沖縄であいつぐ米兵の凶悪犯罪への日本政府の対応を批判する
即刻日米地位協定の見直しを
根本的な解決には米軍基地撤去しかない

 10月16日未明、沖縄で米兵2人が女性を集団で拉致・強かんし逮捕されるという凶悪犯罪が起こった。県民の怒りに対し、3日後になって米軍は全国で米兵の無期限の夜間外出禁止令を出した。しかしその後2週間も経たない11月2日深夜、読谷村で酔った米兵が民家に侵入し、男子中学生を殴るという事件が発生した。
 問題は容疑者や米軍の問題だけではない。日本政府の問題だ。まずは、起こった凶悪犯罪に対して、米軍と米兵に毅然とした対応をしなければならない。口先で「再発防止」を言うのではなく、沖縄の人たちが安心できる厳格な防止策を講じるべきだ。さらには日米地位協定の見直しと基地縮小・撤去へと交渉を進めるべきである。

基地問題と沖縄差別が集中的に表れた集団強かん事件
 拉致強かん事件は、被害を受けた女性が勇気をもって即座に警察に被害届を出したことによって容疑者の逮捕につながった。犯行が起こったのは午前3時半〜4時20分にかけてである。海軍所属の米兵2人が帰宅途中の20代女性に背後から襲い掛かり、首を絞め、そのまま人気のない場所に引きずり込んで50分にもわたる暴行に及んだという。住宅街での凶行だ。女性は知人を通じて即座に警察に通報したことによって容疑者逮捕につながった。女性を暴行した兵士2人が逮捕されたのは、日本を出国するわずか数時間だった。
容疑者の米兵たちは米テキサス州海軍航空基地所属で、10月14日に神奈川県厚木基地から沖縄入りしたばかりだった。彼らは、犯行日の当日に次の任務地であるグアムに出発することになっていた。滞在期間わずか2泊3日の沖縄で、出発日当日の未明に犯行に及んだことは偶然ではないだろう。沖縄はオスプレイ同様、「米軍が何をやっても許される」場所と認識されていたのではないか。根強い沖縄の蔑視があったのではないか。
[2米兵暴行事件]我慢の限界を超えた(沖縄タイムス)

 仮に、2人が基地内に逃走していれば、日米地位協定によって、米側が身柄を押さえたとしても、原則として起訴前までは日本側に身柄が渡されることはない。米兵は入管手続きが不要であるため、2人が出国したかどうかも把握することもできない。
確かに、95年の少女暴行事件をきっかけに、殺人、強かん、ひき逃げなどの凶悪犯罪については起訴前でも逮捕できるよう「運用」が見直されているが、あくまでも米軍側の「好意的配慮」によって行われることができるだけだ。絶対的に主導権は米軍にあるのである。基本的には何もかわっていない。

 ネット上などでは、そんな時間に出歩いている女性が悪いというような悪質な書き込みなどが後を絶たない。襲った米兵ではなく、襲われた女性をバッシングしている。全く倒錯している。そもそも午前3時4時という時間は、現在の就業状況などをみると、女性が普通に外を歩かざるをえない時間だ。もちろん、何をし、どういう格好をしていようと関係ない。そのような議論自体が女性蔑視だ。しかも問題になっているのは性犯罪一般ではなく、殺人を職業的に訓練された米兵によって引きおこされた凶悪犯罪なのである。形を変えた戦時性暴力なのである。
田母神俊雄元航空幕僚長のツイッターはストレートだ。彼は日本の侵略戦争を「濡れ衣」などと正当化し憲法を「改正」して自衛隊を戦える軍隊にすることを公然と主張した。その田母神氏が女性バッシングをしていることは、「軍の論理」を思い知らされる。
「沖縄女性暴行事件でテレビが連日米兵の危険性を訴えるが、この事件が起きたのは朝の4時だそうです。平成7年の女子高生暴行事件も朝の4時だったそうです。朝の4時ごろに街中をうろうろしている女性や女子高生は何をやっていたのでしょうか。でもテレビはこの時間については全く報道しないのです」

 午前3時に女性が歩いていたら米兵に襲われても仕方がない−−これは沖縄が米軍の駐留によって過酷な治安状況にあるということを言っているに過ぎない。08年の女子中学生暴行事件では、周囲の反対で被害者は告訴を取り下げ、容疑者の米兵は不起訴処分となっている。世論のバッシングが被害者を追い込み、沖縄全体がかかえる矛盾を個人の問題に押し込んでしまうのである。「セカンドレイプ」に他ならない。
今回の男子中学生の事件ではさすがに、「夜中に3階で寝ていた中学生が悪い」というような論調はないが、米兵がうろつく基地周辺に住んでいるのに、厳重に戸締まりをして就寝しないのが悪いという論理ととれだけ違うのだろう。

日本政府の及び腰の対応が米軍犯罪を助長する
 被害者を侮辱し、人権を貶めるこのような論調はネット上だけのものではない。むしろ政府高官自身が煽っている。
 森本防衛相は今回の事件に対して記者会見で何度も「事故」と繰り返し、「たまたま外から出張してきた米兵が起こす」「米兵でも真面目に仕事をしている人も多い」などと米兵個人の問題にし、あたかも“運が悪かった”“不注意で事故に遭った”かのような印象を植え付けようとした。要するに事件は「たまたま」であり、森本氏にとっては道で転んだような軽微な事故に過ぎなかった。しかし、事件はたまたまではない。まず、全国の0.6%の面積の土地に米軍基地の74%集中しているという沖縄の異常さがある。そして殺人の訓練を積んだ米兵が、戦場で強くストレスを体験し帰還してくる状況で、米軍基地は犯罪が起こりやすい特異な環境下にある。実際米軍自身が、アフガン帰還兵が増加する2014年以降犯罪が多発することを予測している。
米兵暴行は「事故」 防衛相、外務副大臣発言

 昨年11月田中防衛局長が辺野古評価書提出をめぐり、「犯す前に言うか」と発言して更迭されたことは記憶に新しい。同じく当時の一川防衛相は「95年の沖縄少女暴行事件を詳細には知らない」と答えている。日本政府の女性蔑視、沖縄蔑視、沖縄の置かれた過酷な状況の無理解が、米兵犯罪を助長しているのは間違いない。

 11月2日に起きた米兵による住居侵入傷害事件では、沖縄県警は容疑者を逮捕していない。任意での事情聴取にとどまっている。「米軍が捜査に協力」「逃走の恐れがない」「通院が必要」などと勝手に理由を並べ、逮捕しない口実にしている。この事情聴取さえ米軍の「お許し」を受けてのことだ。藤村官房長官は事故直後の記者会見で早々と「起訴前の身柄引き渡しを要請する必要はない」と発言した。
社説[身柄引き渡し否定]捜査への越権行為だ(沖縄タイムス)
県警米兵逮捕せず 全容疑に引き渡し適用を(琉球新報)

 すでに書いたように、日米地位協定では容疑者の身柄が米側の手中にある場合、日本側の起訴前まで米側は身柄引き渡しを拒否できるが、1995年の少女乱暴事件を機に凶悪犯罪に限って、米側が「好意的配慮」で起訴前の引き渡しが可能となる協定の運用改善で合意している。深夜に住居に侵入し、部屋で暴れてテレビなどを壊し、寝ていた中学生の頭を殴打するというのは「凶悪犯罪」ではないというのか。中学生が軽傷で済んだのは幸運というほかない。日本政府は、米軍に拒否されることをおそれて、身柄引き渡しと逮捕をあえて要求しないのである。

侵略のための軍隊と、人権侵害・女性蔑視・性犯罪は深く結びついている

(沖縄タイムス 10月21日)
 幾度となく起こる事故・事件に、日本政府の態度は変わらず言葉だけだ。野田首相は「あってはならないことだ」、藤村官房長官は「極めて遺憾だ。(政府として米側に)綱紀粛正と再発防止を求めた」と述べた。ところが仲井真知事が日本政府に強く求めた地位協定の改定については「むしろ運用の問題だ」と拒否した。再発防止を言う前に、まさに今ここで起こった凶悪犯罪に対してどう対応するかではないか。地位協定の運用さえまともになされていないのである。
 外務省沖縄事務所の松田賢一副所長は5日「11時から5時の間にいない人をどうやってチェックするか議論している」ととぼけた回答をしている。小学生の遠足点呼で「いない人は手を挙げてください」並のジョークではないか。このような発言自身が、日本政府が真剣に米兵犯罪をとらえていないことを示している。
 「夜間外出禁止令」は単なる張り紙に過ぎない。米兵には夜間外出を制限するリバティ・カード制度があるが、基地へ戻らず、外で泊まれば処罰されない。つまり、夜11時から午前5時のあいだにノコノコと帰ってきた米兵だけが処分される。なによりも基地以外に住んでいる米兵には全く適用されていない。
 日本国内でありながら日本の法令は適用されず、治外法権・特権が保障され、反対に日本国民の人権は侵害される、そんな地位協定は承知出来るものではない。
 在沖海兵隊基地では2010年10月以降の1年間の性的暴行事件が67件に上り、発生率が米国内の基地の2倍の高さであり、世界中の米海兵隊基地の中で2番目に高いことを、米海軍省と海兵隊本部の報告書が明らかにしている。しかも米国防総省の調査で性的暴行の8割が申告されていないとの指摘を考えれば、公表された数字も明らかに氷山の一角だろう。09年10月〜10年9月の間に、被害を届け出た米兵数は2617人だったが、同省の推定では1万9千人の被害者がいるとする。1日に52人が何らかの被害を受けていることになる。
 沖縄タイムスが10月半ばより連載した「軍隊と性暴力」は、「沖縄戦」「米軍占領下時代」「本土復帰後」と、一貫して女性たちが「戦時性暴力」の犠牲になってきた沖縄の歴史を明らかにしている。

日本政府は日米地位協定の見直し、米軍基地の削減・撤廃を要求すべき
 沖縄県民の強い反対を無視し強硬に配備された新型輸送機オスプレイは、日米の合意に反してヘリモードでの市街地飛行を繰り返している。配備され試験飛行した初日から協約違反が繰り返され、やりたい放題になっている。
 森本防衛相が全国知事会で「月内に本土訓練を行う」との米軍方針を伝えたのは、まさに中学生殴打事件があった11月2日であった。野田首相は「全国で(沖縄の)負担を分かち合う必要がある」と協力を求めている。ふざけるにもほどがある。全国での飛行訓練は「沖縄の負担を分かち合う」ものでもなんでもない。航続距離が飛躍的に高まったオスプレイが、沖縄県内では飽きたらず、日本列島全体を演習場として、途上国侵略のための低空飛行訓練を繰り返そうとしているのである。その上、オスプレイの協約違反に対しては「守られていると認識している」と平然と語り、その傍らで沖縄県民への暴力、事件、事故が起こっている。
 日米同盟を最優先し、超危険なオスプレイを持ち込み沖縄県民の人権を無視続ける、そんなひどい事はない。約束は無視していい、沖縄での米軍・米兵の暴力・事故に日本政府は何も言わないという「軍事植民地」さながらの事態を放置することは容認できない。
 日本政府にオスプレイ配備強行の撤回、日米地位協定の見直し、米軍基地の削減・撤廃に向けた行動を求める。

2012年11月10日
リブ・イン・ピース☆9+25