12月24日、中国・成都で1年3ヶ月ぶりに日韓首脳会談が行われました。しかし、「諸課題を対話を通じて解決する」ことで一致したものの、徴用工問題や日本からの輸出規制など、具体的な問題についての進展はありませんでした。安倍首相は、韓国・文在寅(ムンジェイン)大統領に対し、「国と国との約束を遵守せよ」「韓国側の責任で解決策を示せ」「日韓関係を健全にするきっかけを韓国側が作れ」と要求した、と胸を張りました。私たちは、安倍政権がこのような態度を改めない限り、日韓関係は改善しないと考えます。 2018年10月、戦時中日本で強制労働させられた韓国人元徴用工4人が、日本製鉄に損害賠償を求めた訴訟で、韓国大法院(最高裁)が、同社に1人あたり1億ウォン(約1千万円)を支払うよう命じた判決から、1年あまりが過ぎました。この判決を、安倍政権は「国際法違反」となじり、日本国内では、極右からリベラルまで含めた、政治家、評論家、マスコミ、インターネットなどによって、韓国に対する憎悪をあおる宣伝が吹き荒れ、今も続いています。日鉄や、その後に同様の判決を受けた三菱重工業などの被告企業は判決を無視し、いまだに賠償金を支払っていません。安倍政権が支払わないよう強く要求しているからです。 韓国では、来年春までに、既に差し押さえられている被告企業の資産を売却し、現金化する動きが進んでいます。被告企業が判決に従わず、賠償金を支払わないならば、差し押さえ資産の売却は当然です。被告企業は正規の損害賠償を支払うべきです。安倍政権の妨害は許せません。 「請求権協定で解決」は事実ではない 安倍首相が、「国と国との約束を遵守せよ」「国際法違反」と韓国を批判するのは、「元徴用工への賠償は、1965年の日韓請求権協定で解決済み」との立場を取っているからです。日韓請求権協定では、第2条に「両国は請求権問題が完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」と規定されています。これを盾に、「決着済みの問題を蒸し返し」「ゴールポストを動かす」韓国との宣伝が広くなされています。世論もそれに強く影響されています。しかし、これは断じて事実ではありません。日韓請求権協定では解決していません。 解決していないという理由は2つあります。 第1の理由――慰謝料は請求権協定の対象外 昨年10月の大法院判決が問題にした「不当な植民地支配の下で行われた不法行為に対する慰謝料」としての損害賠償は、日韓請求権協定では解決していません。なぜならば、日本は、韓国(朝鮮半島)に対する植民地支配をいまだに不法・不当と認めていないからです。一方、韓国は当然ながら不当と見なしています。日韓請求権協定と同時に結ばれた「日韓基本条約」は、1910年の「韓国併合」の不法性について棚上げしたまま結ばれました。不当・不法であれば慰謝料が問題になりますが、そうでなければ問題にならなりません。この点で日韓の共通認識がない限り、解決しようがありません。 日韓国交回復、請求権協定の交渉にあたり、韓国側は当然、植民地支配によって日本が韓国に与えた損害の賠償も交渉対象だと考えていましたが、日本側はそうではありませんでした。韓国を植民地にしたのは当時としては合法であり、悪いことではなかったと考えていたのです。そのため、日韓請求権協定でも、賠償の問題に触れるつもりは全くありませんでした。日本側が考えていたのは、支払われるべき給料や代金、引き出されるべき預金等々の「債権」にかかわるものだけでした。しかも、それには日本側が朝鮮半島に所有していた土地や建物、機械などの財産、すなわち日本から韓国に請求するものも含んでいました。交渉の中で、日本側主席代表の久保田貫一郎や高杉晋一が「日本は朝鮮にいいこともした」などと、植民地支配を全く反省しない言動を繰り返したのは、交渉に臨む姿勢からして当然だったのです。 結局、結ばれた請求権協定では、賠償の問題は明確にされませんでした。日本が韓国向けに支出した3億ドルについても、どのような性質の金額であるのかについては一切触れられていません。あろうことか、日本政府は国内向けに「独立祝い金のようなもの」と説明さえしたのです。 日韓請求権協定によって、日本政府は韓国政府に無償援助3億ドル分、借款2億ドル分を提供することになりました。民間による借款も3億ドルあり、合計で8億ドルになります。これはすべて「経済協力」であり、「大韓民国の経済の発展に役立つものでなければならない」(協定第1条第1項b)と使い道も限定されていました。韓国は、無償分3億ドルにかかわる「実施計画」を日本政府に提出することまで義務づけられました(第1議定書第5条第2項a)。とうてい被害者への賠償にあてられるようなものではありません。しかも、借款とはもちろん貸付金で、韓国は利子をつけて後に返済しています。無償の3億ドルも現金ではなく現物による提供で、日本政府が契約した企業が物やサービスを韓国側に提供する形でした。だから、日本政府は日本企業に金を支払っただけで、韓国には一銭も払っていません。「日本は韓国に5億ドル、8億ドルの賠償金を支払った」とよく言わますが、事実はこうだったのです。 「日本はすでに韓国に賠償金を支払ったのだから、その中から韓国政府の責任で被害者に支払うのが当然だ」。これが安倍政権の言い分であり、日本国内で広く共有されている考え方です。しかし、以上を見れば、「日本はすでに韓国に賠償金を支払った」ということが、全くウソであることが分かるでしょう。 なお、「植民地を支配した国はたくさんあるが、謝罪した国などない」という主張がありますが、オランダやドイツ、イタリアなど2000年代に入って植民地支配を謝罪し賠償した例があり、これも事実ではありません。 第2の理由――個人の請求権は消滅していない 日韓請求権協定で消滅したのは、国際法上の「外交保護権」(私人が某国によって損害を受けた場合に、その私人が国籍を持つ国が、某国の国家責任を追及する権限)のみであり、個人の請求権は消滅していません。これについては、日本政府も「日韓請求権協議におきまして、両国間の請求権の問題は最終かつ完全に解決したわけでございます。その意味するところでございますけれども、これは外交保護権を相互に放棄したということで、いわゆる個人の請求権そのものを、国内法的な意味で消滅させたというものではございません」(1991年8月27日、柳井俊二条約局長)と明確に述べています。1990年ごろから韓国の被害者が日本で起こした裁判の中でも、日本政府が「請求権協定で解決済み」という主張をしたことは、以前は全くありませんでした。 ところが、2000年頃に、戦争責任を巡るいくつかの裁判で日本政府が不利になる例が出てきたため、突如解釈を変更し、「個人請求権も解決済み」と言いだしたのです。厳密には、被害者個人の請求権は消滅しないが、その請求権を裁判で行使することができなくなったとしました。日本政府は、現在もこの「新解釈」を盾にしています。突如の解釈変更で「ゴールポスト」を動かしたのはいったいどちらでしょうか? 韓国も「解決済み」に同意していた? 安倍政権をはじめ「日韓請求権協定で解決済み」と言い募る人々は、「韓国もそれに同意していた」と主張し、その根拠を、2005年、盧武鉉大統領(当時)による「民官共同委員会」に求めます。韓国政府関係者、学者、被害者団体代表などで構成されたこの委員会が公表した見解では、「日本軍『慰安婦』、サハリン同胞、原爆被害者問題は請求権協定の対象外である」と明記する一方、徴用工については「請求権協定の5億ドルの中に、強制動員被害者に対するものが総合的に勘案されている。だから韓国政府は受領した資金の中から、相当金額を強制動員被害者救済に使用する道義的責任がある」としています。 この見解を受けて、韓国では法律が作られ、強制動員の被害者に慰労金などが支給されましたが、その法律の冒頭には、「人道的見地から」「国民和合のために」慰労金を支給する、という趣旨が明記されました。委員会の見解も「道義的責任」です。「民官共同委員会」の調査に基づき大法院は2012年に、これが日本の賠償責任を肩がわりするのではないということを、はっきりさせました。 また、委員会の見解は「日韓請求権協定で放棄したのは外交保護権のみ」という見解を変えたものでもありません。個人の請求権も消滅したという日本政府の「新解釈」には全く同意していません。 侵略と植民地支配の歴史を知り、安倍政権の嫌韓宣伝と闘おう 日韓の激しい対立が1年を超え、打開の道が見えない中で、日本の責任を曖昧にした形での「解決」を探る動きが表面化しています。韓国の文喜相(ムンヒサン)国会議長が提案した、両国の企業と国民が「自発的に」寄付して基金を設立し、被害者に支払うという法案が韓国の国会に提出されました。日本政府内にも、この案を評価する声があります。しかし、この案では真の解決にはなりえません。徴用工裁判の原告側は「日本企業や日本政府の責任を免罪し、被害者を侮辱する案だ」と批判しています。 先に見てきたように、論理的に言っても「日韓請求権協定で解決済み」論は虚構であり、日本政府と企業は謝罪し賠償する責任があります。日本人は、安倍政権のデマ宣伝に惑わされず、事実を知る必要があります。 しかし、論理だけの問題ではありません。「解決していない」と言う被害者が現に存在する時に、あくまで「解決済み」と突っぱねるのか、被害者の訴えに真摯に耳を傾けるのかという姿勢の問題でもあるのです。 安倍政権の対韓国政策を支持する人々の多くは、日本の植民地支配が朝鮮半島の人々にどれだけの被害を与え、いかに苦しめたか、そのことを知らずにいます。特に2000年代に入って、教科書の改悪が進み、日本の侵略の歴史を教えない教育が定着したことの影響は大きいでしょう。時間はかかりますが、日本の侵略の実相を様々なやり方で伝えていきましょう。それを知れば、年老いた被害者たちが苦しみに対する賠償を求めて裁判にまで訴える姿を見て、「解決済み」「蒸し返し」などと冷たく言ってすませることに、疑問を持たざるをえなくなるはずです。知らなければ何も始まりません。それが、安倍政権の嫌韓宣伝・排外主義と闘うための第一歩です。 2019年12月25日 |
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