改めてイギリスの侵略性を浮き彫りにした
クイーン・エリザベスとディフェンダー

(1)シリア・イラクを空爆した英空母クイーン・エリザベス

 5月23日にイギリスを出発し、太平洋での対中軍事包囲に参加するためにアジアに向かった空母クイーン・エリザベスと随伴の8隻の艦隊は、現在どこで何をしているのでしょうか。
 英空母部隊の行動は驚くほどあからさまな侵略的好戦的行動でした。空母クイーン・エリザベスは東地中海に止まって、イラクとシリアに対する空爆に従事しています。この地域の「イスラム国IS勢力を攻撃する」と公表していますが、彼らのやっていることは無法行為そのものです。まず、@ISの残存部隊と言うけれど、すでに「壊滅した」と英米が誇らしげに宣言したはずです。A仮に残存部隊がいたとしても、それへの対応は当該国であるイラク・シリア政府の仕事です。イギリスはこれらの政府から何の依頼も権限も与えられていません。もちろん国連決議もありません。米とNATO軍が勝手に他国内で行っている軍事作戦を継続しているだけです。それは主権侵害そのものです。当該政府から反撃されても何のいいわけも立ちません。B実際にはクイーン・エリザベス部隊が爆撃しているのは、イラクとシリア内で何の正当な理由もなく米軍が占領し、米が石油などの略奪をしている地域に対する脅威になるシリア軍や親イラン民兵などです。米英がシリアやイラクに居座り続けるための行動で、あからさまな侵略主義の現れです。
 その証拠に、イラク政府は空爆によって周辺住民に犠牲が出ていることを非難しています。当該国が抗議しても兵器で他国の中で軍事行動を続ける−−この厚かましい振る舞いこそ帝国主義そのものと思うのですが、同時にこれがバイデンやG7で繰り返され、菅首相も合唱した西側の「ルール」であり、「自由と民主主義」なのです。何のことはない、わがまま勝手に振る舞い、軍事力を振りかざす俺の支配(ルール)に従えと言う訳です。そして、これがまたバイデンが中国に押しつけ、屈服させようとしている「ルール」なのです。
 メディアはもう一つ重要なことを報じています。クイーン・エリザベスがやっているのは米軍の下請けであり、肩代わりの軍事行動なのです。いま太平洋から地中海までの間で米の空母は2隻(レーガンとアイゼンハワー)がアラビア海に張り付きアフガニスタンからの米軍撤退の支援に従事しています。この撤退作戦で余裕のなくなった米軍にかわってイギリス軍が軍事支配を肩代わりしているのです。しかも、クイーン・エリザベスから飛び立つF35Bの半分は米軍機で米軍パイロットです。艦隊にも米艦船が加わっています。いわば、クイーン・エリザベスは米軍の下請け部隊として米軍に組み込まれているのです。これと同じ構造が太平洋でもあります。そこでは自衛隊が米軍に組み込まれているのです。世界中に戦争をふっかけて侵略行動を繰り返す米軍と肩を並べて、米に従って軍事行動をする枠組みが作られています。自分自身が侵略国家に成り下がる危険が現実のものとしてあるのです。もともとイギリスも米と並んでイラク・シリアへの軍事行動をしてきた侵略国家であるとはいえ、クイーン・エリザベス艦隊の初めての任務が露骨な侵略行動であることはイギリスという国、その軍隊の侵略性を浮きだたせています。

(2)英駆逐艦ディフェンダーのロシア領海侵犯
 クイーン・エリザベス艦隊のもう一つの驚くべき侵略的で好戦的な行動は、黒海でロシアが領海とする海域に対して艦隊に所属する駆逐艦ディフェンダーが取った意図的な領海侵犯と挑発行為です。クイーン・エリザベスの護衛艦であるディフェンダーとオランダの駆逐艦は、クイーン・エリザベスがシリア・イラク空爆をしている間に分離して黒海に入りウクライナのオデッサ港に入りました。6月23日に、ディフェンダーはオデッサを出発してクリミア半島のすぐ近くを航行し、ロシア側の主張する領海を侵犯しました。ロシア側は領海の12海里(19キロ)から更に3キロ入った主張しています。場所はクリミヤ半島最大の軍事拠点・重要軍港であるセバストーポリの目と鼻の先です。このイギリスの駆逐艦にロシア側が領海侵犯を警告し進路変更を要求したのにディフェンダー側が従わなかったので、ロシアの巡視船と航空機がかなり離れた地点に警告の銃撃、爆弾投下を行ったというものです。
 ロシア側の抗議に対してイギリス政府は、@海域はロシアではなくウクライナの領海でロシアの領海侵犯にあたらない。Aデフェンダーは領海内を無害航行していただけで国際法に従っており非難、排除されるいわれはない。B警告射撃、爆撃は遠くだったので気が付かなかった、ロシア軍の演習だと思ったという開き直りを行っています。
 しかし、これは全部でたらめです。実はイギリス軍の機密文書がケント州のバス停で発見される事件があって、この領海侵犯についてもあらかじめロシアの対応を検討した記述があります。「ディトロイト作戦」と名付けられたこの計画は、21日まで高官レベルの議論で、ディフェンダーがクリミア半島の近くを航行した際にロシアがどういった反応を起こすのかについて議論していました。最近地中海東部での空母クイーン・エリザベス空母打撃群に対するロシア軍の行動がたいしたことがなかったので、今回も同様だろうと予想しています。ただ、そうした状況は近く変わる、ロシア海軍、空軍の活動が活発になるとの予想もありました。そしてオデッサからグルジアに向かうのに、ロシアに接近し領海侵犯するコースと、領海から離れたコースを検討し、前者がウクライナに好印象を与えられるとしたのです。
イギリス軍の機密書類、ケント州のバス停で見つかる BBCが内容を確認

 だからディフェンダーの行動は単にオデッサからグルジアに向かっただけ等というものではありません。領海侵犯とそれがロシア軍を挑発することを分かった上での明らかに意図した政治的軍事的行動なのです。ロシア側が領海と主張する海域を侵犯することでロシア側の主権を否定し(ウクライナのものと主張)、そのことでウクライナ側との良好な接触をえようとするものです。初めから「無害航行」などとは無関係な行動です。
 さらにディフェンダーに同乗していたBBCの記者が撮影した動画は衝撃的です。バス停で発見された機密文書は「『純粋にウクライナ領海を航行するだけのもの』とし、ロシアが攻撃的な反応を見せる可能性があるので兵器は覆いで隠し、搭載しているヘリも格納した状態で行われる。また同乗するBBCと英紙デイリー・メールの記者らが証人になる」としていました。しかし、事態は全く違いました。BBC記者の動画によると領海進入に対して2隻の巡視船、20機近くの航空機が出動して監視と警告の行動をしています。一方、ディフェンダーは領海侵犯に際し30ミリ砲等火器に給弾し、艦橋では乗組員たちが全員白い目だし帽のような白いマスクを着用していました(このマスクは砲弾が爆発したときの爆炎や爆風の被害軽減用だと思われます)。完全に戦闘態勢で領海に入ったということです。つまり、ロシア側が警告で発砲し、戦闘になることもありうる行動だと分かった上で、応戦の戦闘態勢も整えて領海侵犯をしているのです。領海侵犯と挑発的行動が確信犯的なものであることがよくわかります。イギリスは「無害航行」だったと言いますが、国際海洋法の下での「無害航行」は移動の途中で領海を何もせずに通過することだけです。領海侵犯を政治的意図のもとに挑発行動として行い、戦闘態勢に入っている今回のケースは決して「無害行動」ではありません。従って警告されたり、退去を要求すれても当然なのです。
 日本のメディアの報道は、イギリスが駆逐艦をわざわざクリミヤ半島に向かわせ挑発的な領海侵犯を行わせたことを報じるのではなく、ロシアが警告射撃や警告爆撃をしたことばかりを非難しています。しかし批判されるべきはわざわざ挑発行動を起こした英海軍にあります。メディアがあべこべを報じることはここでも起こっているのです。
 クイーン・エリザベスとディフェンダーが示したのは、侵略国家、好戦国家イギリスの存在です。この部隊は南シナ海、東シナ海で対中国で再び軍事力を振りかざし砲艦外交を行おうとしているのです。
HMS Defender: Russian jets and ships shadow British warship(BBC)

(3)米・NATOは続いて黒海で挑発的大演習
 実はこれでおしまいではないのです。ディフェンダーの対ロ挑発は、その後に起こることの前哨戦に過ぎないものでした。ディフェンダーの領海侵犯から6日後、ウクライナと米が中心になってNATO軍が黒海全域で大規模な海上軍事演習をはじめたのです。もちろん目的はロシアへの威嚇です。「シーブリーズ2021」と呼ばれる演習には32カ国と艦船30隻、航空機40機、人員5000人が参加し、黒海での最大規模のNATOの演習です。日本に自衛隊員も参加しています。南シナ海と同様に米・NATOは多数の国が集まってロシアに対して軍事的圧力を加え続けているのです。今回の例でも分かるように、この地域で脅威を作りだし、挑発を仕掛けているのはロシアではなくNATO軍です。いまやこの地域で軍事力ではNATOの側に優位があります。ロシアは1国です。米とNATOの側は常に自分の側から仕掛けることで相手に脅威を与え続け、膨大な軍事費の支出を強要し、国力の消耗を押しつけようとしています。そして軍事的な包囲でロシア軍の行動を封じ込めようとしているのです。

2021年7月5日
リブ・イン・ピース☆9+25 W