[3]戦後軍事外交戦略の大転換=先制攻撃力で対中軍事優位の追求――憲法破壊、「専守防衛」破壊 (1) 「安保3文書」の特徴の一つは、(上)の[1](2)で述べたように、敵基地攻撃能力保有を正当化し、大量の長距離攻撃兵器導入に踏み出したことです。すでに発注済のJSM巡航ミサイル(射程500キロ)に加えて、射程1600キロのトマホークミサイル500発、さらに12式地対艦誘導弾の射程延伸改造(射程1000キロ)、地上発射型量産開始と空中発射型、艦載型開発配備、F35やF2に搭載するJASSM巡航ミサイル(射程900キロ)など1000から1500発に及ぶミサイル導入。そして次世代のミサイルといわれる極超音速ミサイル、滑空型誘導弾の開発配備だけではなく部隊編成にまで踏み込んでいます。これらは日本が従来持ってこなかった中距離攻撃兵器であり、中国などを念頭に攻撃するための兵器です。 (2) 政府与党は、敵基地攻撃能力を「反撃能力」と言い換えていますが、全くのウソです。政府は、「相手の発射前に察知して攻撃する」と言いますが、デタラメです。隠ぺいされたミサイルの発射前の探知など不可能です。国会審議でも不可能ですし、ましてや国民が事前に知ることはできません。結局は自国の政府や米国政府に、白紙委任することになるのです。 実際に起こるのは米軍が中国を攻撃したいときに、適当な口実をつけて、一方的に「探知した」と宣言し、その合図で米軍と一緒に自衛隊も一斉先制攻撃することです。イラクやアフガニスタンやリビア、かつてはベトナムでもそうでした。米国は国際法違反などお手の物です。 どの巡航ミサイルも音速以下のスピードで、探知されれば撃墜されます。従って、開戦前に、相手が気がつく前に一斉攻撃を行うのが効果が高い先制攻撃兵器なのです。今回の日本の計画は、この先制攻撃のための兵器を大量に装備する計画です。他国に対する武力行使や武力による威嚇を前提とする大量の攻撃兵器の装備そのものが憲法9条を真っ向から踏みにじる行為です。先制攻撃による戦争の開始は交戦権放棄にも違反するのは言うまでもありません。もはや憲法破壊です。 更に「国家防衛戦略」は従来の、かろうじて維持されてきた「専守防衛」政策を投げ捨てるものです。「安保3文書」では、相手国の能力と闘い方に対応する「脅威対応型」戦略に変更すると宣言しています。従来政府が主張してきたミサイル防衛を含む「防衛力」では相手を抑え込めない、相手に脅威を与える攻撃力を追加することが必要だというのです。これは米国の軍事力と相まって中国に対する軍事的優位、攻撃力における優位を作り出すことで押さえ込もうというものです。しかし、この戦略は相手が対抗措置をとれば際限ない軍拡競争に突き進む、危険極まりない戦略です。攻撃力で対中軍事優位を追求する軍事戦略への転換に断固反対します。 [4]「戦争国家」化――軍事だけではなく、財政も経済も科学技術も全て軍事優先で (1) 今回の「国家安全保障戦略」の特徴の一つは、(上)の[1](3)で述べたように、軍事優先の全般的・包括的な国家政策だということです。同戦略は自らを「外交力・防衛力・経済力・技術力・情報力を含む総合的な国力を最大限活用して、国家の対応を高次のレベルで統合させる戦略」であり「我が国の安全保障に関する最上位の政策文書」と規定しています。軍事・外交・経済安保・軍需産業・技術・サイバー・海洋・宇宙・情報・政府開発援助ODA、エネルギー等の諸政策全体に戦略的指針を与えるものだとしているのです。 つまり、今後日本はあらゆる分野で中国に対抗し、中国の弱体化を目指し、米と同盟国による対中軍事優位を追求し、そのために国を挙げて戦争国家を作っていく宣言になっています。現に、この下で軍事費の超特別扱いでの急増と軍備大拡張だけでなく、科学技術の軍事利用優先、海上保安庁の自衛隊との連携と軍事活動への従事、さらに軍事活動や戦争準備に重要な港湾、飛行場、民間施設の建設を各省庁の予算で優先する仕組み、これらの施設を自衛隊と米軍が自由に使える仕組みを作り上げようとしています。自衛隊による 情報統制と世論操作にまで踏み出しました。またODA等の運用も中国包囲の政策の下で行います。あらゆる面で戦争に協力する態勢、国家改造を行おうとしているのです。まさに「戦争国家」化です。 (2) そしてこの「戦争国家」化の最大の焦点が、財政の軍事化、軍事費急膨張です。「財政の軍事化」とは、予算編成の時に、まず最初に軍事費を決めて、民政関連は軍事費を使ったあとの残りの予算で賄うということです。もし足らなければ民生を切り、さらに足らなければ増税する。今回、岸田政権はこのやり方を実行に移しているのです。このような予算編成は戦後初めてのことです。まるで戦争中のような予算編成です。 これから5年間で軍事費を2倍にする、GDP比も2倍にして2%にする。コロナ禍で人民生活が窮しているときに軍事費だけは特別扱いで5年間に43兆円もの額を投入して、武器購入に大盤振る舞いをする。まったくとんでもない軍拡予算です。今年当初予算で5兆4千億の軍事費は、来年度一挙に6兆8千万に増やされ、最終的に関連費を含めて11兆円まで増額されます。軍事費を毎年1兆円以上も増やせば、福祉、医療、文教など人民関連部門の切り捨て、増税が避けられません。そうすれば直ちに人々の不満が爆発するでしょう。 岸田政権は騙しと増税の先延ばしで大軍拡予算を組むことにしました。剰余金、埋蔵金かき集めて軍事費の増加分に充当する計画です。しかし、これらの資金は本来国民に還元すべきものです。それを何の断りもなく軍事費に盗用するのはとんでもないことです。来年度予算では3兆4千億円を次年度以降の軍事費(「防衛力強化資金」)として先取りしています。来年度、実際の軍事費は10兆円を超えているのです。 こんななりふり構わないやり方でもごまかせるのは一時です。5年計画の5年目は6兆円の資金不足になります。来年春の統一地方選まで、国民を騙し、乗り切れば、次は増税の始まりです。5年目以降の当ては全くないので、増税と収奪強化と、人民関連予算の切り捨てしか道はありません。対中戦争に備え軍備増強をするために湯水のごとく予算を使い、そのために増税と収奪をし、人民生活を窮乏化させることなど誰も合意していません。私たちは、財政の軍事化、戦争軍拡予算、「戦争国家」化予算に反対します。 [5]中国との平和共存を。「中国脅威論」宣伝に反対しよう (1) 私たちは、前記の[1](1)で述べたように、「安保3文書」批判を、その出発点である「中国脅威論」批判、反中・嫌中宣伝批判から始めます。 日本の政府も、野党の多くも、メディアも、毎日毎日、朝から晩まで、「中国脅威論」、反中・嫌中宣伝一色です。「台湾有事」は米国が勝手に作った戦争の口実ですし、新疆ウイグル問題や香港問題など人権問題は、米国や西側が中国に内政干渉するためのでっち上げの口実です。そうして人々に中国嫌いを刷り込んでいるのです。それらがウソ・デタラメであることは、私たちは「シリーズ『新冷戦』に反対する〜中国バッシングに抗して」で詳しく論証してきました。 米国は戦争をする前は必ず、その戦争相手を悪魔化することから始めます。「中国脅威論」、反中・嫌中宣伝は対中戦争の政治的・イデオロギー的準備なのです。ベトナムに戦争した時は、「共産主義ドミノ論」でしたし、イラクに侵略した時は、「独裁者フセイン」「大量破壊兵器論」でした。今や、それは「習近平一強支配」「習近平独裁」であり、「国際秩序の一方的変更論」であり、「中国脅威論」なのです。 私たちは、中国敵視イデオロギーを逐一批判し、そのデタラメを暴露していきます。 (2) そもそも中国は敵なのでしょうか。私たちはそうは思いません。――中国は日本と平和友好条約を結んでいる唯一の国です。この条約で両国は「平和友好関係発展」を約束し「紛争の平和的解決、武力又は武力による威嚇不行使」を宣言しています。 かつて天皇制日本軍国主義は、明治の初期の台湾の植民地化を手始めに、日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦から、満州侵略、日中全面戦争、太平洋戦争に至るまで、中国への侵略戦争と植民地支配を続けました。1945年の敗戦時に、多くの日本国民は米英だけに敗北したと考えましたが、実際にはこの長期にわたる中国との戦争に、中国人民の膨大な数千人の犠牲者を出した上に、抗日抵抗戦争に敗北したのです。日中平和条約の文言は、この反省が反映されているのです。これを守るのは日本の国民の義務です。 中国は、日本を「仮想敵」にしていませんし、そのような軍事外交政策を策定していません。それをやっているのは米国と日本の方なのです。その中国を相手に再び戦争準備を始め、中国を包囲し、威嚇し、弱体化させようとすることは、歴史を逆転させる行為、過去の侵略戦争に対する日本の反省を投げ捨て、反省の上に築いてきた平和友好関係を踏みにじる行為で決して許すことはできません。 中国は日本の最大の貿易相手国であり、お互いの経済協力・発展のためになくてはならない国です。中国に対し戦争準備をすることは、自国経済を破壊する自殺行為です。中国が力づくで現状変更を求め、台湾武力統一や他国の領土略奪を狙っているというのは全くのデマです。台湾問題での内政干渉や日本との間の領有権を巡る主張の対立があっても、それは平和的外交的解決を目指すべきです。 中国は社会主義を一層発展させるため、貧困を克服し共同富裕に向かって進むために決して戦争や紛争の道を求めていません。長期にわたる安定した発展のために平和な環境と協力を求めています。私たちは日本と中国の間には平和共存と協力の道があり得るし、その道を進むべきと考える。戦争に備えて、国全体を「戦争国家」化することには絶対反対です。 2022年12月29日 |
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