英国は劣化ウラン弾をウクライナに送るな
放射能で汚染するな、直ちに停戦し、政治解決せよ

 英国国防省のゴールディ国防閣外相は3月20日に議会で、ウクライナにチャレンジャー2主力戦車とともに劣化ウラン砲弾を送ると発表しました。イラク侵略戦争開始20年にあたるこの日、英政府はウクライナ戦争エスカレートにさらに一歩を踏み出したのです。私たちはこれまで湾岸戦争、旧ユーゴ戦争、そしてアフガニスタン戦争とイラク戦争での劣化ウラン弾使用に反対し、その被害を訴えてきました。今回の英国の決定に対して怒りを禁じえません。米国が英国に続いてM1戦車と劣化ウラン弾を送ろうとしていることに重大な危惧を感じます。大地と人々を放射能で汚染する兵器の使用に強く反対します。こんな兵器まで送り込んで戦争を継続するのではなく、直ちに停戦し、交渉によって政治解決するよう求めます。それしか解決の道はありません。

劣化ウラン弾の使用に反対の声が強まっています
 英国が劣化ウラン弾を送り込むということについてロシアは非難を強めています。ロシアのプーチン大統領は習近平主席との会談の中で「西側が核の材料を使用しはじめたとして対応を取らざるをえない」と発言しています。ラブロフ外相は「英国は方向を見失った、エスカレーションを加速する第一歩だ」と発言し、ザハロワ外務省情報局長は「旧ユーゴスラビアの二の舞だ、人命を奪うだけでなく、環境を汚染し、健康被害を引き起こす」ものだと非難しました。
 日本の被爆者団体協議会をはじめ被爆者たち、英国のSTOPWAR連合や核軍縮運動CNDやウラン兵器禁止を求める国際連合ICBUWをはじめ欧米の反戦、反核団体がこの非人道的兵器供与に反対と非難の声を上げています。
 これに対して英国防省は「標準の材料であり、核兵器とは何の関係もない」「何十年も使っている」と開き直りました。米国政府のカービー戦略広報調整官も「主に徹甲弾として使われる一般的な砲弾だ」と同調しました。米国はすでにブラッドレー歩兵戦闘車(機関砲で劣化ウラン弾を発射できる)をウクライナに送り、チャレンジャー2同様劣化ウラン弾を発射するM1主力戦車を送るつもりです。劣化ウラン弾も送ろうとしています。

劣化ウラン弾で放射性物質をばらまくな
 英国がウクライナ送りこむ劣化ウラン砲弾(CHARM3)は放射性物質であるウラン238を主成分とする対戦車用の砲弾(徹甲弾)です。そもそも砲弾本体(貫通体)そのものが放射性物質でできています。劣化ウランは天然ウランから核分裂性のウラン235を取り出した残りで、主成分はウラン238ですがウラン235も残っています。それにウラン238自体もアルファー線を出す放射性物質でし。日本では「放射性物質」より取り扱いが厳しい「核燃料物質」に指定されています。当の英国でも、かつてイラク戦争から調査用に持ち帰った劣化ウラン銃弾の所持で科学者が逮捕されたほどです。英政府・軍もその危険性を認識していることは、チャレンジャー2戦車用の対戦車砲弾に劣化ウラン製とタングステン合金製の2種類があり、国内の演習場では非劣化ウランの訓練弾を使っていることで明らかです。汚染を恐れて国内では劣化ウラン弾を撃たないのです。
 劣化ウランの砲弾は装甲にあたれば自然発火し、高温になって貫通し、その際に放射性の微粒子を飛散させます。これを吸い込むことで体内被曝が生じるのです。直接破壊された車両だけでなく、周辺に広く拡散し住民らを被爆させます。燃えなくても土壌を汚染し、地下水の汚染をもたらします。そんな危険な物質を砲弾に使い、放射性物質を環境中にばらまくことそのものが犯罪的で非人道的な行為です。劣化ウラン弾を送る決定はイギリス政府がウクライナとロシアの人命と安全、環境を何とも思っていないことを象徴的に示しています。対装甲用にはタングステン合金弾もあるのに、わざわざ人体と環境に悪影響を与える劣化ウラン弾を送るのは、ウクライナがどうなってもいい、ロシアに打撃を与えさえすればいいと考えているとしか思えません。

人体と環境への被害をウクライナで繰り返すな
 米英軍は劣化ウラン弾を1991年の湾岸戦争から本格的に使い始めました。湾岸戦争で米国は315トン(米軍発表)にも及ぶ大量の劣化ウラン弾を砲弾、機関砲弾などの形で使用しました。M1戦車、A10攻撃機などで使いました。1990年代にはユーゴ戦争、コソボ戦争で数十トンの劣化ウランを使用しました。その後、アフガニスタン、イラク戦争で大量の劣化ウラン弾や劣化ウラン製と思われる貫通型の爆弾まで使いました。アフガニスタンで1000トン、イラクで1700トンの劣化ウラン弾が使われたとウラニウム医療研究センターUMRCは推定しています。さらにシリアでも米とNATOが劣化ウラン弾を使い続けました。
 湾岸戦争、ユーゴ戦争、イラク戦争、アフガニスタン戦争で米軍、同盟軍が大量の劣化ウラン弾を使用した地域にいた米軍兵士、住民らから戦争後に健康被害の報告が相次ぎました。イラクのバスラ、ナジャフ、ファルージャ等々の地域です。旧ユーゴの戦争でも兵士の被害が報告されています。湾岸戦争とイラク戦争で派兵され健康被害を訴えている米軍の兵士らが劣化ウランに被爆していたことはUMRCとドラコビッチ博士らの研究調査活動で明らかにされたました。またイラク、アフガニスタン戦争での住民らの劣化ウラン被曝についてもUMRCが明らかにしました。「UMRCイラク・ウラン被害調査カンパキャンペーン事務局」(リブ・イン・ピース☆9+25の前身にあたります)など日本の諸運動はUMRCの調査活動に全面的に協力して、劣化ウラン弾を使用した米英の犯罪性を明らかにしました。また広島の市民グループを軸にイラクの医師や病院に対する支援が行われました。
※関連 http://www.jca.apc.org/stopUSwar/ http://www.jca.apc.org/stopUSwar/UMRC/umrc.htm

 湾岸戦争後に、特にイラク戦争後にイラクの医師達は住民の健康異常を世界に訴えました。米欧諸国はフセイン政権時代のガン統計が不正確な事を根拠に「被害など無い」と決めつけましたが、イラクの医師達はガン統計を確立し、継続して調査することで健康被害を証明しました。イラク南部のバスラでは1999年の統計と比較して2005年にはがん罹患率が増加し、女性のがんリスクは1.5倍にもなりました。イラク南部のがん罹患率は近隣諸国と比べても著しく高いことが明らかになりました。またイラク南部バスラでの小児白血病の発症率は1993年から15年間に倍増しました。新生児の出生異常の増加についても南部では早くから報告が出されていました。イラク戦争で激戦の舞台となったイラク中部ファルージャでは2008/2009年に重度の出生異常がそれまでの15倍に跳ね上がりました。2005年から2009年の調査ではガン発生率が38倍に跳ね上がったことが報告されています。(核戦争防止国際医師会議IPPNW/ウラン兵器禁止を求める国際連合ICBUW「IPPNW REPORT 2012」)。またユーゴスラビア紛争に介入したNATO軍イタリア人兵士のうち164人が白血病などガンで死亡し、2536人がガンを発症しており、イタリア軍は被害への補償をおこなっています。これらの被害は劣化ウラン弾による影響の可能性が大きいと考えられますが、直接の因果関係の立証は非常に困難です。何よりも加害者である米英軍が住民らの被害調査、因果関係の調査を全く行わなかったばかりか、占領によって逆に抑圧したからです。その責任は非常に大きいのです。これらの被害報告を受けて国連人権小委員会は1996年に劣化ウラン弾禁止を求める決議を採択し、欧州議会も2007年に劣化ウラン弾禁止の決議を行いました。国連総会では隔年で劣化ウラン弾の被害調査と報告を求める決議を行っています。国連環境計画UNEPも2022年報告書(ウクライナ戦争への環境への影響;予備的レビュー)でウクラナイでの劣化ウラン弾使用に懸念を表明し、劣化ウラン弾などはガンのリスクを高める可能性があると指摘しています。危険性が繰り返し報告されている劣化ウラン弾を使用し続け、ウクライナにも送り込もうという発想そのものがおかしいのです。これらの兵器を使用し続け、ウクライナに送り込もうとすることは無責任極まりないことです。

戦争をこれ以上エスカレートさせるな、NATOは核の威嚇をやめよ
 イギリス製の主力戦車と劣化ウラン弾を送りロシア軍を攻撃させる、それは汚染と人体被害だけでなく、ロシアの対抗を呼び起こし、ウクライナ戦争を更にエスカレートさせる危険な行為です。
 プーチン大統領は劣化ウラン弾配備に対して「対応せざるをえない」と言いました。実はロシア軍も劣化ウラン弾を保有しています。それは今までウクライナでは使用されていません。英国が劣化ウラン弾を供給しウクラナイ軍がそれを使えば、ロシア軍の劣化ウラン弾配備・使用を引き起こしかねません。両軍の戦いが全面的な放射性物質を撃ち合う戦争にする可能性が大きいのです。結果はウクライナの国土の全面汚染と人々への深刻な健康被害です。プーチン大統領は、英国の劣化ウラン弾供与をきっかけとして、3月25日にはベラルーシへの核搭載可能なイスカンダル短距離ミサイル配備がすでに行われていること、4月からベラルーシの核搭載可能な航空機の訓練をすること、7月までに核弾頭貯蔵庫を完成させ、核弾頭を配備する計画である事を言明しました。これ以上ウクライナ戦争をエスカレートさせ、核戦争に近づけるなという警告です。
 私たちは、ロシア軍による劣化ウラン弾使用にも、ロシアのベラルーシへの核弾頭配備にも反対です。それ自体が欧州での核戦争、引いては世界核戦争への危険を高めるものだからです。
 しかし、同時に米国とNATOがやっているように、ロシアの行為を「核拡散に反する」「危険を高める」「核の脅しだ」と一方的に非難することには同意しません。盗っ人猛々しいと言うべきでしょうか。劣化ウラン弾配備に先鞭を切ったのが英国です。それだけではなくNATOはドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、トルコに米国の核弾頭を配備し、「核共有」態勢にあります。100発のB61核爆弾がロシアを包囲するNATO諸国に配備されているのです。ソ連崩壊後、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンにあった核弾頭をロシアに引き取ったとき、NATOはこれら諸国から核弾頭を当然撤去すべきであったのです。しかし、そうせずに戦術核爆弾を配備し続けロシアに対する核の威嚇を行い続けました。いまでも戦術核兵器をロシアに向け攻撃できる状態にしているのです。自分の側が核兵器を突きつけたままにしておいて、どの口が「核戦争の危険を高める」というのでしょうか。

岸田の劣化ウラン弾容認姿勢を糾弾する
 ゼレンスキー大統領は英国の劣化ウラン送り込みを受け入れ、使用するつもりです。彼にはそれしか選択肢がないのでしょう。キエフ(キーウ)に行った岸田首相は劣化ウラン弾使用の危険性に触れず、劣化ウラン弾で闘うつもりのゼレンスキーを励ましたのです。被爆国の首相、「広島出身」を口にしながら許しがたい所業です。
 米国とNATO諸国は、まず第1に、取り返しのつかない汚染をばらまく前に劣化ウラン弾のウクライナへの供給を中止しべきです。第2に、欧州各地に配備された戦術核爆弾を米国に撤去すべきです。ロシアに対するベラルーシへの核配備中止要求は、NATOに対する要求とセットでなければなりません。ウクラナイ戦争のエスカレーションの阻止によって、核戦争の危険性、特に戦術核兵器の使用の危険性を下げさせなければなりません。そして、何よりも主力戦車や装甲車両、大砲や弾薬を大量に送り込んでウクラナイ戦争のエスカレーションを煽ることを直ちにやめるべきです。大規模な戦争の持続は人々に深刻な被害を与え犠牲を強いるだけで問題を解決しません。中国政府が提案したように直ちに停戦すること、その下で話し合いによって解決することが必要です。それしか解決の道はありません。

2023年4月9日
リブ・イン・ピース☆9+25