クーデター政権により不当にも国外追放されていたセラヤ大統領が9月21日に電撃的な帰国を果たして早くも1カ月が経った。セラヤの帰国によってホンジュラス情勢は大きく変わった。 セラヤの帰国をホンジュラス人民は熱烈に歓迎した。外出禁止令を無視し、数千から数万もの民衆がセラヤのいるブラジル大使館に押し寄せた。セラヤはブラジル大使館から、全国民に対して、クーデター政権を打倒する平和的手段による「反乱」(insurrection)を呼びかけた。反クーデター運動は、クーデター以来、3ヶ月の長きにわたり驚異的な持続力を示し、セラヤの帰国をきっかけにさらに活性化、新たな動きを見せ始めている。数十人の民衆が殺され(実際にはもっと多いと言われている)、行方不明者も多く、数千人のセラヤ支持者が政治的目的のために投獄されている。それでも、全土で毎日のように抗議、ストライキ、道路封鎖が展開されている。 キューバのフィデル・カストロは、まさに「そこでは革命が生まれつつある」(A revolution is being born there.)と発言した。ビジネス界を牛耳る一握りの寡頭制(オリガーキー)、弾圧や拷問で名をはせてきた残忍な軍・警察、そしてそれらを操ってきた米政府・米軍によるファッショ的な「クーデター派」に対する正真正銘の革命が起こりつつあるのだ。 ※[紹介]ホンジュラス情勢についてのフィデル・カストロの考察(リブ・イン・ピース☆9+25) クーデター政権は、政権崩壊の危機感を抱き、軍・警察を本格的かつ全面的に動員し、国家権力と武力を前面に押し出したファッショ的な弾圧に乗り出してきている。 牙をむき出した軍事独裁政権 人権を無視したファッショ的弾圧 セラヤ帰国の翌日早朝から軍・警察は武力を背景にブラジル大使館前に集結していた約5千人もの民衆を、女性、子供関係なしに催涙ガスやゴム弾で弾圧し排除し、大使館内には催涙弾を打ち込んだ。館外には大規模な軍・警察を動員して包囲し、人体に変調をもたらす米軍御用達の高周波巨大スピーカーを据え付け、24時間休むことなく耳をつんざく音量で軍事政権側のプロパガンダを開始。大使館への食料・水・電気の供給をストップした。ブラジル政府に対してセラヤの引き渡しもしくはブラジル国内への亡命を要求し、9月27日には10日間以内に実行しないとブラジルの外交特権を剥奪すると最後通牒を突きつけた。ブラジル政府は一切を拒否、ルラ大統領は「クーデター首謀者こそが大統領官邸を出るべきだ」と軍事政権を強く非難した。 現在もブラジル大使館は軍事政権の軍、警察により厳重に包囲され、大使館への出入りは厳しく取り締まられ、大音量のプロパガンダも続けられている。館内には、数百人の大使館員や、セラヤ支持者、メディア関係者がいるが、ファシスト軍・警察がいつ突入し、セラヤを殺害・拘束するか、予断を許さない緊迫した状況にある。 クーデター政権は非常事態を宣言し、集会、言論、報道、移動の自由など憲法で保障された人権を停止するというファッショ的な挙に打って出ている。クーデター政権に批判的なラジオ局、テレビ局に警察が押し入り放送機器を押収し局を閉鎖した。各国のジャーナリストが暴行や危害を受け、ある者は知らぬ間に闇に葬られている。警察・軍は司法機関の許可なしに市民を逮捕できると発表し、平和的デモ参加者を容赦なく殴打し拘束し続けている。抵抗運動の中心メンバーたちが暗殺され、反クーデター民族抵抗戦線の活動拠点が軍や警察に襲撃されている。セラヤの帰国にあわてたクーデター政権は、何が何でも反クーデター闘争を押さえ込もうと躍起になっている。 ミチェレッティ政権とクーデター派には、米国とつながるラテンアメリカ中の反革命が結集するというグロテスクな様相を呈し始めている。あの悪名高き「スクール・オブ・ジ・アメリカス(米州軍事学校)」の軍事顧問らが、CIAのスパイでピノチェットの下で訓練を受けたフェルナンド・ビリー・ホヤと傭兵軍団が、ベネズエラでのクーデターに失敗し国外逃亡したあの実業家カルモナが、ニカラグア・エルサルバドルへの反革命攻撃を指導したレーガン政権下の駐ホンジュラス米国大使ネグロポンテが、クリントン夫妻の選挙アドバイザーのラニー・デイビスが、共和党のマケインの関係者が、米フロリダの反キューバ派が、それぞれアドバイザーとして、ミチェレッティ政権に参加・協力している。 新たな局面に入った反クーデター民族抵抗戦線の闘い セラヤ帰国によって、反クーデター闘争もまた決定的局面に入った。クーデター政権の集会・言論、報道の自由を奪うファッショ的な弾圧に対抗するため、反クーデター民族抵抗戦線は、テグシガルパの中心部に動員するのではなく、代わりに、貧しい労働者が集中する「労働者街」(barrios and colonias:poor neighbourhoods)で、自分の住む町を占拠するようアピールを発した。町の近くにある高速道路、税関オフィス、港などを占拠し、国の経済活動、「治安」活動への妨害を呼び掛けた。テグシガルパの20以上の地区で住民が国家警察を地区から排除しバリケードを築き新しい抵抗闘争に入っている。地方都市でも同様の抵抗闘争が組織されている。これまで受け身であった住民も生活の場が闘争の場となり積極的にかかわり始めた、地域、地元に根差した住民の組織的な抵抗が始まった。 セラヤ大統領は、10月16日付で、軍に包囲されたブラジル大使館から、人民の権利を手放さないこと、国の軍事政権化を受け入れないこと、民主主義を擁護すること、人権侵害・自由な報道の停止に対して警告することを宣言し、抵抗を継続することを呼びかける声明を発表した。(http://www.aporrea.org/actualidad/n144074.html) 10月20日には反クーデター民族抵抗戦線がホンジュラス国民と国際社会に選挙のボイコット、クーデター派のデマキャンペーン批判、ファッショ的弾圧に対する糾弾、民主的国家の構築を表明する声明を発表した。(http://hondurasresists.blogspot.com/2009/10/communique-number-30-of-national-front.html 英語版)(http://hondurasresists.blogspot.com/2009/10/comunicado-no-30-del-frente-nacional-de.html スペイン語原文) 以下、声明の訳文 1. 我々は、クーデター政権が時間を稼ぎ、制度的秩序の回復なしに、そして正当であるマヌエル・セラヤ・ロサレス大統領の職務復帰なしに11月29日の選挙を行なおうとする詐欺行為と遅延戦術を非難する。 2. 我々は、オリガーキーが軍隊によって維持する独裁政権が続く間、ホンジュラス国民は11月29日の選挙手続きのキャンペーンと結果を認めないことをあらためて表明する。 3. 我々は、オリガーキーへの奉仕として反クーデター民族抵抗戦線を暴力組織と描こうとするメディアのデマキャンペーンを非難する。我々は、平和的闘争の手法が115日間の抵抗運動の中で我々が使っている唯一のものであることを繰り返し表明する。 4. 我々は、クーデター政権が我々を陥れている、そして国民の貧困レベルの上昇を引き起こしている経済危機を非難する。 5. 我々は、抵抗運動の活動家の暗殺、脅迫とデモ行進や集会を包囲する行為、我々の姉妹兄弟たちを迫害し監獄へ送る不法で非道徳的な司法手続き、そして最近においては全国での教師に対する嫌がらせと脅迫行為といった形で表される国家の警察、軍組織による弾圧の継続への憤りを表明する。 6. 我々は、我々が国を再建し、労働者階級を搾取する少数派の富裕階級から国を救うとともに、民主的で民衆による全国制憲議会を設置するという不屈の意志をあらためて表明する。 大弾圧の下でもホンジュラス人民は決して沈黙していない。どのような状況の下でもあらゆる手段を使って抵抗の意思を表している。 HP上で見つけた非常事態宣言下でのホンジュラス人民の抵抗の一例を紹介する(http://narcosphere.narconews.com/thefield/3496/behind-coup-regime-curtain)
軍事独裁政権下の選挙は認められない クーデター政権は11月29日に大統領選を含む総選挙を計画している。この選挙でミチェレッティに代わる「大統領」を選出し、クーデター政権を正当に選択された政権として認めさせようとしているのだ。しかしクーデター政権下で行われる選挙に正当性などない。軍事的・政治的暴力、排除、抑圧、非合法のもとで正当な選挙などあり得ない。 クーデター政権の選挙キャンペーンに対し反クーデター民族抵抗戦線は、選挙ボイコットを呼びかける声明を出した。(1)セラヤ大統領をその職に復権させ合法的秩序がもたらされない限り、選挙もその結果も認めない。(2)民主統一党、無所属候補、自由党・国民党のクーデターに関与していない候補者に選挙に対する政治的立場を明確にするよう勧告する。(3)クーデター実行者による社会といわゆる「選挙プロセス」の軍国主義化を非難する。(4)人民による民主的な憲法制定議会の招集を進めることを繰り返し呼びかける、というものである。唯一の左翼政党「民主統一党」は選挙に参加しないことを表明、無所属候補もボイコットを表明し、クーデターに関与していない候補者に選挙に参加しないよう呼びかけた。参加表明しているのはオリガーキーを代弁する自由党候補と国民党候補だけとなっているが、その自由党でも300人の候補者がセラヤの復権がない状況では選挙をボイコットする意思を示している。(http://hondurascoup2009.blogspot.com/2009/10/boycott.html) ホンジュラス支配層の分裂 追い詰められる軍事政権 国内でのゼネスト、道路封鎖等の抵抗運動は国内生産を半マヒ状態にさせクーデター政府に約66億ドルもの収入の損失を与えている。それに加えクーデターを非難する諸外国、世界銀行からの援助停止がホンジュラス経済の悪化に拍車をかけている。病院での医薬品不足や8月以降の公務員・教師の賃金の遅配や未払いが発生している。頼みの綱であった米国の財政支援も9月に入って一部停止が決定された。財政に困窮するクーデター政権はこの10月に急遽10億ドルの国債の発行を決定し、満期を迎えた20億ドルの国債の償還期間を2、3年延ばさざる得なくなっている。国内経済はますます苦しくなり国家財政は破たん状態になっている。(http://hondurascoup2009.blogspot.com/2009/10/bad-economy-getting-worse.html) オリガーキーも一枚岩でなく内部で亀裂が発生している。新自由主義政策により利益を得ている者はクーデターを支持し、恩恵を受けていない者は反対に回っている。ミチェレッティの足元、自由党内部でも「ホンジュラス反クーデター自由党調整委員会」が組織されクーデターに反対する者が多数を占めた。身の危険を感じ始めたクーデター派のオリガーキーたちは、身辺護衛のために残酷・残忍で名をはせるコロンビアの傭兵を雇っている。クーデターを支持したビジネスマンや軍幹部の何人かは国外に逃亡したともいわれている。 クーデター政権は反クーデター運動に対し極めて暴力的で強硬な態度を示しているが、その一方で亀裂、対立、不信、恐怖を抱えており、いつ瓦解してもおかしくない状態に追い込まれている。 欺瞞的で姑息なオバマ政権の態度 今なおホンジュラス軍を訓練する米軍 クリントン国務長官が9月に入ってようやくホンジュラスのクーデターをクーデターとして正式に認め、財政支援の一部を停止し、11月の総選挙も認めることはできないと表明した。ミチェレッティの強硬姿勢がむしろホンジュラス人民を左傾化、革命化させることを危惧してのことである。有無を言わせず軍事介入することができない現状では、ミチェレッティに圧力をかけ対話の場に引き出し、米国にとってより都合のよいアリアス提案で和解をさせるしかない。 米国の財政支援の停止は1億ドルの内の3000万ドル分で全体の一部に過ぎない。しかもこの決定の数日前にはIMFによるホンジュラスへの1億6000万ドルの融資が行われている。米政府はIMFに拒否権を持ちながらも拒否権を行使せず融資を黙認した。選挙に関しても一部の米国務省当局者は選挙結果を受け入れうることもあると示唆している。要するに実質的な制裁ではなく、ミチェレッティにアリアス提案を受け入れるよう促すシグナルにすぎない。 米国は隠然・公然とクーデター政権を操っている。米国防総省はクーデター政権下のホンジュラス軍を米軍の軍事演習に参加させ、米国務省はクーデターを支援しているNGOや政党に資金援助を与え続けている。セラヤ帰国を受けてクリントンは、平然と、アリアスの仲介を改めて主張し「双方の話し合いで平和的に解決することを望む」とした。クーデター政権を承認している国は一国もない。クーデターで政権を取り、人民の人権を剥奪し弾圧を続けるミチェレッティと民主的に選出されたセラヤを対等な立場で扱うことは全く公正でない。セラヤ大統領を即刻復職させ、ミチェレッティをはじめとするクーデター首謀者たちにしかるべき制裁を与えるべきである。何よりもまずオバマ政権はミチェレッティ軍事政権への援助をただちに中止し、ホンジュラスへの関与を一切やめるべきである。 2009年10月27日 |