[投稿]脳死臓器移植法「改正」問題で考える、「人間の尊厳」とは何か、「生きる」とは何か


 ホームページに投稿されたスーパーニュースアンカーの『「脳死」になっても生き続ける男の子』の記事を読んで、昨年2月の読売ウィークリーに載った『「脳死」を生きる子どもたち』を思い出しました。この記事は、自身も長女が出産時の事故で脳死状態に陥ったのち1歳半まで生きて亡くなったという経験をもつ記者が書いたもので、とても心を揺さぶられるものです。記事は、脳死後も生き続けた(生き続けている)14人の子どもとその家族を取材しています。私はもちろん脳死臓器移植には反対で、「脳死判定後も生き続けた」「社会復帰した」「爪が伸びた」「出産した」などの事例を知り、脳死を人の死とすべきではないし、救命治療や延命治療が放棄されてはならないと考えていました。でもこの記事はそれだけにとどまらず「生きる」とは何か、「人間の尊厳」とは何か、「命」とは何かということを深いところから問うものになっていると思いました。そして理屈ではなく心の底から、いかなる理由があろうとも「脳死を人の死とすべきでない」と確信するようになりました。
 14人の家族のアンケートがあります。「脳死」についてどう思うかということに対して。
 「人の命は脳に宿っているわけではない。」
 「呼吸器をつけて生きるのは悪いことだろうか。」
 「脳が死んでも、その命の生きる喜びや輝きまでも縮こまることはない。愛されている喜びを、生きる力にしてほしいと思っていた。」
 「どんなことがあっても生きるんだという強い意志がじんじん伝わってきた。本当にしんどかっただろうが、耐え抜く姿に心底感動した。私がこれからどれだけ真剣に生きても、この姿にはかなわない。」(生まれたときの心停止から脳の大部分が溶け、2年間生きて亡くなった男の子についてお母さんのことば)
 「脳死」になったとしても呼吸器をつけて生かされているのではなく、子どもが生命力をもって生き抜いている、家族はそれを手助けしているということを感じました。家族は、子どもが生きていて、世話が出来るというだけで我が子と暮らす幸せを感じていると思いました。
 記者も当初は「機械による強制的な延命に意味があるのか」と自問したと言いますが、娘が1年半生きてくれて本当に幸せな時間がもてたと考えています。家族にとっての子どもとはかけがえのないものであり、ただ生きているだけで人間の尊厳が守られるべきではないのか、単に「脳死患者」は呼吸器を付けられて生きながらえているだけでなく、それだけで家族に愛され、また喜びを与えているではないのか、そう思えました。
 再びアンケートから。「脳死」になった自分の子どもについて。
 「大切な宝物。子どものいない生活は考えられない」
 「世界中が命を否定してあきらめても、親だけは子どもの見方」
 「とにかく生きて欲しい、生きる喜びを感じ続けて」
 「出来る限り精一杯生きてくれればそれでいいと思うようになった」
 人は、母親のお腹の中から生まれ出た瞬間から人として生きる権利をもっているのであり、それが「人間の尊厳」であり、決して侵されることなく全面的に保障されなければならないということを感じました。他人にとっては「呼吸器で生きているだけ」「無理矢理生かされている」「金食い虫」に見えたとしても、ある人にはかけがえのない人であり、ただ生きているだけで「人間としての尊厳」を示しているのだということだと思います。人の命や健康が、コストや効率性に置き換えられてはならないと思いました。
 もちろん、ここに登場するのは、お母さんがつきっきりで介護するなど負担が大変で、またそれが可能であるような比較的恵まれた家庭環境にある子どもたちだということも言えるかもしれません。「虐待」をしてしまったり、経済的困窮に追い込まれた親たちが同じような立場をとれるかどうかはわかりません。ただ一つ言えることは、守られるべきは子どもの人権、本人の生きる権利であって、親のものの考え方や環境によって左右されるようなことがあってはならないということです。医療や社会保障を充実させ、社会的に「生きる権利」が守られる条件を作っていくことこそが重要なのだと思います。「脳死」になったとしても、障害をもったとしても、世間に気兼ねすることなく堂々と生きていける社会、そのような社会と意識を作り出すことこそが大事だと思います。
 「脳死」が一律に人の死となり、子どもにまで「脳死」と「臓器移植」が強制されたら大変です。「脳死」になった子を適度に生かしておいて、臓器がちょうどいいサイズになったところで、「さあそろそろ臓器を取るぞ」と言われる、こんな怪奇小説じみたことまで考えてしまいます。
 絶対に、子どもにまで脳死臓器移植の対象を拡大したり、「脳死」を一律に人の死としたりしてはならないと思います。

2009年6月4日 F