155mm砲弾のためのTNT輸出をやめろ
戦争当事国=ウクライナに砲弾を送るな
武器輸出の制約大幅解除に反対する

 米国は昨年以来、ウクライナに200万発以上の155ミリ砲弾を送りました。現在、ウクライナに送り込むために155ミリ砲弾の大増産中で、その材料のサプライチェーンを確立するために日本にTNT火薬(トリ・ニトロ・トルエン)の輸出を求めています。またウクライナへの大量の砲弾提供で米軍自体の砲弾の国内備蓄が不足し、ウクライナへの提供も困難になっています。その打開のために、もっと露骨に自衛隊の持つ155ミリ砲弾そのものの提供を日本に求めてきました。そして岸田政権は、この殺傷兵器のウクライナへの輸出に応えるつもりです。
 さらに、政府・与党は武器輸出を制限している「防衛装備移転3原則」とその「運用指針」を大幅に緩和し、骨抜きにして武器輸出、殺傷兵器輸出を解禁し、軍需産業をテコ入れ・強化しようと協議を進めています。
 本来なら、野党やメディアが、この戦後の憲法9条の枠組みを破壊する動きを政治的に争点化し、暴くべきなのに、ほとんど国民に知らせていません。私たちは、憲法違反の武器輸出、戦争中のウクライナへの殺傷兵器輸出に絶対反対です。また、ウクライナ戦争を拡大し、犠牲者が出ることにも絶対反対です。今、最も必要なのは、殺傷兵器を送り込んでウクライナに徹底抗戦を強要するのではありません。中国や新興・途上諸国が求める和平を一日も早く実現することです。


1 ウクライナ向け砲弾のためのTNT輸出反対

 6月2日付のロイターは、米国政府が砲弾の増産のための原料TNT火薬が不足しているので、日本企業に155ミリ砲弾用のTNT火薬の調達を求めていると報じました。これに対して日本の経産省は、TNT火薬は土木工事などに使う火薬と同じで軍民共用の「汎用品」だから、武器輸出に係わる制限の対象にならないし、米軍向けに砲弾用でも輸出できると言っています。

 6月15日付のウォール・ストリート・ジャーナルWSJは、東京発の記事で日本がウクライナの反転攻勢向けに米軍に対して155ミリ砲弾そのものを提供する方向で協議している、殺傷能力のある武器の輸出を長年抑制してきた日本は大きな方向転換をしようとしていると報じました。記事の中で、米国が6月13日に155ミリ砲弾を含むウクライナ向けの新しい軍事支援を発表したこと、米国は日本側に日米が弾薬を共有するとことを可能にした2016年の協定(物品役務相互提供協定)に基づき日本に155ミリ砲弾の提供を求めることを検討しているとしています。また155ミリ砲弾だけでなく自衛隊が旧式になったとして廃棄を決定した多連装ロケットシステムM270MLRS(ウクライナに提供されたHIMARSと同規格のロケット発射機)のウクライナへの提供を保守派議員の一部が要求していると報じていいます。

 これまでとはレベルの違う「異次元の」武器輸出への動きが始まっており、徹底的に批判しなければなりません。

米軍が日本から火薬の調達検討、ウクライナ向け砲弾用=関係者(ロイター 6月2日)
米への砲弾提供を協議 ウクライナ支援で(WSJ日本 6月15日)


2 TNT火薬の輸出は殺傷兵器輸出制限解除の突破口

 ウクライナをロシアにけしかけ代理戦争を闘わせ続けるために、米国とNATOは大量の武器弾薬を送ってきました。特に155ミリ砲弾は200万発にも達し、米国もNATOも自国軍の在庫がかなり減少し備蓄の水準が維持できなくなっています。ウクライナに供給する砲弾の数はこれまでの生産能力を大幅に上回るために、米国、NATO諸国は弾薬生産能力の大増強に突っ走っています。例えば米国は155ミリ砲弾の生産を従来の月産1万4400発から2028年までに月産9万発に引き上げるる計画です。そのために、米国は同盟国に協力を求めながら材料生産を大車輪で拡大しており、日本もそのサプライチェーンに組み込もうとしています。今回の動きはその一環です。

 日本政府はTNT火薬は軍民共用で使われている汎用品で、武器輸出の規制(防衛装備移転3原則)に縛られないとしてこれに協力するつもりです。しかしこれは武器とりわけ殺傷兵器の輸出制限に突破口を開けようとする危険極まりない行為です。
 何よりここで問題になっているTNT火薬が軍でも民間でも共用だというのは詭弁です。軍用の砲弾に炸薬として使われるTNT火薬は、民間で爆破などの用途で使われるTNT火薬とは全く別物です。砲弾用のTNT火薬は高純度で品質が安定して爆発威力が大きいものが求められます。そうでなければ経年変化で液体化したり、威力が低下したりします。だからはじめから軍事用に作られた特別のものです。
 だから砲弾用のTNTは殺傷兵器である砲弾と一体のものです。殺傷兵器そのものではないというのは詭弁にすぎません。このTNT火薬の輸出は殺傷兵器の部品の輸出であり、事実上ウクライナ支援のための殺傷兵器の輸出に他なりません。岸田政権が詭弁を使ってでも武器輸出の規制に風穴を開け、これを利用して武器輸出、とりわけ殺傷兵器の輸出に踏み出そうとして事を厳しく批判しなければなりません。

【視点】日本によるウクライナへのTNT調達は参戦である


3 岸田の狙う武器輸出への制約の全面撤廃

 TNT火薬の輸出とは別に、殺傷兵器そのものである155ミリ砲弾の輸出はあきれるほど露骨な輸出規制違反です。あからさまに戦争当事国に武器弾薬を提供することに他なりません。多連装ミサイルMLRSの輸出も同じことです。完全に憲法違反であり、こんなことを検討したり、言い出したりすることそのものがとんでもない事です。決して許してはなりません。
 日本はこれまで日本国憲法の規定に基づき、武器輸出そのものを原則禁止してきました。安倍政権が2017年に一部解除し、輸出できるようにしましたが、紛争当事国への殺傷兵器輸出は戦争に直接介入し支援することで、明らかに戦争加担であり、中立国の規定に違反し参戦国になることを意味します。武力不行使、戦争禁止を定めた日本国憲法を踏みにじる行為です。だから殺傷兵器の輸出は封じられてきたのです。岸田政権がTNT火薬輸出を皮切りにやろうとしていることは殺傷兵器そのものの戦争当事国への供与であり、絶対に許してはなりません。

 岸田政権は米政府の要請に応えることが最優先です。それだけでなく、岸田政権はこの機に武器輸出の制約を完全に取り除くことを狙っています。今国会では軍需産業基盤強化法を可決し、兵器産業を国の丸抱えで強化し、武器輸出を強化しようとしていますが、TNT火薬輸出策動はその一環です。
 もともと日本は憲法に基づいて武器輸出を原則禁止してきました。自国が武力不行使や戦争をしないだけでなく、他国がそうすることを支援しないためです。最初は共産圏の国、国連決議で禁止された国、紛争当事国への武器輸出が禁止されていました。1976年(昭和51年)に三木内閣でこれらの地域だけでなく、他の地域への輸出も慎むことを決めました。これ以降事実上の武器輸出の全面禁止が行われてきました。歴代自民党政権は、この武器輸出禁止三原則に部分的な例外を儲けてきましたが、本質的な変更はできませんでした。2011年には民主党の野田政権がF35共同開発に参加するために、共同開発と平和貢献・国際協力の際の武器輸出を可能にしました。共同開発を通じて武器輸出に道を開こうとし始めたのです。その後、「武器輸出禁止三原則」を逆転させ本格的な輸出促進の「防衛装備移転三原則」(武器輸出三原則;平成26年4月)に変えたのは安倍政権です。装備移転三原則は、@輸出禁止地域を、安保理決議が禁止する国、紛争当事国などに限定し、A輸出できる地域は平和貢献・国際協力や日本の安全保障に資する国まで拡大し、B適正使用、第三国移転防止が確認できる場合と指定しました。これによって従来の原則禁止(自粛)を原則輸出可に逆転させたのです。それだけではなく、政権を上げて必死で日本製武器の売り込みに走りましたが、幸いなことに国際的には大半は売り込みに失敗しました。実績はフィリピンへの警戒レーダーだけです。国内市場だけに依存した防衛産業は部分的な衰退と後退、一部企業の撤退を余儀なくされました。

 安倍政権下での「装備移転三原則」であっても「紛争当事国」には輸出禁止であり、「三原則」の「運用指針」で輸出を認めるのは「救難」「輸送」「警戒」「監視」「掃海」の5類型に限定されていました。従って類型にほとんど含まれない殺傷兵器は事実上禁止扱いでした。共同開発の兵器、戦闘機などに限って共同開発国への輸出が可能であっただけです。ところが、昨年3月に岸田政権はこの三原則の「運用指針」をさらに改悪し、紛争当事国であるウクライナを、「侵略を受けており防衛の為だ」としてこの制限から除外し、戦争当事国への武器輸出に道を開いたのです。その後、軍用ヘルメットや防弾チョッキ、偵察用ドローンや自衛隊の車両等の軍用装備まで送り出しました。ウクライナではドローンは偵察用や殺傷用に使われており攻撃兵器の一部です、自動車も戦争を支えるための装備として使われています。すでに日本から送られた「軍装品」が戦争を支えているのです。
 殺傷兵器の輸出の方はまだ制約されていましたが、それをいま解除しようとしているのです。それが155ミリ砲弾用のTNT火薬輸出であり、155ミリ砲弾そのものの対米輸出です。戦争当事国であるウクライナへの殺傷兵器輸出に米国を中継地にして道を開こうとしています。岸田政権は、憲法に基づく武器輸出そのものに課せられた制限を全面的に解除し、武器を作り世界中に自由に売るための仕組みを作ろうとしています。

「殺傷武器搭載でも輸出可能」 政府、与党協議に提示
殺傷能力のある武器輸出は現行ルールでも可能なのか 「新解釈」が浮上した防衛装備移転3原則


4 さらなる武器輸出の悪巧み

 政府は米国に155ミリ砲弾の輸出にふり構わない動きに出ています。それだけではなく、武器輸出、とりわけ殺傷兵器の輸出そのものに道を大きく開こうとしています。重大な問題です。武器輸出の制限解除をめざす与党協議会に政府は突然「三原則は初めから殺傷兵器の輸出を禁止していない」と伝えました。従来の「殺傷兵器は共同開発の場合だけ」という見解と「運用指針」を何の議論もなしに突然変更する異常なやり方です。そもそも「装備移転三原則」もその「運用指針」も国会で議論し決めたのではなく、閣議決定だけで、与党が勝手に決めたものです。だから国民の知らない間に政府が勝手にどんどん条件を緩和して行くのです。
 与党協議会は7月5日に論点整理を行うと報じられています。その内容は@共同開発した兵器の第3国への輸出を認める、A殺傷兵器の構成部品は殺傷兵器とは扱わない、B被侵略国への武器輸出(装備移転)を可能とすると言われています。@は共同開発した戦闘機や殺傷兵器なら殺傷兵器、戦争の道具であろうと大手を振って輸出できるようにしようとするものです。Aは直接的にはF15の中古エンジンの輸出のためですが、問題になっている155ミリ砲弾用のTNT火薬なども含まれます。明らかに大幅な制約、規制の緩和です。Bに至っては、これまでアフガニスタン、イラク、シリア戦争とことごとく侵略した米国が正義であると支持してきた日本政府が何を言っているのかと言うほかありません。自分の都合のいい方を被侵略国と定義し武器を送り込んで加勢するつもりです。協議会では輸出先を日本の安全保障に関わりのある国に限定するな、5類型も撤廃しろと自由な武器輸出、殺傷兵器輸出の要求がでています。まさに武器輸出の自由化のための協議会です。

 それだけではありません。共同通信は日米両政府が「日米物品役務相互提供協定(ACSA)」を使って155ミリ砲弾輸出をする協議をしていると報じました。しかしACSAは日米間の物品、役務の相互提供の協定です。その適用は@共同訓練、A国連PKO、人道的国際救援活動、B国際平和・安全活動、C周辺事態、D武力攻撃事態、武力攻撃予測事態に限定されています。2国間で共同訓練など一緒に行動している際の現場での物品、役務の融通のための協定に過ぎません。大量の砲弾を、それもウクライナに供与するために米国に融通、輸出するなど適用外なのは明らかです。これを武器輸出の隠れ蓑に利用しようとするなど脱法行為も甚だしいのです。

 これまで述べてきたように、岸田政権は従来制約されてきた武器輸出の全制約を一挙にに取り除こうと動いています。これらの動きは明らかに昨年末の安保3文書に始まる日本の対中戦争準備や大軍拡と連動したものです。紛争当事国への武器輸出、殺傷兵器輸出の全部解禁に反対しよう。再び大量の武器を作る、軍需産業が大きな比率を占める国に成り、世界中に武器を売りまくる「死の商人」国家化に反対しよう。岸田政権の軍事的暴走に反対しよう。

殺傷能力のある武器輸出は現行ルールでも可能なのか 「新解釈」が浮上した防衛装備移転3原則

2023年6月29日
リブ・イン・ピース☆9+25