内容 □「平成の玉音放送」 □声明は憲法に違反しないか? □政治に大きな影響力発揮―憲法違反 □象徴天皇制とは? □なぜ安倍首相は男系男子の継承制に固執するのか? □皇位継承制は伊藤博文の創作 □新旧皇室典範に宿る国体護持の精神 <天皇機関説事件> <ポツダム宣言受諾条件> □皇室典範の改定を拒否する安倍内閣 □象徴天皇の政治性 □象徴天皇制の体現者としての明仁天皇 □天皇制の聖域 □天皇制イデオロギーの浸透と強制 □日本国民統合の象徴の真の意味 □人民的な民主共和制憲法をめざして (資料) 日本国憲法第一章 天皇 (中身抜粋) 「平成の玉音放送」 明仁(あきひと)天皇は8月8日、加齢や健康の衰えを主な理由として、生前退位を強く示唆する天皇談話(マスコミはこれを天皇に恭順の意を表すべく「お言葉」と表現、以下、本稿では声明と表記)をテレビを通じて発表しました。これに対して、生前退位に反対する右翼団体「日本会議」の一部メンバーや若干の論者を除いて、右から左まで、つまり政府はもとより、共産党を含む全政党、全マスコミ、自称リベラル派と称する論者を含めすべての論客たち、さらに大半の世論が声明を支持し、まるで挙国一致の大合唱が奏でられているようです。 この声明は、昭和天皇のポツダム宣言受諾の「玉音放送」になぞらえて、「平成の玉音放送」と評されています。声明は単にその形式によって「平成の玉音放送」と称されているだけではなく、その内容も、単に生前退位をどのように取り扱うか、という問題以上に、はからずも象徴天皇制と日本国憲法の根幹にかかわる極めて重要な政治的問題を提起することになりました。(・・・・) 声明は憲法に違反しないか? 声明には当初から、憲法に違反しないかとの疑問が付きまとっています。「今回の表明が、『天皇は国政に関する権能を有しない』とする憲法4条に違反する恐れはないでしょうか・・・天皇が望めば政府はその通り動くのだという認識が広がるとすれば問題です」(岩井克己・「朝日新聞」皇室担当特別嘱託、「朝日新聞」2016.9.18)との問題提起があります。(・・・・) 声明に対する憲法学的評価については、憲法学者の間でも意見は分かれていますが、そのうちの一人は「お言葉は陛下の個人的な考えという形式をとってはいるが、生前退位を希望していることが明らかな内容であり、それを受けて政府が動き出すのは憲法第4条の規定からみて望ましくない」と指摘しています(横田耕一・九州大学名誉教授、「毎日新聞」2016.9.7)。(・・・・) 新旧皇室典範に宿る国体護持の精神 天皇制が象徴天皇制に変わったにも拘わらず、新旧の皇室典範が、国体護持の精神を主軸として連続しているところに、その著しい特徴があります。現行皇室典範は、旧皇室典範とは異なって、議会の議決による法律の一種でありますので、その名称も自由に選択できた筈ですが、それにも拘わらず、あえてその名称も旧皇室典範に倣って同名としました。名称だけではなく、新旧皇室典範は実は内容においても、男系男子の皇位継承、生前退位制の否定、皇位継承順序、敬称、摂政、等の重要事項は基本的には共通しているのです。 ところで、国体護持論者にとって、生前退位を認めることは、皇室典範の一項目の単なる改編ではなく、国体護持にかかわる重大事なのです。つまり、生前退位の前例を作れば「明治天皇の御治定にかかる一世一代の元号の問題。何よりも、天皇の生前御退位を可とする如き前例を今敢えて作る事は、事実上の国体の破壊に繋がるのではないかとの危惧は深刻である」(日本会議副会長・小堀桂一郎、「産経新聞」2016.7.16)、と言うのです。(・・・・) 日本国民統合の象徴の真の意味 「国民的統合の象徴」(憲法第1条)には大きく言って二つの意味があります。その一つは、国民の間に激しい利害対立や厳しい闘争があるとしても、それらを超越し、国民的融和を願う存在としての役割です。明仁天皇は現在のところ、この側面を前面に押し出しているため、明仁天皇に共感を寄せるリベラル派が多数存在するのです。しかし、この共感自身が、天皇制それ自身を支える危険な役割を果たしていることを忘れてはなりません。 もう一つの側面は、戦争や政治危機が深まれば、人々の一切の異議や反対を問答無用に抑えこむ超越的な存在としての役割なのです。象徴天皇制といえども、天皇制であることを見落としはならないのです。つまり、国体護持の精神と並んで、大日本帝国憲法と一体のものとして発布された教育勅語の精神が、実は象徴天皇制の背後にも隠されているのです。その勅語の核心は「一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ以テ天壌無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ」であります。既に、教育基本法の改悪によって愛国心教育が前面に押し出されてきたように、日本会議に代表される右翼勢力は、教育勅語の精神の全面的な復活を絶えず狙っているのです。(・・・・) 2016年12月11日 |
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