これはマイク・ロビンソンの証言です。彼の証言は、多くの冬の兵士たちの証言の中でも異彩を放っています。屈強でいかつい風貌のロビンソンが、自らが犯した市民の殺害に悩み、何かにおびえ、涙を流す様子は、帰還兵を襲うPTSD(心的外傷後ストレス障害)の深刻さを見せつけます。彼は、怒りの発作、うつ病、アルコール中毒、妻への暴力、離婚、失職、ホームレス、人を銃撃する幻覚、戦場へのフラッシュバック、自殺未遂等々帰還兵たちを襲う深刻な経験をします。(その5)で紹介した、爆弾を胸に巻いたイラク人少女の射殺を証言したのもマイク・ロビンソンです。彼を救ったのは、女友達が連れてきた3歳の女の子でした。 マイク・ロビンソン「2003年6月20日、強制捜査の任務につき、機関銃を持ってビルの中で仲間を援護している時、戦闘ヘリコプターから不審者発見の知らせを受け、階段を下りているときに、IED=手製爆弾が仕掛けてあり、足を吹き飛ばされ帰国することになった、帰国して市民生活を再開したが、怒りの発作がおきて、妻とは殴り合いの喧嘩をして、数回逮捕されそうになり、離婚した、職も失った、怒りの発作が起きて、仕事が続かない、家も失った、妻が出て行き家賃が払えなかった、友人を回り、路上やどこにでも寝た」 ジェイソン「それは辛い」 マイク「車にいるときに、路上の人を銃撃する幻覚を見る」 ジェイソン「駐車場で?」 マイク「銃撃し、自分にだけに爆弾の音が聞こえる、これは何だろうね?あたりは血の海で血しぶきがかかる、 毎日死ぬことばかり考えていた、頭はどう自殺しようかという考えでいっぱいだった、去年の1月19日、私の誕生日、一人ぼっちだったから、酒場で飲んで酔っ払い、狂ったようなスピードでジープを走らせ、タイヤが外れてしまった、警官が来なかったので、銃で頭を吹き飛ばそうと思いながら歩いていると、女友達のエリザベスから電話があり、励ましてくれたので、自殺しないですんだ。それから3才の娘と会い、エリザベスの娘だが、彼女が私の生きる理由になった。サラ、来てくれない? サラは、3才だが、この子がいるから生きることができた。 この子がいなければとっくに死んでいた。」 ジェイソン「私の場合、うつ病がひどくて、ガールフレンドがとても心配したがどうしようもなかった」 マイク「心的外傷後ストレス障害はとても辛い、怒りの発作、うつ病、自殺を繰り返す、治療はほとんど不可能だ」 ジェイソン「兵士を募集する時、大学奨学金が貰える、職業訓練になり、各種給付金もある、家が持てて友人ができると言うが、イラク市民を虐待し、ひどく傷つけるという事実は言わない、現実には足を負傷する場合もあり、ホームレスになる人までがいる」 ※冬の兵士――良心の告発 シナリオ(リブ・イン・ピース☆9+25) オバマ大統領は、帰還兵の医療給付対象者を2013年までに50万人増やす方針を明らかにしています。PTSDやTBI(外傷性脳損傷)の患者への医療給付・ケアが決定的に弱かったことを認め、今後5年間で250億ドル(約2兆5000億円)増額させる方針を示したのです。帰還兵問題がもはや無視することが出来ないところまで極まってきていることを示しています。
オバマ大統領は「アフガン新戦略」として、17000人の増派に加え4000人をさらに増派する方針を打ち出しました。掃討作戦を強化しながら、タリバンの一部を政権に抱き込むという「新戦略」です。しかし、反戦イラク帰還兵の会などは、イラクからの不十分な撤退とあわせて、罪のない市民と米兵を殺し続けるものだと厳しく批判しています。ランド研究所は平和研究所と共に、「戦略のない増派はほとんどい意味をなさない」と批判する報告書を出しました。メディアは「アフガンのベトナム化」を懸念する記事を頻繁に流すようになりました。帰還兵への医療給付を増やしながら「テロとの闘い」はあくまでも継続するというオバマ政権の政策は全く欺瞞的といわなければなりません。 ※RAND report urges new Afghan strategy(Boston.com) ※Afghanistan: Think South Vietnam in 1965(Commondreams) ※Afghan Quagmire アフガンの泥沼(ニューヨークタイムス) 2009年4月3日 ※[リブ・イン・ピース☆9+25学習会パンフレット]戦争と人間性とは相容れない ――米帰還兵の問題から学ぶ――(リブ・イン・ピース☆9+25) ※10月26日リブインピース米帰還兵問題学習会報告(リブ・イン・ピース☆9+25) ※[シリーズ米軍の危機:その2 イラク帰還兵を襲うPTSD](署名事務局) ※[シリーズ米軍の危機:その3 イラク帰還兵とイラク症候群](署名事務局) [毎日新聞の連載] テロとの戦いと米国:第1部 見えない傷/1 妻が気づいた奇妙な行動(毎日新聞 2009年2月17日) テロとの戦いと米国:第1部 見えない傷/2 帰還した息子、突然死(毎日新聞 2009年2月18日) テロとの戦いと米国:第1部 見えない傷/3 脳損傷、転院で逆に悪化(毎日新聞 2009年2月19日) テロとの戦いと米国:第1部 見えない傷/4 一斉検査、ようやく軌道に(毎日新聞 2009年2月20日) テロとの戦いと米国:第1部 見えない傷/5 「メカニズム解明」道遠く(毎日新聞 2009年2月21日) |