[大阪府教育委員会への抗議と要求書]
大阪府教育委員会は「君が代」不起立者に対する処分をやめてください!
  
 大阪府教育委員会が3月9日、「君が代」不起立の教職員に対して「戒告処分」と「研修」を強行し「誓約書の提出」を求めたことに対して、リブ・イン・ピース☆9+25は3月12付で以下の抗議と要求文を送りました。

大阪府教育委員会は「君が代」不起立者に対する処分をやめてください!
教職員から思想・良心の自由を剥奪することは教育の死をもたらします

 大阪府教育委員会は、3月9日、2月中の府立学校の卒業式で「君が代」斉唱に対して不起立だった教職員17人に対して職務命令違反として「戒告処分」を強行しました。さらに処分通達後に30分の「研修」を強い、“国歌斉唱時の起立斉唱を含む上司の職務命令に従う”との旨の誓約書の提出を要求したといいます。
 府立高校・支援学校の卒業式がまだすべておわっていない今の時期に教育委員会が「不起立」の教職員に対して処分を行うのはきわめて異例のことです。それは、今後も続くことが予想される「不起立」教職員への見せしめ的な処分であるとともに、現在開会中の府・市議会で橋下・維新の会が制定しようとしている教育基本条例の先取りであり、権力者にこびを売り、服従をアピールするものに他なりません。断じて許すことはできません。府教育委員会は恥を知るべきです。
 府教育委員会とその委員は、昨年11月のダブル選挙前までは、“「君が代」の職務命令は教育現場にそぐわない”“強制すべきでない”などとして橋下・維新の会の提案に異議をとなえ、“教育基本条例が成立したら辞職する”とまで語っていました。ところが橋下・松井両氏が市長・府知事となるや手のひらを返したように教育基本条例の修正に応じ、修正案を府議会に提案するまでになりました。
 さらに府教育委員会は、不起立での停職処分の違法性を断じた東京「君が代」処分最高裁判決が出た翌1月17日に全教職員への「君が代」起立職務命令を出しています。しかしこの最高裁判決こそは、その補足・反対意見で「日の丸・君が代」処分が教職員を「心理的に追いこ」み、「過酷な結果をもたら」すこと、「教員には教育の自由が保障され」るべきであること、「公権力によって特別の意見のみを教えることがあってはならず、ある程度の裁量が認められる」ことなどを指摘しているのです。そして「紛争が繰り返される状態を1日も早く解消し、自由で闊達な教育の実施」が「望まれ」と明記されています。
 府教委の職務命令はこの最高裁判決の精神に真っ向から対立するものであり、まったく理不尽です。「紛争」を排除し「自由で闊達な教育の実施」のためには、子どもたちへの教育的配慮と一切無縁である「君が代」起立斉唱強制は学校現場から一掃されるべきなのです。
 今回府教委は、「戒告処分」と「研修」、「誓約書」の強要だけでなく、再任用予定あるいは再任用中を含む49歳から62歳の処分者に対して、「再任用の判断に影響する」と再任用の取り消しさえちらつかせたと言います。これは、最高裁判決が違法としている不起立者に対する停職、免職処分であり、それを使った恫喝です。“クビになりたくなかったら起立せよ、誓約書を書け”ということが教育の現場でやるべきことでしょうか。恫喝、脅迫によって思想・良心を捨てることを要求することは、まさに戦前特高警察が天皇制軍国主義に反対し民主主義を求めた人々に対して行った思想弾圧そのものです。
 「不起立」教職員があたかも特殊な「左翼教職員」「不逞教職員」のようにあおられていますが、私たちは、教職員たちがさまざまな思いを抱えながら「不起立」を選択していることを知っています。
 立たないのではなく立てないのです。卒業式が近づくたびに胃が痛み、憂鬱になるといいます。そして精神的に追い込まれていくことになります。
 それでも、「日の丸・君が代」は天皇制軍国主義と侵略戦争の象徴であり、日本国憲法9条と平和主義、戦後民主主義を子どもたちに教え、平和な国家をつくっていくことを願う立場から立つことができない、「在日」の子どもたちに日本国や天皇への忠誠を誓わせるような起立斉唱に従うわけにはいかない、一人一人の人格を尊重し自分でものを考え行動するように教えている教職員自身が、強制に屈服するような行動はできない、そのような思いで不起立を選択しています。また、やむなく起立せざるをえない教職員も、自分の良心に反し屈辱とあきらめを感じながら起立しているのです。
 橋下氏は、「君が代」起立斉唱は、教育や「思想・良心」とは関係なく、公務員としてルールを守るかどうかの問題、学校の秩序の問題と強調していますが、それはまやかしです。教育の本質にかわることなのです。「君が代」起立強制の職務命令と処分を強行することは、橋下氏の「教育は2万%強制」という教育観を受け入れることを意味しないでしょうか。
 橋下・維新の会のもとで大阪の「教育改革」が強行されようとする中、10年前に「落ちこぼれゼロ法」をつくった米国の教育が、競争と教員への懲戒・罰則で行き詰まり破綻していることが報じられています。この法律は、教員を悪者にし教員の解雇と定員割れの学校を廃校に追い込むという懲罰措置を中心に据えている点で大阪の橋下「教育改革」とうり二つであると言われています。米国の法律作成に携わったラビッチ教授は、自らの失敗を真摯に認め、評価や懲罰、競争では教育は決してよくならないことを認めています。私たちは、大阪の教育が米国の轍を踏み破壊されていくことを黙ってみているわけにはいきません。最大の犠牲は子どもたちだからです。
 学校教育にとって一番重要なことは、教員と子ども、保護者との信頼関係であり、学校現場の教員の教育活動の自由を最大限尊重し、子どもたちを大切にした教育を進めることです。
 「日の丸・君が代」起立斉唱強制は、権力が教育現場に政治介入を行い、教員から思想・良心の自由を奪い、学校教育を統制と管理下に置く横暴の最たるもので、学校現場から自由・闊達な雰囲気を消失させてしまいます。
 現に、大阪から教員が逃げて行っています。大阪府の2012年度の公立学校教員採用選考で合格した2292人のうち2月3日までに実に284人(12.4%)もが辞退しています。教職員を懲罰の対処とする「教育基本条例」の成立を見越して、教員を志す若者が大阪を敬遠していることが原因ではないかとメディアでも推測されています。
 このままでは、大阪の教育は崩壊してしまいます。
 教育委員会が、政治権力の介入に屈するのではなく、また権力におもねるのではなく
子どもたちと教育現場で奮闘する教職員のことをまず第一に考え、「君が代」処分を撤回することを求めます。

2012年3月12日
リブ・イン・ピース☆9+25