反占領・平和レポート NO.58
Anti-Occupation Pro-Peace Report No.58
イスラエルによるガザ封鎖と飢餓戦略の新しい段階
A New Stage Of The Blockade Against Gaza And Starvation Stratagy By Israel

 反占領・平和レポート NO.57では、パレスチナ立法評議会でのハマス圧勝以降のイスラエルによるガザ封鎖戦略の政治的意味を明らかにし批判しました。今回のNO.58では、ガザ封鎖によってもたらされた兵糧攻めと飢餓政策の惨状の歴史的経緯についてレポートします。
反占領・平和レポート NO.57 ガザ地区150万人の生存まで脅かす封鎖を即刻解除せよ――06年1月パレスチナ立法評議会選挙でハマスが圧勝して以降の諸過程―― (リブ・イン・ピース☆9+25)

 イスラエルによるガザの「封鎖」が強化されたのは、2006年1月ハマスが評議会選挙に勝利してからです。そして、2007年6月にハマスがガザ地区の治安掌握をして以降は、完全封鎖とも言える新しい段階に入りました。今回の破壊と殺りくの上で強化・継続される封鎖戦略は、かつてない深刻な事態を生み出さずにはおきません。私たちは、封鎖を今すぐ解除すること、ガザを包囲するイスラエル軍が即時撤退することを要求します。また、私たちは、ガザを救うための緊急支援への協力を呼びかけます。

ガザの軍事・経済封鎖の解除、占領体制の終結を!緊急カンパへのご協力を
 ガザの情勢は緊迫しています。イスラエルによる「一方的停戦」宣言後も軍事的脅威にさらされる状況は変わらず、四方をイスラエル軍と分離壁に包囲され「天井のない監獄」で深刻な人道的危機にあります。私たちは、軍事的・経済的封鎖を完全に解くこと、占領体制を終結させるよう要求します。私たちは、ガザへの緊急カンパの呼びかけに協力します。

 パレスチナ、ガザへの緊急支援のお願い(イーココロ)

2009年2月16日
リブ・イン・ピース☆9+25

新しい段階に入ったガザの封鎖と飢餓
 ガザ封鎖強化の第一段階は2006年6月から10月にかけてです。最初に経済的な兵糧攻めが始まりました。パレスチナ自治政府を支える2つの財源が締め上げられました。第一に欧米からの年間約10億ドル規模の支援、第二にイスラエルがパレスチナ自治政府に代わって徴収している関税等の税収入の月々5500万ドルのパレスチナ側への移送金です。貿易や物流も全面的に阻止されました。原材料、機械・機材、修理部品の搬入が閉ざされたため、あらゆる産業がほとんど崩壊に近い状況に追い込まれました。
Israeli government freezes Palestinian accounts; United Nations demands that freeze be released(IMEMC)

 イスラエルへの出稼ぎは阻止されました。ガザのパレスチナ人労働者は、2006年3月12日からイスラエルに入ることを許されていません。失業率は1999年の12%から一気に40%以上へ跳ね上がりました。定期収入があるのはわずか30%。7万5千人の公務員でさえ遅配・欠配が相次ぎます。ガザの世帯の貧困生活率は2000年の30%から2006年4月の80%に激増しました。
パレスチナ(外務省)
失業、貧困の拡大、食料不足 イスラエル抑圧下のパレスチナの現状をNGOスタッフが報告(日刊ベリタ)

 さらに、「経済封鎖」が人道的危機につながる質的に新しい段階に入ったのは、2007年6月にハマスがガザ地区の治安掌握をして以降です。それから18ヶ月以上にわたり、今回の攻撃に至るまでに、恒常的に生存が脅かされる段階に至ったのです。これが第二段階です。
イスラエルによる封鎖の続くガザ地区(AFP)

 すでに2008年3月時点で、アムネスティ・インターナショナルやオックスファムなど英の8つの主要な国際的人道・援助団体が、パレスチナ・ガザ地区は1967年のイスラエルによる占領以降40年来の最悪の環境に置かれているとの報告を行いました。「燃料や部品、セメント、衛生用木綿製品など援助機関が必要としている人道支援のための資材の搬入をイスラエルが妨害している」と非難、さらに95%もの産業活動が資材の搬入・持ち出しが制限された結果、中止に追い込まれている、失業率は50%近くに増大している、電力確保に必要なディーゼル燃料の搬入もイスラエルが制限しているため電力不足が深刻で、病院は1日あたり最長12時間の停電に見舞われている、さらに電力不足は学校の運営にも影響を与え、教材などがなく「教育は相次ぐイスラエルの占領と閉鎖、貧困と暴力で崩壊状況にある」等々と告発しました。
 この時点で、ガザが巨大な強制収容所、監獄になっているとの認識が、人道・援助団体の間で危機感を持って広がり始めました。もちろん、イスラエル軍による空爆、軍用ヘリによる機銃掃射、戦車砲撃などで、数十人、100人規模の殺戮と破壊は日常茶飯事となっています。
Gaza's Death Throes(Counterpunch)
※ガザ地区が壁で囲われるようになったのは90年代の前半からで、ここ数年の間の建設はそれをいっそう厳重にしたものに他ならない。現地を知る人々の間では早くから「青空監獄」という形容が広まっていた。

軍事侵攻直前に陥った深刻な食糧危機と衛生システムの崩壊
 昨年11月には、イスラエルによる封鎖強化のため、国連が配給してきた食料在庫が底を突きました。封鎖が続けば食料危機を招くと、世界中のNGOが危機感を訴える署名運動を開始しました。今回のイスラエルの軍事侵攻の直前のことでした。
ガザの配給食料底を突く/イスラエルによる封鎖で(四国新聞)

 これら一連の事実は何を語っているでしょうか。それはガザ住民が絶えず飢餓寸前の状態に人為的に「コントロール」されていること、突発事件が起これば、一気に多数の人々が飢餓や最悪の場合餓死に至る人道的危機寸前にあるということです。国連の難民救済事業機関(UNRWA)や各国NGOは、2006年11月、2007年7月、昨年3月と11月など、断続的に緊急援助をアピールしてきましたが、その度にイスラエルに阻止されてきました。今回のイスラエルの攻撃はまさにこの突発事件であり、国際世論やパレスチナ連帯運動が沈黙すれば、すぐに人道的危機が爆発するという深刻な状況に突入しているのです。
 最も重要なのは食糧危機です。ガザ地区の住民の約8割は国連などの援助機関からの食糧支援に依存しています。これは以前、緊急事態が発せられた2002年時の約5割、2006年の63%から、異常に悪化したことを意味します。ガザ地区にも貧富の格差があり、食糧価格の急騰や海外送金の有無も関係し、大多数の貧しい人々は食料を買えません。援助などで得た収入の3分の2は食料に消え、借金漬けになっています。しかし、国連などの食糧支援は、元々量的に少なく、イスラエルの妨害や西側の思惑により幾度となく中断しています。朝食を食べる子どもたちはわずか1割、その他の食事も新鮮な野菜や肉がなく、特に妊産婦や乳幼児の栄養不足や栄養失調が深刻となっています。世界中のNGOの主な支援の一つが栄養食の提供と栄養指導の緊急支援となっているのも、そういう事情があるからです。
ガザ地区基礎知識(パレスチナ子どものキャンペーン)

 食糧危機と並んで重大なのは電力危機です。ガザ地区では、頻繁に停電になっています。イスラエルが発電所を爆撃で破壊したり、修理や発電用資材が搬入阻止されたりしています。そのため汚水処理施設が停止し、汚水が貯水池から溢れ汚水が路上に溢れ、地中海に垂れ流す状況だといいます。さらに上水道も危機的状態で水の供給も滞りがちで、水質も悪く、下痢や感染症の脅威と隣り合わせです。
 医療システムは崩壊しています。EU支援停止で自治政府の診療所は医薬品不足で機能していません。民間診療所は診療費が支払えない人が大勢います。NGOや国際援助団体が行っている無料診療所が唯一の望みの綱ですが、それすらスタッフ不足・医薬品不足に見舞われています。ガザを出て治療することが許される患者が2007年1月の89.3%から同12月には64.3%に急減しました。記録的な低下です。国連・NGO援助を除けば、急性的な飢餓や餓死が生じてこなかったのは、1000本にものぼるエジプトとの間の「トンネル」です。ここを通じて最低限の生活物資や食料が運ばれてきたのです。今回のイスラエルの攻撃の目的の一つは、このトンネルを破壊し「完全封鎖」を実現しハマスとガザ人民を締め上げることでした。それこそ飢餓や餓死につながるでしょう。
「命綱のトンネル網」ガザで再開(WIRED NEWS)

危機の根底にある占領支配――これをなくさなければ根本的解決はない 
 私たちは、「オスロ合意」以降のいわゆる「中東和平」のまやかしを批判してきました。なぜなら、それがパレスチナ人民にとって念願の「独立国家」樹立でも、民族解放でもないからです。まさに「中東和平」というスマートな言葉に隠された実態は、かつての南アのバンツースタン型アパルトヘイトをいっそう洗練された形で純化させたような「イスラエル型アパルトヘイト」だったのです。「暫定自治」の植民地的本質、その主な特徴は以下の通りです。
反占領・平和レポート NO.30 (2003/5/26)イスラエル型アパルトヘイト体制=“陸の孤島”への「ロードマップ」(署名事務局)

(1) パレスチナ自治政府が民政機能と警察機能を掌握したエリアAは、旧軍事占領地域の中に飛び地としてバラバラに、陸の孤島のように存在しているにすぎません。民政機能のみが自治政府にあるエリアBと民政機能もイスラエルと分有しているエリアCは、かつての軍事占領とほとんど変わりません。これら暫定自治政府支配地域を分断する入植地と縦横に走る道路網、これらはすべてイスラエル領土です。パレスチナ人が自らの「国土」を移動するにも、いったん「国外」のイスラエルに出て再び「自国」に入国するという形をとらねばなりません。その「国境検問所」はすべてイスラエル軍が管理しています。
(2) 水資源をはじめとする重要資源をイスラエルが管理し独占しています。パレスチナ自治区には重要産業はなく、多くのパレスチナ人は、「飛び地」から「イスラエル領内」へ出稼ぎに出るしかない。イスラエル側は「自治区」を超安価な労働力の供給地としているのです。ヒトとモノの流れがすべてイスラエルによって管理されている、経済的従属の極致。
(3) 拡大し続ける入植地。「イスラエルの安全保障」と称して、また「犯罪者」を出した家族への集団懲罰として、パレスチナ人住居が軍用ブルドーザーでどんどん強制的に取り壊され、パレスチナ人はどんどん追い出されています。
(4) 抵抗する者に対する容赦ない武力弾圧。空爆と戦車砲と武装ヘリによる破壊と無差別殺戮。政治的指導者や要人に対する暗殺。国家テロを国家政策とする正真正銘のテロ国家体制。等々。
 この「イスラエル型アパルトヘイト体制」に我慢と忍耐を押し付けられてきたパレスチナの若者・子どもたちが堪忍袋の緒を切らせたのが、2000年9月末にはじまる「第二次インティファーダ」でした。
 しかし、2006年以降ガザ地区で形成されたものは食料さえ取り上げられた巨大な「強制収容所」でしかありません。すでに述べた「人道的危機」の諸事実は、もはや「イスラエル型アパルトヘイト体制」をも超え出る全く新しい段階、屈服を拒否した人民に対する「前飢餓状態」の人為的創出と「静かな大量殺戮」とでも特徴付けられる皆殺し戦略なのです。

イスラエル当局が自ら認めた「ショア」=ホロコースト
 イスラエルのマタン・ビルナイ国防副大臣は2008年2月、「パレスチナ人は自らのショア(ヘブライ語でホロコースト)を招くだろう。なぜなら、われわれはあらゆる手段を用いて防衛するからだ」と発言しました。彼は反響の大きさに、「大量虐殺ではなく、災害一般を言ったのだ」などと言い訳をしましたが、ガザの災害とは「静かな大量虐殺」に他ならず、強制収容所化がナチスのユダヤ人大量殺戮と同様であるのを自らが認めたのです。シリアやリビアなどアラブ諸国が、国連安保理非公式会議などの場で、「ガザは強制収容所だ」と非難しました。
Israel warns Gaza of "shoah"(Reuter)

 英労働党のユダヤ人議員、国連人権理事会のユダヤ人人権問題特別報道官などは、自らの体験を想起し「人々を戦争地帯に閉じ込め死の恐怖にさらす」許せない行為だと非難しました。昨年末からのイスラエル糾弾、パレスチナ連帯の世界的な大衆行動の中でも、スローガンやプラカードにナチスの大量虐殺との共通性から「ホロコーストを許すな!」等々が一気に増えました。歴史上かつてないあのナチスの戦争犯罪、ゲットーや強制収容所、そしてホロコーストという告発や糾弾が出始めているのには理由があることなのです。
ガザは巨大強制収容所とバチカン イスラエル反発(京都新聞)
Israel using Holocaust guilt to continue Gaza op, says British Jewish MP(Haaretz)

 細長く狭い地区(東西5−10キロ・南北40キロ)に150万人が住む人口密集地を、周囲にコンクリートの壁で完璧に取り囲み、外界との接点は数ヶ所の検問所に限られ、そこはイスラエル軍が厳重に管理しています。内側では、農業も工業も経済がほとんど崩壊させられ、事実上国連・NGO援助と「トンネル」が命綱となります。生きていくのに最低限必要な食料と栄養の極端な不足、水も電気も燃料も中断・不足状態に抑え込まれ、事ある毎に空襲と殺戮と破壊の恐怖に怯え、人間の尊厳そのものが奪われる状況。米欧日などの反ハマスプロパガンダで、殺されても仕方がない民族として、抵抗の権利も、生きる権利も奪われる状況。そして挙げ句の果ては、150万人もの人間(14歳以下の子どもが45%を占める!)を重武装の戦車や装甲車や軍艦で囲い込み逃げ道をふさいだ上で、空と陸と海から一斉に砲撃し爆弾の雨を降らせる。――言葉に尽くしがたい怒りと憤激、屈辱と苛立ちと絶望。日常的な殺戮と飢餓状態となぶり殺し状態。私たちはこれを一体どう表現すればいいのでしょうか。ゲットー・ホロコーストと呼ばずして何と呼べばいいのでしょうか。