シリーズ 「新冷戦」に反対する ~中国バッシングに抗して
(No.54) 「中国軍事費脅威論」の詐欺的手法
はるかに急拡大する米欧日諸国の軍事費




図1


図2


図3


図4
毎年春恒例の「中国軍事費脅威論」
 毎年春、中国の全人代をメディアは「軍事費脅威論」をあおり立てる道具に使います。今年も各紙は「成長鈍化も軍拡拡大」(日経)、「台湾侵攻能力確立狙い」(読売)、「国防費7.2%増 軍拡鮮明」(産経)、「伸びが加速、国防費は日本の4.5倍」(朝日)、「これまでにない最大の戦略的挑戦、中国の国防費増に松野官房長官」(毎日)など、中国の国防費拡大を脅威と描きました。明らかに中国が軍拡を加速していると印象付け、世論を中国脅威論に誘導し、日本の軍拡・戦争準備、軍事費2倍化を正当化しようという目論みです。しかし、中国の軍事費増が脅威というのは本当なのでしょうか。

典型的なだましの手法
 「中国軍事費脅威論」の詐欺の典型が図1(左)の米セントルイス連銀が発信した各国軍事費のグラフです。一見、米国の軍事費を中国の軍事費の急激な伸びが追い越しているように見えます。そう見えるように米国と中国で目盛りの刻みを変える典型的なだましのテクニックです。同一の目盛りで描いたグラフ(右)で見れば、中国の軍事費が伸びているとはいえ、米軍事費の水準は中国と比較にならないことがよくわかります。

米国、G7の軍事費は絶対額で圧倒的
 さらに軍事費の絶対額で比べればメディアの作る印象とは全く違う像が浮かび上がります。図2のグラフは米国と上位10位までの国の軍事費の合計を比べたものです。米の軍事費は残りの上位9か国の軍事費の合計を上回るのです。米の軍事費は世界中の軍事費の4割近くを占めます。G7では世界の軍事費の52.7%です。中国は14.1%、ロシアは3.2%です。
 軍事費を問題にするなら、米国こそ世界最大唯一の大戦争国家であることを抜きに論じることはできません。112兆円にのぼ米国の軍事費は日本の国家予算全体(114兆円)に匹敵します。米国はこの異常に巨大な軍事費を世界中への介入と戦争に投入しているのです。大半のメディアは、米国が世界中で侵略を繰り返し、いつでも戦争している戦争国家であることには触れずに、あたかも「正義の味方」であるかのように描く。事実は全く逆の無法国家、戦争国家です。

日本の来年度軍事費は伸び率で中国の10倍以上!
 今年の全人代で報告された中国の国防費は7.2%増(経済成長率は5%増)、GDP比は1.74%(2021年)、その額は日本の4.5倍です。
 対する日本の来年度軍事費(防衛関係費)は何と26%増です。更に来年度政府予算には24年度以降の軍事費が「防衛力強化資金」の名目で組み込まれています。それを加えると軍事費は10兆円を超え、増加率は89%増という破格の異常な増え方になります。日本は軍事費伸び率で中国の10倍以上なのです。
 対GDP比でも、1年で防衛関係費だけで1.26%にはね上がり、「防衛力強化資金」を加えれば1.9%になり、GDP比でも中国を越えます。この事実にほおかむりしたまま、中国の緩慢な軍事費増をあたかも急テンポで脅威であるかのように描き出しすやり方は、悪意あるデマ宣伝という他ない。

西側諸国の軍事費は軒並み2桁増
 1月30日の日経は「防衛費日米欧2桁増」と報じ、その理由を「中国の脅威に備えた」ものと報じました。まるで中国に原因があるかのようです。しかし、増加は米国10%、日本26%、ドイツ17%、英国12%、台湾14%、仏7%、韓国5%という軒並み2桁の大幅増のなかで、中国は7.2%です(図3)。中国脅威と宣伝しながら、実際にはNATOと米の同盟国が大幅な軍拡に踏み切り軍拡競争の原動力になっているのです。
 対GDP比で見ても、中国の軍事費のGDP比は2002年以降明確に低下しています(図4)。経済規模の拡大に比して徐々に軍事費の負担を引き下げているのが現状であり、決して急速に拡大しているのではないことがわかります。

中国脅威論イデオロギーの批判がますます重要に
 西側の「台湾有事」での挑発、対中国戦争阻止は日本と世界の反戦平和運動の最大の課題です。対中戦争を阻止するには、人々を中国敵視、対中戦争に導くイデオロギー、反中・嫌中宣伝と闘うことが必要です。「中国軍事費脅威論」だけではありません。「中国権威主義」「習近平一強支配論」「新疆ウイグル・ジェノサイド論」「台湾有事論」「一帯一路債務の罠論」。最近では、「コロナ研究所流出説」「偵察気球脅威論」「クレーン脅威論」「TikTok脅威論」等々、米国発の異常な脅威論イデオロギーが次々とでっち上げられ、日本のメディアが朝から晩までそれを垂れ流しています。反中プロパガンダ、中国脅威論に反論していくことが、反戦平和運動の最重要の課題になっています。

2023年4月9日
リブ・イン・ピース☆9+25

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