日米軍事同盟、日本軍国主義をさらに新しい段階へ誘導 昨年12月7日に米国のCSIS(戦略国際問題研究所)は、第5次のナイ・アーミテージ報告『2020年の米日同盟—グローバルなアジェンダ(課題)についての対等の同盟』を公表した。この報告は、民主・共和超党派の軍事専門家による提言で、2000年の第1次報告からこれまでに4回出されてきた。多くは大統領就任前に米国政府に対する対日政策提言を行うものである。しかし、日本政府にとっては米国からの指南書、指示書に等しい役割を持ってきた。日本政府と自民党はこの提言の内容を「裏の教科書」であるかのように扱い、忠実に実現しようとしてきた。事実上の指示書といえる文書をわざわざ12月7日に公表したのも真珠湾攻撃の日を念頭に置いて、その日に日本に対する要求を突きつけようと意識して行っているのだ。それは言うまでもなく、菅・バイデン両政権を意識したものだ。 第4次報告書に従順に従った日本――日米軍事一体化を加速 2018年に出された第4次報告書は、トランプ大統領の就任後に出された。トランプは超党派による報告書を無視し、TPP参加などオーソドックスな政策を採用しなかった。報告書はトランプ政権内では影響力を発揮しなかった。しかし、日本については違った。安倍首相が率いる日本政府はこの提言の実現に自ら進んで取り組んだ。いわば自発的な隷属を強めたのだ。第4次提言は、日米同盟について、(1)日本にある自衛隊基地と米軍基地の共同使用、(2)日米の統合部隊創設、(3)統合司令部の設置(米のインド太平洋軍司令部のもとへの自衛隊の隷属)、(4)兵器の共同開発、(5)宇宙などでの共同を提起していた。 この2年間で米軍と自衛隊の統合化はかつてないスピードで進んだ。米軍は日本全国の自衛隊基地を自由に使うようになったばかりか、民間の空港、港湾に利用を広げた。それまで共同訓練でしか使えなった自衛隊の演習場を単独でも使えるようにした。自衛隊の2つの航空基地に米軍の航空基地施設を新設させた。沖縄県辺野古に大規模な基地を作らせているばかりか、馬毛島にNLPだけでなく自衛隊と共同の基地を新設している。もっとも顕著なのは海上自衛隊と水陸機動団(日本版海兵隊)だ。海上自衛隊は日本の防衛とは全く関係がない南シナ海で対中国を想定し対潜訓練を行うようになっただけでなく、米空母が南シナ海に入るときには必ずと言っていいほど自衛艦が護衛に随伴するようになった。空母だけでなく米艦船、オーストラリア艦船と南シナ海で共同訓練・演習を繰り返すことで対中軍事威嚇に参加している。また米軍のC130に自衛隊員が搭乗して空挺降下する、米軍のドッグ型揚陸艦に自衛隊の水陸両用部隊を載せて強襲上陸訓練を行うなど、米軍の事実上の指揮下で自衛隊が行動するケースが日常化している。さらに国会の議論さえなく米国の新ミサイル防衛システムを構成する人工衛星コンステレーション計画に参加するつもりだ。 第5次報告書――対中国包囲網の常態化、制度化 報告は、これまでになく日本の役割を高く評価する。「歴史上はじめて日米の同盟関係が対等のものとなってきた」と。「対等」!!そして、第1次ナイ・アーミテージ報告が提起した「日本の集団的自衛権参加」に安倍政権が踏み込んだことを大きく評価する。そのうえで安倍政権が提唱した「自由で開かれたインド太平洋戦略」を持ち上げ、対中国包囲で日本が主導的役割を果たしているという。 今回の提言の最大の特徴は何か。これまでの日米両軍の一体化の上に立って一層大きな役割を日本に要求したことだ。報告は、日米同盟にとって最大の安全保障上の問題は中国であると断定する。そして米軍による自衛隊への支援、尖閣への5条適用、南西諸島の軍事力強化の共同計画は同盟の対応の重要部分であるとした。その上で、米国、日本、およびその他の志を同じくする国々が取り組むべきもっと大きな課題は「競争的共存の新しい枠組み作りだ」という。すなわち対中国包囲網を常態化、制度化することである。 報告は「日米両国は歴史上もっともお互いを必要としている」とまで書き、対中国のグローバルな軍事的、政治的、経済的包囲網で日本により重要な責任を負わせようとしているのである。トランプがアメリカ・ファーストで勝手に振る舞っているときに、日本がTPP取りまとめなどで、経済・貿易面で中国包囲網を構築したことを高く評価している。さらに進んで、一帯一路など中国の経済的進出を抑え、アジアでのインフラ整備でもリーダーシップをとって米国に協力することを要求している。また、米日豪印の4か国準同盟(クアッド)及び英仏等を加えたクアッド・プラス推進などでも、対中軍事包囲網を一層強化するよう求めている。それには横須賀、佐世保、沖縄などを、米日豪印英仏諸国に海軍寄港の拠点として提供することが想定されている。 「ファイブ・アイズ」参加、軍事費拡大なども要求 具体的問題で大きく焦点を当て踏み込んだのが、英米豪ニュージーランド・カナダの5か国の情報機関連合「ファイブ・アイス」に日本が参加するよう呼びかけたことだ。これは、言うまでもなく米英を中心とする社会主義諸国・反米諸国に対する政権転覆、スパイ活動をする帝国主義情報機関の中心だ。秘密情報を共有しているだけでなく、ファーウェイや5G問題で中国のIT企業追放で先頭に立って各国政府を動かしたように、対中国、「新冷戦」での政策決定で大きな役割をはたしている。日本政府の中でごく少数の部分だけに秘密情報をとどめて、そこが政策決定のカギを握る体制を作り、「シックス・アイになれ」というのだ。 報告書は、地域の安全保障課題により多くの調整と資源の投入が必要とし、共同技術開発や同盟協力の効率性を高めるべきだとしている。軍事費増額には両国で反対の圧力が強まっているとしながら、日本はGDPの1%しか費やしておらず、中国の予算のほんの少しにすぎないと日本の軍事費拡大を求めている。 バイデンに対する対中全面対決提言 報告書は、トランプ政権の「アメリカ・ファースト」外交がアジアにおける米帝国主義の影響力の後退をもたらしたと断定する。だからバイデン政権に対しては「地域内または欧州など価値を共有する国々との間で、多くの補完的で協力的な関係」を強化し、日米同盟がその核となるべきだと提起する。米日豪印のクアッドだけでなく、日米韓、ASEANでの影響力の強化を求めている。 また、報告書は「日米の経済技術協力の深化は日米同盟の基礎」だと位置づけ、バイデンに対しては、環太平洋パートナーシップ(CPTPP、TPP11)に参加し、中国に経済ルールを作らせず、米国など西側帝国主義がルールを構築すべきであり、日本がその中で重要な役割を果たすべきだと提言する。再びTPPを米国の帝国主義的支配のための道具とすべきだと言うのだ。中でも新技術、とりわけ5Gなどハイテク技術での競争力の強化のために日本と協力すべきだと主張する。さらにインド太平洋地域で地域インフラと経済発展にリーダーシップを持つ日本に対し、米と協力して中国の一帯一路に対抗し、米国国際開発金融公社は世界協力銀行、アジア開発銀行、世銀などと連携して地域インフラニーズに対応するよう提言する。 政治経済外交の分野でも「競争的共存」路線に基づき、徹底的に対中国での対抗と中国の孤立化が追求されており、そのために米国がトランプ流から転換して、帝国主義諸国と地域諸国の協力関係の中で支配的なリーダーシップを再確立すること、そのために日本の最大限の協力を取り付けることが目論まれている。 第5次提言は、対中強硬策を基本とするバイデンの政策と極めて親和的だ。最大限取り入れられるだろう。しかしバイデン政権は、労働者の間に広がる反グローバル化感情の高まりから、早速TPP参加を断念せざるを得なかった。 ナイやアーミテージによる軍事的野望は、ますます米国資本主義の経済的土台、経済的力能から乖離するようになっている。米帝国主義の経済的危機と衰退も、世界最大最強の米軍事力の限界も、トランプ時代よりさらに進行している。実行できることは限られる。ただ、明らかなことは、対中強硬策で、よりいっそう日本に対する要求を強めてくることだ。対中軍事包囲強硬論に前のめりな菅政権は、日米同盟を錦の御旗に、対中戦争準備をエスカレートさせることは必至だ。しかし、軍国主義と経済的土台の乖離は米国だけではない。日本も同じである。米日帝国主義が対中国包囲網を強化することは、ますます両国の経済的土台と矛盾することは明らかだ。 対中対話・平和共存、「新冷戦」反対の反戦平和運動を前進させる条件は拡大しつつある。 2021年2月12日 |
|