米・欧・日によるアフガニスタン侵略と戦争犯罪を糾弾する(その2)
米は腐敗と暴力にまみれた巨大な「戦争国家」
巨大な戦費の半分以上が軍需企業・金融機関に還流

 米・欧・日によるアフガニスタン侵略と戦争犯罪を糾弾する(その1)では、数字に焦点を当てる形で侵略戦争の被害の実態を明らかにしました。しかし、それは米の侵略戦争のある1面を表しているにすぎません。もう一つ重要な側面があります。それは、この20年間のアフガニスタンを始めとする侵略戦争遂行に伴って、21兆ドルという天文学的な巨額な戦費の多くが、雲散霧消したのではなく、巨大軍需企業、民間軍事請負企業、金融機関のふところにそっくりそのまま還流したということです。この20年はまさしく「死の商人」が戦争に群がり、ぼろ儲けした20年でした。
 また、この20年は軍産複合体の構造をも大きく変えました。兵器を製造するロッキードなどの巨大兵器製造企業に加え、新しい企業群が誕生しました。下記で詳しく解説しますがそれは民間企業に戦争を担わせる「戦争の民営化・下請け化」の進展でした。それにより、ハリバートンなどの民間軍事請負企業が米正規軍と共に戦争を遂行し、戦費をぼろ儲けし、「死の商人」の仲間入りをしたことです。
 しかし、このような軍産複合体企業群が単にぼろ儲けしたで済ますことができない、より深刻な面があります。この企業群が民主・共和党を牛耳り、政府・議会と一体となることで、米国が国家全体の体質として、途上国を侵略し、人民を大量殺戮し、国土を破壊しなければ生きていけない「戦争国家」「軍事国家」に成り下がっていることです。
 今回は、ブラウン大学ワトソン研究所の『戦争のコスト』(COSTS OF WAR)に掲載されたウイリアム・ハートゥング(著名な軍産複合体の研究者)の報告『戦争利得:ポスト9/11の企業受益者』(Corporate Beneficiaries of the Post-9/11)を中心に、米国の「戦争国家」の実態を明らかにしたいと思います。

ウィリアム・ハートゥングの報告 『戦争利得:ポスト9/11の企業受益者』

軍事化コストの半分以上は巨大軍需企業と民間軍事請負企業に
 米国防総省予算は2001年の侵略戦争開始後着実に膨張し、20年間で総計14兆ドル(1550兆円)もの予算を支出しました。そのうち、半分以上に渡る7.2兆ドルが巨大軍需企業を含めた民間軍事請負企業へと還流しています。この14兆ドルのうち、兵器調達と研究開発に4.4兆ドルが支出され、そのうちの約半分に当たる2.2兆ドルが5大軍需企業(ロッキード・マーティン、レイセオン、ゼネラル・ダイナミックス、ボーイング、ノースロップ・グラマン)に独占されているのです。
その寡占化は最近より顕著となっています。2020年会計年度を見ると、国防総省の総予算7530億ドルのうち、民間軍事請負業者に4220億ドルが支払われました。率にして56%にも及びます。更にそのうち、巨大軍需企業5社だけで、1670億ドル、最大のロッキード・マーティン1社だけで750億ドル以上となり、ますます民間企業への支出の比重が高まり、寡占化が進んでいます。
 米の軍事費は2001年以降急膨張しています。更に軍事企業への還流はその膨張を上回る勢いで増加しています。2001年では還流額が1400億ドルであったのが、2019年には3700億ドルと約3倍に急膨張し、2020年には4220億ドル更なる膨張を遂げています。

軍需独占大手5社が巨額軍事費を食い物に

戦争の民営化・下請け化の急進展――侵略戦争での補助的任務は民間軍事請負企業に丸投げ――
 この20年の侵略戦争で大きく変化したのは、戦争の多くの役割を民間軍事会社に丸投げしていることです。海外の基地建設、米軍兵士の警備、洗濯や食事の用意等の生活の補助、兵器の維持管理、食料・燃料・武器弾薬の輸送、等々の戦争の補助的な役割のほぼすべてに加え、直接の戦闘行為に至るまで、民間軍事会社が担うようになっています。まさに戦争の民営化・下請け化です。
 その役割の大きさを兵士数で比べるとより明確になってきます。米軍兵士がアフガニスタンに10万人以上と最も多く駐留していた2010年前後においても、アフガニスタンとイラクでは米軍兵士より民間軍事会社の社員のほうが多かったのです。そして現在、中東を中心とした米中央軍の展開地域全域で比較すると、民間軍事会社の社員数は米軍兵士数の1.5倍まで膨れ上がっています。それを端的にあらわしているのが、バイデン大統領がアフガニスタンからの撤退を表明した2021年2月の時点の兵士数です。アフガニスタンに駐留する米軍兵士2500人に対し、民間軍事会社の社員は1万8000人と、約7倍の規模にまでなっていたのです。

戦争の民営化・下請け化により進む残虐さと腐敗
 民間軍事請負企業は、あまりにその実態がひどすぎるため、政府からもたびたび監査を受け、多くの事案が提訴まで持ち込まれています。その中でも最もひどい企業として有名なのが、KBR(Kellogg, Brown & Root)です。カブールの米大使館やパグラム空軍基地等を建設した民間軍事請負企業の大手です。後述するハリバートンの関連企業でもあります。手口はこうです。空軍の燃料を過大請求して2億ドルもの詐欺的利益を上げたり、KBRの基地建設がずさん工事だったため、基地でシャワー浴びた米軍兵士が何人も感電死し大問題になるなど、その詐欺事例に事欠きません。詐欺はKBRだけにとどまりません。復興建設事案においても同様のオンパレードです。使用されたことがないガソリンスタンドに4300万ドル、米の経済顧問の豪邸に1億5000万ドル等々が支出されているのです。どこにアフガニスタンの復興があるのでしょうか。
 さらに深刻なのが、米軍兵士や基地の警備・警護を担う民間軍事企業とその社員による日常的な現地人民への殺戮です。強力な兵器・銃器を携行するため、すこしでも民間人が近寄ってこようものなら、マニュアルに定められたとおりに情け容赦なくすぐさま一斉射撃を始めます。そして、米軍や政府は責任を取らなくてもよいのです。これらにより米軍兵士の犠牲者を少なくしているのです。「戦争の民営化・下請け化」は米国による侵略戦における残忍性、破壊性をより一層増大させているのです。

チェイニーが巨大化させた民間軍事請負企業
 このように軍務と軍事費を民間軍事請負企業に丸投げするシステムの先鞭をつけたのが、チェイニー元副大統領です。ブッシュ(父)政権時に彼が国防長官に就任した時にさかのぼります。その後、ブッシュ政権(息子)の時には副大統領に就任しました。そして「影の大統領」として、米のアフガニスタン・イラクへの侵略戦争の実質的推進者として辣腕をふるいました。同時に自らがCEOを務めていた民間軍事請負企業ハリバートンに巨額の費用と軍務を丸投げしました。「戦争の民営化・下請け化」の生みの親です。ハリバートンは2002年から2006年にかけて、受注金額が10倍に急増し、2008年までに300億ドルを受け取りました。このような民間軍事企業への丸投げは、20年たってより一層進んでいます。今でもハリバートンは民間軍事請負企業のトップ企業のひとつなのです。

濡れ手にあわの巨大金融会社――今後数十年間で数兆ドルの利払い――
 驚いたことに、米の侵略戦争の戦費の多くは、「借金」扱いで調達されています。そのため当然のように利払いが生じるのです。アフガニスタンへの戦費2.3兆ドルの内、なんと4分の1の5300億ドルは利子として、米の金融機関のふところに転がり込んでいるのです。更に今すぐ戦費をゼロに抑えたとしても、今後この経費は数十年間で少なくとも数兆ドルになると見積もられています。まさに濡れ手にアワとはこのことです。侵略戦争があればウォール街で鎮座しているだけで戦費の多くの部分をもらえる仕組みとなっているのです。

巨大軍需企業と米政府・議会の緊密な人的結合
 バイデン政権のオースティン国防長官がレイセオン取締役出身であることを筆頭に、最近の5人の国防長官の内、4人までもが、巨大軍需企業大手5社の幹部出身です。このことが巨大軍需企業と歴代政権の切っても切れない結合を端的にあらわしています。これは、「回転ドア」と揶揄され、政権の中枢と軍需企業幹部の間を行ったり来たりを繰り返すのです。
 政権だけでなく議会に対しても、軍事企業は過去20年間で25億ドルという潤沢な資金を使っての綿密なロビー活動を展開しています。2021年上期だけで、大手5社は3420万ドルをロビー活動に拠出しています。トップはレイセオンの823万ドルです。この潤沢な資金で、軍需企業は常時議員数より多い700人のロービストを雇用し、議員個人への緻密なロビー活動を行っています。
 同時にこのロビー活動は、シンクタンクにも及びます。保守系の戦略国際問題研究所やヘリテージ財団などに毎年巨額の寄付を怠りません。

アフガニスタン復興費用の8〜9割が米民間軍事請負企業に
 米はアフガニスタンの「復興」と称して、この20年間で1450億ドルもの予算を投下しています。その内訳は、まず、治安の改善をめざした軍と警察を強化することに886億ドルが使用され、363億ドルが経済の再建と称した「開発」費用として投下されたことになっています。ところがその実態は、軍と警察の強化と言いながら、この予算の実際の投下先は現地の警察官や兵士ではありません。兵士への給料はごくわずかで、886億ドルの1割に満たない状態です。大半は政府軍に売りつけた中古兵器の代金や整備や訓練を請け負った米の民間軍事請負企業への支払いです。例えばアフガニスタン警察の創設と訓練費用200億ドルはDynCorp(米の民間軍事請負企業)に丸投げされました。また「開発」と言いながら、その最終的な予算の受益者は、米の企業や個人およびNGOです。結局復興支援として投下した巨額費用の8〜9割は米に還流しているのです。
 この「復興」費用が全くアフガニスタンの「役」に立たない実例は数え上げればきりがありません。その最も端的な例が、「復興」建設の目玉として米企業によってアフガニスタンに建設された発電所です。その発電所は維持・管理のために毎年2億ドル近くがかかります。これはアフガニスタンの税収の半分に相当します。あまりに金食い虫のためとても発電できず、全く役に立たない代物です。

撤退のドサクサでも莫大な金が民間請負企業に
 米軍のアフガニスタン撤退が決まったのちも、民間請負業者には潤沢な予算が支払われました。17の業者に対し、今年度は合計で10億ドルが支払われました。例えば軍事請負企業で建設会社であるFlourには8500万ドルが、空軍への物流サービスを行うレイドスには3400万ドルが、等々です。更に来年度以降撤退に伴い業務がなくなるにもかかわらず、和解金(違約金)の名目で数億ドルが支払われる予定となっているのです。

 今、米「戦争国家」は、米の「新たな敵」として中国を据え、西側帝国主義国を巻き込んで、対中包囲網の構築に血道をあげています。AUKUSしかり、クワッドしかりです。もちろんそれは、社会主義中国を弱体化させることが主要な狙いですが、もうひとつは、「死の商人」たちの儲け先を確保することでもあります。AUKUS同盟の目玉政策として、オーストラリアが原潜配備したことを見れば、その2つの狙いが表裏一体なのは一目瞭然です。そして原潜保有は必ずや核攻撃力保持に行きつく危険極まりない策動です。

2021年10月31日
リブ・イン・ピース☆9+25