米国防分析研究所の元主任分析官が告発したV-22オスプレイの本質的欠陥
[翻訳資料]なぜV-22オスプレイは安全でないか

 ここで紹介する翻訳記事は、米国防省国防分析研究所の元主任分析官レックス・リボロ氏が03年12月に作成したオスプレイに関する報告書「Why the V-22 Osprey is Unsafe? なぜV-22オスプレイは安全でないか」である。リボロ氏は09年6月にも米議会公聴会において、機体の特有の構造からオスプレイは操作不能・墜落に陥る危険性が非常に高いとの証言を行っている。
 リボロ氏はオスプレイの欠陥を以下の6つに分類している。
・オートローテーション機能が欠如し、全エンジン停止時に安全に着陸できる能力がない。
・両ローターによって作り出されるボルテックスリング(過流輪)にはまりこんだとき、V-22の操縦システムでは対応できず、突然機体が横転(不意自転)する危険性がある。
・横方向の操縦に関して、PIO(パイロットの操縦操作に起因する機体の過大な反応)が発生しやすい。
・左右両端に配置された重いエンジンとローターシステム、艦載用途のための複雑な折畳機構など、V-22固有の複雑で脆弱な構造のため、飛行時の駆動系の振動が増幅されて油圧・電気・機械ケーブルなど機体各部に深刻な影響を与え、不具合が生じやすい。
・激しい気流を発生させ、近接して飛ぶ他機にトラブルを引き起こす。
・吹き下ろし気流速度が従来のヘリコプターの2倍になるため、砂漠や水上でのホバリングで砂や土埃、水を高くまき上げ、視界不良での墜落事故や、機器やエンジンのトラブルを起こしやすい。

 リボロ氏は報告書の中で、粉塵を巻き上げる夜間の砂漠への着陸、垂直の風が吹き上げる山岳環境での低空飛行など、戦場や敵対的な環境で使用される場合の危険性を特に指摘している。彼は報告書を以下のように結ぶ。
「不幸なことに、これらの問題の全てが、V-22の特異な基本設計−並列配置のローター構成、高いローター円盤荷重、ロール方向と偏揺れ方向の制御を推力の差動で行うこと−に起因しており、変更が不可能ということである。物理的にそれについてできることはほとんどない。飛行機搭乗員への広範囲な教育とトレーニングと、より良い警告システムは確かに助けになるだろうが、基本的な不安定性を除去することはできない。」
 最近の証言でも、日本列島でのオスプレイ演習を念頭に、「山間部の低空飛行訓練は極めて危険」と警告している。

 オスプレイを沖縄・普天間飛行場に配備する意味は、オスプレイが兵員と物資の重要な輸送手段であり、沖縄が世界の戦闘地域・紛争地域への米海兵隊派遣のための出撃拠点として位置づけられているという点にある。それが沖縄でなければならない理由はない。米海兵隊が日本の防衛のための「抑止力」(つまり日本を守るためのもの)であるというのはウソだ。
 米軍がオスプレイの沖縄配備にこだわるのは、日米安保と日米地位協定によって日本政府が巨費を負担し至れり尽くせりの演習場・出撃拠点を米軍に提供してくれるという理由以外にない。沖縄の亜熱帯森林地帯や日本の山間部は、対途上国紛争を想定した絶好の訓練地と目される。
Environmental Review for Basing MV-22 Aircraft at MCAS Futenma and Operating in Japan(MV-22の普天間飛行場配備及び日本での運用に関する環境レビュー最終版)
 (東北―信越の山間部を中心にした3ルートと四国―紀伊半島、九州、奄美諸島に各1ルートの計6ルートを明示し、それぞれ「ブルー」「グリーン」「イエロー」「ピンク」「オレンジ」「パープル」の名が付けられている。加えて、中国地方の「ブラウン」ルートがあることがわかっている。)

 リボロ氏の報告書は、軍用機としてのオスプレイの適格性、特にその危険性について厳しく批判している。これはオスプレイの配備が「日本の安全保障に寄与する」と主張している日米政府に対する痛烈な批判にもなっている。なぜなら、オスプレイの配備そのものが日本の安全を著しく脅かすからだ。
 ただ残念なのは、彼のヘリコプターパイロットとしての経歴のため、オスプレイの評価がもっぱらヘリコプターとしてのそれに限られている点である。
 私は、最近のモロッコでの失速事故に典型なように、オスプレイが最も危険なのはヘリ・モードから固定翼機モードに切り替える、あるいはその逆の、遷移飛行時(すなわち離着陸時)だと考えているので、例えば固定翼機モードでの失速速度がいくらになるかといった部分での情報も得られることを期待していた。この点では物足りなさを感じる。固定翼機モードの問題点も加われば、オスプレイの危険はさらに深刻なものになるのは間違いない。
 (ちなみに、そのモロッコでの事故であるが、「対気速度が低いのにモード変換を強行したパイロットミス」を事故原因にしているが、とんでもない話である。フライ・バイ・ワイアシステムでそんなケアレスミスが防げないとはどんなプログラムになっているのだろうか?これもまたオスプレイの危険性の証左である。このフライ・バイ・ワイアシステムの問題点は、リブインピースブログシリーズ[オスプレイ配備を許すな(9)]「機体設計の基本的欠陥(3)原理の違う飛行システムの強引な組み合わせ」で言及しているが、リボロ氏の報告には入っていない。)

 また、米国防機関職員として彼に関心があるのは米軍パイロットの救命と機体損失の回避であって、最も重大な、墜落による周辺地域や住民への被害という問題には一切言及していない。しかしオスプレイを配備され、危険な低空飛行を繰り返される側からすれば、巨大な鉄のかたまりがいつ空から降ってくるかわからない恐怖に日夜さらされることになる。パイロットの「緊急脱出」の問題ではない。現に1959年の宮森小学校米軍機墜落事故ではパイロットが緊急脱出して無事だったが、17人の小学生と市民が無惨にも犠牲になっている。2004年の沖縄国際大学米軍ヘリ墜落炎上事故でも搭乗員3人は負傷しただけだが、校舎は焼かれ機体は周辺に飛び散った。
 
 何度も指摘しているようにオスプレイは機体構造そのものに矛盾をもった欠陥航空機である。その欠陥は修復できないし、現に米軍は修復してこなかった。だからこそリボロ氏も執拗にその危険を主張している。日本政府はこのことを真正面から取り上げ米と協議し、配備をはっきりと拒否すべきである。

オスプレイ「山間部の低空飛行 危険」 米国防総省系機関元分析官(東京新聞)
オスプレイ:「弱点」指摘…米軍系研究所、03年に意見書(毎日新聞)
03年に「構造上問題」 オスプレイで国防総省報告(琉球新報)
「安全性は立証されず」 オスプレイで米専門家(中国新聞)
オスプレイ墜落危険性に警鐘 米専門家、09年に証言(中国新聞)
オスプレイ、防衛省解説を否定 元国防分析研リボロ氏(琉球新報)

2012年7月28日
リブ・イン・ピース☆9+25


[翻訳資料]なぜV-22オスプレイは安全でないか
Why the V-22 Osprey is Unsafe?
http://www.g2mil.com/V-22safety.htm

 2000年3月のアリゾナ州マラーナでの悲劇的な破壊事故以後、V-22について3年間慎重に研究と分析を続けてきた結果、戦闘地域または敵対的な環境でのV-22の飛行時の安全性にかかわるいくつかの問題について、私は懸念を持ち続けている。
V-22が提供する重要な任務の利点については他でも示されているので、この文書の焦点はニューリバーでの最後の事故以来実行されたすべての修正の後でも依然残る安全性への懸念に限られている。

 私の見たところでは、この航空機の今後の運用上の安全性および戦闘地域での搭乗員の生存性に影響する可能性があるため、同機の運用責任者によく理解されるべき重大な問題が6つ存在している。
それらは以下の通り。

1.V-22はオートローテション能力が欠如しており、「証明ずみ」の「全エンジン停止時に安全に着陸できる能力」さえ、懸念はまだ残されたままである。
V-22は、その運用時の速度・高度・荷重などの許容限度(フライトエンベロープ)の範囲内の大部分で、全エンジン停止下での安全な緊急着陸の必要条件を定めたORDの最低限を満足することができない。

2.V-22の飛行特性はVRS(ボルテックスリング・ステート=(渦流輪現象)=ヘリコプタが自分のローターが作り出したダウンウォッシュの輪の中にはまり込むこと)での横(ロール)方向の操縦操作に大きな問題がある。V-22がVRSに入ったとき、ロール方向の操縦システムの能力は飽和状態となり「不意自転」に入りやすくなる。VRS現象時のこの挙動は、他の通常型のどのヘリコプターのそれとも、大きく異なる。

3.V-22は、過敏な操作を要する操縦任務(例えば離着艦作業、制限された地域での正確なホバリング、または視界の悪い条件下での離着陸)のとき、ヘリコプター・モードでロール方向のPIO(パイロットの操縦に起因する周期的な不安定な挙動)を発生しやすい。

4.V-22の高い振動負荷(艦載時の折畳構造のための非常に可動部の多い機体構造と、複雑な油圧システムの組み合せの結果)は、油圧・電気・機械の各システムに問題を発生させ、これらのシステムについて高率の故障を発生させる誘因となっている。これらの故障は安全性を左右する。

5.他の機体が発生するローターの後流や、そのローター端から発生する渦流に対するV-22の過敏な特性は、特にロール方向の操縦に大きく影響し、機体が「不意自転」する結果をもたらす可能性がある。低高度では、これは機体の損失に至る可能性がある。

6.V-22のローターが発生する高速の吹き降し風によって、砂漠環境や水上でのホバリングの際に重大で有害な影響が発生する可能性がある。

 これら6つの問題を、この文書の本文で議論する。これらは今後の運用テストと評価、修正作業での機器の変更や、訓練・戦術、操作手順と技術の変更を通じて密接に監視していく必要がある。しかし、上記の懸念の多くは、V-22の固有の設計によるもので、恐らく軽減するのは困難だろう。問題の要点を理解することは、運用上の結果を理解する鍵となる。

 (以下、若干の要約を加えながら紹介する。)

1. オートローテーション能力の不足
 当初V-22は完全なオートローテーション機能を持っていると信じられていた。
 今ではV-22には実用可能なオートローテーション機能がないということが共通認識となっている。
V-22が唯一実施したオートローテーション試験は実用的なものではなく、単に技術的評価のためだけに行われた。その試験は、安全にオートローテーションに入るために、エンジンパワーをゆっくりと絞ってローターの回転数を落とさないよう配慮したうえで実施された。
 しかし実際のオートローテーションでは、エンジンの突然の停止でも安定したオートローテーション状態に入ることができなければならない。しかしV-22のオートローテーションテストでは、エンジンの即時停止は行われなかった。そのような操作をしたら操縦不能となっただろう。トラブルが移行モード(60度ナセル傾斜)時に、機体外部に貨物をぶら下げた状態で起きた場合、特に深刻な事態になる。

 V-22の唯一のオートローテーションテストでは、安全な着陸にするためローターの回転エネルギーを使って降下率を低減させる試みもまた失敗した。得られたテストデータでは、V-22は約3700フィート/分(20m/秒)という致命的な降下率で地面にたたきつけられてしまうことがわかった。権威あるV-22の支持者、例えば米航空宇宙局(NASA)の評価チームは、オートローテーションは、2つのエンジンの同時故障の確率が低いためにV-22に必要な機能ではないと主張してきた。
 しかし私が海軍のデータを分析した結果では、3〜4年に一回の割合で、海軍/海兵隊では艦船の燃料タンク内で汚染された燃料によるヘリコプターの2基のエンジンの同時故障が発生している。
 過去の例では、ヘリコプターが水上にオートローテーションで降りた場合、乗組員と乗客はすぐに機体から緊急脱出するため、通常は生存できる可能性がある。しかし同様の事態がV-22に発生した場合、スムーズにオートローテーションに入れないため、そしてもっと可能性が高いのはもしコントロールできていたとしても、緊急脱出するにはあまりにも窮屈なキャビンのため、おそらく乗組員と乗客にとって致命的な結果をもたらすだろう。

 ベトナム戦時の記録では、多数の対空砲火を浴びた結果、ヘリコプターが即時のオートローテーションモードへの移行を迫られたことが多々ある。ベトナム戦争中で失われた3,000機余りのヘリコプターのうち、8割から9割は、地上への着陸アプローチ時(V-22ではヘリコプターモードでの動作となる)に失われた。そのうち約半分は安全にオートローテーションすることにより着陸でき、乗員の命を救った。
 V-22の左右のローターが相互接続されていても、地上砲火を浴びて、エンジンとローター連結シャフトの両方を失うことが予測できる。このような事態はV-22にとっては致命的な結果となるだろう。

 戦闘機パイロットにとっての「射出座席」にあたるものが、ヘリコプターのパイロット(と彼の乗客)にとっての「オートローテーション」機能である。すべての状況が悪化したとき、ヘリコプターのパイロットに残された最後の手段がオートローテーション機能である。
 V-22のオートローテーション機能の欠如は、現在の技術オプションとしてのティルト(傾斜)ローターの設計に固有のものである。航続距離の長さや高速飛行性能など、この設計で得られた作戦上の利点は、任務の一部では利点となるが、戦闘地域で着陸には、オートローテーション機能の欠如は致命的である。

 地上約2000フィート以下の高度でのV-22のヘリコプター・モードでの飛行時、私の評価では、V-22はエンジン停止時の安全な緊急着陸のための操作を決めた手順書(ORD)の最低限の要件を満たせなかった。高地での運用の場合、または飛行機モードでの運用時は、一般的に全エンジン停止でも緊急着陸を安全にできる能力があると信じられているが、V-22の高い沈下率と、操縦に必要な高い対気速度を考慮すれば、それはかなりリスクが高いものとなる。

2.ボルテックスリング状態での運用
背景
 2000年3月のMarana事故の後、V-22のVRSが「非対称のVRS」と呼ばれる新しい徴候に関係した可能性があるとの認識を得て、その原因となる要素と、今後のV-22の運用にかかわる可能性の理解のために、私は技術的な文献を研究し始めた。
しかし私はすぐに、この問題に関する技術的な文献や過去のデータがわずかしか存在しないこと、さらに重要なことに、この重大な現象がV-22にどう影響するかを評価するテストが行われなかったことを知った。海軍と契約者であるベル/ボーイングは、その信用にかけて、この空白を満たすための広範囲な風洞テストと飛行テストを行う計画に着手した。

 これらの努力の間、私は、V-22におけるVRSの効果は、V-22の並列配置のローターレイアウトのために、一般的なVRSの操縦要素である「降下率」、「対気速度」、「ピッチ変化」に依存しない点に注目した。これは、V-22がVRSになった場合、それから脱出するための変更可能な操縦要素として唯一「ロール率」と「偏揺れ率」に係るローター操作しかできないということであり、V-22が従来のヘリコプターと本質的に異なる点である。さらにまた、ローターの変更操作は2つのローターのために逆方向に作用し、操縦している間は非対称のVRSを引き起こす懸念を生じさせる。
 概算として、私がこの現象(非対称のVRS)に至る可能性について簡単な計算を行って、この機体の最大「ロール率」及び「偏揺れ率」付近の操作によって、実際に2つのローターが非対称のVRS状況に入れてしまう可能性があること、そしてその結果、制御できない飛行に陥るという結論に達した。戦闘時は危険回避のために最大ロール率と偏揺れ率での操縦操作が行われるので、私は即座にV-22でのこのような操作の安全性について懸念を抱いた。

 上記の私のラフな計算結果を検証するために、私はメリーランド大学のExcellence Rotorcraftセンターに協力を依頼した。ここは特に数値によるローター・シミュレーションの新しい方式を開発した世界有数の研究センターだった。同センターのゴードン・リーシュマン教授は、支援することを同意した。
V-22について、彼らは数値計算プログラムコードを修正するために、V-22のローターについての正確な物理特性の数値(翼断面、質量分布、翼弦分布など)の正確な物理パラメータを入手する必要があった。
 私は、V-22 開発部署に対してDOT&Eアクションの職員を通じて、これらのデータを提供するよう要請した。必要なデータは得られなかった。必要な数値や適切な見積り値は公開された回転翼機の文献から最終的に収集され、その後メリーランドの計算プログラムはV-22に使用するために修正された。
様々な初期条件(大きな偏揺れおよびロール率が入力された状況を含む)で、何度も計算が実行された。数値解析での方法論に必要なV-22の単純化されたモデルを取り入れる過程で、リーシュマン教授と私はこのモデリングで基本的な現象は補足できると確信した。これらの数値計算の結果、私のラフ計算が正しいことが確認され、私の懸念はさらに深まり、2001年中頃、私はこれらの問題をDOT&E. Pursuantに伝え、パイロットが敵の砲火を避けるために戦闘時に行う可能性のある3つの回避操作を含む飛行テストをV-22で実施するよう、DOT&Eを通して開発部署に要求した。

 2002年後半以降の技術交流会議では、ベル/ボーイング-NAVAIRチームは、原則としてこれらの飛行操作の検証がなされるべきであることに同意し、これらの操作を含む飛行試験計画に着手した。現在まで、飛行試験で、要求された飛行状態に入ろうとしたときに、V-22のローター管制システムが繰り返しV-22のローター・ディスクのフラッピング限界を超えたため、これらの操作は完遂できなかった。ローターのフラッピング限界を超えずにこの方法での(非対称のVRSからの)回避操作がV-22でできないということは、それ自体深刻な安全性への懸念を生み、戦闘状態下での回避操作能力を否定することになる。

V-22の(渦流輪現象)とその結果の概要
 VRSは、なんの操縦操作なしに、ローター推力の変動として現れる回転翼航空機の飛行状態である。これは、戦闘中の活発な回避操作(訳者注:地形を利用した回避操作等)や、また風が下から垂直に吹き上げて来るような異常な風の条件(例えば山岳環境や艦船の傍などの乱気流条件)で低速で降下しているときにのみ発生する。
 従来のヘリコプターと異なり、このような推力変動は、V-22のような並列のローター配置ではローリングモーメントの発生となるため特に問題となる。VRS時のこれらのローリングモーメントの発生に対処しようとしても、V-22の飛行制御システムでは容易に操作の限界を超える事態になるため、パイロットにとっては手に負えない事態となってしまう。これが低高度で発生した場合、機体の破壊に至る結果となる。
 最近になってDOT&Eに提供されたきわめて限られた飛行テストのデータでは、機動テストの結果、明らかに飛行制御システムが飽和してしまうことが示されている。私はこの操縦系統の飽和ということが飛行試験で本当に稀なことであると証明されない限り、この可能性は深刻な懸念として表明されるべきであると信じている。 V-22の開発部署は最近、VRSに関連するすべての制御性の問題が解決されたと述べているが、この現象を独立した第三者が独自に完全に解析する上で必要な飛行試験のデータの大部分は、まだ未公開のままである。

 ベル/ボーイングは現在、飛行テストを通して、V-22のVRSでの現象が従来のヘリコプターと同じであると主張しているが、V-22におけるVRSの経験に照らせば、同機が「非対称のVRS状況」に遭遇する可能性があるという点で、従来のヘリコプターとは根本的に異なっている。
 VRS状況に入ると、従来のヘリコプターは震動と機体の揺れ、操縦桿の反応の鈍化などが始まる(訳者注:これは固定翼機の失速時の一般的挙動と同じ)に対して、V-22は突然「不意自転」(=予期しない横転)に陥る可能性がある。
 これは、低高度では深刻な結果を招く。この結論に関連した懸念は、マラーナ事故の事故調査担当者も共有している。調査担当者は以下のように最終報告に記している:
 ‥‥V-22のVRSやローターブレードの失速状態は、ティルト・ローターに特有なものではない。しかし、最終結果(コントロール可能な飛行からの逸脱)は、現在の大部分のヘリコプターで経験されている結果より極端である。

 V-22のVRS移行時の懸念は、ヘリコプターの事故率を歴史的に検討することで理解できる。私の事故データの評価では、通常、平時の運用では軍用ヘリコプターの破壊に至る事故の発生率は平均して50,000飛行時間あたり1回、10万飛行時間あたり2回になる。
 しかし戦時下では、ストレスによってパイロットが誤操作するため、この事故率は一般的に大幅に上昇する。
 1964年にベルUH-1の事故率は10万飛行時間当たり約2回であった。1969年、ベトナム戦の激化のもとで、事故率は36回に上昇した。さらに戦時には、多くの事故が敵の砲火に起因していたために、この数字は大幅に過少報告される傾向にある。これらの事故の多くは、「強行着陸」と分類されたが、私は、それらは機体を回復不能なVRS状況に入れてしまう一般的なパイロット・エラーに直接結びついて起こっていると見ている。

 最近のアフガニスタンでの作戦の間、報道機関は、米軍は12機のヘリコプターを失ったと報じたが、それらのほとんどは「強行着陸」と分類された。アフガニスタンでの米軍のヘリコプター運用時間の正確なデータはまだ使えないが、配備された部隊数、紛争の継続などをベースにした妥当な見積りとしては1ヵ月あたり1部隊につき700飛行時間と仮定できる。そうした推定から、これまでの累積飛行時間は10,000〜20,000時間で、その間の事故率は100,000飛行時間あたり60〜120回になることを示している。

 歓迎されないことだろうが、パイロットが操縦エラーを自ら察知して修正したため破壊事故に至らなかった「間一髪の事態」が、一般的なパイロットの操縦エラーで生じた破壊事故よりはるかに多い。こうした事態の発生数の統計はない。しかし、パイロットとしての私の経験に照らせば、それが1〜10という高い比率になることがわかる。
 V-22に当てはめた場合、この一般的なパイロット・エラーがV-22の場合は「不意自転」を発生させ、低高度ではそれからの回復は不可能のため、「間一髪」が多くの犠牲者を生むということになる

3. PIOを引き起こす傾向
 V-22の基本的な特徴である、非常に高い横方向の慣性モーメントと、独立した2つのローターの推力(別々の横方向の操作力)の差動による横方向の操縦は、結果として、PIO(Pilot Induced Oscillation:「パイロットの操縦操作に起因する機体の振動」)に陥りやすい傾向をもっている。重要な飛行制御システム(訳者注:フライ・バイ・ワイアシステム)のソフトウェアは1980年代後期の開発の初期段階から改善されてきて、この傾向をかなり減少させた。しかし、若干の懸念は残っている。
 1999年に、強襲揚陸艦「サイパン」の甲板上での飛行作業時に、パイロットがPIOに陥り、危うくローターを艦の甲板に接触させそうになったが、かろうじて破滅的な事故に至るのを回避したことがあった。そのパイロットは高い経験を有しており、その時の風と海の状態は良好だった。もっと未熟なパイロットか、もしくはより厳しい環境のもとでは、この出来事は、容易に悲劇的な結末となっただろう。1999-2000年の運用評価(OPEVAL)の期間に、少なくとも1人のパイロットがPIOについての異常な過敏性を報告し、経験の少ないパイロットのためにその結果をコメントしている:
 航空機は、波が静かな時でも、横軸方向でいくらか不安定になる。操縦桿の操作が粗いパイロットは、この航空機を飛ばすのに苦労する。横軸方向での過大な操作をこの航空機を行わないように、最大の注意を払わなければならない。

 同様の過敏な反応は、空中給油を実施するために転換モード(エンジンナセル角度60°)にした時にも起こり、給油は実施できなかった。

 2000年に実施されたV-22の操縦に対する周期的応答プロット(ボード線図)の検討では、この航空機が回転翼航空機として義務付けられた基本的な安定性の要件を満たせず、実際にPIOを起こしやすいことがわかった。2000年以後、海軍とベル/ボーイング社は、この機体の周期的応答性について、この傾向を除去する改善がなされたと述べている。しかし更新されたボード線図プロットは、現在でも利用できないままである。

 PIOの傾向は稀ではあるが放置できないものであり、状況次第では機体の損失に至る。そのような状況とは以下のことを指す。
 艦上での飛行作業や、緻密な操縦操作を必要とする狭い場所への着陸、夜の砂漠のような視界が限られた環境への着陸など。こうした任務でのPIOの発生は稀かもしれないが、歴史的にそうした傾向を持たない従来型のヘリコプターと比べれば、高い頻度で起こす可能性がある。

4. 振動負荷の影響
 従来のヘリコプターと比べて、V-22の駆動系の振動の力は、それほど違いはない。
 しかし、V-22の機体構造の特性のため、これらの振動に起因する機材の変形が非常に大きくなるという違いがある。それは、V-22が従来型のヘリコプターに比べて非常に可動部分の多い構造であるからだ。
 従来のヘリコプターは、一般的に扁長な回転楕円体(フットボール形)構造であるのに対して、V-22が2つの非常に大きな質量のエンジンを両端に配した大きなU字構造になっている。その結果、V-22は従来のヘリコプターの設計と比べて、引っ張り荷重や曲げ荷重、すり傷や変形の影響を受けやすい、長く折れ曲がった油圧配管や電気配線、機械的なケーブルの配置を必要とする。さらにV-22の機体構造の機械的な複雑さが、従来のヘリコプターよりも多くの配管・配線を必要としている。
 たとえば、V-22には二つのエンジン・ナセルそれぞれの中に、漏れ隔離回路の下流側に合計48系統の油圧ラインを持っている。これらの48本の油圧配管のいずれかひとつの穴からの漏れでも、V-22を二重の油圧喪失状態に陥れさせる。この事態が飛行中に発生したら、油圧の漏れにより2つのローターのピッチ角度が異なることで(二つのローターの発生する推力に差が出来てしまうため:訳者注)、大きな横回転モーメントまたは変揺れモーメントが発生して深刻な事態になってしまう。

 こうしたV-22の主要なシステムの過敏さは、これらのシステムの高い損傷率につながりやすい。まれではあるが、これらの機体の構成部分の損傷が破滅的な事故に発展する可能性は予測しうることである。V-22の機体とその機体構造の改修設計に接した経験では、時間とともに状況は確かに改善しているが、しかし、根本的な要因は残ったままである。適合性を検証するデータは、安全性に影響するため、今後の運用テスト(OT IIF、OT IIG)において注視される必要がある。

5. ローター後流とその翼端の渦に対する過敏さ
 1基の回転翼の後流と回転翼端から発生する渦がV-22の「不意自転」の契機となることを示す有力な飛行データがある。近接して飛ぶ他の機体の直接的な影響で「不意自転」を起こしたというケースが、少なくとも3件存在している。現在海軍とベル/ボーイング社は、飛行時の他機との間隔を横方向で250フィート、上下は少なくとも50フィート保持するとする厳格な操縦制限を設けることでこの問題に対処した。
 この点について2つの懸念すべき問題がある。
 1番目として、オスプレイのローターで発生した気流とローター翼端が発生させる渦が、風向き次第では非常に長い時間、長い範囲にわたって残り続けるということが知られている。
 アメリカ連邦航空局のガイドラインでは、他の航空機によるそうした渦の影響を回避するために少なくとも2,000フィートの間隔を維持するよう規定している。
 第2の問題は、視界が悪い、もしくは狭い限られた着陸エリアという状況下では、パイロットはある程度この間隔制限を無視しがちになるということだ。これらの度合いと範囲を定量化するための飛行試験は、切実な問題であるが、今現在、それらは未実施のままとなっている。
歩兵の空輸はV-22の主要な任務の1つであるが、それらの作戦の定義が、多数の航空機を同時に同じ場所に着陸させることであるとすれば、懸念の原因となる。

6. 高い吹き降ろし気流速度
 V-22の高いローター円盤荷重のため、その吹き降ろし速度は従来のどのヘリコプターと比較してもおよそ2倍になり、そして、(互いに反転して回転する)並列配置のローターのため、飛行方向に対して直角に2つの異なった吹き降ろし後流が生じる。これらは、安全性に係わるいくつかの運用上の問題に影響を及ぼす。最も重要なものとして私が確信するのは、夜に砂漠に着陸する際の吹き降ろしの効果だ。これはどんなヘリコプターでも挑戦であるが、V-22の場合はより困難で、潜在的に危険だ。

 我々はこれらの状況下での限定された回数の作戦を見たが、その結果は決してよいものではなかった。OPEVALに記載された飛行機搭乗員のコメントは、この懸念を端的に要約している。
 「CALS(近接航空着陸支援作戦)の間、砂漠地帯で視界を明瞭に保つことは、とても困難だった。我々は今広い着陸区域に向かっている。そして、狭い場所への着陸は、ローターや胴体を障害物に接触させる危険性を格段に増大させる。」(航空機関士)

 「夜間暗視ゴーグル(NVG)を装着した場合、機上からの低い視程により地形や樹木その他の識別が出来なくなり、極めて危険性の高い装備となる。」(航空機関士)

 「砂漠での着陸は、飛行機搭乗員にとって挑戦である。エンジン出力の低下は、よくある出来事だ。」(パイロット)

 「ローターの吹き降しが出力低下を招いたので、ほとんどの場合、着陸することができなかった。」(乗務員)

 「高速のローターの吹き降しのため、V-22と交替されるCH46EやCH53Dなどと同じ環境で運用するのは不可能だ」(キャビンクルー・メンバー)

 「砂漠での離着陸に際して、夥しい量の埃と砂が機内に侵入してくるのは明白だ。多くの失敗や誤りが着陸時に起こる。大部分の問題は、ブレーカーのリセットで解決できるが、埃と砂はどのようなシステムにも否定的な影響を及ぼしている。」(パイロット)

 「砂地や砂漠への離着陸は、今夜は出来なかった。」 (パイロット)

 「150フィート(45m)上空のホバリングでも、埃は雲のように舞い上がった。」(パイロット)

 「地上から200フィート(60m)の高さでのホバリングで巻上げられた土埃は、かなり視界を遮り、またエンジンナセルのオイルクーラーを詰まらせて、プロップローター・ギアボックス(PRGB)やタービンシャフト・ギアボックス(TAGB)の油温が上昇して警報が鳴ってしまった。"(英国海軍・運用実験ディレクター)

 「実際の砂漠に、V-22が着陸するのは、とても挑戦的なことだ。」(パイロット)

 「整備員から見ると、この飛行機を飛ばす最良の方法は、20℃ぐらいの気温のよく晴れた日に、湿気のない舗装された滑走路という条件が満たされた時だ。」(整備主任)

 同様のこと(吹き降ろし気流による視界の制限)を、私は第1回目の水上での運用操作の評価のときに目撃した。最初に10ノットの対地速度で水面から10フィート上を通過しようとしたとき、パイロットは明らかに水面を見失ってしまい、機の胴体を水中に突っ込んでしまった。このときはただちに回復できたが、その後同様の事態が起きていたら、別の結果になっていただろう。

 さらにV-22での飛行経験を積むことで、パイロット達はV-22吹き降ろしの衝撃を軽減して砂漠への着陸能力を高める技術を開発するかもしれない。しかしそのような技術が成功しない限り、夜間に砂漠に着陸する能力は、安全性への懸念として残り続ける。

結語
 上記の問題に加えて、不注意な、あるいは疲れたパイロットが直面するV-22に固有の特異性として、横滑りを伴った頭上げ(PUWSS)と、2つのエンジンナセルの過変調という最重要の2つの問題がある。

 重要なことは、V-22に関わるこれらの懸念の全てが、従来のヘリコプターと比較してより多くのトラブルに発展する要素を持っていて、同機が戦場や敵対的な環境で使用されれば、従来型のどんなヘリコプターよりも大きな事故率を生むことを意味するということである。不幸なことに、これらの問題の全てが、V-22の特異な基本設計−並列配置のローター構成、高いローター円盤荷重、ロール方向と偏揺れ方向の制御を推力の差動で行うこと−に起因しており、変更が不可能ということである。物理的にそれについてできることはほとんどない。飛行機搭乗員への広範囲な教育とトレーニングと、より良い警告システムは確かに助けになるだろうが、基本的な不安定性を除去することはできない。