バイデン大統領は2月11日に、米国の銀行口座に凍結されたアフガニスタン中央銀行の資産70億ドル(約8000億円)のうち半分を同時多発テロの被害者遺族への「賠償」に、残りの半分をタリバン政権を通さない米国による「人道支援」に提供するという大統領令に署名しました。 この大統領令ほどバイデン政権の露骨な反人道性、強盗的・略奪的性格を表しているものはありません。 第1に、この資産はアフガニスタン中央銀行のもので、昨年8月に米軍がカブールから逃げ出したときに報復に米政府が資産凍結したものです。明らかにアフガニスタン人民の所有物です。これらが国際援助から来たものであるにしても、主に国際通貨基金IMFと世界銀行からのものであり、バイデン政権が勝手に処分できるものではありません。それを白昼堂々と自分のものにし、流用しようというのです。強盗行為そのものです。 第2に、バイデン政権は同時多発テロ被害者遺族への「賠償」の対象にすると言っています。しかし事件を引き起こしたとい言われるのは「アルカイダ」であって、アフガニスタン政府、ましてやアフガニスタン人民ではありません。アフガニスタン人民の財産を補償のために引き渡す根拠には全くなりません。さらに今回の「賠償」は米政府が被害者遺族の範囲を狭め、一部の遺族が米政府から賠償を受けられなくした上で、その人たちに訴訟でタリバンを訴えさせて、支払いの原資にしようとしているのです。何のことはない、本来米国政府が行うべき賠償をケチってアフガニスタン人民に肩代わりさせるという犯罪的な手法です。 さらに言えば、アフガニスタン戦争で20万人の人々が、その半分は市民・女性・子どもが殺されました。米国は殺したアフガニスタン人民の補償を行う責任があります。それを切り捨てて、あろうことかアフガニスタン人の資産を盗んで自国の被害者の補償をするなど許されない事です。 第3に、「人道支援」についてもデタラメです。現在、世界最悪といわれるアフガニスタンの人道危機の大半を作り出したのは米国です。20年にわたり米国が仕掛けた戦争の影響で荒れ果てた国土は深刻な干ばつに悩まされています。しかし人道危機の直接の原因は、米国が昨年8月の米軍撤退の際にアフガニスタン中央銀行の資産を凍結したことです。アフガニスタン政府が公務員給与や支払いをすることばかりか、市民が預金を銀行から引き下ろすこともできなくなりました。アフガニスタンに経済制裁を課しドル決済をできなくしたことで、周辺の国との輸出入貿易はもちろん、人道支援のための物資の購入、搬入さえ困難になりました。アフガニスタン国内に支援が届かなくし、人々が食料を買えなくした犯人は米国です。だから、最も緊急の回復法は米国が凍結した中央銀行資産を解除し、アフガニスタンに引き渡すことで、政府の支払い機能や銀行の機能を回復させ、資金と物資の流通を回復させることです。また、ドル決済の禁止を解除する事です。そうして初めて国際的な人道支援団体もアフガニスタン国内で支援活動を本格的に行うことができるのです。アフガニスタンでは国民の6割にあたる2200万人が食糧危機にさらされています。それを作り出したのが米国である事を忘れてはいけません。 バイデン政権はアフガニスタン人民の資産を略奪したという批判をかわすために、半分は「人道支援」にといって「人道」を演出しようとしています。しかし、それは今必要とされているやり方とは正反対の、それと敵対するものです。現在の人道危機を緩和しないばかりか、一層深刻なものにするでしょう。米国政府がやろうとしているのは、子飼いの米国人道支援団体に米国製物資を高値で売りつけ、アフガニスタン国外の難民キャンプなどで捌かせ、莫大な手数料を稼がせるやり方です。資金を米国の団体、企業の食い物にするだけで、アフガニスタン国内の食糧危機、経済危機、失業などの緩和には何の役にも立ちません。20年間にわたってアフガニスタンに「与えられた」米の支援のほとんどは、こうしてアフガニスタン人民に届かずに、米企業、契約業者のポケットに入っただけでした。バイデン政権の「人道支援」とは米企業が資金を私物化するための名目でしかないのです。そんな事のためにアフガニスタン人民の資産を使わせる事は許されません。 日本のメディアの報道も厳しい批判を免れません。バイデン大統領の決定について、日本のメディアのほとんどは見出しで「人道支援」だけを取り上げました。まるでそれを正当なことや良いことのように見ているかのように報じました。内容では同時多発テロ遺族の補償にも投じると報道したメディアもありますが、その両方ともが極めた犯罪的で、アフガニスタン人民の資産の強奪である事はどこも触れていません。批判もなしです。そして、アフガニスタンの人道危機を作り出しているのが米国であるという批判もどこにもありません。ウクライナ問題でもそうですが、全部のメディアが政府・支配層の批判やチェック機能を全く失い、日本政府や米国政府の宣伝機関となりはてていることは許しがたいことです。米政府や日本政府に対する真面目でまともな批判を蘇らせるためにも、他国に戦争を仕掛け、食い物することが正当であるかのようにいう帝国主義的・支配者的イデオロギーと闘うためにも、市民の中でのメディアに対する批判も強めて行かねばなりません。 参考 【CRI時評】アフガニスタン国民の「救命費」を奪い取る無恥な米政府 アフガニスタンのために何をしなければならないか What We Must Do for Afghanistan 2022年2月15日 |
|