海兵隊基地は、普天間や辺野古どころか沖縄にある必要はない
『砂上の同盟 米軍再編が明かすウソ』(屋良朝博 沖縄タイムス社 2009.7.)

海兵隊沖縄駐留の軍事戦略的根拠を語らなかった海兵隊司令官
 沖縄タイムスの記者である著者は、2002年ホノルルにある米国防総省シンクタンク主催の会議に出席する。そこである陸自幹部が海兵隊の戦闘能力の高さを褒め称え、沖縄に駐留しなければならない理由を述べ「地政学的な位置が非常に大切だ」と語る。著者は挙手し、かねてから考えていた質問を投げかける。「仮に、九州でも北海道でも日本政府が訓練場や必要施設を用意すれば、海兵隊はそこへ移ることは可能ですか」。それに対する海兵隊司令官の答えは全くそっけないものだった。「イエス。沖縄でなくても構いません」。
 つまり沖縄に海兵隊が駐留する軍事戦略的な根拠は全くなく、沖縄駐留はもっぱら政治的・財政的な理由によるということを、司令官自らが認めたのである。
 さらに著者は2007年、海兵隊のグアム移転が記されたロードマップが発表された一年後にも、民間の軍事関係のシンクタンクに出向き、今度はグアム移転の軍事戦略上の意味を質問する。だがそこでも“特に意味はない、政治が決めたからだ”というにわかに信じられない言葉を軍事アナリストから聞き、以下のような確信を持つに至るのである。すなわち、沖縄に海兵隊基地があるのは、「台湾海峡に近いし、成長めざましい中国の大都市もすぐそこだ。もちろん、危ない北朝鮮にも近からず遠からず、威嚇するのに最適だ」――このような政府の宣伝は真っ赤なウソで、海兵隊が沖縄にいる戦略的理由など存在しない、あるとすれば、日米安保と日米地位協定で日本政府が湯水のようにカネを使い、至れり尽くせりの待遇を保証しているという理由だけなのである。
[シリーズ]沖縄にも、大阪にも、どこにも米軍基地はいらない(その3)辺野古新基地建設計画と海兵隊駐留にこだわった日本政府(リブ・イン・ピース☆9+25)
[シリーズ]沖縄にも、大阪にも、どこにも米軍基地はいらない(その6)3兆円を日本側に負担させるために、「基地負担軽減」と「グアム移転」、「在日米軍再編」が突如リンク(リブ・イン・ピース☆9+25)

司令部だけが移転するとしても沖縄は「エンプティ・ガリソン」に
 本書は、日米同盟と米軍再編について全編を通してきわめて興味深い中身が書かれている。以下で注目すべき点を2〜3紹介したい。
 一つは、海兵隊のグアム移転について、司令部だけが移転するとしても沖縄は「エンプティ・ガリソン(空っぽの兵舎)」になると指摘していることだ。
この本は、宜野湾市長伊波洋一氏がグアム全面移転についての発表をする(11月26日)以前の本だが、著者は伊波氏が全面移転の最大の根拠としている「グアム統合軍事開発計画」(2006年7月)のことを知り詳しく検討している。「司令部と補給部隊がグアムに移転する」「実戦部隊は沖縄に残る」としている点で、伊波市長の評価と異なっていることになるが、政治的結論は以下で述べるように、司令部だけの移転としても沖縄海兵隊基地は必要なくなるということなのである。

 つまり、司令部がグアムに移転してしまうと、沖縄にローテーション配備される(半年ごと)実戦部隊はまずグアムにいって司令部と合流しテニアンやサイパンで訓練をしなければならなくなり、沖縄にいる期間が激減する。だから、沖縄は空っぽになり、実戦部隊がグアムにいるための施設が必要となるというのである。すなわち空っぽになる沖縄の普天間飛行場の代替施設はいらない。これからいくと、「司令部だけ」か「実戦部隊も移動する」かというのは文面だけのことであまり関係なく、すでに司令部が移転するというだけで、沖縄での演習や訓練の負担は激減するということのようだ。
 「グアム統合軍事開発計画」(2006年7月)を巡るエピソードも興味深い。2005年10月「中間報告」、2006年5月ロードマップ「最終報告」とワシントン主導の日米協議でグアム移転が決まったが、米太平洋軍司令部は、何も知らないワシントンの政治家が勝手に話を進めているとして危機感を持ち、陸海空軍がひしめくグアムに海兵隊が食い込む余地があるのかどうかを現場から検討したのがこの「グアム統合軍事開発計画」だというのである。「グアム統合軍事開発計画」は太平洋軍司令部がホームページに掲載したわずか一週間後に、日本側の抗議で削除されたという。(おそらく伊波氏が9月にホームページに掲載、としているのは再掲載のことである)予算上混乱を招くというのが理由のようだが、日本政府はグアム全面移転が明らかになることを恐れたのかもしれない。

「ハワイがいい」だけでなく「ハワイ以外はダメ」を証明できなかったハワイ訴訟
 最後にもう一つ「ハワイ訴訟」についての重要な言及がある。米陸軍ストライカー旅団戦闘チームのハワイ移設に反対するハワイの自然保護団体などが起こした裁判だ。注目すべきは、裁判所が、ストライカー旅団をハワイに配備することの戦略的意義を確認することができないと判断したことである。これによれば、米側は、ハワイに来ることで戦略的意義が高まることを証明するだけでなく、ハワイ以外では駄目だということを証明しなければならない。これができなかったのだ。
 米側が主張した(1)「環太平洋の中の地理的な位置」は、ハワイよりもアラスカの方が優位だということで破綻した。米軍はその際、ハワイなら世界中のどこへでも4日以内に軍事展開できると主張したが、南米、西アフリカ、サハラ以南、南アジア、南太平洋、ヨーロッパのどこをとっても、5日以上かかることがわかった。米軍はウソをついていたのだ。次に(2)として、ジャングルがあるなど地勢、地形が適していることを主張したが、それがハワイでなければならない理由(ジャングルは他にもあるので)、陸軍の演習にとってジャングルが必要な理由(陸軍は市街戦が中心なので)を証明できなかった。そして最終的には(3)「トロピカルな気候」という訳の分からない理由をつけて強引に押し通そうとした。だが、この論拠は、既に陸軍の基地のあったアラスカについては「トロピカルでないからストライカー旅団の基地として用をなさないのか」ということになってしまい、根拠としては自ずから破綻している。 

どこにしてもハワイ基地から5日以上かかり、「4日以内」はウソだったことがわかった。この一件は、米軍が海外軍事基地を世界展開の戦略拠点ととらえていることを示している。(p220より)

「日米共同宣言」の欺瞞を根底から問う
 鳩山首相が「国外、最低でも県外」という普天間の移設先選定の公約を守ることが出来ず、辺野古案の「日米共同宣言」を余儀なくされた責任をとって辞任した。替わって首相に着いた菅直人首相も、早々と「日米共同宣言」踏襲を表明した。なぜ辺野古でなければならないのか、辺野古以外ではダメなのか。なぜ普天間閉鎖の代替地を沖縄県内に造らなければならないのか。そもそも海兵隊基地はなぜ沖縄にあるのか。まともな説明はない。鳩山首相は5月4日沖縄謝罪訪問で辺野古回帰の最大の理由をとってつけたように「抑止力」に求めたが、百歩譲って米軍基地が「抑止力」のためであると認めたとしても、抑止とは何からの抑止なのか、沖縄海兵隊が具体的にどうその抑止に役立っているのか、なぜそれが普天間なのか、また辺野古なのかという根拠も説明されていない。まさか辺野古以外では抑止力がなくなるとはいえないだろう。
『在沖米海兵隊の「抑止力」に関する質問主意書』(衆議院)
 社民党照屋寛徳議員は5月11日に同主意書を提出し「抑止力」の具体的根拠を問うているが、日本政府は回答期限までに答えることが出来ず、照屋氏に主意書の再提出を求めるという前代未聞の事態が生じている。

発信箱:再び抑止力=三森輝久[西部報道部](毎日新聞)

 海兵隊基地は、普天間や辺野古どころか沖縄にある必要はない。この『砂上の同盟』は、改めてこのことを確信させてくれる。私たちも沖縄は地理的に米軍にとって戦略的に重要だと長いあいだ思いこまされてきた。だがそれは、現に沖縄に米軍基地が集中しているという実態から沖縄が戦略的に重要なのであって、それ以外のいかなる理由も存在しない。この本は2009年7月に出版された本だが、「日米共同宣言」がいかに欺瞞的で、強圧的なものか、沖縄の人たちを愚弄するものかを根底から明らかにしてくれる。

2010年6月9日
リブ・イン・ピース☆9+25 N