[投稿]蓮池透さんの講演会に参加して
約束を破ってきたのは日本の側なのだから、
日本の方から対話・友好の行動を起こすべき


 2009年10月29日、大阪平和人権センターの主催で「韓国併合100年を迎えて〜過去克服と和解の次の100年〜」というシリーズ企画の第2回講演会「蓮池透さんを迎えて『拉致問題の解決へ向けて』」に参加してきました。大阪市の阿倍野区民センターの小ホールがほぼ満席となる350人の参加でした。
 蓮池透さんは、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に拉致された蓮池薫さんの兄です。
 以前は「家族会」の中心的人物の一人としてひたすら北朝鮮に強硬な態度を求めていたように思いましたが、今回のお話を聞いて、拉致問題の解決のためにはどうすればいいのかを真剣に考えている方であることがよくわかりました。
 現在、蓮池さんは「家族会」に籍があるものの、「家族会」の方針に反対しているので退会を迫られているということでした。また「国民新聞」という新聞に柏崎の市会議員から蓮池さん本人と家族を中傷する投書が掲載されました。蓮池さんが、北朝鮮に対して経済制裁などの圧力をかけるばかりでは解決にむけ進展が全くないので対話をすべきだという主張をしたところ、そんな目に遭っているというのです。
 蓮池さんは、この7年間拉致問題の解決のために何の進展もなかったことだけでなく、現在の民主党政権が北朝鮮に対して旧態依然たる態度を取っていることも批判しました。鳩山首相が国連演説で北朝鮮に関しておこなった演説を一定評価しつつ、拉致問題と核・ミサイル問題を「包括的に」解決しようとしているところ、そして北朝鮮側の「前向きな行動」があれば日本側も前向きに対応する用意があるという点に関しては異論があると述べていました。まずは、核・ミサイル問題と拉致問題は性格の異なる問題であって、拉致問題単独の戦略を立てるべきであるということ。そして、北朝鮮側の行動に対して約束を破ってきたのは日本側なので、事態を進展させようとするなら、日本の方から制裁緩和などの行動を起こすべきであるということ。これが蓮池さんの主張です。
 蓮池さんも初めは経済制裁も一つの手段として考えていました。しかしながら、経済制裁というのは平和的解決と武力行使の間にある手段であり、戦争をしない日本にとっては最後の手段です。だから経済制裁をおこなう場合は、被害者の救出につながる戦略的なものとして考え抜かれたものでなければならないと、蓮池さんは考えていました。しかしながら、現在おこなわれている経済制裁は北朝鮮の核実験を契機としたものであって、あとから拉致問題解決のためのものであるかのように理由づけられました。
 新聞などで「経済制裁が効いている」という見出しの報道を見ると、北朝鮮の人々がどれだけ苦しんでいるのかということばかりで拉致問題の進展は何も書かれていません。これでどうして「効いている」などと言えるのか。在日コリアンが手紙すら出せなかったり、朝鮮学校の学生がチマチョゴリを学外で着られないという状況が生じていることにも蓮池さんは怒りを表明していました。
 蓮池さんは民主党政権に対して「今がチャンスだ」と言います。過去7年間の膠着状態は全部自民党のせいにできるのだからと。しかしながら、民主党には期待を寄せたいのだが、今のところ自民党と同じように見えるというのが蓮池さんの評価でした。

 さて、蓮池さんの講演の後には、民主党衆議院議員の稲見哲男さんと熊田あつしさんが登壇しました。稲見さんは2003年に初当選して05年選挙で敗れ、今回の選挙で再当選した人です。二人とも北朝鮮による問題等に関する特別委員会に所属しています。稲見さんは、以前のこの特別委員会で北朝鮮への経済制裁に賛同しなかった4人の中の1人で、今回の蓮池さんの主張に共感を示し、併合100年に向けて戦後補償に取り組んでいきたいという考えを表明しました。ただ、「民主党を代表してということにはなりませんが」という少々頼りない言葉を添えていました。今回初当選の熊田さんは、今年はまだ特別委員会が1回も開かれていないことに対し、「家族会」を政治利用しながらも冷淡であった自民党政府の立場を批判し、11月までには1回は開きたいと述べていました。
 拉致問題に関わる北朝鮮に対する態度では、強硬一辺倒でなければならずそれ以外の態度は一切許されないという風潮が、関係者の中に根強くあったように思いますが、こうして蓮池透さんが発言することで、膠着した北朝鮮との関係を対話という平和的手段によって打開する道が切り開かれようとしているのではないかと思われました。

2009年11月9日
リブ・イン・ピース☆9+25

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「拉致―左右の垣根を超えた闘いへ」 蓮池透著 かもがわ出版
「拉致対論」 蓮池透、太田昌国著  太田出版

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