[1]日韓合意の事実上の破棄宣言=韓国政府の新方針 (1)2年ぶりとなる南北閣僚級会談が開催された1月9日、韓国・文在寅政権は2015年末の日本軍「慰安婦」に関する「日韓合意」についての新方針を発表した。 新方針は、 [1]2015年の合意では問題解決できないが、2国間の公式合意は否定できないので、日本側に再交渉は求めない、 [2]日本政府が拠出した10億円と同額を韓国政府が負担し、拠出分の扱いは今後日本政府と協議、 [3]日本政府が被害者の心を癒やし、名誉と尊厳を回復する努力を続けることを期待、 [4]被害者の望みは、自発的な真心ある謝罪、 というものだ。 これは、韓国側からの、日韓合意の事実上の破棄通告に等しい。日韓合意直後から韓国では、被害当事者や支援団体をはじめとする市民団体の抗議・反発が起こり、時間が経つに従い「平和の碑」建立が増え、水曜デモへの参加者が膨れ上がるなど関心が広がり国民の多数が反対を表明するようになっていった。市民社会、政界、マスコミ、学会などは様々な疑惑と批判を提起した。 文政権は、これら国内の運動と世論、国連の相次ぐ日本軍「慰安婦」問題の解決を求める勧告、すでに韓国国内65か所、国外に8か所に建てられているという碑建設運動などを背景に、日本政府に事実上の破棄通告を突きつけたのだ。 (2)新方針は、昨年12月27日、韓国外交部の日韓合意検証チームが明らかにした検証結果を受けて出された。検証チームは、その結論で、韓国政府(当時の朴槿惠政権)が被害者の意見を十分に聞き取ることなく政府の立場を優先して合意を結んだこと、被害者が受け入れない限り、政府間で「最終的・不可逆的解決」を宣言しても問題は再燃せざるを得ない、と指摘し、秘密交渉の過程や非公開部分についても暴露した。 ※「韓日 日本軍慰安婦被害者問題の合意(2015.12.28)検討結果報告書」 ※検証結果報告書日本語訳(公式なものではありません) 韓国政府は、検証結果報告を受け、日韓合意が誤りであったと表明、被害者の立場にたったものでないことを認め、「おばあさんたちの意志に反する合意をしたことを謝罪する」と被害者らに謝罪した。 (3)そもそも「日韓合意」は、日米両政権が、中国包囲網形成を最優先に、当時の韓国朴槿惠政権を政治的・外交的に屈服させ、加害国・日本の戦争責任を被害国・韓国に転嫁することを押しつけたものだ。それは「加害者を免罪するための合意」以外の何ものでもなかった。 検証チームの報告書は、米国の圧力によって韓国政府が屈服させられ、理不尽な合意を強制された経緯についても明らかにしている。(検証チーム報告書 III−4.政策決定過程およびシステム) それによれば、日韓合意の交渉が開始されたのは、2014年3月の日米韓の核問題会談からという。まさにオバマ政権の「アジア回帰戦略」のもとで、対中包囲網形成に動き、日本政府が対中軍事対決を前面に打ち出す時期と一致する。日米が結託して朴政権を屈服させ、韓国にとって理不尽きわまりない合意を押しつけたのである。報告書は、安全保障問題に、歴史認識問題が不当に従属させられたことを指摘したうえで、「慰安婦」問題を、外交問題として取り扱わない、「真摯な謝罪」こそが根本であることを強調している。 [2]「合意は1ミリも動かない」(安倍首相)という合意の根幹は何か (1)安倍首相は、検証チームの報告書が出た12月27日のうちに「合意は1ミリも動かない」と敵意をむき出しにし、この「一ミリも動かず」がその後の日本政府の合い言葉になった。韓国政府の新方針発表後も「返金はあり得ない」「合意は守ってもらう」等々と恐喝まがいの批判を浴びせ、メディアを総動員して韓国を罵倒する異常なまでの嫌韓キャンペーンを展開している。9日から始まる平昌オリンピックに乗り込み、日韓会談で直接「合意の履行」を要求するという。 ※日韓合意、首相「1ミリも動かず」(2017年12月27日 日本経済新聞) 日本では、保守・右派メディアだけでなく、朝日新聞や毎日新聞などが「合意の根幹を傷つけた」などと韓国政府に悪罵を投げつけている。深刻なのは、リベラルを売りにしているメディアまでもが韓国叩き一色に染まっていることだ。全くの異常事態と言わなければならない。 (2)安倍政権も、メディアも、検証チームが明らかにしたという非公開部分=「裏合意」にほとんど全く触れていない。 これまで、正文のない日韓合意は日韓両国の記者会見がすべてであった。それは具体的には3つである。@韓国財団への10億円拠出、A在韓国日本大使館前の少女像の適切な解決、B国連等で「慰安婦」」問題での互いの非難・批判をやめる。 そして、安倍首相のおわびと反省の気持ちの表明で「最終的・不可逆の解決」とする。 これらの「合意」が不当であることは言うまでもない。なにより、「慰安婦」被害者たちの頭越しに日韓両政府だけで合意し「不可逆の解決」としてしまったのだ。韓国内では、この合意に対して、被害者や支援団体から激しい抗議が起こった。
(3)ところが、今回明らかにされた報告書の裏合意=非公開部分は、これまで全く知らされてこなかった極めて傲慢で居丈高な内容だ。 非公開部分は3つある。 [1]合意に反対する被害者関連団体の、韓国政府による説得。 [2]海外の碑、第三国の碑設置を韓国政府が支援しないことを表明。 [3]性奴隷との言葉を使わない。「日本軍慰安婦被害者問題」という用語を使う。
それだけではない。日本側は韓国側の要望をことごとく拒否し、かつ不当な要求をした過程も明らかにされた。 ・日本側に、被害者への訪問などを要求したが、日本側は拒否。 ・日本の「不可逆の謝罪」の保障として、被害者らの要求である公式性をもたせるため、謝罪の閣議決定や被害者へ謝罪を直接伝えるものを求めたが、日本側は拒否。 ・(少女像の非公開部分)「少女像をどのように移転するのか、具体的な韓国政府の計画を聞きたい」という執拗な追及。 ・「挺対協など各種団体が不満を表明しても、韓国政府が説得してもらいたい」との要望。 ・2015年4月に暫定合意。「不可逆の謝罪」を逆手に取り「不可逆の解決」にねじ曲げ。 ・韓国は、将来の世代の歴史教育、真相究明のための共同研究委員会設置等日本のすべき措置も提示したが、日本は拒否。 (4)日本政府の度外れの対応。 上に見たように、安倍政権が「一ミリとも動かさない」という「合意」の中身は、「公開部分」の財団への10億円の処置や「大使館前の少女像」のことだけではない。非公開部分をテコに、日本側が不当要求をしているのは明らかだ。 すなわち、 □日本側は、韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)を名指して、その批判や行動を押さえつけるように要求している。「民主主義国家」として、安倍政権の気に入らない特定団体の言論圧殺や表現の自由剥奪を要求するという信じがたい態度だ。最も被害者に寄り添い、支えてきた挺対協への言論弾圧の要求だ。 □合意では「大使館前の碑の適切な解決」であるにもかかわらず、 海外、第三国の碑などに対しても反対するよう要求している。米国やカナダ、オーストリア、フィリピン等全世界の少女像を全面撤去させることを韓国政府に求めているのに等しい。 しかも、サンフランシスコにある碑は、韓国、中国、フィリピンの「慰安婦」被害者を表現している。そもそも韓国政府とは関係ない。アジア太平洋地域全体に及んだ旧日本軍の犯罪行為の記念碑のすべての撤去を韓国政府にもとめるなど見当違いも甚だしい。 □国連などの場で「性奴隷」という表現を使わないといっている。しかし、日本政府の対応はそれだけにとどまらない。昨年相次いで国連の場において日本政府への勧告が相次いだ。そこでは日本軍「慰安婦」を「性奴隷」と表現し、日本政府に対して事実の認定や、歴史教育、被害者への誠実な謝罪などを盛り込んでいる。日本政府は、韓国政府が「性奴隷」という言葉を使わないだけでなく、国連の女性差別撤廃委員会や拷問防止委員会などの勧告にさえ反対せよと言っているのである。 ※女性差別撤廃委員会が最終所見 「慰安婦」関連部分(WAM) ※国連拷問禁止委、日韓合意の見直し勧告 慰安婦問題で(朝日新聞) 安倍政権は、決定的で屈辱的な譲歩を要求し、被害者と支援団体蹂躙している。結局、10億円を出すだけで、韓国側に、数々の義務を一方的に負担させたのだ。 [3]「解決策を提示する義務と責任は、加害国である日本政府にある」 (1)挺対協は、“日韓合意は誤り、被害者に寄り添った解決、10億円の返還、和解治癒財団の解散”を軸とした文政権の新方針を基本的に歓迎した。1月25日の共同声明では、その上で、韓国政府が日本政府に対して更に厳しく対処し、日本政府による犯罪認定、公式謝罪、法的賠償、被害者の人権回復、和解治癒財団の解散と10億円返還の即時実施等を要求ししている。 ※[挺対協・正義記憶財団 共同声明] 安倍首相は歴史修正行脚を止め、戦争犯罪に対する責任を果たせ! (2)「日本軍「慰安婦」問題解決全国行動」は、韓国の検証結果報告の直後の12月30日に声明を出し、[1]被害者中心アプローチの欠如、[2]非公開部分で「性奴隷」を封印、[3]「不可逆的な謝罪」が「不可逆的な解決」に、の三点から日本政府の姿勢を厳しく批判し、「そもそも、被害当事者が受け入れられる解決策を提示する義務と責任は、加害国である日本政府にあるという原点に立ち返ることを強く求める」と、真の解決のための加害国の責任を改めて強調した。 韓国政府の新方針を受けた1月23日の声明では、“再交渉”云々に矮小化する安倍政権やメディアに当てつけ、必要なのは外交交渉による政治的妥結ではなく安倍政権が加害責任に真正面から向き合い、心からの謝罪すること、さらに「アジア全体に広がる被害者たち全員に届く贖罪の姿勢を示」すことが解決につながると述べている。 ※[全国行動声明]韓国「日韓合意」検証結果に日本政府は真摯に応えよ 〜日本軍性奴隷被害者の尊厳と人権の回復を〜 ※声明「『日韓合意』は解決ではない 政府は加害責任を果たせ」 「謝罪する」ということは、被害者から受け入れられることだ。被害者たちは、「日韓合意」の前年に、問題解決のために「日本政府への提言」をだしている。「解決」とは、被害当事者が受け入れられる解決策が示された時にはじめて、その一歩を踏み出すことが出来るのだ。 [4]安倍政権は日韓合意を撤回し、心からの謝罪と賠償を行え! (1) 今も安倍政権は、日本軍「慰安婦」問題を日韓の政治問題であるかのように、韓国政府の新方針を批判し、オリンピック参加問題をもちだして圧力を加えている。 韓国の新方針に「一ミリも動かさない」と拒否することは、そこに含まれる「名誉と尊厳を回復する努力」「自発的な真心ある謝罪」を拒否するに等しい。日本政府の姿勢は、韓国のみならず、今回の「合意」の埒外に置かれたアジア・太平地域の日本軍「慰安婦」被害者の怒りを買っている。また、国連の戦時性暴力をなくそうと活動する人達、女性の人権問題に取り組む多くの人達の批判にさらされている。 加害国の私達は、何より被害者に寄りそって解決策を求めていくこと、その措置を日本政府に要求していくことが必要だ。安倍政権の憲法9条改憲、戦争をする国づくりと対決し、現在と将来の戦時性暴力を防ぎ、平和な社会をめざして共に闘っていくことを呼びかけたい。 (2)そのためにも私たちは、加害国としての反省も自己批判も一切ない、傲慢きわまりない安倍政権の韓国政府への非難、恫喝を糾弾する。 メディアは、日韓合意に含まれる「非公開部分」に一切触れず、「日韓合意を履行せよ」という安倍政権の立場を無批判に垂れ流している。安倍政権は、「非公開部分」は事実なのか、「日韓合意履行」とは非公開部分のことなのか等はっきりと答えるべきだ。野党は国会の場で追及しなければならない。 その上で、韓国政府の新方針に応じ、安倍政権が非公開部分も含めて日韓合意を撤回することを要求する。 われわれは改めて、2014年6月の日本政府への提言の中身の実行を要求する。 1.日本軍「慰安婦」の事実とその責任を認めること 2.次のような被害回復措置をとること [1]翻すことのできない明確で公式な方法で謝罪すること [2]謝罪の証として被害者に賠償すること [3]真相究明:日本政府保有資料の全面公開 [4]再発防止措置:義務教育課程の教科書への記述を含む学校教育・社会教育の実施等 2018年2月1日 |
Tweet |