結局、シリアの化学兵器使用とは何だったのか? 米軍、及び英・仏軍がシリアを侵略する際、必ず使われる「口実」が2つあります。そのひとつが、アサド政権が化学兵器を使用したというデマの流布です。しかし実際は、米軍とイスラム武装勢力の自作自演でした。元々、軍事的に優勢であったシリア軍が解放する地域でわざわざ化学兵器を使う理由はないのです。逆に現地の統治を難しくします。ですが、西側メディアは「アサド政権の蛮行」として世界中に流し続けたのです。今に続く「アサド独裁」の印象はこうして西側帝国主義によって意図的に作られた虚構なのです。 しかし、この化学兵器使用の謀略の真実が、今ようやく暴露され始めました。直近OPCW(化学兵器禁止機関)を舞台に米・英がシリアの化学兵器使用をでっち上げゴリ押しした事実が、OPCWの調査員の内部リークで明るみになりました。 2018年4月、首都ダマスカス近郊のドゥーマ市を支配している「イスラム過激派」に対し、シリア軍が攻撃を加え、市を奪還しました。攻撃を受けた「イスラム過激派」はシリア軍が化学兵器使用=塩素ガスの充てんしたキャニスターを投下したと発表し、それを受けこの2週間後に米・英・仏軍が「人道上の問題が生じた」としてドゥーマ市のシリア軍に猛烈な爆撃を加えたのです。爆撃後、市を調査したOPCWの調査団は、@シリア軍攻撃の被害者に塩素ガスの症状がない、A塩素ガスの濃度が非常に微量しか検出されないなど、シリア軍が塩素ガス=化学兵器を使用した根拠がないとの中間報告を2018年7月にまとめます。ところが、なんと2019年3月の最終報告に際しては、まず上記調査団員をすべて報告書作成チームから除外したうえ、調査事実を捻じ曲げ、シリア軍の化学兵器使用もありうるとの報告書を最終版として発表したのです。でっち上げそのものです。更に、このでっち上げの事実をリークした調査員2名をOPCWから罷免します。そしてこの罷免の不当性を国連安保理で訴えようとした調査員イアン・ヘンダーソン氏とブラジルの外交官でOPCW初代事務局長のブスタニ氏2名の安保理への出席を拒否しました。何重にも渡るゴリ押しで「化学兵器使用」をでっち上げたです。 このような米政府の横暴に抗議するため、今年3月、ブスタニ氏を中心にノーム・チョムスキー、ダニエル・エルズバーグ(ペンタゴン・ペーパーズと言われるベトナム戦争に対する数十年に渡る膨大な国務省の内部文書をリークした元職員)、オリバー・ストーン(映画監督)等著名人が署名した「声明」を発表しました。その「声明」では、このでっち上げをOPCWという科学団体の評判と信頼を著しく傷つけるものであること、およびそこで働く科学者の信用を落とすものであることとして糾弾し、OPCW現事務局長が正式の報告を行うよう要求しています。そしてこの声明には、なんとOPCWの元検査官であり、科学者でもある5名が名を連ねているのです。 どうやら雲行きが怪しくなったOPCWは大急ぎで偽「報告書」を発表したようです。OPCWはこの4月12日、シリアでの化学兵器使用疑惑事件にかかる調査識別チーム(IIT)の第2回報告書(65ページ)を技術事務局の覚書(S/1943/2021)として公開しました。前記の如く、米欧政府に逆らい、真実を報告しようとした調査員を解任した上での偽の報告書です。 ※青山弘之「シリア:OPCWはシリア軍による化学兵器使用を再び断定、政府はこれを「虚偽報告」と非難し、全面否定」 OPCWを舞台にした謀略は今回が初めてではありません。2002年に、イラク・フセイン政権が「大量破壊兵器」を保有しているというデマ宣伝に躍起となっていた米ブッシュ政権は、時のOPCW事務局長ブスタニ氏がそのデマでっち上げに難色を示したため、解任を迫りました。辞任を拒否したブスタニ氏のオランダ・ハーグにある事務所に直接乗り込んで来たのが、あの悪名高いボルトンです。ボルトンはブスタニ氏を前にして、「私が来たのはチェイニー副大統領の指示であり、あなたの辞任を待っている。あなたの子どもが今どこにいるか私は知っている」と殺害を匂わせました。まさにマフィアそのものです。 ※「シリアのドゥーマ攻撃に化学兵器は使用されていないとOPCW調査官が内部リーク」 OPCW investigator testifies at UN that no chemical attack took place in Douma, Syria BEN NORTON・JANUARY 22, 2020(グレイゾーンより) ※「OPCW非難声明に5人の元調査官が参加」 5 former OPCW officials join prominent voices to call out Syria cover-up AARON MATE・MARCH 14, 2021(グレイゾーンより) ※「ブスタニ氏インタビュー:今回の国連演説阻止と自身の解任の全貌を語る」 Ex-OPCW chief defends Syria whistleblowers and reveals he was spied on before Iraq war AARON MATE・OCTOBER 18, 2020(グレイゾーンより) ※私たちは2002年4月、本サイトの前身である「署名事務局」の名で、当時の米のアフガニスタン侵略に反対する人々や団体と一緒に、ブスタニ氏解任反対の活動をしました。 「ブッシュの対イラク戦争準備に向けた露骨なOPCW事務局長解任劇――対イラク戦争の邪魔になるとして化学兵器禁止機関(OPCW)のホセ・ブスタニ事務局長(ブラジル)を解任させる!――」(米国の戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局)参照。 イラク戦争当時の「大量破壊兵器」のデマについては、同じく下記の「署名事務局」情報を参照。 人道危機のデマを演出・作成するホワイトヘルメット 米を中心とした帝国主義がシリアを爆撃するときのもう一つの「口実」がアサド政権の攻撃が「人道危機」を引き起こしているというデマです。このデマ宣伝はいつも「ホワイトヘルメット」という団体から流されます。彼らは、中立と非武装の医師団を装い、戦場で傷ついた人々を救うという触れ込みですが、しかし実態は、イスラム武装組織と行動を共にする米・英の諜報機関であり、軍の宣伝部隊です。「ホワイトヘルメット」の創始者ルムジュリアーは、英陸軍諜報部隊の退役軍人で、設立に当たって100万ドルの資金を英政府から供与されています。その後の活動に当たっても、米から2000万ドル、英から2000万ドル、その他のEU諸国から6000万ドル、合計すると1億ドル(約105億円)もの巨額の資金提供を受けています。そのデマ作成はこうです。まず彼らが、シリア軍の「非道さ」を訴えるために最も頻繁に使用する「爆撃を受けた少女アヤ」の写真は使い回しです。更にロシア軍の空爆支援の下シリア軍が解放した東アレッポに対して、「アレッポを救え」の住民デモ行進の映像をホワイトヘルメット提供で西側メディアに流し続けました。ところがこの映像は、金で雇った役者たちの全身に泥と血(のペンキ)を塗りたくり「戦争犠牲者」の扮装をさせ、シリアとは全く違ったヨーロッパの通りで撮影された、完全に作られたフェイクニュース映像で、それをあたかもシリア現地で起こったかのように流し続けたのです。 ※「大手メディアでは放送されない動画 ホワイトヘルメット/White Helmets」(2016年12月28日) この動画(2016年制作)では、幾つもの真実が日本語字幕付きで暴かれています。西側政府の側に立ってシリア現地のウソの情報を流す西側のメディアに対して、RT(ロシアテレビ)の記者エヴァー・バーリットが鋭く切り返す場面から始まります。「アレッポには国際機関など存在しない」「情報はシリア人権監視団体(SOHR)に依拠している」「このSOHRはホワイトヘルメットに依拠している」「そのホワイトヘルメットは英の元陸軍士官が創設した」「しかしその存在はアレッポの住民は誰も知らない」「ホワイトヘルメットは銃を運びシリア軍兵士の死体のそばにいたことがわかっている」「(アサド軍によって傷つけられた)アヤという少女は色んな場面で出てくる」「SOHRもホワイトヘルメットも信用できない」「一度や二度ならまだしも常にとなれば信用できない」等々。次いで、SRF・スイス国民放送局の記者がアサド大統領自身に真実を問い質す場面。大統領は丁寧に、西側メディアが垂れ流す「オムランという男の子の傷ついた映像」の説明を求めます。大統領は「この子はホワイトヘルメットが救助したと言うが、彼らはアレッポのアルヌスラ戦線の新たな顔です」「この男の子は別の所でやはり救助された」として写真を見せます。また「アレッポは4年間ほとんど知られなかったが、シリア政府軍に追い詰められるようになってから有名になった」等々。ぜひ見て欲しいと思います。 ※『シリア情勢』(青山弘之、岩波新書)第4章 「反体制派」のスペクトラ 第2節 ホワイトヘルメットとは何者か p94〜p100 米の経済制裁でシリアは飢餓の危機に 米は爆撃・侵略と同時に、一切の輸出入・貿易を圧殺する経済制裁を遂行しています。全世界の貿易決済が少数の帝国主義巨大銀行だけに牛耳られている金融覇権を最大限利用し、「シーザー法」を始めとする膨大な経済制裁で、シリア・アサド政権及びそれを支援するロシア・イランが、これらの銀行を利用できないようにしているのです。直近では、英も経済制裁拡大を決定しました。 その結果、シリア人民は輸出入がストップしているため復興計画に支障が出ており、日常生活さえできない状態に追い込まれています。戦争で破壊された病院、学校、住居等を再建しようとしても、戦争復興に不可欠の建設資材が輸入できません。病院が建設できず、やむを得ず医療は個人の住居や洞窟等で行わなければならなくなっています。多くの国民は住む家さえままなりません。食料品、医薬品などの欠乏が常態化しています。シリア通貨は大暴落し、インフレが急進行し、食料品価格は、10年前に比べ約33倍に暴騰しています。雇用も奪われています。これらのため人口の60%に当たる1240万人が常時食料不足に苦しんでいます。コロナ禍にありながら、検査キットの輸入が大幅に制限され、シリア全土で1日当たり100回の検査しかできない等、治療がままならない状態が続いています。子供の平均寿命は13年も縮まりました。かつては中東の豊かな穀倉地帯とうたわれ、最も進んだ医療先進国であったアラブ社会主義シリアは、いまや見る影もありません。その責任は、米欧帝国主義にあります。 ※「国連の専門家がシリアへの経済制裁の悲惨な実態と違法性を暴露」 UN expert: crippling US sanctions on Syria are illegal and hurting civiliansAARON MATE・JANUARY 14, 2021(グレイゾーンより) このような異常な困難にもかかわらず、シリア政府は現在、ロシアの支援のもとで数百万人に及ぶ難民の帰還を実現しています。全世界の平和運動の力で米のシリア・イランに対する経済制裁を撤廃させ、シリア・中東から米軍を全面撤退に追い込みましょう。 ※青山弘之「シリア:人権侵害を厳しく非難する米国こそが人道危機の原因の一部」 青山氏は、yahooに中東情勢を発表されています。中東研究者の中では比較的信用できる情報を提供してる数少ない専門家です。決してアサド政権支持ではありませんが、米欧政府やそれに追随する日本政府に都合の良い論説・情報を垂れ流す他の研究者とは違います。 ――この記事では、ウソばかりの米政府の「2020年版国別人権報告書」に対してアサド政権側の痛烈な反論を紹介しています。 ――私たちがキューバの「グランマ」から得た米軍の違法占領、違法石油盗掘についても暴露しています。「米国は、イスラーム国を根絶し、再び油田が奪われることを抑止すると主張し、ジャズィーラ地方各所に違法に基地を設置し、部隊を駐留させ、こうした支配の軍事的後ろ盾となっている。・・・米軍(有志連合)の基地は33カ所に及ぶという」。 ――また、シリア制裁への批判もされています。米『フォーリン・ポリシー』の記事「米国の制裁は無垢のシリア人を殺している」に基づき、「シリアに対する西側諸国の制裁の結果として生じている燃料、電力不足に政府が対処できない状況が続くなか、記者(Hasan Ismaik)の親戚の子供が命を落としていくさまが紹介されている。」「人道を掲げて行われる干渉がもたらす人道危機、人権を掲げて行われる干渉がもたらす人権侵害は、シリアに始まったものではない。21世紀に入って中東で生じた政治変動は、イラク戦争であれ、「アラブの春」であれ、人道主義や人権が危機の一端を担ってきた。この記事はそのことを気づかせてくれるのである」と、「人道的介入」への批判で締めくくられます。 2021年4月20日 |
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