(1)「決定的な10年」――中国の経済力に恐怖 バイデン政権は10月12日に就任以来初めての国家安全保障戦略NSS2022を公表しました。この国家安全保障戦略NSSの最大の特徴は、冒頭で「決定的な10年」の始まりとし、その間の最大のライバル、唯一の競争相手、国の総力を挙げて蹴落とすべき敵として中国を挙げていることです。ロシアについてはそれに次ぐ脅威とされています。 NSSはロシアについて「ウクライナに対する残忍な侵略戦争が示しているように、今日の国際秩序の基本法を無謀にも無視し、自由で開かれた国際システムに対する直接的な脅威となっている」としました。その上で、中国に対しては「対照的に、中国は国際秩序を再構築する意図と、その目的を前進させるための経済的、外交的、軍事的、技術的な力の両方を持つ唯一の競争相手である」と規定しています。つまり、米国と西側が支配する現在の世界秩序を中国がとってかわって支配しようとしていると危機感を持ち、敵意をむき出しにしています。今後10年にわたる戦略的競争相手、経済的、外交的、軍事的、技術的なあらゆる面で攻撃し、力をそぎ、蹴落とすべき対象を中国に定め、インド太平洋地域だけでなく、世界中で長期にわたって挑発と攻撃を行っていくという宣言です。 バイデン政権は就任直後の21年1月にNSS暫定ガイドラインを公表しました。そこでは17年のトランプ政権が戦略敵は中国とロシア両国だとしていたものを、中国が第1の、唯一の競争相手(戦略敵)と規定しました。この段階でバイデンはトランプよりも対中強硬姿勢で行くことを明かにしたのです。本来正式のNSSは22年2月に公表の予定でしたが、ウクライナ戦争の開始にともなって公表が延期されてきました。驚くべきは、米国がNATOを率いてウクライナに大量の武器を送り込み、全面的にサポートして代理戦争でロシアと闘いながら、米国の闘うべき戦略的の順序が変わらなかったことです。いや、21か月を経て逆に米戦略は中国に圧倒的な重点を置くようにシフトしたのです。 ウクライナ戦争でロシアは通常戦力と兵器をかなり損耗し、制裁で経済力にも打撃を受けていると米国は考えています。ウクライナ戦争で「ロシアは戦略敵限界を露呈した」と評しています。だから対等の力を持つ戦略核を除いて、通常戦力でも経済力(2021年で14分の一です)でも競争相手にはなりえないと見ています。だから、ロシアに対してはウクライナを使った代理戦争で弱めるだけ弱めてしまえと考えています。いまやロシアが劣勢と見てゼレンスキーに攻勢を維持させ、プーチン打倒、ロシア領土の分割までできるのではないかと夢想をするまでになっています。ともかく代理戦争であるウクライナ戦争の目標はロシアの弱体化です。その過程でウクライナの人がどれだけ死のうと米国は関心がありません。併せて、ロシア制裁を通じて、競争相手でもあるドイツとヨーロッパの経済にも打撃をあたえ、自国のエネルギー産業のぼろもうけで一石二鳥を考えているのでしょう。 (2)米国の全ての資源を中国の台頭阻止に動員 バイデン政権は10年のレンジでは中国が経済力で米国にとって代わるかもしれない。それを何が何でも阻止しなければならないと考えています。だから見出しでは「ロシアを抑制しながら中国を出し抜く」と書き、本文でも「依然として非常に危険なロシアを抑制しながら、中国に対する永続的な競争力を維持することを優先する」と中国主敵論を打ち出しているのです。中国をどう抑え込み世界に対する自分の支配を維持するかがNSSの主要な課題です。本文でも「投資」と「連携」は、「技術、経済、政治、軍事、情報、グローバル・ガバナンスの領域で中国に打ち勝つために不可欠なものである」「中国との競争においても、他の分野と同様、今後10年間が決定的な10年となることは明らかである」と書かれています。注意すべきは、NSSの全体を通じて中国との友好、相互協力、経済的互恵や協力して成長するなどの発想が全くないことです。その意味ではNSSは全面的な闘争・戦争宣言です。米国こそが緊張激化、紛争、戦争の仕掛け人であることが何よりもよく現れています。わずかに中国の協力なしには進めない気候危機などについてだけ協力の記述があるだけです。他は、経済、外交、軍事、技術のあらゆる面にわたって競争、戦争です。中国を米国の支配に従わせる、屈服させることが主目的です。「ウクライナ戦争の最中でさえ、中国は世界秩序に対する最も重大な挑戦であり、米国が世界的な影響力を維持したいのであれば、超大国との経済的軍拡競争に勝たなければならないのです」。その結果は今後10年以上にわたって常に米国が中国を挑発し、抑え込もうとする経済的政治的軍事的緊張を作り出していくことです。とりわけ軍事的緊張を常に押し付けることは日本を含む周辺諸国に重大な影響を及ぼさずにはいません。 (3)西側同盟の総力を結集した「統合抑止」戦略 米国の資源の総動員だけではありません。トランプは「アメリカ・ファースト」を掲げ、一国で中国を屈服させようとしましたが、失敗しました。米国一国の力ではもはや中国を封じ込めたり、屈服させることはできません。バイデンが強調しているのは西側同盟の総力を結集した「統合抑止」です。すなわち同盟国の総力を挙げて抑え込もうというのです。あらゆる分野で協力させること。米をリーダーとする対中包囲網の結成であり、あらゆる分野でこれらの国を協力させることなのです。すでに一つの例をロシアに対する戦争での米とNATOの同盟と経済制裁に見ることができます。アジア太平洋では、オーストラリアに原潜を保有させる対中軍事同盟AUKUS、対中包囲にインドを巻き込むためのクアッド、中国抜きの経済圏を目指すインド太平洋経済枠組みIPEF等々を利用するつもりです。アジア諸国だけでなく、英仏独オランダなどの各国がアジアに軍艦や空軍、陸軍を派遣し対中包囲の演習などを繰り広げるのもそのためです。世界中の同盟国を動員して中国を包囲し屈服させようとしているのです。その最前線で闘うことを期待され要求されているのが日本です。 (4)台湾有事策動、中国の国家分裂を戦略の柱に これら米国の対中挑発の中心におかれているのが台湾であり「台湾有事」戦略です。それは、NSSが「台湾海峡の平和と安定の維持」に変わらぬ関心を懐いていると書いていることで明かです。 NSSの台湾に関する方針は欺瞞に満ちています。驚いたことにNSSには「台湾の独立を支持しない」「我々は台湾関係法、3つの共同声明及び6つの保証を指針とする「一つの中国」政策に引き続きコミットする」と書かれています。まるで台湾問題が中国の内政問題であることを認めるかのような記述です。しかし、米国が実際にやっていることはこれとは正反対です。 まず、@バイデン大統領は「米国は台湾を防衛する義務がある」と何度も発言しています。中国の一部であると認めながら、本土との紛争があれば米軍が介入するというのは中国に対する国家を分裂させる行為を行うということで決して許されません。バイデン大統領だけでなく、ペレス訪台、政府高官や議員の訪台、下院で審議中の台湾政策法などは台湾をあたかも独立国家(非NATOの同盟国並み;つまり日本と同等に扱う)であるかのように扱い、国家分裂の既成事実を作ろうというものです。そして何よりも「独立志向」の祭英文らを唆し独立に向かって暴走させようという思惑があからさまです。A米軍は台湾海峡、南シナ海、東シナ海などで日常的に軍事的挑発活動繰り返し行い、威嚇しています。それどころか台湾に秘密裏に米兵を送り込み、訓練の指導を行っています。これらの活動は軍事的緊張を高め、中国軍が対抗措置などの対応を取らざるをえなくしています。Bこれらの米の挑発を正当化するために「中国は武力統一をめざしている」と事実と全く異なる宣伝を繰り返すのです。(実際には今回の共産党20回大会でも、台湾問題への姿勢は一貫して92コンセンサスを支持し平和的統一をめざすというものです。外国の勢力が外から介入するような場合には武力行使の権利を放棄しないと留保しているだけです。武力統一路線という宣伝は全くのでたらめです)。 (5)日本を「台湾有事」の最前線に。自衛隊を先兵に また、米軍だけでなく、日本の南西諸島を軍事要塞化・ミサイル要塞化し、海兵隊ミサイル部隊の配備を目指してます。日本に中国を攻撃する能力(敵基地攻撃能力)持たせようとしています。また、AUKUS等でオーストラリア、あるいは欧州諸国さえ軍事包囲に参加させようとしています。日本や台湾を対中軍事対決の矢面に立てて、対中挑発をしているのです。 「台湾有事」こそ米国が中国を軍事的に挑発する道具、対中包囲、軍事挑発、同盟国結束のための最大の武器です。台湾独立=中国分裂を唆して中国の我慢の「レッドライン」をもてあそび、軍事的政治的緊張を高めようというのです。NSSに現れているのは、これから10年にわたって米国はこのような軍事的緊張と挑発をやり続け、軍事的経済的負担を中国に与えようとしていることです。もちろんそれが現実の軍事的紛争や衝突になることもあります。米国は「独立志向」の蔡英文政権を唆して独立姿勢を強めさせ、両者の間に軍事紛争を引き起こすこと、あるいは日本政府を煽って「尖閣有事」を作り出し日中の間で軍事紛争を起こすこと、そうすれば代理戦争で中国に軍事的経済的打撃を与えられます。しかし、米国は公式には「あいまい戦略」で、米軍が台湾防衛をするとは言いません。自分は闘わずに台湾や日本と中国を戦わせる「ウクライナ方式」です。もちろんアジアでは米中も直接対峙していますから、米軍が直接中国と軍事紛争に入る場合もありえるでしょう。大切なことは、NSSに書かれ、米国が実行しようとしている戦略は、インド太平洋、日本や中国周辺で不断に戦争の危険を作り出すことです。そんな状況下では、諸国民は互いに敵意を煽られるだけです。私たちは近隣諸国と互いに敬意を持ち、対等に平和に共存したいと考えます。そのためには相手を弱体化させるために全力をあげるNSSを徹底的に批判し、阻止すること、日本政府をこのNSSから離脱させ平和外交、平和共存外交に転換させることが必要だと考えます。 ※米国国家安全保障戦略 2022年11月1日 |
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