5月25日に朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が核実験を行ったことに対して、異様な制裁と軍事対決が煽られている。朝鮮半島と周辺海域は直接の軍事衝突にまで発展しかねない危険な情勢にある。日米両政府は、北朝鮮に対する政治的・軍事的挑発行為をやめ、今すぐ対話と交渉へと舵を切るべきである。北朝鮮は4月はじめのロケット発射後に出された安保理議長声明の撤回を求め、制裁の解除を要求している。 ※衆院が核実験非難決議採択 対北朝鮮制裁強化求める(共同通信) 日米が主導して作成している安保理決議案は、武器禁輸と金融制裁、資産凍結、渡航制限、北朝鮮船籍への強制捜査(臨検)などに加え、軍事行動と武力行使へ道を開く「国連憲章第7章のもとに行動する」との文言が含まれているという。現時点で中国は慎重姿勢をとっているが、予断を許さない。北朝鮮は、国連安保理決議が採択された場合には、「休戦協定」を破棄することになること、船舶検査(臨検)を宣戦布告と見なすことなどを警告している。国際法では、臨検は戦争行為である。安保理決議を許さない国際世論が必要である。 ※対北決議草案、船舶検査で「武力行使」の余地…米提案か(読売新聞) ※北朝鮮「更なる自衛措置」と警告、安保理の制裁論議けん制(読売新聞) ※中国、北朝鮮制裁に慎重姿勢 国連安保理、週内の決議採択困難(日本経済新聞) ※Gen. Casey: US Ready to Fight War Against North Korea(Antiwar.com) 一触即発の危機にまで発展した93年〜94年や万景峰号を「出港中止」にし経済封鎖した2003年、北朝鮮がテポドン発射と核実験を行った2006年にもなかった全く新しい歴史的事態である。安保理決議案は、かつてない挑発的な内容だ。一切の対話を排除し、制裁と軍事措置だけで主権国家を締め付けていくなどおよそ外交と呼べるものではない。今必要なのは、制裁と軍事対決ではなく対話を行うことだ。 ※ブッシュ・小泉両政権による対北朝鮮「経済封鎖」=戦争挑発政策に反対する!(署名事務局) ※北朝鮮ミサイル発射問題と日本の反戦平和運動の諸課題(署名事務局) 26日の韓国李明博右派政権による大量破壊兵器の拡散防止構想(PSI)への参加表明によって、すでに北朝鮮は臨検に対する軍事的対抗措置を表明している。PSIそのものが「テロ」認定した船舶などへの検査を無条件に認める米国の覇権主義と軍事介入主義をあらわすものだ。 ※南北 軍事的緊張高まる 韓国PSI参加正式表明(東京新聞) ※北朝鮮「宣戦布告とみなす」と反発 韓国PSI参加で(北海道新聞) 私たちは、北朝鮮を核実験強行に追い込んだものが、53年の朝鮮戦争終結以降も半世紀以上にわたって「休戦協定」という戦争状態にあり、経済制裁によって締め付け、軍事的脅威にさらし続けてきたという異常事態にあると考える。米国は、北朝鮮を主権国家としてまともな外交交渉の相手にしてこなかった。北朝鮮は、国際的に孤立した状態からの打開と米朝二国間交渉再会の糸口を、核実験やミサイル発射に託しているのである。 メディアは、政府による「北朝鮮の脅威」の宣伝を、北朝鮮の内情についての見聞やデタラメな推測を加えて垂れ流しているに過ぎない。まともな報道は一つもない。北朝鮮に軍事的対抗措置をとらせる根源的な問題、すなわち日米安保のエスカレーションと日本の軍国主義化の危険を無視している。過去の侵略戦争と植民地支配の歴史についても全く伝えていない。直近では、4月初めの北朝鮮のロケット発射に対して日本政府がとった対応である。日本政府は、「飛翔体の破片落下」への備えと称して有事体制の初期段階とミサイル防衛システムを発動し、北朝鮮を対象として戦争準備に入ったのである。それは、マスメディアを動員した大デモンストレーションであった。北朝鮮は直後の安保理議長声明に反発し、六カ国協議から離脱した。 ※日本政府は、「破壊措置命令」=ミサイル防衛システム出動をやめよ!(リブ・イン・ピース☆9+25) 日米軍事一体化と日本の侵略軍化がここ数年の間に急速にエスカレートしている。これらが北朝鮮に対して重大な脅威を与えているのである。前回北朝鮮が行った核実験から約2年半の間にいったい何が起こったのか。横須賀原子力空母母港化、座間への米陸軍第一軍団司令部移転、横田への航空自衛隊司令部移転、集団的自衛権の研究懇談会の発足、ミサイル防衛の露骨な推進、SM3発射実験の「成功」、PAC3配備の加速化、宇宙基本法の制定と基本計画の策定、自民党小部会による海外派兵恒久法の提案、憲法改悪に向けた国民投票法の成立、侵略戦争を美化する田母神論文等々。これらは、防衛庁の省昇格と「海外派兵」の自衛隊本来任務化の中で、明確に北朝鮮を敵視し、包囲し、深刻な脅威を与えるものである。併せて日本政府は、対北朝鮮経済制裁を継続・強化し、敵対心と民族差別を煽ってきた。 ※日米同盟のグローバル侵略同盟化に向けた条件整備 集団的自衛権行使「個別研究」をやめよ!(署名事務局) ※領域外での武力行使=交戦権行使の最後の制約を取り払う自衛隊海外派兵恒久法の危険(署名事務局) もちろん私たちは北朝鮮の核実験に反対である。私たちはいかなる核実験にも反対する。米によるヒロシマ・ナガサキへの2度の核使用の悲劇はもちろん、ウラン採掘から核実験に至るまで核兵器製造過程が自然環境と人間に対して与える放射能汚染の影響は計り知れない。 オバマ大統領が提案する「核廃棄」政策は、現在の米英ロ中仏の核独占を維持し非核保有国への核拡散の防止を目的としたもので、米の超大な核軍事力を抱える財政的負担を軽減させ、通常戦力を重視し、途上国介入型戦力体系へシフトする戦略とセットである。NPT条約に加盟していないインドとパキスタンによる核保有は個別対応しイスラエルの核保有は容認しながら、「反米国家」の核保有は認めないという米の核政策のダブルスタンダードが継続される限り、核開発や核実験が、政治交渉のテコとして生み出されるのは不可避だ。米は一方的な核削減と核実験の廃止、核廃絶へと自ら進むべきである。 ※米、イスラエルの核保有黙認継続 オバマ氏が伝達と報道(山陽新聞) 麻生首相は、北朝鮮への先制攻撃である「敵基地攻撃能力」を「自衛の範囲」などと答弁した。軍事的緊張のさしせまった事態で敵基地攻撃能力を公然と認めたのは、現職首相としてはじめてのことだ。交戦権の放棄と戦力の不保持を謳った日本国憲法9条を踏みにじり、専守防衛の政府解釈さえ逸脱するものである。麻生は北朝鮮を「テロ支援国家」に再指定するよう要請している。 ※麻生首相、米に北朝鮮のテロ支援国家再指定を要請(AFP) ※麻生首相:敵基地攻撃能力「自衛の範囲内」−−参院予算委(毎日新聞) 私たちは麻生政権の対北朝鮮敵視政策、敵対政策、戦争挑発、制裁強化に強く反対する。麻生は、国連決議採択策動でも最も悪い役割を果たしている。日米両政府は、国連安保理での対北朝鮮制裁決議採択策動をやめるべきだ。国連安保理は、4月13日の北朝鮮非難安保理議長声明を撤回すべきである。敵視と制裁ではなく、対話と交渉によって、アジアと朝鮮半島の緊張緩和に進まなければならない。 2009年5月30日 |