日韓市民友好のための共同アピール
日韓友好のかけはしとなる教科書を子どもたちに渡しましょう!
  
今年、2011年は中学校教科書採択の年です。

今、日本の文部科学省によって中学校教科書の検定が行なわれています。3月末には検定結果が公表され、8月中には全国500あまりの採択地区で、来年度から使用される教科書が決定されます。
今回の検定と採択は、「愛国心教育」を盛り込むように改悪された新教育基本法と、新学習指導要領にもとづいて行なわれます。そのため、これまで以上に偏狭で、自国中心主義的な内容の教科書が、教育現場で使用されるようになることを、日韓の真の友好を願う私たちは強く懸念しています。

2001年に「新しい歴史教科書をつくる会」(「つくる会」)が、「これまでの教科書は自虐的だ」「日本の歴史に誇りを持たせる歴史教育が必要だ」と叫び、侵略戦争と加害の歴史を正当化する歴史・公民教科書(扶桑社版)を発行しました。この歴史教科書は「日清・日露戦争」や「韓国併合」を「自衛のためのやむをえない戦争、併合だった」と記述しています。また、公民教科書では「竹島/独島」について「韓国が不法占拠している」と書き、両国民の対立を煽りました。
その後、「つくる会」は分裂し、2009年には侵略を正当化する教科書が2社(扶桑社、自由社)から発行されました。横浜市の一部で自由社発行の教科書が採択されたことから、今や、全国の中学生の60人に一人が偏った自国中心主義的な歴史教科書で学習させられています。

対立を増幅させるナショナリズムを子どもたちに植え付けてはなりません。

しかし、懸念されるのはそれだけではありません。文部科学省が中学校学習指導要領の解説書において、「竹島」について「北方領土と同様に」扱えと、日本国内の領土ナショナリズムを煽るかのような指導をした結果、今年度発行される8社の社会科教科書には「竹島/独島」に関して、日韓両国民が鋭く対立せざるをえないような記述がなされていることが予想されるからです。
すでに、2010年に発行された小学校教科書では、「島根県に属する竹島を韓国が不法に占きょしている」と記述した教科書(日本文教出版発行・旧大阪書籍版)が出てきています。このことによって作られた日韓両国の間の緊張と対立の火種が、これ以上燃え広がることがあってはなりません。

そもそも「竹島/独島」は、1904年から始まった日露戦争の真っ只中で、ロシア艦隊を監視するための望楼を建設するという軍事的目的から、1905年1月に日本政府が島根県への編入を急きょ閣議決定したものです。それは、日本が朝鮮を軍事占領し、実質的な支配下に置いていく状況のもとで、朝鮮全土の植民地化に先駆けて行なったものでした。そのため韓国では、「竹島/独島」問題は単なる両国の領有権の対立の問題としてではなく、日本が朝鮮を植民地化していった一連の歴史的過程で生み出された問題として認識されています。つまり「竹島/独島」問題は、日韓両国民にとって、侵略戦争と植民地支配の清算にかかわる問題でもあるといえましょう。
このような歴史的経過のある問題であるがゆえに、従来の日本の教科書では、「竹島/独島」についてはまったく記述しないか、または「日韓両国が領有権を主張している」といった記述にとどめていました。
それをあえて今、文部科学省は扶桑社の公民教科書と同様の記述を、他社にも求めているのです。
私たちは、このような記述は日韓の友好にとって百害あって一利なしと考えます。両国の政府間の冷静な話し合いによって解決すべき問題を、「韓国が不法に占拠している」と一方的な記述をすることにより、日本の子どもたちに友好国への悪感情と排外主義的なナショナリズムを植え付けることは、断じて許されることではありません。

「近隣諸国条項」を尊重した教科書を子どもたちへ

文部科学省は、社会科教科書の検定基準のひとつに「近隣のアジア諸国との間の近現代の歴史的事象の扱いに国際理解と国際協調の見地から必要な配慮がされていること」をあげています。これがいわゆる「近隣諸国条項」と呼ばれているものです。
これは1982年に、「侵略」から「進出」への書き換えをめぐって教科書問題が起こった際に、過去の日本のアジア諸国への侵略・加害行為の反省を教科書の記述に反映させるために、日本政府が自ら設けた項目です。アジア諸国からの信頼を回復するための措置として、この検定基準が設けられたという背景を考えるなら、「近隣諸国条項」は国際社会に向けて日本政府が行なった“約束”ともいえるものです。
にもかかわらず「つくる会」の運動が始まると、2001年以降、文部科学省はこの条項を事実上反故(ほご)にし、同会系の教科書を検定に合格させ、日本軍「慰安婦」に関する記述も後退させてきました。現時点ではまだ検定結果は公表されていませんが、文部科学省は育鵬社版(これまでの扶桑社版)、自由社版ともに検定に合格させることが予想されます。
国際社会においては、2010年6月に国連子どもの権利委員会が「日本の歴史教科書においては、歴史的出来事に対する日本側の解釈しか記述していないため、地域の異なる国々出身の子どもの相互理解が増進されていない」との勧告を出しました。これまで教科書問題が発生するたびに、日本政府が「近隣諸国条項」をもって“近隣諸国に配慮している”と説明してきたことと、現状とが矛盾することを国連が指摘したのです。このような国際社会の声を日本政府・文部科学省がどのように受け止め、検定に生かすのかが国際社会からも注目されています。
おりしも、昨年「韓国併合百年」にあたって、日本の菅直人首相は談話を発表しました。菅首相は、韓国・朝鮮の人々の「意に反して行なわれた植民地支配」を「自らの過ち」として認め、「省みることに率直でありたい」と述べました。そしてその上で、「両国間の未来をひらくために不断の努力を惜しまない決意」を表明しました。
私たちは、この菅談話の立場が検定においても貫かれるべきだと考えます。菅談話と「近隣諸国条項」にもとづき、日韓の友好を壊すような記述を厳しく精査し検定を行なうよう文部科学省に強く求めます。それこそが日本が国際社会、とりわけアジア諸国の人々からの信頼を取り戻す道ではないでしょうか。

絡まった日韓の糸を解きほぐし、平和な東アジアを構築する主体を育てましょう。

私たちは、日本の中学生たちが歴史を偏った形で学び、歪んだ自国中心主義に陥って、アジアの人々との友好関係を自ら壊す結果になることを危惧しています。
20世紀は「戦争の世紀」と呼ばれてきました。21世紀に入ってもいまだ人類は戦争を克服できていません。21世紀を真に「平和の世紀」にするためには、「平和を創造する主体」を育てなければなりません。そのためにも社会科教育は極めて重要です。子どもたちにもっとも適切な教科書を渡せるよう、日韓の市民が今回の検定と採択に注目し、ともに声をあげていきましょう。

2011年3月21日

■日本
えひめ教科書裁判を支える会、教科書問題を考える市民ネットワーク・ひろしま、子どもたちに渡すな!あぶない教科書 大阪の会、教科書ネットくまもと、子どもたちに「戦争を肯定する教科書」を渡さない市民の会(愛知)、日本軍「慰安婦」問題関西ネットワーク、日韓民衆連帯全国ネットワーク、韓国強制併合100年共同行動日本実行委員会、人権NGO 言論・表現の自由を守る会、リブ・イン・ピース☆9+25、NGO人権・正義と平和連帯フォー ラム福岡、カトリック福岡正義と平和協議会、東京都学校ユニオン、都教委による増田さんの不当免職を撤回させる会、東北アジア情報センター(広島)、日朝日韓連帯大阪連絡会議(ヨンデネット)、大阪東南フォーラム平和・人権・環境、<ノーモア南京>名古屋の会、イラク判決を活かす会、キリスト者・九条の会、曽根九条の会、福岡スピーチクリニック、仏教徒非戦の会・福岡、念仏者九条の会福岡支部、筑紫地区「子どもたちの未来を拓く会」、関釜裁判を支援する会、福岡地区合同労働組合、子どもの未来を望み見る会(神奈川県)、在日朝鮮人作家を読む会、写真の会パトローネ、違法和田中裁判の会(杉並)、アイヌとシサムのウコチャランケを実現させる会、在韓軍人軍属裁判を支援する会、強制連行を考える会・北九州、ピース・ニュース、とちぎ教科書裁判を支援する会、大阪大学附属病院看護師労働組合、自由空間創楽邑、今治・宗教者平和の会、「日の丸・君が代による人権侵害」市民のオンブズパーソン、子どもたちの人権と教育を考える大阪市ネットワーク、ウリハッキョ(朝鮮学校)を記録する会、ノーニュークス・アジアフォーラム・ジャパン、真宗大谷派・靖国訴訟を支援する会、「日の丸・君が代」の強制に反対する阪神連絡会、アンポをつぶせ!ちょうちんデモの会、三鷹の教育を考える会、在日コリアン青年連合、大阪全労協、大阪教育合同労働組合、大阪電通合同労組、国労大阪保線分会、全労協護法労組、西成合同労組、ユニオンぜんろうきょう、郵政労働者ユニオン近畿地本、全石油ゼネ石労組堺支部、全石油昭和シェル大阪支部、自立労連、大阪YMCA労組、報徳学園教職員組合、昭和起重機労組、大阪西運送労組、トーヨー労働組合、ゼネラルユニオン、東横イン労働組合、大阪学校事務労組、全港湾大阪支部、なかまユニオン大阪府・大阪市学校教職員支部、子どもたちの未来をそこねる教科書に反対!北九州ネットワーク、「しないさせない!戦争協力」関西ネットワーク、時を見つめる会(横浜市)、「慰安婦」問題解決オール連帯ネットワーク、岡山草の根市民センター、早よつくろう!「慰安婦」問題解決法・ネットふくおか、高槻「タチソ」戦跡保存の会、(特活)コリアNGOセンター、ふぇみん大阪、「慰安婦」問題の解決を求める北摂ネットワーク・豊中、不戦へのネットワーク、中学歴史教科書に『慰安婦』記述の復活を求める市民連絡会、アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」(wam)、おしつけないで!「日の丸・君が代」おびひろ・とかち親の集い、アジア共同行動―九州・山口実行委員会、I女性会議・なら、朝鮮女性と連帯する会なら、奈良女性解放共闘、旧日本軍「慰安婦」問題の早期解決を求めるネットワーク 奈良、「大峰山女人禁制」の開放を求める会、「慰安婦」問題の解決を求める北摂ネットワーク、「慰安婦」問題の解決を求める北摂ネットワーク・吹田、在日韓国青年同盟大阪府本部、日本軍「慰安婦」被害女性と共に歩む大阪・神戸・阪神連絡会、第九条の会ヒロシマ、D−サポーターズ(教育の自由を取り戻す会) (以上、95団体)

■韓国
アジアの平和と歴史教育連帯、歴史問題研究所、韓国労働組合総連盟、全国民主労働組合総連盟、全国教職員労働組合、全国歴史教師の会、民族問題研究所、全国撤去民協議会中央会、挺身隊問題対策釜山協議会、韓国歴史研究会、興士団、原爆被害者および原爆世問題解決のための共同対策委員会、平和博物館、韓国挺身隊問題対策協議会、世界歴史フォーラム、東アジア葛藤解決国際連帯、国学運動市民連合、韓日関係史学会、韓国史研究会、韓国近現代史学会、挺身隊のハルモニと共にする市民の会、太平洋戦争犠牲者補償推進協議会 (以上、22団体)

2011年3月21日 日韓共同シンポジウム「教科書問題と歴史認識」(大阪)で発表