2008年10月31日、大阪高裁は、大江健三郎氏の著書『沖縄ノート』に対して出版差し止めと慰謝料等を求める原告の訴えを棄却した地裁判決を支持し、控訴を棄却した。再び、大江健三郎氏と岩波書店側の全面勝訴である。 当日、傍聴券を求めて、原告・被告それぞれの支援者ら約300人が裁判所裏の広場で傍聴券を求めて参集した。くじにはずれた人々のうち半数ぐらいがしばらくその場で待っていたが、午後2時過ぎ、「大江・岩波勝訴 控訴棄却」の垂れ幕に、原告側の支援者はため息をつき、被告側の支援者は拍手で迎えた。 ※二審も「軍の深い関与」認める=大江さん著書の名誉棄損否定−沖縄戦集団自決訴訟(時事通信) ※元戦隊長の控訴棄却 「集団自決」訴訟(沖縄タイムス) 高裁の判断は地裁の判決を全面的に支持するものであった。高裁に提出された原告側の新証拠――「控訴人梅沢が自決してはならないと言明したのを聞いた」などとの座間味島住民の供述――については、「明らかに虚言であると断じざるを得ず、これを無批判に採用し評価する意見書、報道、雑誌論考等関連証拠も含めて到底採用できない」と判断し、地裁の判断をさらに補強した。さらに、梅沢氏本人が「決して自決するでない」と村の幹部らに命じたと主張したことについても「到底採用できない」とし、村の幹部らが自決のための爆薬の提供を求めたのに対して「今晩は一応お帰りください」と述べただけで、玉砕方針自体を否定することはしなかったと判断した。 原告側は、隊長らが直接住民に命令をした言葉があったかどうかという問題のみに限定した。これに関しては、裁判所は、「控訴人らが直接住民に命令したという事実に限れば、その有無を証拠上断定することはできず、各記述に真実性の証明があるとはいえない」とした。しかし、「集団自決は『軍官民共生共死の一体化』の大方針の下で日本軍が深くかかわっていることは否定できず、これを総体としての日本軍の強制ないし命令として評価する見解もあり得る」とし、大江氏の著作の記述が「公正な論評の域を逸脱したとは認められない」と判断した。「集団自決」は、「軍官民共生共死」の方針と思想、沖縄の捨て石作戦、日本軍による徹底した住民支配と総動員態勢の中で捉えられなければならない。 過去の侵略戦争を美化し戦争犯罪を歴史の闇に葬るため「日本軍『慰安婦』」「南京大虐殺」に続く第三のターゲットとして「集団自決」の否定、削除が仕組まれている。この裁判は、そのような中で起こされた。今回の勝利判決は、教科書改悪・歴史改ざん勢力に大きな打撃を与えるものである。 2008年11月1日 ※[大江・岩波裁判全面勝利判決]沖縄「集団自決」への日本軍の深い関わりを認定(署名事務局) ※論説:大江・岩波「集団自決」裁判全面勝訴判決の意義について(署名事務局) ※[投稿]2009年中学校教科書採択が迫る 再び教科書闘争へ(署名事務局) |