キューバツアー報告会[報告集]
キューバの医療:
保健省広報部長との懇談、ポリクリニコ、ファミリードクター訪問

S.T.

● 第1日目、9時頃から私たちが泊まったホテルの一階会議室で懇談。
● 保健省広報部長(日本で言えば厚生省の広報部長にあたる)ポルティージャ医師にキューバ医療の話しを聞いた。ポルティージャ先生はとても気さくな感じの優しい先生で、英語のパワーポイントで説明し、いろいろな質問に丁寧に答えてくれた。

【ポルティージャ医師の話の紹介】
● キューバ医療の成果
・ キューバでは、1953年の革命以前は、医師は6,286人でほとんど町にいた。
・ 2007年には、キューバの医科大学を卒業した医師数は72,416人になり、全国で、または、海外で医療活動を行っている。
・ 乳児死亡率60(1000人中60人が1歳までに死亡)平均寿命60歳(当時のデーターが正確でないのでおよそ)、2008年には、乳児死亡率4.7、平均寿命78歳になった。
・ 革命当時、医科大学は1校のみだったのが、現在は、研究所は全国で14に増え、14の県に24の医科大学病院ができている。
● キューバは、所得は低いが健康度は米国をしのぐ高さである。
資料:2006年の世界チャート図 健康度(新生児1000人あたりの5年以内の死亡率)
● キューバ医療の特徴
・ 全てのキューバ人は憲法で医療受ける権利が保障されている。
・ キューバ人は誰もが無料で平等に医療を受けることが出来る。
・ 医療政策は、国家評議会で決め、県レベル地区レベルで実行される。
・ 医療担当者は県評議会の副議長を務めていて、医療は国家の重要な政策である。
・ 80年代に医療プログラムが変更され、コミュニティーの中で、ファミリードクターが予防医療により力を入れるようになった。
● 予防医療の実際
・ ファミリードクターは1人で約800〜900名の人を担当している。
・ 全ての人のカルテを作り、一人一人の生活習慣を把握している。
・ 病気を予防する。
・ 予防接種のプログラムを実行。
・ 健康のための教育をする(例:キューバでは飲める水の普及は人口の96%、4%は飲めない水、水が原因で病気になるので、生水は飲まずわかして飲むといった教育)。
・ リハビリをする(心臓血管障害、脳血管障害の後遺症などに対して)。
● 患者を中心にチームで連携したシステム
・ ファミリードクターは看護師とのチームで活動している。
・ ファミリードクターをサポートするアドバイザーチーム(小児科医、産科医、内科、心理学者、ソーシャルワーカーの5人)がいる。
・ 1チームがファミリードクター10〜12名をサポートする。
・ ファミリードクターの家では基本的な診察のみを行い、患者と一緒にポリクリニコへ。そこで必要な検査・治療(血液検査、心電図、超音波、レントゲン、点滴等)を行う。
・ ポリクリニコに病院から専門医師を呼んで一緒に相談し治療し、必要なら病院へ搬送。
・ ポリクリニコは、人口の約5万人に1か所、山岳部では少ない人口をカバーしている。
● キューバの医療・福祉機関の数(2009年現在)
研究所 14
医科大学 24
病院 222
ポリクリニコ 491
歯科病院 165
産科ケア施設 289
老人ホーム 143
障害児施設 38
血液バンク 27
● 医療関係者数
・ 医師数 72,416人 うち47%がファミリードクター
・ 医科大学の教師は全部で11,502名
・ 保健省の職員は522,431人(清掃職員も含む)70%が女性、医師は60%が女性
・ 人口155:医師1  (日本は約人口500:医師1)
・ 人口1,032:歯科医1
・ 人口115:看護師1 (日本は約人口107:看護師1〔潜在看護師も含まれている?〕)
● キューバの医療プログラム
・ 子どもと母のプログラム
妊産婦は貴重な存在(キューバは出生率が低い)。妊婦は少なくとも12回の診察を受け、必要な検査をしている。検査の中には遺伝検査も含まれている。異常があれば両親に知らせ、中絶するかしないかを決める。(キューバでは中絶は認められている。教育を受けているので、中絶するかしないか決める知識をみんな持っている。)
5歳までの子供の死亡率は6.2(日本06年4 )、妊婦の死亡率は1万人当たり2.9人(日本05年10万人に5.8人)とまだまだ高い。(日本の乳児死亡率06年2.8)
・ 予防接種ポログラム
子供の感染病は1962年脳炎、1967年マラリア、その他、黄熱病、コレラ、デング熱、破傷風、ジフテリア、脳膜炎、風疹、はしかは根絶させた。
・ 高齢者ケアプログラム
60歳以上の人口が増え、キューバは高齢化社会である。運動を推奨している。
死亡原因では、1位が心臓血管疾患、2位癌、3位脳血管疾患と先進国と同じ
・ エイズ対策プログラム
エイズの予防教育を大切にしている。小学5年生から予防教育を始めている。検査は妊産婦全員、手術、献血時必ず行う。100%が治療を受けている。通院又は入院で治療をしている。1985〜2007年感染者9,659名、うち死亡約1,600名、約1.900名が重症。アメリカ大陸で一番低い感染率である。(日本07年13,842名〔死亡者除く〕)
・ 研究活動プログラム:ワクチン開発、遺伝子研究を行っている。
・ 海外との協力プログラム

【ポリクリニコ訪問】
● 旧ハバナのダウンタウンにある地区診療所(ポリクリニコ)を訪問
私たちが訪問した旧市街にあるポリクリニコは、住宅地にあり、建物は古いがきれいに整備されていて清潔で明るかった。働くスタッフもバタバタしていず、みんな笑顔で暖かい雰囲気だった。(エレベーターは故障しているのか動いていなかった。)
● ポリクリニコの待合いには10数名の患者さんが待っていた。
● 副所長の女性医師ロサリーナDrに案内を受ける。
● ポリクリニコの説明
・ 傘下に16のファミリードクターの家がある。
・ ファミリードクターの家1ヶ所で約2,000〜3,000人をカバーしている。
・ ポリクリニコは職員600人 1日平均患者数は約40名。
・ 医師は96人。その中でファミリードクターは50名、うち16のファミリードクターの家に2名ずつ配置、16人は他の国に派遣されている。
医師の労働時間は8時間、当直は週に2〜3回。ファミリードクターは、週に2回20時まで,働いている人のために診察をしている。
・ 看護師は77名
看護師は、週に2回当直をする。週に2回向上コースの勉強する時間がある。ファミリードクターの家の看護師も交代で週に2回向上コースで勉強している。
・ 24時間体制。入院のベッドは2床。血液検査、心電図、超音波、レントゲン等の検査が出来る。救急治療室もあり、産科、歯科もある。
・ 医学生は1年、2年、6年生の57名がここで予防医学を勉強、実習をしている。
● ポリクリニコの中に医学生が学ぶ教室もあり、パソコン等が設置されている。
  医学生は、実践の場で医師と一緒に診察・検査・治療にあたり学んでいる。
● 医学生はみんな将来何科の医師になりたいかを答えてくれた。 
● ポリクリニコの廊下で看護師さんに出会い一緒に写真を撮った。
● ポリクリニコ前の広場で、みんなで記念撮影。

【ファミリードクターの家】
● ファミリードクターの家までの旧市街の道には馬車が通っている。
● ポリクリニコから歩いていける距離にあるファミリードクターの家へ。
● ファミリードクターの家は、住宅街のマンションの1階にある。
・ このファミリードクターの家では、3,390名をフォローしている。
・ カバーしている人を4つのグループに分けている。@健康な人のグループ Aリスクがある人のグループ B病気の人のグループ Cリハビリが必要な人のグループ。
・ 高齢者が多いのでBの病気の人が多い。Aのリスクのあるグループは、病気にかかる可能性がある人で、アルコール依存症、喫煙している人、運動しない人、社会的に家庭状況が良くないといった人、15歳からの妊娠の可能性のある女性も含まれる。
・ 医師2名(うち統合内科医師1名と統合内科を勉強している医師1名)と医師アシスタント、看護師2名。医師アシスタントの人に話しを聞いた。
・ 医師1名が8時〜12時、もう一人は13時〜17時診療所で診察。それ以外の時間はそれぞれ患者の家に訪問に行っている。看護師も同じ。 
● 医療における問題は複数ある。
・ 予防医療を続けること。
・ 若い人たちの喫煙、飲酒が多く、教育に力を入れなければならない。ファミリードクターを通じてだけでなく、テレビやラジオを使って行うなど対策が必要である。
・ お金がない(医療にかける予算が足りない)。60歳以上の施設、歯科医が足りない。
・ 先進医療(移植、ナノロボット、内視鏡治療)にもっと力を入れなければならない。

【その他、教えてくれたこと】
※ 血液検査機器、超音波、レントゲン、心電図などの簡単な医療機器は、どのポリクリニコにも配置されている。CTなどの精密な医療機器は大きな病院にしかない。
※ 医薬品の85%は材料を輸入しキューバで860種類の薬を作っている。あとの15%は輸入している。キューバでは薬は自由には買えない。医師の処方箋が必要。一般的な抗生物質などの薬は薬局に置いているが、特殊な薬は病院にしかない。
※ キューバでは伝統的な医学(針、灸など)は医学の一部と考えている。
※ 医学生は女性が多く、統合内科を勉強してそのままファミリードクターになる人が多い。医師は、統合内科を勉強した後、専門科を勉強する権利がある。必要な科の医師数を決めるのは厚生省で、希望すれば優秀な人から専門科を選択できる。
※ 看護師は2種類、中学校を出て3年間勉強した看護師と、高等学校を卒業して大学で5年間勉強した看護師がいる。労働時間は1日8時間で3交代、7時〜15時、15時〜23時、23時〜7時。12時間の2交代もある。看護師の配置人数は病棟によって違う。
例えば、集中治療室では24時間、患者数:看護師数1:1、時々足りないときは2:1。
先輩は昼間働き、若い看護師は夜勤を、夜勤15時〜23時週に6回して翌週は代わる。

【まとめ】
キューバの医療は、(1)予防医療に重点を置いている。(2)全ての国民が健康、医療、福祉、教育の面でフォローされている。(3)地域コミュニティーが充実している。(4)医療機関、施設、医療専門家、スタッフの連携がとても密に取れている。このようなシステムが充分機能していることで、少ない医療費でも国民の健康が保たれている。