シリーズ 「新冷戦」に反対する ~中国バッシングに抗して
(No.6) モンゴル語禁止はウソ 社会経済活動に不可欠な「公用語」教育

モンゴル語教育は禁止していない
 中国が、モンゴル族に対して“モンゴル語の代わり中国語を使え”“モンゴル族の文化を抹殺”などという報道がなされました。
 記事の表題だけを見れば、中国の内モンゴル自治区でモンゴル語の使用が禁止され中国語が強制される、モンゴル語と共にモンゴル文化そのものを滅ぼそうとしているかのような事態をイメージしてしまいます。かつて日本政府が琉球処分で沖縄方言を使用するのを禁止したり、「旧土人」法でアイヌ民族にサケ漁や入れ墨などのアイヌ文化を禁止した原住民抑圧の歴史を想起させます。
 しかし事実は全く違います。中国政府が内モンゴル自治区で、学校教育において公用語(北京語)の学習をカリキュラムに採り入れるという内容です。すでに公用語の学習は高学年では採り入れられていましたが、小学一年生と中学一年生から学習するというものです。
 報道もきちんと読めば、自治区教育当局が、“小学1年と中学1年の語文(国語)で国家統一の教科書を使用する”方針を示しながら、“現在のバイリンガル教育体系は不変だ”とも表明しており、中国語を教える方針が決してモンゴル語を禁止することではないことがわかります。
「モンゴル語の代わり中国語を使え」中国、今度はモンゴル族の文化を抹殺?(ハンギョレ新聞)
中国が傲慢な理由で強行した「モンゴル語教育停止」の衝撃(Newsweek Japan)

 具体的な経緯としては、教育当局が6月に各学校にこの方針の内部通達を行ったところ、これが「北京語強制」「モンゴル語禁止」と誤って拡散され、生徒や保護者を巻き込んだデモやボイコット、署名運動に発展したようです。
モンゴル語教育大幅に削減に住民反発 中国自治区で学校ボイコット運動(東京新聞)

社会経済活動に不可欠な「公用語」教育
 中国には、国内に55の民族があると言われており、「公用語」とされる北京語にも枝分かれした方言があるため、おびただしい数の言語と方言が存在すると言われています。それぞれ独自の文化圏を形成してきました。中国は78年の改革開放以降、「特色ある社会主義」として資本主義を導入し、沿海州を発展させ、そこから地方に経済効果を波及させ、全体を貧困から脱却させるという方針をとってきました。モノと人の行き来が盛んになり、経済の遅れた地域から集団で沿海州に働きに行き、商売のやり方などを学んで地元で生かしていくという政策で、人々の交流や生産物の流通には共通の言語が不可欠となってきました。また、言葉が通じないと、就業機会が狭められ、生活や経済活動に苦しみ、また出稼ぎ先で不当な差別を受けるという事態が生じてきました。そのために、すべての自治区や民族で公用語(北京語)を学ぶという政策がとられてきたのです。
 新疆ウイグルやチベットではすでにバイリンガル(二カ国語)教育が導入されており、内モンゴル自治区は公用語を学校教育に採り入れる最後の自治区となっていました。
ちょっと世界一周してくる 中国 ウイグル自治区

 この映像は2014年の新疆ウイグル自治区ウルムチを取材したものです。カザフスタンに近く、ウイグル族と漢民族とが共生しながら独特の文化が形成されていることがわかります。商店やビルはほとんど「ウイグル語」と「中国語」が併記されており、ウイグル語しかできない住民が多数いることが推測されます。この地区でのみ生活していく限りは事足りますが、他の地域と商売をしたり、北京や沿海州に行く場合は「共通語」を理解しないと困難であることがわかります。
 日本でも、今でこそテレビドラマなどの普及で標準語が全国に行き渡り、また関西弁などの方言もイントネーションなどの違いはあってもかなりの程度通じます。しかし、たとえば福島弁と鹿児島弁しか知らない人同士が標準語抜きで会話をすることはほぼ不可能です。方言ではなく別の言語であればなおさらです。好き嫌いは別として、標準語は社会経済活動を進める上で不可欠なのです。

公用語教育は民族同化策ではなく、差別・貧困対策
 そもそも中国は植民地支配と侵略戦争によって国土を切り取られ破壊させられ、第二次大戦では2000万人とも3000万人とも言われる人民を殺されながら日本軍を敗戦へと追いやりました。その中心を担ったのが49年の中国革命を成功させた共産軍でした。新中国は9億もの人口をかかえる貧困国、遅れた農業国として出発しました。
 現在では名目GDPは14兆ドルを超え世界第2位になっていますが、一人あたりのGDPは1万500ドル、世界第67位にとどまり、依然貧困国であることにか変わりはありません。それがようやく中国全土から貧困ライン以下の住民をすくい上げる段階に来た状態です。2012年の中国共産党第18回大会で貧困脱却のスローガンが掲げられ、現時点で6000万人の貧困人口の解消が課題となっています。貧困は少数民族や辺境と深く関わっており、その撲滅とは、農村一般ではなく、少数民族をいかに民族的伝統とアイデンティティを維持しながら貧困から脱却させるかという問題となっています。非常にデリケートな問題でもあり「難関攻略」と言われています。その中で、公用語の教育は、貧困撲滅・格差解消のための重要な政策なのです。
 むしろ公用語を教えないことは、北京語に対して読み書きどころか会話すらできない非識字者のまま放置し、中国社会・経済から排除することになり、貧困を継続させることになると中国政府は考えているのです。就職だけでなく、都市部の大学進学などでも圧倒的に不利となります。裕福な家庭の子どもは家庭教師をつけて北京語の学習を早期からできるかも知れませんが、貧困家庭はできず、結果的に格差・貧困の再生産から抜け出せません。
新疆におけるウイグル族の中国語教育、学習の現状について(費燕 成城大学紀要)

 この論文では、「なぜ中国語の習得が必要なのか?」と問い「中国語は少数民族の日常生活と国内外との文化交流、ビジネス、貿易、科学技術分野での交流に不可欠な道具」としています。また“なぜ中国語を話すのか”などのアンケート結果が掲載されており、多数の人が中国語を学ぶ必要性に理解や支持をしていることがわかります。ただ“ウイグル語だけを話す「単一言語者」になることを望むか”との問いには一定数の人が「強く望む」と答えており、少数民族における「バイリンガル教育」の難しさも浮かび上がらせているといえます。ただし、約2割の人が“単一言語者”になることを望んでいるからといって、民族性を圧殺しているとか、反対意見を封じて中国語を強制していることにはならないのは明らかです。

少数民族が民族言語で教育を受ける権利の保障
 中国では、2011年に民族文化保護のために「無形文化遺産法」という法律が制定され、(1)言語(2)雑伎(3)医薬や歴法(4)祭り等民俗(5)伝統的スポーツ等(6)その他無形文化遺産を総合的に保護することが義務づけられました。その中には、民俗地区、辺境地区、貧困地区における無形文化財の保護、保存事業を含んでいます。
 内モンゴルに限って言えば、11月6日を「草原文化遺産保護デー」とするなど、民族文化の保護政策がとられています。
中国における無形文化遺産の保護に関する動向と留意点(JBA)
内モンゴル自治区における伝統祭祀とその「移植」(愛知県立大学 多文化共生研究所)

 内モンゴル自治区の面積は日本の約3倍、人口約2400万人の8割超が漢族で、モンゴル族は約400万人が暮らしています。今回の問題では「北京語教育の義務化」がクローズアップされていますが、むしろ2割弱のモンゴル族のために、民族語保護のための法律をつくり、モンゴル語教育を維持してきたこと、さらにそれを保護しモンゴル語教育を継続していこうとしていることを見る必要があります。先述の新疆出身の費燕氏の論文でも「中国の少数民族は自分の民族の言語で教育を受ける権利がある」とはっきりと書いています。
 翻って、日本の公立小中学校で、沖縄方言やアイヌ語、朝鮮語で学ぶ権利が認められているでしょうか。週の一コマ、クラブ活動のような形でアイヌ語が学習されているような例はあるかも知れませんが、正規の授業としては認められていません。在日の子ども達が朝鮮語で教育を受けようとすれば、朝鮮学校に行かなければなりません。日本では公教育での少数民族の言語教育は保証されていません。
 中国の内モンゴルではモンゴル語で正規の授業が行われているのです。
内モンゴル、奪われる言葉と誇り…「漢語教育強化」当局の弾圧厳しく(西日本新聞)

 この記事では、意図的に「奪われる」「弾圧」などの表題がついていますが、中身を読むと「内モンゴルを出たら生活や就職に不便だから、標準語を話せるようにするだけだよ」「没問題(メイウェンティ)(問題ない)」「モンゴル語の授業も残っている」などと市民が語っています。

生徒や保護者の反発を受け止め、民主主義的に解決
 中国当局は、デモやボイコット、署名運動などの動きを真正面から受け止め、8月に説明会を開催し、一部では混乱があったものの9月の新学期には新しいカリキュラムで学習過程が始まっています。経済の発展と民族的伝統の継承・保護をどう両立させていくかは、中国政府にとって重要な課題です。住民と対話し不安を解消しながら民主主義的に解決を進めていることが伺えます。
 今回問題にされた「モンゴル語禁止、文化抹殺キャンペーン」は、住民の不安な気持ちを利用してデマを煽る米や日本の反中プロパガンダにすぎません。
内モンゴルを動揺させようとする外国勢力の試みは失敗に追い込まれた(Global Times)
中国内モンゴルのバイリンガル教育における情報漏えいは「ねじれ」を引き起こす(Global Times)

 
 たしかに、「出稼ぎにいかなくても地域にとどまって生活できる保障が必要ではないか」「地域に根ざした経済の活性化が必要ではないか」「公用語が優勢になると方言が廃れてしまい、ひいては民族文化も滅びていく」等の意見や懸念が出てくることは十分考えられます。
 しかし内モンゴル自治区では、積極的に内モンゴルの魅力を紹介し、観光にも力を入れています。国内外から観光客を呼び込み地域を活性化するためにも公用語の普及は重要な課題と考えられます。
内モンゴル自治区公式ホームページ

 先述したように国内に55もの民族の存在、遅れた農業国として出発、13億の人口をかかえる貧困国、米国と西側諸国による敵対や貿易戦争等々の具体的事情を無視して抽象的に語ることはできません。そして何より、日本は侵略戦争で甚大な被害を与えた張本人であり、その日本に住む私たちがその自覚なしに決して傍観者的に批評することはできません。
 あくまで中国の政府・自治政府と人民が、経済発展・貧困克服と民族保護を両立させ実現していくという難しい課題と格闘する中で解決されるべき問題だと私たちは考えます。

2020年12月28日
リブ・イン・ピース☆9+25