7月9日、米国のダンフォード統合参謀本部総長は「ホルムズ海峡を通るタンカーなど民間船舶に対するイランの脅威を監視・抑止する」ための「有志連合」構想を発表し、2〜3週間でそれへの参加を募って発足させると公表した。トランプ大統領が6月24日に「自国の船舶は自分で守るべきだ」とツィートし「なぜ米国が他の国のために無償でシーレーンを守らなければならないのか」と主張したことを受けたものだ。「有志連合」による「センチネル作戦(ホルムズ海峡作戦)」は、米軍が統制だけを行い、実際の護衛と実力行使は通過する船舶の当該国が行えというものだ。「安保条約は不公平だ、米に不利で日本に有利だ」というトランプの発言は、この「有志連合」に日本と自衛隊を参加させるために圧力をかけることが主眼だった。私たちはホルムズ海峡「有志連合」への自衛隊派兵に断固反対する。イランに対する米国の戦争に反対し、日本の加担に反対する。 日本政府は現在のところ「有志連合」への態度を明らかにしていない。野上官房副長官は「ホルムズ海峡の航行の安全確保は日本のエネルギー安全保障上、死活的に重要だ」と強調した。ただ、「有志連合」参加の可否は「日米間で緊密なやりとりをしているが詳細は差し控える」と語った。ひとえに参議院選挙前の態度表明を避けただけだ。やっぱり戦争法は戦争するための法律で、トランプはそれを要求している、政府は憲法9条を無視して対イラン戦争に参加するつもりだと国民に見抜かれるのを恐れている。しかし、参議院選挙が済むやいなや本音が出て「自分の国の船を見捨てるのか」といつもの煽情的なレトリックで叫び始めるのは目に見えている。野上官房副長官の「死活的に重要だ」は「存立危機事態」の適用条件である「日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」を念頭に置いたものだ。「石油が止まれば存立が脅かされる」「日本の船=生命、自由、財産が脅かされる」を煽って自衛隊派遣に進もうとするつもりだ。 戦争を仕掛けているのは米国だ しかし、現在問題になっているのはホルムズ海峡での状況悪化一般でも、海賊増加でもない。米国がイランに戦争を仕掛けようとしているのだ。米国は「イラン核合意」から一方的に脱退して以来、イランに対する徹底的な経済制裁をしかけてイランの人民の生活を締め上げ、軍事的包囲の威圧でイラン政府を屈服させるか転覆させようとしてきた。利害を同じくするイスラエルやサウジアラビアも謀略で持ってでも米軍を戦争に引き込もうとしている。10日にはポンペオ国務長官が上院外交委員会で「イランが国際テロ組織アルカイダとつながりがあるのは明白だ」など、まるでイラク戦争直前のウソとでっち上げを彷彿とさせる発言を恥ずかしげもなく繰り返すようになっている。世界中が米国がイランに戦争を仕掛けようとしていることを知っている。タンカー2隻が攻撃を受けた後で、「イランがやった」という米国の声明を信じたのは、イギリス、イスラエル、サウジアラビアだけだった。ヨーロッパ諸国も、日本も納得せず更なる証拠を求めたのだ。仕掛けているのはイランではなく、米国であると知っているのだ。 ホルムズ海峡を安全にする方法は簡単だ。米国が一方的に脱退した「イラン核合意」に戻り、軍事力をこの地域から引き上げればいいだけだ。「核合意」の下でイランが核兵器開発が行い得ないことは明らかだ。トランプがこのことを認めないのは「オバマが結んだから」という理由に過ぎない。米国が「核合意」に戻り、イランに対する攻撃的な経済制裁と軍事威嚇をやめれば、イランとの間の緊張は緩和し、安定がもたらされることは明白だ。ところが米国政府の行動はそれと正反対だ。つまりこの地域を不安定化させ、軍事的緊張を作り出したいと思っているのは米政府なのだ。 自衛隊の派兵は、日本がイランと戦争すること しかし、平気で嘘をつく安倍政権はきっと米のイランに対する戦争に加担することを隠して、「船舶の安全のために自衛隊を送る」「これは海上警備行動だ」とか「専守防衛だ」とか言ってごまかすに違いない。「戦争をしに行くのではないのに何が悪い?」と言うだろう。ホルムズ海峡「有志連合」に参加すると言うことはイランに対する軍事包囲網に参加し、イランを軍事的に威嚇することだ。米国は無人偵察機で領空を侵犯し、無人偵察機撃墜の報復にイランを軍事攻撃しようとし、さらに実際にレーダー基地/ミサイル基地へのサイバー攻撃を仕掛けた。イギリスはイランタンカーを拿捕し、それに報復するイランの英タンカー拿捕未遂を引き起こした。米英の軍事挑発は更なる緊張の中でイランとの軍事衝突を引き起こすだろう。 軍事挑発や威圧の行動を取っている米艦船が攻撃を受ける、航空機が攻撃される――これこそ、安倍政権が戦争法で想定してきた「存立危機事態」に他ならない。「日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」というだろう。憲法9条は明確に武力の行使と戦争を禁止している。イランに対して戦争を仕掛けることなど許されるはずがない。しかし、この明白なイランへの侵略戦争に、日本は「集団的自衛権」と称して肩を並べて参加することになるのだ。もともと安倍政権はこのような侵略戦争に参加できるように戦争法を作ったのである。しかし、その最悪の形で戦争に踏み出すことになる。 アフガニスタン戦争にしてもイラク戦争にしても、日本政府は「給水活動」「人道復興支援」「給油活動」などとごまかして自衛隊を派兵し、米の侵略戦争に加担してきた。今回も「自国船舶の安全保障と護衛に行くだけだ、攻撃に行くのではない」というだろう。しかしすでに戦争法が成立している。米国が交戦した瞬間に日本の侵略戦争が可能になる法律が戦争法だ。これほど悪質な、憲法をないがしろにする法律はない。戦争法を廃止しない限り、自衛隊が侵略戦争を始めることを止めることはできない。 参院選を前にイランへの戦争に自衛隊を送るなの声を強めよう トランプ大統領は「日米安保は不公平」という。「米は日本を防衛する義務があるが、日本は米を防衛する義務はない」と。しかし、それは虚構の上の論理に過ぎない。米の防衛はおろか、日本の防衛など問題になったことはなかった。歴史的にあったのは日米安保の下に米がソ連、ベトナム、イラク等々に冷戦と侵略戦争をしかけ、日本が基地と基地防衛力を提供して米軍を支えたことだけだ。そして日米安保の今日的形態である戦争法=ガイドライン体制では、日本の比重はますます高まって、日米は平等に侵略戦争に参加するところまできている。日本の人民は、多大な基地負担を押し付けられながら侵略戦争に加担させられようとしているのだ。 戦争が始まればどうなるか。対イラン戦争論者はその結果など考えてはいない。目障りなイラン現政権さえなくなればいいのだ。しかし実際に起こるのは悲惨極まりない大量虐殺だ。全面戦争になって、イランの人民大衆が大規模な空爆でどれだけ殺されるのか。米は何度大量殺戮を繰り返すのか。もちろん、米軍もただでは済まない。イラクと比べても3倍の人口を持つイランを軍事的手段で敗北させることなどできない。戦争の泥沼の中で米兵士達もまた死んでいくことになる。 時は参議院選挙を控えている。ホルムズ海峡「有志連合」に参加するな。イランへの戦争に自衛隊を送るな。侵略戦争に道を開く戦争法廃止。そして戦争できる国家作りをめざす改憲阻止、憲法の平和主義堅持。しっかりと意見を表明し、選挙結果に反映するように周りに働きかけよう。いまこそイラン戦争反対の世論を大きくして、戦争参加を阻止しよう。 2019年7月11日 |
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