(燃料、セメント、フレア、および林業・土地利用起源」全国地球温暖化防止活動推進センターのサイト)より作成。 

 中国のカーボンニュートラル目標が先進諸国と比べて10年遅いのにも、理由があります。EUは既に1970年代にピークアウトしており、2050年までに70年以上の期間があります。米国は2007年、日本は2013年ですが2007年から高止まりしていました。それに対して中国は現状でまだ増加しており、これからピークアウトさせなければならないのです。中国の場合ピークアウトからカーボンニュートラルまで30年しかないことになります。遅くに経済発展した中国が、先進諸国と同じ時期を目標にすることはできないのです。
 先進諸国のピークアウトは、温暖化対策が進んだ結果ではありません。ソ連崩壊による東欧の経済危機やリーマンショック等による経済危機が最大の要因です。加えて生産拠点の途上国への移転があります。この10年間の中国の排出量急増の大きな理由は、中国が「世界の工場」としての役割を果たしてきたことにあるのです。先進諸国が、製造業を中国をはじめとする途上国に移転し、そのことでCO2排出を「外部化」し、途上諸国に押しつけてきたのです。実際、中国のCO2排出量の7~14%は米国市場向けの商品生産のために排出されました。総排出量の1/3が他国への輸出によるものだとの指摘もあります。
2022年は米中覇権争いの序章!欧米列強とアジアの因縁の対立が根深い理由 COP26でインド人学者が中国を擁護(ダイヤモンド)

2022年1月10日
リブ・イン・ピース☆9+25

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