2つのイベントを見学して感じた自衛隊の変化
〜海外派兵が要求する、殺人部隊としての自衛隊

 自衛隊にからむ事件やスキャンダルが次々に発覚しています。防衛疑獄や市民運動監視、あたごによる清徳丸沈没のような政治的大事件だけでなく、自殺、いじめ、暴行、セクハラ、パワハラ等々が連日のように報道されています。
 私は、現在の自衛隊の生の姿を少しでも捉えようと、10月18日、大阪府堺市で行われた海上自衛隊護衛艦「せとゆき」の見学会に、19日、兵庫県伊丹市で行われた自衛隊中部方面隊創隊48周年記念観閲式に参加しました。それらは、自衛隊の市民公開の一コマに過ぎませんが、無視できない変化を感じました。それを簡単に報告します。

自衛艦見学会での勧誘活動の背後にある深刻な隊員不足
 10月18日は午後2時から3時まで“堺まつり”に出展した海上自衛隊護衛艦「せとゆき」の見学会を取材してきました。南海本線堺駅から防衛省のマイクロバスでピストン輸送して、観客を運んでいました。自衛艦「せとゆき」は呉地方隊所属で、堺の青果市場裏の大浜埠頭に係留されていました。
 「海上自衛隊に入りませんか」と海上自衛隊の案内係りの人から声をかけられました。私は「インド洋の給油で人員のやりくりが大変だからですか」と尋ねました。係員は「少子化と、若い人がすぐ辞めるんです」と答えました。自衛艦の前には、ジープと海上自衛隊と陸上自衛隊の制服を置いて、子どもたちや大人に着せて、係員がご機嫌取りをしていたり、自衛官募集ののぼりと机を出し観客に対応していました。今まで何回も自衛艦の見学会に行っていますが、初めての光景で、40代半ばの私にまで声をかけてきたのには正直驚きました。もしかしたら、私は失業者やネットカフェ難民などに見られたのかもしれません。アメリカですでに貧困層の若者が軍入隊を事実上強制されているように、そのような不安定雇用の若者をターゲットにしてもおかしくないと思いました。
 「せとゆき」にも乗船し見学しました。まず、操舵室では、艦長の席には、真っ赤なカバーがかけられ、一番右側にありました。進行方向右側の状況を一番つかむ為です。それだけ責任が重いということです。イージス艦「あたご」が漁船「清徳丸」に衝突した事件では、艦長はこの席につかず、仮眠していたとは、なんと無責任なことかと思いました。もうひとつ、艦内に「花嫁募集中」とあり、若い隊員の顔写真と出身県、年令、趣味などを書いて、募集していました。これには驚きました。隊員の待遇にそこまで動いているとは。深刻な人員不足の一端を見たような思いがしました。自衛隊員と結婚すれば、海外派兵という“単身赴任”も覚悟しなればならない−−そんな自衛隊員をとりまく切迫した状況が垣間見えました。

「武装集団としての原点」への立ち返りと市街地訓練「ガンハンドリング」の公開
 翌10月19日には陸上自衛隊中部方面隊創隊48周年記念観閲式を取材してきました。場所は中部方面総監部のグラウンドです。これまでにこの観閲式は過去2回(2002年と2006年)見に行っていますが、これまでと違っていたのは、中部方面総監が「武装集団としての原点」に立ち返るよう訓示した事や、来賓の挨拶として、橋下大阪府知事が「朝日新聞は口先だけのことを報道している」と朝日新聞を誹謗・中傷したことです。この橋下知事の発言は、光市母子殺害事件での懲戒請求訴訟で広島地裁判決が橋下知事に賠償命令を出したことに関して、朝日新聞が橋下氏は弁護士資格を返上したらどうかと書いたことに対するものだということですが、自身への批判を封じ込めるかのようなマスコミバッシングは絶対に許せません。
 私が本当に驚いたのは自衛隊員が「ガンハンドリング」と呼ばれる動作を実演したことです。これはまさに市街地戦闘の際に、3人一組になって、壁伝いに進行するガンさばきのフォーメーション訓練です。今回初めてでした。終わってから自衛隊員に聞くと、基地内のビルで、日常的に訓練しているというでした。「ガンハンドリング」はビデオに撮りましたので是非見てください。

自殺、いじめ、セクハラ、パワハラと多発
 今年3月にNHKで放映されたクローズアップ現代「海上自衛隊 問題続発の裏側で」では海上自衛隊の“苦悩”が描かれていました。海外派兵の結果、長期連続勤務に耐えかねて辞める隊員が後を絶たず、残された隊員への負荷が増大しているというのです。また予算は海外派兵向けの新装備にとられ、隊員の待遇には回されないことなども指摘されていました。不満が下部に向かう構造があるのでは、と思わせる内容でした。
 折も折、海上自衛隊の特殊部隊「特別警備隊」隊員を養成する第1術科学校の特別警備課程で9月、当時25歳の三等海曹が、格闘訓練と称し、15人による集団リンチともとれる暴行を受け死亡していたことが明らかになりました。8月には福岡高裁で、海自佐世保基地の護衛艦「さわぎり」内で自殺した自衛隊員の自殺の原因がいじめであることが認定されました。「あたご」事件での当直海士長が自殺未遂する事件も起こっています。昨年7月にはインド洋の給油に向かう護衛艦「きりさめ」の中で隊員が自殺しています。防衛省は、他省に比べた自殺率が2倍にも登るという異常な高さから、対策を検討し始めているといいます。注目すべきは、動機の半数が不明であるということです。不明というのは、借金や病気などではなく、突然奇行や自殺に走ることで、心の問題であることなどが考えられます。
15人と格闘、隊員死亡 海自、集団暴行の疑いで調査(朝日新聞)
漁船衝突のイージス艦「あたご」海士長が自殺未遂
 イラクやインド洋に派遣された自衛官の中で、在職中に死亡した隊員が計42人(6月1日現在)、死因としては自殺がトップの20人を占めるという情報が防衛省内局広報室から出されています。その中で、海上自衛官の死亡者が27人に登ります。
インド洋派遣隊員の自殺続出 海上自衛官の死亡者27人に(週間金曜日)
 これについて、「イラクへの海外派遣やテロ関連警備の強化もストレス増になっている」などの自衛隊関係者の発言も報道されています。

海外派兵がもたらす自衛隊の変質
 さすがに自衛隊はまだ海外派兵で住民殺戮はしていませんが、そのための訓練はしており、また海外派兵は大変な緊張を強いられるというのは間違いありません。私たちはこの間、米軍の危機との関係で、軍隊はそもそも兵士の人権や人格を認めないこと、人間性を捨て去るところから出発するということを見、また、過酷な戦場や住民殺戮の経験からPTSDをはじめ精神障害を発症した帰還兵らに対して周到なケアシステムが存在していることをみました。
 「武装集団としての原点」の発言にみるように、海外派兵によって自衛隊も「国を守る軍隊」から本来の「殺人部隊」へと変貌していく中で、日常的な殺戮訓練が繰り返され、自衛隊員のアタマも、殺人マシンへと洗脳されていき、米軍のような問題が出始めているということではないかと思います。さらに付け加えれば、自衛隊の殺人部隊への変貌の中で、そのケアシステムの構築が追いついていないということもいえるかもしれません。もちろん、ケアシステムを早急に構築しろということも、武装集団への変貌の過程で不可避的に生み出されるリスクと捉え受け入れることも、私たち市民の選択でないことはいうまでもありません。海外派兵をやめること、侵略戦争への加担をやめることが何よりも重要です。

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2008年10月25日
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