報告:第3回カフェ「福島イノベーション・コースト構想とは」
福島「復興」のモデルは原爆開発の地ハンフォード

 11月29日、エルおおさかで、リブ・イン・ピース連続カフェ第3回が開催されました。参加者はZoom視聴者も併せて約40人でした。
 最初に 「福島イノベーション・コースト構想を監視する会」 和田央子(なかこ)さんによるZOOM講演:「福島イノベーション・コースト構想とは 福島復興の名の下に進む原子力推進と軍事ビジネス」 がおこなわれました。
 たいへん衝撃的な内容で、しかも、はじめて知った事実がたくさんありました。
 「福島イノベーション・コースト構想」(以下「福島イノベ」と略記)とは、2011年の大震災・原発事故によって放射能汚染の被害を受けた福島県浜通り地域の「復興」を名目とする国家プロジェクトです。
 しかし、その実態は以下に詳しく述べるように、地域・住民のためのものではありません。しかもそれは、第二次世界大戦の時に原爆開発をしたハンフォードがモデルとなっているのです。

「福島イノベ」の6つの重点分野――いずれも軍事転用・原子力推進へ
 「福島イノベ」では、6つの重点分野が設定され、どれも先端技術を生かしたすばらしい復興プロジェクトであるかのように宣伝されています。(@廃炉、Aロボット・ドローン、Bエネルギー・環境・リサイクル、C農林水産業、D医療関連、E航空宇宙開発)
 しかし、その実態は、福島「復興」の名の下に予算を獲得しながら、住民の生活再建のためではなく、軍事目的への転用が進められています。
 たとえば、南相馬市に「福島ロボットテストフィールド」という大規模なドローンの訓練場ができました。住民にはドローンで荷物の配送が便利になるなどという説明をしていますが、この施設では、CBRN(化学・生物・放射能・核)汚染に対応するために最大20km離れたところからの遠隔操作の研究が進められています。これだけの長距離は、「戦場を想定したものだろう」という研究者(井原聰東北大学名誉教授)の指摘があります。
 「福島国際研究教育機構(F−REI)」(以下「エフレイ」と略記)は、地元の新聞の「エフレイこどもサイエンス」と銘打った記事で、「放射線を正しく理解し活用することで人々の暮らしを豊かに」、「原発過酷事故の最中に避難しなくても良い時間を割り出す研究」、「研究成果を世界で起きる過酷事故に生かすことが福島の教訓」などと宣伝しています。

エフレイのモデルはハンフォードのPNNL(パシフィックノースウェスト研究所)
 エフレイは「福島イノベ」の司令塔として2023年に設立されました。しかしこれは震災からまだ3年に満たない時期からすでに構想されていたものでした。
 2014年1月に、原子力災害現地対策本部長が米国のハンフォードを視察に訪れました。
 そして、2024年4月10日の日米首脳共同声明「未来のためのグローバルパートナー」において、米国PNNLと福島エフレイの協力覚書が記載されているのです。この共同声明は「前例のない高み」の「防衛・安全協力の強化」が確認され、まさに戦争準備へと突き進むものです。(2025年2月7日の日米首脳共同声明では「米国による核を含むあらゆる能力を用いた、日本の防衛に対する米国の揺るぎないコミットメント」が発表。)

福島に「プルートピア」の将来が待ち受けている?
 PNNLが設立されているハンフォードは、マンハッタン計画において、第二次世界大戦で使用する原爆製造のためのプルトニウムを精製していた場所です。大戦後も核実験のための核兵器製造を続け、膨大な核廃棄物が発生し、土壌・地下水・コロンビア川を汚染しました。周辺住民にガンなどによる死者が多発し、今なお世界で最も汚染されている地域の一つです。
 この地域では、1990年にプルトニウム製造を終えてから除染と地域の経済開発に取り組み、30年後の2020年には人口が倍の29万人6千人に増加しました。観光化もされ、「アトミック・カフェ」など、原爆に由来した店や食事のメニューが並んでいます。
 東日本国際大学福島復興創成研究所では「日本版ハンフォードモデル構築による福島復興創生」を果たすとして、「ハンフォードが30年で実現した。福島でも必ずできる」と述べられています。
 ハンフォードの隣町リッチランドもにぎわっており「プルートピア」(プルトニウム+ユートピアの造語)と呼ばれています。福島の浜通りも「プルートピアに」というのが、「福島イノベ」の理想像なのです。

 質疑応答では、現地の住民や研究者の状況、意識に関する質問が多数を占めました。
 それに対して、帰還している住民は1割ぐらいで閑散としている、空間線量の数値だけで避難区域が解除されているが、粉塵にまじった微粒子の存在は無視されている、教育やメディアは徹底して取り込まれている、産・官・学の一体化が進み、多くの研究者が現地に入っている、特に若い子育て世代がじわじわ増えている、健康被害は統計に取られておらず、因果関係も証明できていない、など、深刻な状況が述べられました。

 副報告としてリブ・イン・ピース会員から「高市政権が進める戦争国家化」が報告され、高市発言に対する批判も行われました。
 2025年度の補正予算が成立したことで、対米公約の軍事費GNP比2%が前倒しで達成されましたが、これは序の口で、米国の真の要求は5%なのです。もしGNP比5%となるなら、社会保障や文教など防衛予算以外の予算は現在の3分の2に圧縮され、増税も避けられません。
 日本の軍事産業は異常なほどの活況を呈し、軍事関連の売り上げが急増しています。三菱重工の株価は2020年の273円から2025年の11月で3,855円となり、5年で14倍です。
 生活切り捨てに対する人々の不満への抑圧措置として、スパイ防止法などがもくろまれています。
 一方、米国の軍事戦略は対中一辺倒だったのが、「米本土と西半球防衛」(南北アメリカを米国の勢力範囲とする。ベネズエラへの戦争策動)重視に転換し、その分相対的に手薄になる対中戦略を日本に担わせようとしています。
 私たちは、このような戦争政策を阻止しなければなりません。
 最後に会場から今後の企画のアピールや熊本での反対運動の報告がおこなわれました。

2025年12月3日
リブ・イン・ピース☆9+25