東阪市教育委員会は、7月26日、4対1の多数決で「育鵬社」版公民教科書を採択しました。公立校での「育鵬社」版教科書の採択は、大阪府内では初めてのことです。「育鵬社」版教科書は、2001年に国内外から厳しく批判された「新しい歴史教科書をつくる会」を実質的に引き継ぐ教科書です。今回の貴教育委員会の採択に対して、批判と失望の声がわき起こっています。私たちは、貴教育委員会がこれらの声を真摯に受け止め、「育鵬社」版公民教科書の採択を取り消し、再審議を行うことを要求します。 (1)「育鵬社」版公民教科書は、「誤った知識や一方的な観念を子どもに植えつけるような内容」であり、旭川学テ最高裁判決(1976年5月21日)が例示する違憲行為そのものです。 [1]「育鵬社」版公民教科書は、日本国憲法を歪曲し改憲へと誘導しています。天皇の地位について、大日本帝国憲法下での「統帥権」を記述せず、あたかも直接政治を行っていなかったように描き、大日本帝国憲法と日本国憲法下で天皇の地位が変わることなく続いているかのような記述をしています。また、基本的人権についても見開き2ページの説明の中で、人権についての条文だけ列挙し、その一方で公共の福祉による人権の制限と国民の義務について詳しく記述しています。さらに平和主義の項のほとんどが自衛隊に関する記述と兵器の写真で、「国民に国防の義務」を課している国を大々的に紹介しています。平和主義は、自衛隊と国防の意義に完全にすり替わっています。このような記述の教科書では、子どもたちに誤った憲法観を植え付けるだけでなく、東大阪市教委が重点目標に掲げる「人間尊重に徹した人権教育の実践」はとうてい実現できません。 [2]「育鵬社」版公民教科書は、他社と比べても原発推進の立場を強く押し出しています。東日本大震災による福島原発の放射能汚染被害は、とどまるところを知りません。しかし、原子力「安全神話」が問い直されているまさにその時に、「育鵬社」版公民教科書はあえて原子力発電所の建設を「国策」として子どもたちに押しつけています。「市に原子力発電所の開発計画がもち上がった! 国家規模の政策については、どのように考えればよいのでしょう」と子どもたちに問いかけ、「国策」は受け入れるべきものであり、結局「市民と原子力発電との共存」しかないと教えているのです。放射能の被害を特に大きく受けるのは子どもたちです。その子どもたちの教育にもっとも責任を負うべき貴教育委員会が、このような教科書を採択するようなことなどあってはなりません。 [3]「育鵬社」版公民教科書は、コリアタウンの写真を載せるなど、一見「多文化共生」を尊重しているかのように見せかけていますが、その実、国家主義に貫かれており、事実上、「共生」を否定しています。 「育鵬社」版公民教科書では「外国人参政権」を否定的に扱っています。EU諸国はEU市民であれば、地方参政権を与えています。例えばフランスはフランス国民でなければ、地方参政権が与えられないということではありません。EUはそもそも国家という狭い枠組みを取り払い、政治・経済の統合をはかるという目的で結成された新しい共同体だからです。にもかかわらず、「育鵬社」版公民教科書では、EUを一つの国家であるかのように扱い、地方参政権を与えないのが世界の主流であるかのような記述をして、EUについてまったく誤った認識を子どもたちに与えているのです。 「育鵬社」版公民教科書ではまた、「国旗」に忠誠を誓い、「国歌」を歌うのがあたりまえだと教えています。しかし、東大阪市もそうであるように、さまざまの国の人々がともに暮らす地域で、「国旗・国歌」を強制することは子どもたちに苦痛を与えるものでしかなく、まったく教育的ではありません。 また、「育鵬社」版公民教科書は、領土について歴史的背景を無視して外務省見解を掲載し、相手国との対立を煽っています。たとえば、「竹島(韓国名・独島)」は、1905年に日露戦争の過程で軍事的必要性から一方的に島根県に編入したものであり、韓国併合のさきがけとなった侵略的行為です。にもかかわらず、「日本固有の領土」とか「韓国が不法占拠」などと教えることは、子どもたちに友好国への反感を煽ることにしかならず、百害あって一利なしです。 [4]「育鵬社」版公民教科書の表紙には日本列島の写真が掲載されていますが、沖縄が割愛されています。北方領土は明確に写しだされているにも関わらず、沖縄がないことに、当該の沖縄県民は激しく抗議しています。育鵬社は歴史教科書でも、沖縄戦への日本軍の関与にふれておらず、沖縄軽視の姿勢は明らかです。東大阪には歴史的に沖縄から移住者が多く、沖縄の歴史や文化が今でも大切にされています。「育鵬社」版公民教科書は、そのような東大阪市の地域性にふさわしくないことは明らかです。 旭川学力テスト最高裁判決では、教育行政に対して大綱的な内容に限って教育内容を決める権限を認める代わりに、行過ぎた権限行使をしてはならないとの念押しをしました。「例えば、誤った知識や一方的な観念を子どもに植えつけるような内容の教育を施すことを強制するようなことは、憲法26条、13条の規定上からも許されない」と指摘しています。「育鵬社」版公民教科書は、旭川学テ判決が例示する「誤った知識や一方的な観念を子どもに植えつける」内容であり、それを採択することもまた違憲行為となります。 (2)育鵬社は、「商品販売について不公正な行為」を禁じた独占禁止法に違反する不法行為を行っています。 育鵬社は、文科省の指導を無視して、見本本を広く「市販本」として販売しました。「日本教育再生機構」は、「市販本」を一括購入し割引販売まで行っています。従って、同機構は、育鵬社と同様に教科書採択に向けて営業活動を行っている共同事業者であり、「商品販売について不公正な行為」を禁じた独占禁止法の規制の対象となります。 しかし、同機構は、各地で開催した集会や機関誌等の出版物の中で、他社の教科書の誹謗中傷を繰り返しました。たとえば、同機構大阪が主催した「教科書改善シンポジウム」(6.18)でも、パネリストが名指しで他社教科書批判を行いました。これは明らかに、独占禁止法に違反する行為で、違法な営業活動を行ったことになります。 (3)貴教育委員会の「育鵬社」版公民教科書の採択は違憲で違法な行為にあたります。 上記のように違憲・違法な教科書を採択した貴教育委員会は、その責任を厳しく問われることになります。東大阪市の学校には韓国・朝鮮にルーツを持つ子どもたちが多数通っており、在日外国人教育や国際理解教育が活発に行われています。貴教育委員会には、再度東大阪市の教育が積み上げてきた人権教育を踏まえて、「育鵬社」版公民教科書の採択取り消しと再審議を要求します。 以上 |
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