[講演録](その七)

教育基本条例は何をもたらすか 〜東京と大阪の教育現場から〜
  
第二部 パネルディスカッション(4)――質疑応答

■Cさん(小学校教員):
 「保護者ともかかわりをどう持ったらいいのかという質問が出ていたと思うのですが、最近橋下市長が盛んに、保護者がこれから学校にどんどんどんどん関わっていって積極的に意見を言っていくような制度をつくろうとしていると思います。しかし、彼のやろうとしていることは、学校側・教員と保護者の距離を遠ざけていくような感じをすごく受けています。
 なぜかと言うと、学校を評価するとか、教員を評価するとか、教員への異議申立権を親に与えるとか、それはそれで全部匿名で、○×をつけて出していく形になっているみたいです。アンケート形式ですよね。
 なかなか僕ら自身が十分できていることもないし、いろいろ意見を聞いていきたいと思っていますが、それを見ただけでは、何をどう考えておられるのかが十分わからない。保護者との距離が隔たっていくことを感じます。
 僕が特に心がけていることは、学級通信が好きなのでとにかく最低週1で出しています。“今週こんなことがありました”“今日の子ども達の様子はこうでした”“僕はこう感じました”とか、“こんな問題が起こって困っています”とか、いろんなことをある程度オープンに出しています。おうちの方からも“いやあ、先生あれはもうちょっとこうしてや”と、こう直接的な顔の見える範囲で保護者の人と対話をしていく中で、“じゃこんなふうに進めていきますね”とか“こういうふうにしますからまた連絡しますね”とか“またなんかあったら教えてくださいよ”とかいう、具体的に顔の見える関係で毎日をやっていく。実際僕が間違っていることもあるし、これはおかしいでと指摘されることもありますけれども、それはそういう関係の中で克服していけるんかなあと思っていて、僕はそういう関係を大事にしたいなあと思っています。
 今橋下市長がやっているような、要は糾弾すれば良くなるとか、こいつに×をつければ次はいい先生が来るで、というようなことでは、教員と保護者の関係を逆に遠ざけてしまう、引き離してしまうということになってしまわないかと危機感をもっています。
 クラスに「発達障害」の子がいると親がクレームをつけるという質問がありましたが、小学校の教員をやっていると障害を持つ子どもの担任を持つことの方が多いくらいです。中には先ほど指摘のあったようなクレームというか、“授業どうなってるの?”という意見もたしかにあります。ただやっぱり僕自身が子どもたちに楽しくかかわって行きたいし、その子がこんなことができた、あんなことができるようになった、それをみんなで喜び合う――喜び合うというと大げさな言い方ですが――そういうことをみんなで共有していける、そんなクラスを作っていく中で、そういうことも克服していきたいなあと強く思っています。」

■Aさん(中学校教員):
 「保護者とは共通理解をもってやっていかなアカンということで、いろいろなことがある毎に家庭訪問をしたりしながら話をするというのは先ほどの小学校教員のCさんと同じです。
 児童虐待については、教員は気がついたら報告しなければならないという義務がありますので、もう十年以上前になると思うんですが、研修の機会があったりしてきました。特に小学校ですが、「虐待防止プログラム(CAP)」というのがあって、生徒に安全に安心して過ごしてかまわないのだよといって、先生や授業者の方に話せるというようなプログラムを実際行っています。CAPは、児童生徒に教員が授業として行うものもあり子どもたちが教員に訴える場合もありますが、CAPの授業をしてくれた人に自分のことを話す場合も多くあります。
 結構お金がかかるので、予算を市に要求したりして、発見に努めていると思います。」

■Bさん(高校教員):
 「保護者がいろいろクレームも含めて言ってくるのは、基本的には今後はもっと当たり前のことになってくると思います。だって、一番競争にさらされる、一番ターゲットになるのは子どもということになりますが、教員は子どもを競争させるという役割をどんどん強めるということになるので、良いにつけ悪いにつけいろんな形で言っていかざるをえないようになるだろうなと思います。その中で保護者と、変わっていく学校との間合いがどう変化していくのか、保護者との対話を、表に聞こえてこない声を、本当に現場はどう考えているのか、ある事柄を解決しようと思えばどういうことが必要なのかということを話し合う態勢が各学校に本当にできていくのか否かというところで、芯のところで橋下が進めようとしているこのことを進めさせてしまうのか、ブレーキをかけることができるのかという最後のところはどうしてもそこになってくるだろうと思いますので、どんどん言っていくべきだろうなと思います。
 今回の2月条例案からは消えてますけれども、10月条例案にはこんなくだりがあったんです。「学校教育の前提として生活のために必要な社会常識および生活習慣を身につけさせる教育をする義務を保護者に課す」というものがあります。発想そのものは消えていないと思いますので、自分の子どもがちゃんと机に座って授業を受ける態勢にさせるまでは保護者の義務ですよというものです。こんなものが通用するということになれば、子どもたちは排除されてしまうことになるので、そうさせないために具体的にはどういうことになるのか、真剣に議論の対象になり、保護者と教職員が考えていかなければならないと思います。」

■現役高校教員の会場からの発言:
 「高校の現職の教員です。二つだけ紹介をさせていただきます。
 一つは私の学校の状況です。私の学校では、去年職員会議で議決権を剥奪されました。全部の仕事が校長の任命という形でやられてます。校長は元教育委員会にいた人で、教育委員会の動向に非常に敏感だった人です。スピーディーな校務処理をするためには教員と相談なんかしていられるかということで、どんどん上から下へ上意下達型で、校長の意見に従う何人かの者で、将来構想委員会という小委員会を作って全部の校務をしている。そういう形でやられています。
 東京型の学校運営は大阪の一部でもすでに入っているということです。そのもとで鬱病の職員が二人病欠中です。もうひとり別に回復してきましたけども、患者がいます。様々なことをやらないといけない。校長は3年目で私と一緒にその学校に着任したんですが、教頭の中から校長を公募した時に自分から手を挙げて校長になった人です。ともかく今、校長は業績を上げることを要求されている。だから新しいことをどんどんやってます。予備校の講座を校内でやったり、そういう新しいことをどんどん毎年やらないと、教育長から評価されない。そして僕は校長と喧嘩ばっかりしてたんですけども、彼は子どもが好きだというところでは僕は一目置いていました。毎朝校門前に立って生徒と話をする、それから土日は色んなクラブの試合に付きそう、そういうことで非常に生徒からも愛されている校長ではあったんです。しかも府教委の覚えが目出度いように一生懸命がんばる。それが10日前に亡くなりました。校長会から自宅に帰る途中に道路に倒れて、心臓の発作だと思うんですけども、路上で亡くなられてしまいました。
 僕より上の人たちは早期退職でどんどんいなくなり、新任教員も入ってきません。学校が慢性的な欠員状態で超多忙であるというだけでなく、やっぱり教師の健康をむしばむような状態が圧力によって生じていることを是非知っといていただきたいと思います。
 もう一つは産経新聞で報じられた「国歌8人不起立」の件です。府立高校の卒業式が24日から始まっています。1日目の30数校の内、8人立たなかったということで、松井知事は「子どもに悪影響」、橋下市長は「公務員を辞めたら」、産経の評価で「そんなにいるのか」と書かれています。しかし現場の状況からたぶんやむにやまれず立てなかったのです。今、大阪はまだ東京ほどひどくなく――座席は決まってないし、外に出ていろというのもまだありなので――、たぶん3年の担任で式場から出ることができない人の中でどうしても立てないという人が8人いたということです。彼らは静かに座っていることしかできない、そういう状況の下で報告されて、これは戒告処分を食らうと思います。条例ができたら、その人は3回それをくらうと免職になる訳なんですね、そういう状況になっています。
 わたしも今2年の担任なので来年の卒業式では必ず処分を食らわざるえないという状況になっています。学校とかその教育委員会に楯突いてなんか行動をしてやるっていうのではなくて、みなそれぞれ思想・良心の自由に基づいてこれしかできないという人たちが、本当に踏み絵を踏まされて、ぼこぼこにされているという状況です。実は組合もこの問題ではほとんど動けていません。
 そういう状況の下で府立学校の教職員の中で私は今、それを命じた通達を撤回しろ、それから処分をするなという署名を集めようと思っています。この中にもしも府立学校の先生が来ていただいてる方が居られましたらちょっとお声をおかけいただきたい。それから市民の方にもそういう声を集めるような機会をインターネットなどで作りたいと思ってますので、またそういう時には是非ご協力をお願いしたいと思います。ともかく見殺しに、私自身もまわりから包囲されているような感じがするんですけども、良心を持った教師を見殺しにしないよう是非ご協力をお願いしたいと思います。」

(おわり)
2011年3月26日
リブ・イン・ピース☆9+25

教育基本条例は何をもたらすか 〜東京と大阪の教育現場から〜
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