2022 年 10 月 2 日、#つなごう改憲反対 連続講座 第3回「米国がしかける『台湾有事』の危険―日本全体が戦場に」がオンラインで開催され、山城博治(やましろひろじ)さん(沖縄県平和運動センター顧問・「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会」共同代表 )と下地茜(しもじあかね)さん(宮古島自衛隊保良(ぼら)弾薬庫反対運動・宮古島市会議員)に講演と報告をしていただきました。参加者は110人を超え、お二人のお話の後、活発な質疑討論が行われました。 山城さんはまず、メディアでもネットでも反中宣伝に溢れ、今にも中国が台湾を武力侵攻するかのように思わされていること、しかもその「台湾有事」が南西諸島だけの問題とされ、沖縄県民にすら広く共有されていないことへの警鐘を鳴らしながら、講演を開始しました。そして、日米両政府が、戦争が起きても「南西諸島の一部に限定」されるかのように宣伝していること、だから、多くの人にとっては「大したことではない」「沖縄で起きるならやむ得ない」「沖縄には可哀想だけど仕方ない」と意識の隅に追いやられていることを指摘しました。 しかし、今沖縄と南西諸島周辺で進められている米軍とそれに追随する日本政府の方針は、まさに日本全土を戦争に巻き込むものなのです。 山城さんは、去年「日米共同作戦計画」をスクープした共同通信社の石井暁(いしいぎよう)さんの記事を紹介しながら、米軍(海兵隊)のEABO(遠征前方基地作戦)なる作戦の許しがたい犯罪性を暴露しました。 EABOとは、南西諸島 200 の島々のうち有人の 40 の島を候補に攻撃拠点を置くというものです。対象は滑走路と水道設備のある島です。そこに輸送機でミサイルを持ち込み、「台湾有事」が起これば中国や艦船に対してミサイル攻撃をするというのです。当の米軍はごく少数の部隊だけがオスプレイで島々を移動し、大半はグアムかハワイに後退してしまいます。米軍には中国と正面から闘う気はまったくありません。一方、ミサイルを撃ち込まれた中国が反撃に出た場合、矢面に立つのは自衛隊、そして被害を受けるのは自衛隊と島の住民なのです。米軍はほとんど被害を受けず、軍事に偏重した米国の産業界にとっては笑いが止まらないことでしょう。 そもそも、中国と台湾の問題は中国の国内問題です。(米国も日本も「ひとつの中国」を承認、習近平政権は台湾が独立を宣言しない限り武力侵攻しないと表明)なのに、なぜ米軍がそこに介入するのでしょうか。なぜ日本は米軍に好き勝手に国土を使わせるのでしょうか。まったく理解できない、と山城さんは憤ります。 安倍元首相は、2015年に安保法制(いわゆる「戦争法」)を成立させる時、「米の戦争に巻き込まれることは絶対ない」と言っていたにもかかわらず、2021年12月には「台湾有事は日本有事、日米同盟の有事」と言い出しました。 この「戦争法」が存在することで、米軍が中台間に軍事介入すると、日本は戦争への道を進んでしまいます。もし中台間で戦闘がおこり、米軍が軍事介入を視野に展開を決定すれば、「重要影響事態」認定がなされ、米軍が南西諸島の拠点化を開始し、自衛隊は後方支援をすることになります。米中間で戦争が開始されれば、「存立危機事態」となり、集団的自衛権で自衛隊が武力行使することになります。中国が全国の在日米軍に反撃すれば、「武力攻撃事態」となり、個別的自衛権で自衛隊が武力行使をすることになります。こうして「戦争法」によって自動的に日本全土が戦争になっていくのです。 実際、キャンプシュワブの中で辺野古の隣の場所ではすでに自衛隊専用の弾薬庫が作られています。また、EABOに基づいた米海兵隊と陸上自衛隊との共同訓練が、東北や北海道で昨年12月に開始されました。今年、10月1日は、オスプレイが沖縄に配備されてちょうど10年。今度は南西諸島でオスプレイの飛行訓練がおこなわれています。EABOを実際に遂行しようとする準備が着々と進められています。 「中国が台湾侵攻を行うと明言した訳でもないのに、『台湾有事』『南西諸島有事』を騒ぎ立てる日米の強硬な姿勢は、他方で有事が発生したら「南西諸島限定戦争」で収まるとみている。日米が勝手に決め込んだ妄想と言わねばならない。「有事」が発生すれば当然米軍の出動拠点となる沖縄本島の在沖米軍基地も、それだけでなく全国の在日米軍基地や自衛隊基地にも戦火は及んでいく。」(講演レジュメより) こんな米国の謀略に基づく戦争の巻き添えにならないために、私たちにできることは何でしょうか。 自衛隊が戦闘に参加していくためには、少なくとも「戦争法」の 3 つの事態認定が必要になり国会の承認が必要になってきます。政府に「重要影響事態」、「存立危機事態」、「武力攻撃事態」の事態認定をさせないことがまず第一に取りうる手段となります。第二に 安保条約上の事前協議を盾に米軍の日本国内からの出撃を拒否することです。 国会での野党の勢力からいずれも困難を極める取組になるが、国民世論を背景にすることが出来れば不可能なことではない、と山城さんは強調します。 最後に、山城さんが共同代表を務めている「ノーモア沖縄戦命(ぬち)どぅ宝の会」についての紹介がありました。これは今年の1月に成立した会で、9月25日の石井記者の講演会を通じて、会員間の危機感を共有してきました。県内世論を喚起するために大集会とデモ行進を予定し、その力で県政や県議会に働きかけ、万人規模の県民大会開催を実現させようと考えています。県内での会員を増やすだけでなく、全国に可能な限りの連携組織立ち上げを目指しています。さらには、中国への大訪中団を派遣し、有史以来中国と深いかかわりのある沖縄は戦争を望んでいないこと、「謀略のような戦争」の挑発に負けずに、この地域の平和を願っていることを伝えたいという計画も持っています。最も大切なことは、宮古、与那国など、地域の人々との連携強化を重視することです。 講演は次のスローガンでいったん締めとなりました。 再び戦争を起こしてはなりません!これは米国の謀略です。 次は下地茜さんから、宮古島の現状についての報告がありました。 下地さんは、保良(ぼら)という集落に住んでおり、自衛隊の弾薬庫が、家からわずか300メートルしか離れていないところに建設されているのです。下地さんはその反対運動を粘り強く進めており、宮古島市会議員としても活躍されています。以下、下地さんの報告のあらましを紹介します。 宮古列島の伊良部(いらぶ)島に隣接する下地島(しもじじま)空港は、1971年の屋良(やら)覚書(琉球列島政府と日本政府間の確認書)の中で、軍事利用はしないとされていたのに、何度も軍事利用への試みが繰り返されてきました。2005年3月伊良部町議会で自衛隊が使用できるといったん決まったもののすぐに白紙撤回されました。この時の住民説明会で、「自衛隊の後ろには米軍が控えている」と住民が口々に述べて反対しました。 実際にその通りです。「米軍が日本の施設を使う」と、2プラス2(日米安全保障協議委員会)で共同発表されました。公園や港湾などで自衛隊が使用実績を作っておくと、日米一体化に基づき米軍が使用するのを止めるすべがなくなってしまいます。しかし、今の段階では自衛隊の使用に関しては拒否できるので、それらの施設を自衛隊に使わせないことが大切です。 南西諸島が米軍の軍事拠点になるのは、大きな転換点です。 「有事」で住民はどうなるのでしょうか? 「自衛隊に住民を避難させる余力はない」というのが自衛隊幹部の話として沖縄タイムスに紹介されています。 島の住民5万人が1か月で移動できるのでしょうか? 結局、避難勧告前に早期自主避難せざるをえず、事実上の立ち退きとなります。「有事」が終われば戻ってこられるのでしょうか? 人が住んでいた硫黄島が第二次大戦後、無人島になったことが物語っています。 「台湾有事」は決して「日本有事」ではありません。日米の介入は失うものが多すぎます。島の住民にとっては離島を強いられる不利益しかありません。 第一次世界大戦後に決められたワシントン海軍軍縮条約では、「国境離島は緩衝地帯として武装しない」という条項があります。島々にとっての最善策は、対話的外交を求めることです。 お二人のお話の後、質疑応答が、肉声とチャットの両方を通じて、活発に繰り広げられました。かいつまんで紹介します。 集団的自衛権から個別自衛権に基づいて自衛隊が武力行使をするには、もはや明文改憲は必要なく、解釈改憲の積み重ねだけでそれが可能となったことが確認されました。 「中国が台湾や日本に武力侵攻する」という前提そのものがおかしいという提起がありました。これに対しては、現に、そのおかしな前提がマスコミで言われ、それに基づいて自衛隊配備が進んでいることに危機感を持たざるを得ないということが語られました。さらに、中国と台湾との間で「1992年コンセンサス」が結ばれ、中国と台湾との間に平和的統一ということが打ち出されている以上、武力侵攻はありえないという指摘もありました。ただ、台湾が外国からそそのかされて台湾が離脱することがあれば、「武力解放」もありうると言っている中国に対して、バイデン政権がレッドライン(これを踏み越えると戦争になるような一線)を探っているという非常に危険な状態にあるという指摘もありました。 尖閣周辺での中国の公船や漁船の動きについて、日本のニュースがいかに一方的な報道をしているかという応答が行われました。 最も熱心に意見が出たのは、若い人にどう働きかけたらいいのかという問題でした。 若者には親米・保守が多いが多いが、沖縄ではどうかという質問に対して、「沖縄でもやはりその傾向は全国と同じ。沖縄戦の体験者から離れれば離れるほど、親米・親自民の傾向が強いが、実際に戦場に行くのは若者、それを何とかするのが運動の課題」という応答がありました。 若者に親米が多いのは生活に浸透しているからではないか、親自民というよりも政治や市民運動に対する忌避観がありそう、価値観的にはSDGsなどに興味があるのに、などといった指摘もありました。 アメリカ世論は台湾問題をどのように見ているのか、自国に関係のないことなのに、という質問に対しては、アメリカ世論はバイデンが登場してから変化した、バイデン政権はトランプ政権以上に好戦的で、ウクライナ問題では停戦協議が画策されていたのにそれをつぶしたバイデン政権を議会では全員一致で支持しているという指摘がありました。 運動の経験から、下地さんが「イデオロギーではなく生活の問題として訴えている」と語り、山城さんが辺野古で反対行動をしていて一番いたわりの声をかけてくるのは機動隊の中隊長だという話をしました。山城さんは、「あの人たちは仕事で表向きはそうしているが、戦争、環境破壊に反対だという人もいるはず。そうでなければ、知事選であのような結果は出ない。」と述べました。「信を尽くせば必ず答えてくれる」と。 最後に、「ピース・ニュース」の方から10月15日合同カフェ開催のお知らせがありました。みなさん、できる限り参加しましょう。 つながることの大切さで、防衛三文書に「対中」を盛り込むことを阻止し、軍事費増を押し返しましょう。 ※山城さん講演レジュメ ※山城さん講演資料 ※山城さん講演動画 ※下地さん報告動画 2022年10月7日 |
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