それどころか、総選挙向けの公約では、「軍事費のGDP比目標2%以上を目指す」、「『相手領域内』での弾道ミサイルなどを阻止する能力の保有」を明記するなど、安倍政権からさらに進めた、対中国の軍事対決政策を盛り込んでいます。 岸田首相は、こうした点を追及されるのを避けようと、野党が要求する予算委員会も開かず、まともな国会審議を一切行うことなく、ボロが出る前に、コロナ感染が再拡大する前に、猛スピードで総選挙に突入し逃げ切ろうという算段です。こういう「説明しない」非民主主義的やり方自身が、安倍・菅政権そのものです。 岸田政権が安倍・菅政権から引き継ぐこと 岸田政権は、安倍・菅政権をどのように引き継ごうとしているのでしょうか? 第1に、コロナ無策と経済活動最優先、「森友再調査はしない」といった政権私物化・権力犯罪の隠蔽・責任回避、敵基地攻撃能力の保有を有力な選択肢とする対中軍国主義強化、自衛隊明記を含む4項目改憲策動、原発再稼働、などの非民主的・軍国主義的本質を引き継いでいます。「分配」と言いますが、「成長と分配の好循環」は結局安倍政権と全く同じで、「アベノミクス」継承も明言しています。要するにこれからも企業優先の経済政策で行くということです。 第2に、中でも金権腐敗や権力犯罪はそっくりそのまま引き継いでいます。それはまず党役員と組閣の人事に表れています。安倍政権時代の政権私物化と腐敗に直接手を染めた連中を、党役員と閣僚として起用しています。 幹事長に据えた甘利は、経済再生担当相だった2016年1月、建設業者からカネをもらったことを認め辞任した人物です。党の組織運動本部長に就けた小渕は14年に、関連政治団体の不明朗な資金問題で経済産業相を辞任しています。いずれも安倍政権での事件であり、辞任しただけで、説明もなく逃亡したままです。さらに加計問題で、当時文科大臣として解明を拒み続けた松野を官房長官に、しかもこの疑惑の張本人、萩生田を重要閣僚である経産大臣に据えました。麻生の義弟である鈴木の財務相就任も「森友問題の再調査はしない」と宣言したようなものです。安倍・菅政権の数々の疑惑、権力犯罪について、岸田が頬被りするつもりなのが明らかです。 第3に、党と政権中枢を原発強行推進を唱える原発利権の中心人物で固め、原発推進・再稼働では従来以上に露骨に推し進める意図を露わにしています。何より甘利幹事長は、電力・ガスを軸とするエネルギー産業に根を張った「原子力ムラのドン」の1人であり、原発の新増設と立て替え推進を進めるための自民党議連の最高顧問です。経済再生担当相となった山際は、甘利の子飼いであり原発推進の急先鋒です。高市政調会長もまた、エネルギー基本計画の見直しを明言し、新型の小型原子炉開発を唱える強行推進派です。 第4に、岸田は総裁選時から、安倍・麻生の支持を得るために、憲法改悪を約束しました。自民党の選挙公約にも、自衛隊明記や緊急事態条項新設など改憲4項目の実現を目指すことを明記しています。 政権発足直後の支持率は、45%(朝日)などと歴代政権の発足後と比べて非常に低くなっています。「新自由主義政策の転換」「新しい日本型資本主義」「ぬくもりのある政治」「多様性」など岸田首相が連発する言葉が、抽象的で口先だけのものであることが、見抜かれているのです。顔を替えただけでの逃げ切りを許さず、総選挙を安倍・菅政治、自公政権への審判の場としましょう。 菅政権自滅は、歴代自民党による新自由主義政策の破綻 菅政権は自滅しました。直接的な理由は、コロナウイルス第5波の感染爆発への無為無策、東京五輪・パラリンピック強行への世論の批判の高まりです。漫然と「緊急事態宣言」「自粛要請」を続けるだけで、人民の命と生活を危機に陥れたことへの怒りは、すさまじいものがありました。多くの人が治療もされず放置され、見殺しにされました。8月には全国の1日あたりの新規感染者数は最多2万6000人、自宅療養者・療養先調整中は最多時16万人以上にのぼりました。8月に自宅で死亡した人は250人で、7月の8倍に急増しました。 コロナ禍による解雇・雇い止め、長期にわたる「緊急事態宣言」の繰り返しは、以前から不安定でギリギリの生活を強いられてきた人々の、最低限の生活条件を奪い去りました。特に、非正規労働者や女性、外国からの移民労働者らに犠牲が集中しました。仕事を失い、収入を絶たれ、住居までも失う生活困窮者が急増しました。 1年前の安倍政権の退陣も、今回の菅政権の退陣も、未曾有の命と健康の危機の到来に、何の対応もできなかった自民党への怒りの爆発がもたらしたものです。 自公政権のコロナ対策の無為無策の根本原因は、公的医療を根底から崩壊させ、雇用・福祉政策を解体させた、自民党政権の過酷な新自由主義的・市場原理主義政策にあります。安倍・菅政権の9年間だけではなく、小泉政権以降の20年に及ぶ、さらには1990年代まで遡る新自由主義政策の歴史的な帰結と言わなければなりません。 まず第1に、感染しても入院できない、助けられる命が助けられない、自宅に放置され死亡するという、あってはならないはずの犠牲者を生み出したのは、90年代半ば以降の病床削減、保健所の削減・合理化、公立病院の民営化と統廃合、医療・社会保障予算の縮小、医療労働者の削減・合理化と労働条件引き下げなど、長年にわたる医療民営化・市場化および公衆衛生体制の破壊政策です。 第2に、コロナショックは飲食・サービス業で働く多くの労働者を困窮の真っ只中に陥れました。こうした低賃金・不安定な非正規雇用や移民労働者を急増させたのも、労働者派遣の自由化や、労働組合破壊といった新自由主義的労働政策です。そして困窮した人を救うべき生活保護は、執拗な「生活保護は不正・恥」キャンペーンによって、申請する人に忌避感や恐怖を感じさせるものにされたのです。 第3に、消費税導入以降の「税制改革」も新自由主義そのものでした。法人税・富裕層減税と消費税増税の30年は、貧富の格差を著しく拡大し固定化しました。労働者の実質賃金は、97年から20年までの23年間に10.9%も低下しています。低下したのはOECD諸国の中で日本だけ。さらに、安倍政権発足時から6年近く続いた景気拡大期に、企業の利益は2.6倍になり、配当は88%増え、企業の内部留保は52%も膨らみました。その一方、賃金は7%増えただけ。独占企業は大儲け、零細企業・自営業や労働者は苦しくなるばかり。コロナショックはそれを加速しました。それが「アベノミクス」です。 中国封じ込めの軍事外交、金権腐敗と権力犯罪の安倍・菅政治 安倍・菅政治は軍事外交政策でもエスカレートしてきました。 米帝国主義の中国封じ込めの最前線を担う、安倍が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」構想=対中国包囲戦略は、菅の下で日米豪印4ヶ国安全保障対話(クアッド)として動き出しました。 安倍・菅は、「台湾有事」を口実に対中軍拡を強化し、日本軍国主義を新しい段階に押し上げようとしてきました。南西諸島へのミサイル配備、敵地攻撃能力獲得のための兵器大量導入、日米共同軍事演習の日常化・実戦化・多国籍化などです。その中でも、安倍が2015年に成立を強行した戦争法は、中国への戦争挑発をきっかけに日本が「集団的自衛権」によって自動的に参戦することを合法化した、極めて危険な悪法です。 安倍は、沖縄の声に一切耳を傾けることなく、辺野古新基地建設に着手し、菅もそれを推し進めました。 安倍・菅の軍拡・軍国主義は、必然的に反動化と結びついていました。安倍は、憲法改悪を悲願とし、96条を改め改定の条件を緩めるなど画策した挙げ句、自衛隊明記、緊急事態条項など4項目の改憲を目指し、菅は国民投票法改定を成立させました。安倍は秘密保護法、共謀罪法、菅は重要土地規制法、デジタル法など治安弾圧強化のための悪法を成立させました。菅が首相就任早々に行った学術会議の任命拒否は、「学問の自由」を公然と侵すものです。安倍・菅は、福島原発事故の被災者切り捨てと原発再稼働を強行してきました。菅は、福島原発汚染水の海洋放出を、地元の反対の声を無視して決定しました。 森友学園、加計学園、「桜を見る会」など安倍をめぐる数々の権力犯罪、菅の息子が絡む通信・デジタル行政をめぐる疑惑、河井克行・案里夫妻をはじめとする金権腐敗の追及に、全く答えずフタをし続けました。 安倍も菅も、こうしたすべてを、数の力で強権的に強行してきました。虚偽答弁を繰り返し、公文書を改ざんしてきました。不都合な国会はさっさと閉じ、野党の国会開会要求も無視し、記者会見を開かず、逃げ回ることによって押し切ってきました。これら一切の民主主義的手続きの体裁さえ葬り去ってきたのが安倍・菅政治です。 運動と世論の力で、安倍・菅政治と自公政権に終止符を 以上のような安倍・菅政権、歴代自民党政権の政治を、そのまま受け継ぐのが岸田政権です。しかし、世論調査では「安倍・菅の路線を引き継がない方がよい」が「引き継ぐ方がよい」の2倍です。総選挙で岸田政権を引きずり下ろし、自公政権に終止符を打ちましょう。 全有権者の25%の得票で75%以上の議席を占有できるという、現行の小選挙区制の下で、政権与党が財政ばらまきと贈収賄で議席を獲得できる日本の議会制度の下で、政治を根本的に変えるのは、簡単ではありません。それでも、運動の力で政治は動いてきました。安倍・菅政権時代以降をとっても、反戦運動、労働運動などの諸運動は、数々の成果を勝ち取ってきました。今こそ、安倍・菅政治、自公政権の新自由主義に苦しめられてきた人々が声をあげる時です。 「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」は、9月8日、立憲民主党・共産党・社会民主党・れいわ新選組の野党4党と、野党共通政策で合意しました。この合意事項はすべて、安倍・菅時代の内外政策に反対する運動の中で、野党と市民運動が共闘してきた課題ばかりです。具体的には、「安保法制、特定秘密保護法、共謀罪法などの法律の違憲部分を廃止」「沖縄辺野古での新基地建設を中止」「医療従事者をはじめとするエッセンシャルワーカーの待遇改善」「コロナ禍による倒産、失業などの打撃を受けた人や企業を救うため、万全の財政支援」「最低賃金の引き上げや非正規雇用・フリーランスの処遇改善により、ワーキングプアをなくす」「住宅、教育、医療、保育、介護について公的支援を拡充」「消費税減税を行い、富裕層の負担を強化するなど公平な税制を実現し、低所得層や中間層への再分配を強化」「再生可能エネルギーの拡充により、石炭火力から脱却し、原発のない脱炭素社会を追求」「森友・加計問題、桜を見る会疑惑など、安倍、菅政権の下で起きた権力私物化の疑惑について、真相究明を行う」等々。どれも当面の要求として積極的意味を持つものです。私たちもこれを支持します。 これらに加えて、私たちは総選挙に向けて以下を主張します。 第1に、「ウィズ・コロナ」から「ゼロ・コロナ」政策に転換し、人命最優先で「第6波」を未然に防ぐこと。今なお続く大都市部での市中感染を抑え込むこと、そのための無料の大規模検査体制、無症状・軽症者のための療養施設拡充、入院治療のための感染症病床確保が喫緊の課題です。 第2に、原発の再稼働・新増設を全面的に中止し、福島第一原発の汚染水海洋放出の中止、再処理・プルサーマルを含めた核燃料サイクル計画を全面中止すること、要するに「原発ゼロ」を直ちに実現することです。 第3に、「中国脅威論」を振りかざした対中軍国主義強化、とりわけ南西諸島の軍事要塞化をはじめ日本全土を対中攻撃の最前線拠点にすることに反対します。立憲民主党も共産党も、反中国では岸田政権と大差ありません。立憲民主党の外交・安全保障政策の公約では、「日米同盟を基軸」とした「現実的外交」を強調しています。尖閣諸島の防衛を理由として、領域警備と海上保安庁の体制強化の法整備を進めるとしています。こうした姿勢を改め、中国との緊張緩和、平和・友好関係の進展に舵を切り、明確に岸田政権との対立軸を提示すべきです。 第4に、軍事費の大幅削減です。当初予算での軍事費は、2012年の第二次安倍政権発足以降9年連続で増加し、5兆数千億円にまで膨らんでいます。これでもGDPの0.95%ですが、それを2%以上にするなどとんでもないことです。軍備増強はそれ自体非常に危険ですが、巨額の軍事費は生活関連予算を圧迫し、私たちの生活を苦しめています。逆に言えば、軍事費を大幅に削減すれば、生活困窮者を守るための大きな財源となります。軍事費を2倍以上にしようという自民党に反対し、軍事費の削減を強く要求しましょう。 今回の総選挙は、安倍・菅政治を断ち切り、自公政権に打撃を与える大きなチャンスです。岸田=自公政権が続く限り、労働者・人民の命と健康、雇用・生活・権利が脅かされ続け、東アジアの平和と地球環境もまた脅威にさらされ続けます。総選挙で自公政権に終止符を打ちましょう。 2021年10月18日 |
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