教育への政治介入をシステム化し、子どもたちを競争に駆り立てる
大阪「教育基本条例案」に反対しよう
「『君が代』不起立3回でクビ」を許すな!
  
 橋下徹大阪府知事が代表となっている「大阪維新の会」は、大阪府・大阪市それぞれの9月議会、および堺市の11月議会に、「教育基本条例案」を提出しようとしています。この条例案は、6月の府議会で強行可決された「『君が代』強制条例」と合わせて、知事と市長が大阪の学校教育を支配することを狙うものです。この条例案を、大阪府知事、大阪市長のダブル選挙前に議会に提出し、選挙を経て世論の支持を得たとして、選挙後の議会で可決を狙っています。
 条例案は、戦後教育の精神を根底から覆す、信じがたい内容になっています。もちろんこのような条例が成立すればは全国初であり、大阪で成立すれば、他の都道府県への影響も避けられません。このような条例は絶対成立させてはなりません。教職員はもちろん、生徒も、保護者も、すべての市民の皆さんが、反対の声を上げましょう。

「君が代」に不起立3回でクビ!
 6月に「維新の会」がほぼ単独で成立させた「『君が代』強制条例」は、教職員に「君が代」を起立して斉唱することを義務づけており、そのための職務命令が出されることになっています。今回提出されようとしている「教育基本条例案」には、その職務命令に違反した教員を処分する規定が含まれています。
 「君が代」を起立して歌わなければ職務命令違反となります。1回目の職務命令違反は減給または戒告、2回目は停職として所属・氏名を公表。同じ命令に3回違反した場合は直ちに分限免職、すなわちクビとするものです。また、職務命令を5回重ねても分限免職。その他、教職員を5段階で評価し、最も低い評価が2年連続で続いた場合も分限処分となります。
 職を奪うという脅しによって、「君が代」起立斉唱を教職員に強制するという、権力をカサに着た許し難い条例案です。このような制度が導入されれば、学校は「良心の自由」も存在しない、民主主義とは無縁で、ただただ上からの命令に従うだけの、萎縮した場所になってしまいます。

学校教育を知事・市長の支配下に置き、すべてを競争にさらす条例案
 これだけでも重大な問題ですが、この条例案の悪質さはこれにとどまりません。この条例案は、2006年に改悪された教育基本法ですら踏み込むことのできなかった愛国心や格差教育、政治介入などを条文化する、全く信じがたいトンデモ条例案です。報道された内容からだけでも、以下のような問題点を指摘できます。

1.前文で「政治が適切に教育行政における役割を果たす」と明記しています。これは、教育を政治から独立させてきた、戦後教育の根本原則を否定するものです。この原則は、戦前・戦中の教育が侵略戦争に利用されたという反省の上に立つものです。にもかかわらず、橋下知事は、この原則を覆すことを意識的に目的としています。知事は、この条例案によって「日本の統治機構を変える」と発言しています。この発言に、知事の教育観がよく表れています。知事にとっては、教育は国民を支配する統治機構の一部なのです。教基法の「教育は、不当な支配に服することなく」という規定など全く無視しています。

2.基本理念として、規範意識を重んじる人材を育てることや、世界標準で競争力の高い人材を育てることを掲げています。教基法が教育の目的として掲げるような、子どもたち自身の豊かな人間形成を目指す「人格の完成」ではなく、「国際競争」に勝つという経済的利益に沿った人材を育てることを目的にしています。また、義務や競争原理、自己責任を強調し、国家に貢献する人材の養成に重きを置いています。

3.同じく基本理念として、「我が国及び郷土の伝統と文化を深く理解し、愛国心及び郷土を愛する心にあふれる人材を育てる」としています。「国際競争」に立ち向かっていくため、「愛国心」という名の民族排外主義を注入することを目的とするものです。「愛国心」という言葉は、教育基本法にさえ入っていません。

4.学校の実現すべき目標を、知事や市長が設定すると明記しています。そして、教育委員が目標を実現する責務を果たさない場合は、議会の同意を得て罷免できるとしています。これは、教育への政治の介入の仕組みを整えるものです。こんなことになると、知事や市長の時々の考えや思想によって、教育目標・内容が大きく変えられてしまうことになります。

5.府教育委員会は学力調査テストなどの結果を、学校別にホームページで公開すると規定しています。また、府立高校の学区を廃止し、通学区域を府内全域としています。義務教育については、市教委は学校選択制の実現に努めなければならない、としています。これらは、府内全域で学校を序列化し、差別を助長し、学校を競争のための場に変えてしまいます。

6.入学者数が3年連続で定員を下回った府立高校は、改善の見込みがなければ統廃合する、としています。学校の評価を定員に達したかどうかだけで測るのはあまりにも理不尽と言わざるをえません。多くの教職員は困難な生徒たちに向き合い懸命に教育に携わっています。そのような教職員を生徒たちから引きはがし、定員獲得競争に走らせるものです。競争に敗れた学校を廃止し、その学校に通うはずだった子どもの教育の機会を奪うものです。競争に負けた子は切り捨てるということです。

7.条例制定後5年以内に、府立高校の正副校長ポストを任期付き採用にするとしています。正副校長は公募します。正副校長を学校間競争の先頭に立たせ、成果が上がらないものは解雇するということです。

8.校長には、予算請求権が与えられ、学校運営に関する責任を負い、教員はこれに反する意思決定をしてはならない、としています。学校内では校長に独裁的権力を与え、それを通じて、知事や市長の教育政策を各教員まで徹底させようというものです。

9.保護者や地域住民らでつくる学校運営協議会を設け、校長・教員の評価や教科書の推薦をする、としています。学校・教員をがんじがらめに縛り、自主的な取り組みを抑えつけることにつながります。また、校長と学校運営協議会との協議で教科書採択もできる、としています。実際に教える教員の意志を無視して教科書を押しつけるのは、大きな問題です。

 これだけではありません。保護者は家庭教育の義務を負う、地域住民は学校をサポートする義務を負う、児童生徒に対する懲戒・出席停止など、教職員、保護者、地域住民、子どもたちを統制し服従させる規定がもりこまれています。家庭教育や学校のサポートなど、知事や市長の命令ですることではありません。しかも例えば、両親が働いていたり、母子家庭・父子家庭で、家庭教育に十分に時間が割けない親は、義務を果たしていないことになるのでしょうか。そこには子どもを学校や社会で育てていくという観点が全くなく、何か問題がおこれば、「条例違反」として家庭バッシング、親バッシングが助長されることになります。

「教育基本条例案」に反対しよう
 全体として、教育基本条例案は、国際競争に勝つためと称して、教育のすべてを競争に巻き込む内容になっています。それを。知事・市長の号令のもと、上意下達のシステムとして確立することを目的としています。主人公は、知事・市長であり、子どもたちはその指示に従う存在でしかありません。そうしたやり方に逆らう教職員は学校から排除されます。「日の丸・「君が代」の強制は、抵抗する教職員排除のための道具でもあり、子どもたちを「日本のために」競争させる洗脳手段でもあります。
 このような条例の下で行われる教育は、子どもたちの「人格を完成」させるどころか、逆に破壊しかねません。あらゆるところから「教育基本条例案」反対の声を上げましょう。

2011年8月27日
リブ・イン・ピース☆9+25