バイデン大統領は4月14日、アフガニスタンから今年の9・11同時多発テロ20年までに全面撤退すると発表しました。NATO軍も同日の理事会で全面撤退を決定しました。バイデン自身の政治的思惑と自国の都合に合わせたものです。9月ではなく今すぐ全面撤退すべきです。 それにしても、ただ「撤退する」では無責任です。20年もの間、自分達は何をやってきたのか、明らかにすべきです。まずは侵略行為そのもの、占領下の数々の戦争犯罪を謝罪し、補償し、国土を元通りすべきです。 そもそも9・11同時多発テロは、当時アフガニスタンを実効支配していたタリバン政府の名において実行されたわけではありません。当時のブッシュ政権が権威失墜を恐れる余り、報復相手を一方的にアフガニスタンに定めたのです。独立主権国家への正真正銘の侵略行為です。 米・NATO軍は20年もの間、アフガニスタンを侵略し、泥沼の占領統治で多数の現地住民を殺戮し、国土を破壊し続けました。日本を含む西側メディアは、「全面撤退」をただ報道するだけで、米・NATO軍の戦争犯罪についてはひと言も触れず、非難もしていません。日本を含む西側帝国主義政府がやったことは何をやっても許される、そのメディアは自国の政府は絶対に追及しない。メディアの腐敗は極限に達しています。 シリアからも即時無条件に全面撤退すべき バイデン政権はアフガニスタンからの撤退は表明しましたが、シリアからの撤退には全く触れていません。米軍がシリアの一部を占領し、住民を殺害していることすらメディアでは報道されません。シリアでの米軍・CIAの行動は隠蔽されているのです。バイデン大統領はシリアからの撤退を開始すべきです。 この3月、日本のメディアは相次いで特集記事を組みました。「シリア 終わらぬ人道危機 犠牲38万人 故郷帰れぬ難民」(朝日3/22)、「アサド氏強権 国民困窮 政権批判し拷問・食料高騰33倍」(読売3/17)、「シリア内戦10年 40万人死亡、避難民1000万人超 アサド政権 続く恐怖支配」(産経3/16)、等々です。いずれもアサド独裁批判に終始し、誰がこの悲惨をもたらしたかには全く触れない内容となっています。米軍も、米の経済制裁も一切出てきません。現在も米軍がシリア全土の3分の1を占領・支配するシリア民主軍(クルド系民兵を中心に約40の組織からなる反政府軍)と同盟、連携し、蛮行を続けている事実は不問に付されています。 シリア戦争の真実とは何でしょうか? 一言すれば、米欧帝国主義によるシリアへの侵略戦争であり、決して「内戦」ではありません。シリア人民にとっては、反米・反帝の民族解放戦争なのです。西側帝国主義は現在、「中国覇権」「南シナ海」「ウイグル・ジェノサイド」なるデマを吹聴し、「人権」を盾に対中包囲網を強化しています。しかし、彼らに「中国脅威論」や「人権」を語る資格はありません。彼らがシリアや中東でいったい何をしてきたのでしょうか。帝国主義の本性とはいったい何なのでしょうか。以下でそのことを明らかにしたいと思います。 シリア戦争は「内戦」ではない。シリアを破壊したのは誰か? 確かに、シリア戦争10年は多大な犠牲を生み出しました。死者数十万人、国内外避難民1千万人以上、経済損失1兆2千億ドル(130兆円)と計り知れない損害をシリア人民に及ぼしています。イラク戦争やアフガニスタン戦争と共に、その焦土作戦の犠牲と破壊の大きさは計り知れません。 単なる「内戦」なら、ここまでの犠牲は出ません。なぜ、そこまで巨大な犠牲が出たのでしょうか? それは、米帝国主義が介入し、殺戮と破壊を10年にわたり繰り返したからに他なりません。 それはベトナム戦争やイラク戦争のように、単純に米国・NATO諸国が自国軍を大量に派兵する形ではありません。すでにイラク戦争やアフガニスタン戦争で疲弊した米・NATO諸国が、新方式を編み出したのです。 (1)米・NATO軍、米欧諜報機関が介入で示し合わせ、軍事援助を行い、数千人規模の自国軍・諜報機関を動員し、それを司令塔にする。反シリア武装勢力に武器を供給し、訓練・軍事指導する。自国軍は主に空爆で参戦し、破壊と殺戮を繰り返す。 (2)一方地上兵力の主力は、サウジ等の反動王制諸国、トルコを介入させる。 (3)イスラエルを使って日常的にシリア国内に対する執拗な徹底した空爆と破壊を行わさせる。 (4)さらに数万人規模のイスラム原理主義武装勢力を手足として使う。 このように、シリア戦争とは「内戦」を装った新しい形態の侵略戦争なのです。 米欧帝国主義による介入形態はこの10年変化してきました。 ――侵略を開始した2011年当初は、「シリア国民連合」に政治的・軍事的支援を行いました。ところがこの組織の指導者は海外に居住し、「ホテル革命の家」と揶揄されるぜいたくな暮らしぶりで、結局シリア人民からソッポを向かれました。 ――次に米はアラブ王制諸国やトルコと一緒になって、イスラムスンニ派武装勢力(ヌスラ戦線、イスラム国など、無数の有象無象のテロ組織)に軍事的・政治的・経済的援助を行い、占領地域で恐怖支配、住民の虐殺やテロ行為を好き放題させました。当然、民衆は離反します。その残虐性で有名になったのがあのイスラム国です。 ――とりわけトルコの侵略は突出したものでした。国境沿いにトルコ軍の支配地域を確保し、親トルコ武装勢力を出撃させ続けています。 ――この10年間、米国の軍事要員・諜報機関はシリア国内に基地を置き、これら武装テロ集団を指揮してきました。また、中東の米軍基地から空爆を繰り返し行いました。 ――2015年に転換点が来ます。米の空爆と四方八方からの外敵の軍事介入で劣勢に陥ったシリア軍にロシアが軍事支援を行い、戦局を好転させました。シリア軍は反転攻勢に打って出ます。もし、ロシア軍の支援がなければアサド政権は崩壊していたと考えられます。そうなれば米帝国主義、トルコやアラブ反動王政とイスラム武装勢力によってシリア領土は分割され、荒廃の極みに達し、犠牲者はさらに増えたはずです。 ――米政府は反撃に出ます。「残忍なイスラム国」を掃討するとして、これまでの軍事要員にとどまらず、シリアに米軍陸上部隊を直接侵略させ、軍事基地を建設し、現在に至るまで進駐を続けています。更に、ロシアがシリア政府に協力を始めてからは、トマホークの大量発射を始め大規模な空爆を強化しました。つまり、米はこの10年様々に手を変えながら、シリアへの侵略を継続してきたのです。これが米帝国主義の本質です。 ※中東専門家・青山弘之氏はyahooに中東情勢を掲載しています。氏は、「イスラーム国現指導者アブー・イブラーヒーム・クラシーは米国の協力者だった:ワシントン・ポストが伝える」において、驚くべき、だが現にありそうな推察をしています。「米国がイスラーム国を作り出したという冒頭のアサド大統領の主張を一蹴するもできないだろう。イスラーム国を米国の産物だとする見方は、ロシア政府も度々行っているだけでなく、アル=カーイダ系の活動家によっても繰り返されている」と。米軍の「イスラム国」掃討は、自作自演だった可能性があるのです。米は現に、ベトナム戦争の際に、「トンキン湾事件」を起こしているのですから。常習犯と言ってもいいと思います。そして、これをきっかけに、米政府は本格的にベトナム戦争に介入、北爆を開始したのです。 今なお空爆を続ける米国 バイデンの大統領就任からわずか約1カ月後の2月25日、米政府はシリアへの大規模空爆を強行しました。主権国シリアに対する公然たる侵略・戦争行為です。決して許してはなりません。バイデン政権は、この空爆の理由として、イラク北部にある米軍基地へのロケット弾攻撃への報復だと声明しましたが、そもそもイラクに米軍基地を建設・常駐させることが、主権国家イラクに対する侵略行為そのものです。実際イラク国会では米軍基地即時撤廃が決議されているのです。今回の空爆は、イラン支援民兵を直接標的とすることで、バイデンがイラン核合意を本気でやるつもりがないことを暴露しました。バイデン政権の中東政策がトランプと何ら変わりないことを明らかにしました。米軍の空爆に合わせ、イスラエルがシリアへのミサイル攻撃を3月1日、4月8日と立て続けに実行しています。米軍が中東に駐留する限り、和平に進むことはあり得ないことがはっきりしました。断じて許すことはできません。即時米軍は撤退すべきです。 ※「シリア、イスラエルによる自国への爆撃の繰り返しに対し、それを防止するよう国連に要請」 Syria asks UNSC to prevent Israel’s repeated attacks on its territory(peoples dispatchより) 全世界で広がる空爆糾弾の声 このバイデン政権の空爆に対し、すぐさま全世界の平和反戦運動は抗議行動を開始しました。コードピンク、ANSWER連合、イギリスのストップ戦争連合等の諸団体は即刻バイデン政権への抗議声明を発しました。3月1日にはANSWER連合、地域の緑の党、ピッツバーグ反帝国主義連盟等が組織した空爆に対する緊急の抗議集会が米ピッツバーグで開催されました。その集会では「バイデンは中東で空爆を行った6番目の大統領だ」と抗議の声を上げました。また、コードピンクは、40以上の組織と連名で大統領への手紙と題する抗議の声を上げました。その手紙では、空爆を火遊びとし、大統領選挙戦での公約とは違っていること、国際法違反でありシリアへの明らかな侵略行為だと非難し、中東からの米軍の即時撤退を強く要求しています。 ※「ANSWER連合、バイデン政権のシリア攻撃を非難」 ANSWER Coalition condemns the Biden administration’s attack on Syria ※「バイデン:シリアへの爆撃を止めよ!」 Biden: Stop Bombing Syria!(コードピンク) ※「ピッツバーグ緊急集会:バイデンの爆撃糾弾!」 Pittsburgh emergency rally rejects Biden's attack on Syria(ANSWER連合) ※「40以上の組織がバイデン大統領に提言:私たちは戦争ではなく、中東において外交での解決を望む」 More than 40 Organizations from progressive, anti-war, and faith communities tell President Biden: We Want Diplomacy with the Middle East, Not More War!(CODEPINK - Women for Peace) 民主党議員が告発する「汚い戦争」 しかし、元民主党下院議員トゥルシー・ギャバード(Tulsi Gabbard)は、バイデン政権誕生直後の今回の空爆は非難すべきだが、それだけに目を奪われてはないない、「もっと大きな問題」、つまり長期にわたる「政権打倒戦争」(The regime change war)を無視してはならないと告発します。それはオバマ政権に始まり、トランプ政権、そして今度またバイデン政権が引き継いだ「米国のシリアに対する汚い戦争」(the US dirty war on Syria)だ、と。米国がアルカイダ、アルヌスラなどのテロリストを自分達の代理地上軍として使用し、現在イドリブを占領・支配し、ほとんどのキリスト教徒や宗教的少数派の領域を宗派的に浄化している。米政府は、一方で、シリア北東部を不法に占領するために米軍を駐留させ、他方で、禁輸・制裁を科し、何の罪もない何百万人ものシリア民衆に死と苦しみを引き起こし、食糧・医薬品・飲料水・石油などを奪い、シリア人民が戦争で荒廃した国を再建しようとする試みを打ち砕こうとしている、と。 進歩的調査報道メディア「グレイゾーン」は、こうしたトゥルシー・ギャバードの証言以外にも、バイデン自身とその側近達の過去の言動を振り返り、オバマ自身が「秘密の巨大なCIAプログラムを通じてシリアに大規模介入したこと」、「アサド政権打倒のためにアルカイダやイスラム国(ISIS)を利用したこと」を突き止めました。 そして、米議会超党派の政策提言シンクタンク「シリア研究会」(the Syrian Study Group)の共同議長ダナ・ストルー(DANA STROUL、現バイデン政権中東国防副次官補)の恐るべき謀略的提言を暴露しました。同研究会は、2019年9月にシリアからの米軍の撤退に強く反対する最終報告書を出しましたが、その理由をこう述べています。現在米国は制空権と米軍の協力者「シリア民主軍」(SDF)を通じてシリアの3分の1を占める米軍のプレゼンスを維持しており、それこそがアサド政権打倒の「レバレッジ」(テコ、leverage)であること、つまり米軍占領の目的は「政権打倒」であること、占領地域にシリアの石油資源があり、なおかつシリア人民の小麦食料庫(パンバスケット)が集中しており、この「テコ」を米が押さえてしまえば、シリアの復興計画を叩き潰し、アサド政権を転覆することができるということ。米政府は、アサド政権の打倒を諦めていないのです。 ※「Tulsi Gabbard calls out the US dirty war on Syria that Biden, aides admit to」(AARON MATE・MARCH 5, 2021) ※「シリア研究グループ最終報告」 Syria Study Group Final Report、2019年9月(ASSESSMENT OF THE CURRENT SITUATION IN SYRIA .U.S. Points of Leverage」p37) シリア民主軍を通じてシリア国土の3分の1を米軍が支配! 石油盗掘が目的 2015年以降の米軍のシリア駐留の目的は、表向きは「イスラム国の壊滅」です。しかし、前記の如く「イスラム国」は単なる口実に過ぎません。その証拠に、イスラム国がほぼ壊滅した現在も約1千人が常駐し続け、居座り続けています。対イスラム国という意味では軍事的任務は終了しており、米の元駐シリア大使(2011〜2014年赴任)さえ米軍撤退を要求しています。今や目的は北東部の石油資源支配とイラクを通じてイランの影響がシリアに拡大することの阻止、さらにはアサド政権の打倒にあります。 ※「元米国シリア大使、米軍のシリアから撤退を要求」 Ex-Ambassador Robert Ford on the US role in Syria’s 10-year war AARON MATE・MARCH 20, 2021(グレイゾーンより) ※「元英国大使:シリア戦争は米国の占領、制裁、プロパガンダを継続する」 アーロン・マテ・2020年12月20日(グレイゾーンより) グレイゾーンは、元米国大使だけではなく、ピーター・フォード元駐シリア英国大使を証人にして、違法な米軍の占領支配、化学兵器のでっち上げ、経済制裁、残虐行為を暴露する。 2017年10月のラッカ陥落をきっかけに戦局は大きく転換しました。イスラム国の最終的壊滅(2019年3月)に至まで、2018年1月のトルコによるシリア侵略(侵攻)とシリア民主軍によるシリア政府への軍事支援要請、さらに2018年5月シリア政府軍によるダマスカス完全掌握の中で、トランプはシリアからの米軍全面撤兵宣言(2018年12月19日)を行いました。撤兵は国防総省などの反対で約半数が撤退した段階で中断されましたが、シリアを巡る状況に大きな変化が起こったのです。 しかしそこから複雑な展開が始まります。2019年10月にはトルコが停戦合意を破棄してクルド人勢力に打撃を与えるためにシリアに大規模な侵攻を行いました。とりわけトランプの撤兵宣言は、シリア民主軍に対するトルコの攻撃の抑止・制約を放棄し、同盟者であるシリア民主軍とクルド勢力を失望させました。2019年10月の再侵攻直前にトランプはトルコ軍の軍事行動に関与しない方針を明らかにしました。好機とシリアに侵攻しクルド人勢力攻撃に出たトルコに対して、シリア民主軍は防衛のためにシリア政府軍とロシア軍に協力を仰ぎました。米軍だけに依存して自治と権益を維持する戦略が成り立たなくなり、シリア民主軍は米軍とシリア政府軍の両方に協力することになります。一方米軍は、シリア北部・トルコ国境沿いの軍事拠点を放棄し撤退、この地域にできた緩衝地帯(非武装地帯)のパトロールをロシア・シリアに委ねざるを得なくなりました。米国内、とりわけ軍部からの反対で撤退を途中で中止したトランプは、北部を失ったものの、北東部の油田地帯の軍事拠点を維持し石油資源を支配するとともに、イラク・シリア国境沿いの軍事拠点でイラン民兵とイランのシリア流入を阻止することを目的に軍事支配を続けました。 イスラム国壊滅でシリア派兵の名目がなくなっても米はシリア政府の反対を無視して部隊を維持し続けるばかりか、2020年中頃から再び地上部隊を増派し、イラク国境に近いマリキアの町に新たな米軍基地の建設さえ行っているのです。米軍はこの地域で反シリア武装勢力やシリア民主軍に武器を供与し、訓練し、軍事拠点周辺の防衛をさせています。今年に入ってイラクの米軍基地攻撃への報復と称してシーア派民兵に対する空爆を行いました。これらの結果、前記の如く北部の拠点を失ったとは言え、制空権を含めて何とシリア国土の約3分の1近く領土が米軍のプレゼンスの下にあるのです。 シリアが国家として1つになれない最大の元凶が米軍の駐留です。なぜ居座り続けるのでしょうか。中東の軍事覇権が最大の目的です。戦争の目的はただ一つ、反米・反帝姿勢を崩さず、中国やロシアやイランと協力するアサド政権の打倒です。米国の同盟国であり、中東での米の軍事覇権の支柱としてのイスラエルへの脅威となる国々、つまりイラク、リビアは直接侵略し、国家元首を殺害し、国家そのものを破壊しました。残るのはイランとこのシリアなのです。 しかし、もう一つあります。それはシリアでの石油の盗掘と闇ルートでの販売です。2020年11月を例にとると、米軍が実効支配しているシリア北東部油田地帯にある石油掘削井戸から石油を盗掘し、それを120両ものタンクローリーに積み、米軍車両がそのタンクローリーの前後に位置し厳重な警護を行い、国境を越えてイラクに移送し販売するのです。この時得た1カ月の「収入」が3千万ドル(日本円で33億円)にものぼります。この露骨な泥棒・略奪行為こそが、米軍の中東での真実の実態であり、「世界の警察」を自認する軍隊の真実の姿なのです。 ※米軍シリア油田地帯へ増派、新基地建設(グランマ) ※米軍、シリアでの軍事展開を強化(AFP) ※最新のシリア北東部の新しい米軍基地設置は、最新のバイデンの戦争の動き ※ロシアとシリア民主軍は米軍に退却を迫ったシリア軍に検問所撤去を要請…シリア北東部の米軍基地は14カ所(青山弘之) ※2020年夏のシリアでの米軍の状況については米議会調査局の報告;Armed Conflict in Syria :Overview and U.S. Responceに詳しい(4頁) 2021年4月20日 |
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