シリーズ『冬の兵士――良心の告発』を観る(その4)
「戦争はこの国の一つの世代をまるごと非人間化し、イラクをまるごと破壊した」

 この発言は、『冬の兵士−−良心の告発』のチラシやポスターなどにも引用されている、とても重要な言葉です。米国にとってイラク戦争が将来にわたって持つことになる意味を的確にあらわしています。反戦イラク帰還兵の会(IVAW)のカミロ・メヒア議長が公聴会2日目に行った発言です。

 「戦争は人間性を奪うのです、戦争はこの国の一つの世代をまるごと非人間化し、イラクをまるごと破壊した、我々の人間性を取り戻すため、イラクから軍隊の無条件即時撤退を要求する、すべての帰還兵に福利厚生を要求し、イラクの人々が自ら国を再建するため補償することを要求する」

 最近TUPの翻訳で、この発言部分の全訳が公開されました。彼は市民の殺害や捕虜の虐待といった戦争犯罪を告白した上で以下のように述べました。
 「亡くなったイラク人は100万人を超えます。500万人以上が難民となっています。米兵の死者は4千人近くに達し、戦闘によるもの、戦闘以外の事由によるものを合わせて6万人近くの負傷者がイラク戦争から帰還してきています。しかも、それだけではありません。この世代が戦場から帰還するときには、PTSD(心的外傷後ストレス障害)やその他の心理的、情緒的な後遺症をかかえて帰ってくるのです。つまり、私の話で言いたかったのは、」と言い、上の引用部分が続きます。
TUP速報816号 イラク・アフガニスタン帰還兵の証言 No.10 冬の兵士 カミロ・メヒア 人種差別と戦争: 敵を非人間化する (4) 訳 向井真澄 / TUP冬の兵士プロジェクト

 まず、イラク人の死者100万人という、アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学とイラクのムスタンシリア大学による共同調査の結果をリアルな数字として受け入れていることが注目されます。それは、疫学的手法に基づく科学的に確立された測定法によって行われた集落抽出調査によっており、メディア報道などをもとにイラクボディカウントなどが発表している「控えめな」9〜10万人という犠牲者数よりも、現場の米兵の感覚として100万人がより近いことが分かるからです。
「2003年イラク侵略後の死亡率:横断的集落抽出調査」の紹介 65万人を超えるイラク人が米軍、多国籍軍の侵攻の犠牲に(署名事務局)
「対テロ戦争」への加担に反対し、イラク・インド洋からの自衛隊撤退を求めるシリーズ(その5) イラク戦争の民間人犠牲者が100万人を超える! (署名事務局)

 現在、米兵死者はイラクで4258人(3/14現在)、アフガニスタンをあわせれば4920人、派兵経験者は180万人にも達します。これらは単に個々の米兵の問題にとどまるものではありません。派兵年齢はおおむね20歳前後から28歳、それは同時に未来を担っていく若者の世代でもあります。彼らが、軍のリクルーター(勧誘員)たちにだまされ、あるいは奨学金のために、家計や家族の健康保険のために無理矢理侵略戦争の現場にたたき入れられ、殺人を強要され、人間性を破壊されて戻ってきます。その20代の一世代をまるまる破壊してしまった影響はどうなるのか。配偶者へのDV、子どもへの虐待なども考えれば、これから未来社会を作っていくべき若者達やその家族が、100万、200万の単位で精神疾患や身体障害による就業不能、暴力、家庭崩壊、ホームレス、自殺などによって破滅していくことを意味します。
 私たちはスティグリッツ博士の試算などで、イラク・アフガン戦費が今後トータルで3兆〜3兆5千億ドル(300兆円〜350兆円)に登り、長期にわたってアメリカ社会に大きな打撃を与えていくことを指摘し警鐘を鳴らしてきました。その経済的負担には直接戦費だけでなく、帰還兵の障害者年金や生活補償、労働力損失による経済的影響なども含まれていました。
日本も無縁ではない。侵略国家の近未来像==米国社会にのしかかるイラク戦争長期化と侵略国家の“暗い未来”(署名事務局)
「対テロ戦争」への加担に反対し、イラク・インド洋からの自衛隊撤退を求めるシリーズ(その10) 膨らむイラク・アフガン戦争の巨額戦費。サブプライム危機、景気後退への突入の中でますます人民生活を圧迫(署名事務局)
Cost of Iraq War and Nation Building(Zfacts)

 カミロ・メヒア議長はこの発言に続けて、反戦イラク帰還兵の会として3つの要求を行います。そこには、大義のない戦争を行い「イラクをまるごと破壊」してしまった米国がしなければならない事が、的確に表現されています。
 第一にイラクから軍隊の無条件即時撤退です。これは、戦闘部隊限定でも、15ヶ月以内でも18ヶ月以内でもなく、即時無条件の撤退です。派兵期間を延長して兵員を軍に縛り付けるストップロスや米国の沿岸警備をするはずの州兵を無理矢理イラクに派遣する違法行為、戦場には派遣しないなどとウソをついて入隊させ即座にイラク行きを命じるなど一切の不法・違法行為を今すぐ終わらせるべきことを意味します。オバマの撤退論は、治安の安定=イラクが親米国家として依然米国の支配下にとどまることが暗黙の前提になっています。それに対して、反戦イラク帰還兵の会は、米軍の駐留を「イラク占領」と捉え、無条件即時撤退を要求しているのです。
 第二に、全ての帰還兵に対するケアの要求です。従軍兵士の社会復帰の困難、大量に生まれるPTSDと精神疾患、薬物汚染・アルコール中毒の蔓延、社会的適応能力の喪失、妻や子どもへの暴力、家族崩壊、自殺と犯罪、職場復帰の困難、失業とホームレス化、所得減と生活苦、劣化ウランなどによる慢性疾患が問題にされているものの、十分なケアが行き渡っていません。
 第三に、イラクの国と被害者に対する国家賠償要求です。これは極めて重要な要求です。大量破壊兵器の保有などというでっち上げの開戦理由でイラクを破壊したアメリカの戦争責任の思想が前提になっています。これらは、民主党系リベラルのスティグリッツ博士の論文にも含まれていない観点です。アメリカが応じるべき国家賠償の額を計算に入れた場合、先ほどの3兆ドルを超えるコストはどれくらいに膨れ上がるのかは想像もつきません。反戦イラク帰還兵の会が、米兵のケアだけでなく、イラクの犠牲者への補償と賠償の要求を全面に掲げているのは特筆すべきです。

 最後に、現在IVAWのトップページに掲載されている「オバマに面会し、イラクからの完全撤退を要求したい」という主張を紹介したいと思います。IVAWはオバマ政権の発足にあたり、書簡を送り面会を求めています。
IVAW Wants to See Obama Call for a Complete Withdrawal from Iraq(IVAW)

 この主張では、
(1)オバマの撤退計画なるものは、18ヶ月にわったって徐々に戦闘部隊を撤退させるというもので2011年まで3万5千〜5万の軍隊は残り続ける欺瞞的なものである。
(2)それはイラクをまる3年間にわたって軍事占領し続け、米兵とイラクの人々の命を奪い続けるものである。
(3)戦闘部隊が撤退し支援部隊が残るだけだとしても「対テロ戦争」の継続であることに違いない。
(4)オバマは、15万人の民間戦闘員と傭兵(いわゆる“外注化された戦争”)の撤退スケジュールも示しておらず、恒久軍事基地を放棄するとも言っていない。
(5)アフガニスタンへの17000人の増派は許されない。
(6)そして、イラクの石油資源などに対する野望を捨て、軍事基地の閉鎖を含め、全ての占領軍が即時無条件に撤退することを要求する。
 などが含まれています。

2009年3月15日
リブ・イン・ピース☆9+25


IVAW Wants to See Obama Call for a Complete Withdrawal from Iraq

As an organization of Global War on Terror veterans and Active Duty service members, Iraq Veterans Against the War (IVAW) is pleased that President Obama is taking important steps to bring our fellow service members home. However, his plan to slowly remove combat brigades over the next 18 months and leave a remaining 35-50,000 troops throughout 2011 is a plan for almost three more years of an unjustified military occupation that continues to claim the lives and livelihoods of our troops and innocent Iraqis.

President Obama speaks of a change in mission, from a combat role to a support role, but yet still leaves room for “conducting targeted counter-terrorism missions” with a portion of the transitional forces remaining combat-ready. He also does not include a timeline for removing the more than 150,000 private defense contractors and mercenaries still in Iraq, nor does he address the question of disallowing permanent military bases.

His plan is also coming at a time when 17,000 more troops are being deployed to Afghanistan. He says he understands service members have “[born] the heaviest burden,” but how is he alleviating that burden by removing troops from Iraq only to ask them to fight in an escalating occupation in Afghanistan? The longer that both of these occupations continue, the more difficult it will be to meet the needs of our returning veterans who are already suffering from inadequate care and a lack of resources.

We must ensure that U.S. control of Iraq, which today is accomplished primarily through military force, is not maintained over the longer term through the use of more subtle legal, financial, economic, or political means. "The Iraqi people deserve the dignity of full sovereignty and control of their own nation," says Kelly Doughery, Executive Director of IVAW and former Military Police Sergeant, "and the only way to give this to them is by the immediate and complete withdrawal of all occupying forces from Iraq - this means withdrawing all military personnel, troops, and defense contractors, closing all military bases, ceasing air operations, and removing American interests intent on controlling Iraqi oil resources."

(Iraq Veterans Against the Warホームページより)