[講演録](その四)

教育基本条例は何をもたらすか 〜東京と大阪の教育現場から〜
  
第二部 パネルディスカッション(1)

■司会:
 それでは、第二部のパネルディスカッションを始めます。パネラーは、大阪府内の中学校教員Aさん、高校教員Bさん、小学校教員Cさんです。まずは自己紹介と先ほどの渡部謙一さんの講演を聞かれての感想などを出していただければと思います。

■Aさん(中学校教員):
 大阪府内の中学校の教員をしています。先ほどの講演を伺いながら、大阪も東京と同じような、競争への道を進んでいくのかなあと思うと、ぞっとしました。でも、危機はわれわれの危機ではなくて、向こうの側の危機である。で、希望を語らない、橋下にしても石原にしても、希望を語れないものに未来はないというところに、すごい、アッと思ったんです。
 私は昨年転勤をして、S中というところに努めているんですが、定数内の教員が1人足りなかった。去年は2人足りずに4月が始まり、社会が6月に、数学が8月に、やっと講師という形で埋まったんです。今年は今年は4月に理科が足りない状態です。まず教員の人数自体がそろわない、学校にいろいろなことを押しつけてくる。大阪府の教育行政は本当におかしいと思います。
 青年教員のことを最後に話されておられましたが、大阪では新採用の人がものすごい割合で辞退しているというのを聞きました。採用そのものの数も本来必要な数を揃えていない状態で、ここずっと3分の1が講師という状態です。そのことをぜひ知って欲しいです。

■Bさん(高校教員):
 府立高校の教員をしています。今、渡部先生のお話を聞いていて、すべてこの通りにせよと、これはこの方法をとって、こういう形式で、こういう内容について、このようにしろと、いうような形で、1から10まですべてが事細かに職務命令で、同じ内容でも人によって職務命令の内容を変えていくと。1人1人が上から言われるこの通りにする以外に選択肢がない、そういう状況を作られていっていると。そういう現実が、外から見ていると、東京がそのような形で激しい強制の中にあった時に、大阪の現場の中から東京のことがそこまで見えていたかというと、なかなか直に現場にいる人から直接話を聞かなければ、いったい何が進行しているのかということについては、ほとんど知ることができなかったし、知ろうと思わなければ、そういう事実について全然知ることさえできなかったし、思いを馳せていくということすらできなかったというのが現実であったなと思います。
 ましてや、今私たちが大阪の現場の中で、橋下市長があれだけ騒いで教育をこんなふうにするんだと、こういう形でやりますから、新聞でも連日のように報道されて、条例という形で政治焦点化する時にはどんなことが起こってるのかということが、一般の人たちにも関心の的になっていると思うんですが、風が1つ過ぎればその後の何年間かというのは、その作られてしまった条例に基づいて、具体化が1つ1つ進められていくと。その実態についてはなかなか内部から発信をしなければ、伝わっていかないし分からないということが、今日のお話を聞いてよく分かりました。今進んでいる条例以外でも、例えば大阪の高校の学区は全廃すると、9学区から4学区に、そして4学区制のものを全府が1学区にという形のものが進めば、現実にその入試制度の中で、中学校と高校の現場がどう変化していくのかということは、おそらく当該の中学生、高校生、現場の教職員以外は、あまり関心もないし分からないという現状になっていく。
 ところが、後でちょっと話しますが、現場はそのための準備にもう入っています。小中学校では学校選択制ということがほぼ橋下市長の下でやられるだろうという中で、その準備に入らざるを得ない。入らざるを得ないという中で、具体的にどんなことが進められてしまうのか、やりたくないけれどもやらされてしまうというその現実がありますし、そのために汗水たらしてやるしかないんだというような状況になっているということが、東京、大阪で共通していると。そのことに対して私たちがどういう発信をしていくということ、どういう抵抗ができるのかということを考えていきたいと、思っております。一般的な感想になってしまいましたけれども、よろしくお願いします。

■Cさん(小学校教員):
 大阪市、ちょうど2ヶ月前に橋下が市長になった大阪市で小学校の教員をしています。よろしくお願いします。今日の話を聞いて、東京での圧力のかかり方がまず議会の圧力から行政による学校支配というのがあって、その後に直接的な政治の支配が始まっているという話があったと思うんですが、大阪市を見てるとまさに同じ状況が進んでるというのを感じました。
 大阪市の場合、数年前、民主党に政権が交代したころから、大阪市議会の中で自民党が非常に危機感を、政権を取られたということで危機感を抱いて、今しかないということで学校に対する圧力を非常に強めました。とにかく学校に対して何でも一律にやらせる、例えば卒業式でもいわゆるフロアー形式をまだ維持してる学校があるんですけれども、いやそれではだめだと、壇上の日の丸に向かっての式にすべきであるとか。結局、なぜそうなのかといった時に、議員が見に来た時にちゃんと答えられるんかと、こういう言い方で校長に対して圧力をかけて、とにかく議会の圧力を利用する形で、学校をすべて変えていく、というのが最初ありました。
 で、橋下市長、たったまだ2ヶ月なんです。まだ2ヶ月。ただこの2ヶ月の間に、学校が大きく変わってしまっていってるというのをすごく実感します。例えば、教育基本条例はまだ通っていない、大阪市版についてはまだ出てきていないと思うんですが、教育基本条例を先取りしたような状況がどんどん進んでいるような状況に、強い危機感を持っています。
 例えば、市職員へのアンケートの問題があったと思うんですが、非常に大きな人権侵害にかかわる問題だし、組合への不当労働行為だということで、かなり批判を浴びて、凍結という形になっていると思います。大阪市立の学校に対しても、市教委の議論の中で学校には下ろさないという形で、今はストップしてる状態です。ただし、今一旦下ろしてしまって、凍結したとしても、彼らの意図は半分以上これで成功してるんです。現場の中ではあれが下ろされたということだけで、非常に強い萎縮を感じています。学校なんか下りてきてなくても、そういう感覚を、そういう雰囲気を持っています。
 数日前には、「目安箱」という、また訳の分からない名前ですが、市長に対して何でも密告しろと、職員の気になることがあったらなんでも密告しろという「目安箱」という制度が、大阪の市役所にもあるんですが、学校にもそういう通知が来て、直接密告しろと。こうなるともう同僚との協働関係とかそういうことじゃなくって、みんな自分の行動が何を監視されてるか、何を言われるかという疑心暗鬼が進んでて、この1ヶ月でそこまで来てしまったという感じです。まだこれが始まりにすぎないということで、非常に強い危機感を持ちながら、今日のお話聞かせていただきました。

■司会:
 ありがとうございました。引き続きまして、橋下「教育改革」が強行されると教育現場がどのように変わり、どんなことが問題になってくるのか、それぞれの学校現場の具体的な状況や経験などを交えながら、お話いただければと思います。まずはCさんからお願いします。

■Cさん(小学校教員):
教育基本条例が成立する前から、統廃合や学テ公表に身構える
 少しさっきの続きの話をさせていただいて、現場の話をしたいんですが、もうすでに先取りで実質的に教育基本条例体制というのが始まってるという話をしましたが、学校選択制についても、教育基本条例の中に書くぞという話になってたんですが、もうすでに学校に対しては下りてきています。2014年度の実施ということで、2013年度には保護者に対してきちんと説明しないといけない。ということは2012年度中にどういう形で設計するかについて学校間でよく議論をしようということで、12年度、4月以降から議論は始めるべきだという通知が下りてきています。で、いち早く反応してるのが保護者と子どもたちです。驚いたんですが、もう、「あの学校はなくなるよ」という話がされてるんです。子どもたちの間でも話題になってる程度に、この学校選択が現実化しています。
 新聞報道で大きく報道されましたけれども、学校選択をすることで統廃合を一気に進めたいという思いがあるようで、新聞には101校が対象になるだろうという形で言われていました。大阪は全部で小学校297校ありますので、約3分の1の学校が統廃合の対象になるという形に、現状ではなっていると思います。大阪市で3分の1と言いましても、区によって全然状況がが違うわけです。例えば、西成区とか浪速区、生野区、北区、等では、半分以上の学校が統廃合の対象になっています。3分の1どころか半分以上なくなってしまう可能性があるのです。
 教育基本条例の中で、全国学テの学校別の正答率を公表するということが言われてたと思うんですが、これも既に条例が成立する前から、大阪市だけでなく府としてもやるというようことを宣言していますよね。子どもたちに返す成績表の中に、自分の学校の平均正答率を載せると言っていますから、その情報を収集すれば一覧表が一気にできてしまい、学校別の比較というか序列化というのがすぐにできてしまうことが生まれます。そういった形で大阪市の場合はどんどんどんどん先取りして進んでいっているところを、見ていただきたいなあと思います。

学力向上より、勉強できる生活環境作りが急務
 もう1点、いま進められている学校教育は、非常に競争で、本当にどこへ行っても学力向上なんです。でもよく考えてみると学力向上というのは学力テストでいい点を取ることなんです、学力テストでいい点を取ること、そのための勉強、学習をしようということがすごいスピードで進んでいます。ですから、学力テストの直前になりますと、過去の問題をやったりとか、授業を進めていくんじゃなくて復習ばかりやったりということが当たり前になっています。そういうのに非常に多くの時間を割いてとにかくいい点数を取らせる。そこまでなぜするのかと言うと、いい点数を子どもたちが取れないと、後ですごい指導が入るんです。例えば平均点以下だったりすると、学力向上プランというのを作らされるわけですが、なぜ点数が低かったのか、今後どうして行くのかというところを、強く改善を求められます。校長としてはそんなことはされたくないので、事前にテスト勉強をさせて、1点でもいい点を取らせる方向に進んでいます。
 しかし、現に教育現場がそれで行くのかって言ったら、そういう訳にはいかなくって、例えば私が勤務していた学校では就学援助が約6割いました。それとは別に生活保護の世帯が1割以上あって、合計7割以上がそういう経済的に負担の大きい家庭でした。そういった子どもたちが学校でどうなってるかというと、すごく遅刻が多いんです。朝やっぱり来られないんですね、生活リズムがよくなくって。当然朝ご飯は食べてこない子がたくさんいます。朝ごはんを食べてこない子はまだましなほうで、晩ご飯を食べてきてないんですね。お家の方が夜の仕事をされてる場合なんかは、やっぱり夜子どもだけで過ごしてしまうとか、お家の方が深夜に帰ってきて、朝子どもたちが学校に行くころにはまだ起きてなかったりとか、晩ご飯も食べず、朝ご飯も食べずに学校に遅刻して来る。非常に覇気がないですよね。
 子どもたちが元気なのは当たり前なんですけど、覇気がなかったり、「お腹がすいた、お腹がすいた」と朝から言ってる子どもたちがたくさんいました。私たちそういった子どもたちにかかわるのが当たり前になっていまして、私でしたら、自転車通勤をしてたんですけど、コンビニによって缶コーヒーでも買っていましたが、必ずその時おにぎりを買うようになり、そのおにぎりを保健室なり職員室なりで、遅刻して食べてこない子に1つ1つ食べさせてから教室に送り出すようになりました。おにぎりを買う教員は僕だけではなく、何人かの教員がそうやって毎日していました。小学生ですから、子どもたちだけで夜を過ごすということは非常に不安なことやと思うんですが、そういった家庭には、夕方子どもたちの家に行って、もちろん了解は取ってますけども、レトルトカレーを今日はあっためよか、と言って一緒に作って帰るとかしていました。

生活丸かかえで子どもたちに関わる教員
 特にここ最近経済的に厳しくなってる中で、今言われているテスト学力だけじゃなくて、そういう生活も含めてかかわっています。僕ら教員にできることは非常に限られたことで、それで何かが解決していくかって言えばそこはそんなに簡単なものではないんですけれども、少しでもそういったところに関わっていくというのも現場では当たり前になっています。
 クラスの子どもたちもそういうお家での色んな課題を抱えた子どもたちのことを僕以上に知ってる訳ですよね。やっぱり普段一緒にいてるわけですし、あそこはお母ちゃん遅く帰ってくるなとか、あそこはなかなか晩ご飯もない日もあるねんとか、子どもらなりにそれは知ってるわけなんですよね。そういうのを知った上で、別にそれを口に出すわけでもないんですけども、子どもたち同士がクラスの中ではあえてそれを認め合っている。そういう関係が子どもたちの中にできてて、いつも遅刻してくる子に対してもクラスの中に、暖かくというか普通に迎え入れているという、そういう居場所がクラスの中にあります。
 そういった色んな子どもたちがいる中で、色んな家庭環境がある中で、教員が関わりながら、子どもたち同士もそれに向き合っていくというのが、非常に大切なことなんじゃないかなと思っています。今のこの条例の体制ができた時には、こういうのには教員はもう関わるな、効率的でもないし、ある意味教員の仕事じゃないと、保護者の責任だということで割り切っていくような、そういう流れになっていくんじゃないかと非常に心配をしています。そういうことも含めて教育現場だと感じていますので、非常に心配しているところです。

(つづく)
2011年3月16日
リブ・イン・ピース☆9+25

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