名護市長選結果を愚弄し敵視することは許されない いったい鳩山政権は名護市長選の結果にどう向き合うのか。辺野古新基地反対と示された民意をどうするつもりなのか。「閣内不一致」も甚だしい。2月1日岡田外相の「普天間が今のままということもあり得る」との発言まで飛び出した。岡田外相の意図は、移設がダメなら普天間にするぞという沖縄県民・全国民への脅迫である。全く許し難い。普天間の代わりは辺野古、辺野古がダメなら「県内」、「県内」がダメなら「県外」、そして「県外」がダメなら普天間−−このような堂々巡り、日本側が代替地を探さなければならないというデマゴギーが政府内でまかり通っているのである。 鳩山首相はあわてて「最終的にまた(普天間に)戻ってきた、という話では答えにならない」などと火消しに躍起になっているが、きわめて弱々しい。鳩山首相は、奥歯にものの挟まった言い方ではなく、腹を決めきっぱりと普天間の閉鎖と辺野古の断念を言明すべきである。 ※普天間継続 岡田外相「他になければ、あり得る」(朝日新聞) ※普天間存続は「答えにならぬ」 首相、外相発言を否定(朝日新聞) 1月30日には東京・日比谷公園野外音楽堂で全国集会が行われ約6000人が結集し鳩山政権への怒りをぶつけた。この集会には100名超の沖縄からの代表団が参加した。大阪でも1月28日に1300人が結集した集会が行われ、各地で同様の集会がもたれた。辺野古ヘリ基地反対協議会の安次富浩さんは、移設先云々ではなく普天間の閉鎖・撤去を今すぐ行うよう強く求めた。 ※辺野古移設反対、東京・日比谷で集会 福島党首ら参加(朝日新聞) ※“基地ノー”銀座埋め「米国にお引き取りを」 辺野古新基地反対集会(琉球新報) ※在日米軍再編:普天間移設「新基地許すな」北区で集会/大阪(毎日新聞) 人々の怒りは、鳩山首相自身が「名護市長選後に判断」と言っていたにもかかわらず、いまだに辺野古断念を言明しないどころか、名護市長選の結果を貶め民意を愚弄する発言が政権内から噴出していることにある。最も悪質なのは平野官房長官である。沖縄基地問題検討委員会委員長の平野官房長官は選挙の翌日の1月25日、名護市長選結果を「しん酌しなければならない理由はない」と言い放ち、その言葉を追及された翌26日の記者会見では「(地元が)合意しなかったら、物事が進まないと言うことか。そこは十分に検討したい。法律的にやれる場合もあるだろう」とまで公言するに至ったのである。全く許せない。まさしく確信犯である。住民の意向を踏みにじってでも「国策」を強行する、そのためにはどんな手段でも利用するという意図を表明したのである。公有地水面埋め立て権限を都道府県から国に移す特別措置法制定の狙いを露骨に出している。 ※在日米軍再編:普天間移設 「名護市長選、斟酌の理由ない」 平野発言、怒る沖縄(毎日新聞) ※うるの会、 「斟酌の理由ない」発言で平野長官に抗議へ(琉球新報) ※普天間「法律的にやれる場合も」 地元合意巡り官房長官(朝日新聞) ※平野官房長官の発言要旨=普天間移設問題(時事通信) だが、名護市長選の結果を低めようとしているのは平野官房長官だけではない。「民意の一つ」と軽くあしらい「あらゆる可能性がまだ含まれている」と語ったのは鳩山首相自身であった。「現行案は議論の対象」(北沢防衛相)、「市長選は辺野古移設の是非だけを問う住民投票ではない」(前原沖縄相)等政府の要人が、あれほど注目した名護市長選の結果をないがしろにしているのである。さすがに与党内部からでさえ、特に沖縄出身の議員からは反発と激しい怒りの声が上がった。平野官房長官は28日には「民意は当然尊重し、重く受け止める」と釈明せざるを得なくなったが、「重く受け止める」だけでは何の解決にもならない。いまだに発言は撤回されていない。 ※北沢防衛相「現行案は議論の対象」/名護市長選受け記者団に表明(沖縄タイムス) ※普天間移設反対派が当選 名護市長選(中日新聞) 政府は26日夜の閣議で「官房長官を長とする沖縄基地問題検討委員会で、特定の前提を置かず、あらゆる選択肢を幅広く検討している」という答弁書を決定している。つまり「ゼロベース」である。これが政府の公式見解なのだ。鳩山政権の動揺、「閣内不一致」の根底には沖縄民意の軽視と日米同盟最優先という基本姿勢がある。日米同盟の堅持を前提にし、移設先探しに汲汲としている限り、政権の迷走はさけられない。 ※普天間移設「あらゆる選択肢」=答弁書を閣議決定−政府(時事通信) 困難を乗り越え、基地反対を明確にした名護市長選結果 名護市長選は、容認派のなりふり構わぬダーティな選挙工作を制しての勝利であった。容認派現職候補島袋氏は基地問題を争点から外そうとし「基地利権」を全面に押しだした。比嘉元市長を選挙対策本部長に立て、企業ぐるみ、老人会を使っての組織的期日前投票などを大規模に組織した。全投票者数に占める期日前投票の割合は41.21%にも達するという異常事態が生じた。だが基地反対の民意はそれを超えた。稲嶺氏17950票、島袋氏16362票、投票率76.96%(前回74.98%)。接戦ではあったが1600名近くの差を付けての勝利である。 ※名護市政交代/民意は「辺野古」ノー 「脱基地」の北部振興元年に(琉球新報) ※名護市長選、「期日前バトル」過熱 全投票の半数の勢い(朝日新聞) すでに1997年12月の名護市住民投票で名護市民は過半数によって基地建設反対の意志を明確にした。だが翌1998年2月の市長選挙で当選した「容認派」の岸本建男市長が「受け入れ」を表明し、それ以降も本来基地問題だけを争点にはしない市長選で容認派が勝ち続けたことで、住民投票結果が踏みにじられ、迷走してきたのである。混乱をもたらしてきたのは、住民の意志を無視して、札束と恫喝で基地を押しつけようとしてきた国の側である。 私たちは、名護市民が、「辺野古新基地拒否」の民意を示したことに敬意を表したい。この民意こそ、最も大事にされなければいけないものである。今回の選挙では、これまで賛成派に票を投じていた人たちが、反対に回ったとも報じられている。「どうせ反対しても無駄」とあきらめていた人たちも、政権交代で「本当に基地を作らせないことができる」と反対の意志を示すことができるようになったのだ。この声に新政権はどう応えるのか。 ※抑圧された不満噴出 名護市長選、稲嶺氏勝利(中日新聞) そもそも世論調査では圧倒的に基地反対が多数だ。「基地経済」という虚構によって反対世論が市長選に直結しないよう押さえ込まれていたに過ぎない。だが基地対策費として交付されたカネで造られたハコモノが、地元を潤さないことが明らかになる一方、基地に依存しない経済発展の可能性が現に出てきたことが、反基地へ大きく流れた背景にある。北谷村のハンビー飛行場、メイモスカラー射撃訓練場、うるま市の天願通信所、沖縄市の泡瀬通信所、那覇市の新都心になった米軍牧港住宅地区などで、基地の返還によって数十倍の経済効果・活性化が生まれているのである。 ※沖縄の民意/県内移設「ノー」が鮮明だ 首相は重く受け止め英断を(琉球新報) ※『「基地依存経済」という神話』(前泊博盛 「世界」2月号) 日米軍事同盟、安保維持で一致する本土メディアの腐敗 本土のメディアは全くまともな報道をしていない。「名護市長選 それでも辺野古移設が最善だ」と社説で書いた読売新聞は、わずか45000人の住民が関わった市長選の結果で国の政策が決まってはたまらないと露骨な反動的主張を行った。国策のためには基地被害も騒音も我慢せよというのである。「名護市長選―「県外」探しを加速せよ」(朝日新聞)は、市長選結果を尊重しているように見えて、日米安保と米軍基地を守るため国内移転先を早急に見つけよ、さもなくば日米同盟に亀裂が入るという反動的主張である。産経新聞や日経新聞は迷走させた鳩山政権の責任を追及し、あわよくば、御しにくい鳩山民主党政権から守旧政権への逆戻りを主張しているのである。一方「名護市長選 辺野古反対の民意重い」と題した毎日新聞の社説は、「鳩山政権の対応は極めて難しい」。「難しい」のは子どもでも分かる。「生活第一」を掲げた民主党政権が、今こそ名護市長選で示された民意を最優先し、普天間撤去で米国に真剣に立ち向かうべきだ――このような主張をしたメディアは皆無であった。本土メディアはおしなべて、日米軍事同盟と安保の維持では恐ろしいほど一致している。 ※名護市長選 それでも辺野古移設が最善だ(1月25日付・読売社説) ※名護市長選―「県外」探しを加速せよ (1月25日付・朝日社説) 反動メディアは、辺野古新基地建設の断念によって安保に亀裂が入るというのであれば、そして「抑止力」がなくなるというのであれば、海兵隊のグアム移転計画を決定した米国を追及すべきではないのか。本土のメディアは全く無視しているが、伊波宜野湾市長は11月、現に進んでいる沖縄海兵隊のグアムへの全面移転計画を暴露し、戦闘部隊も含めて海兵隊は沖縄に「殆ど残らない」こと、普天間代替施設としての辺野古新基地は必要ない事を明らかにしている。日本政府はこの事実を米国に問い合わせることすらしていない。2006年5月のロードマップ(最終合意)にパッケージと記述された「辺野古新基地」、「グアム移転」、「米軍再編」が相互にリンクし、普天間を閉鎖するには辺野古新基地が必要であり、それが躓くとすべてが破綻する、そのように思いこまされているのである。本来無関係の3つを無理矢理パッケージとしたのは、日本からカネを引き出そうというワシントンの思惑であり、カネによって海兵隊を引き留めようとした日本政府の思惑に過ぎないのだ。 ※3兆円を日本側に負担させるために、「基地負担軽減」と「グアム移転」、「在日米軍再編」が突如リンク(リブ・イン・ピース☆9+25) 鳩山政権は普天間閉鎖から在日米軍削減にまで進むべき もちろん問題の核心は、辺野古新基地が米の軍事戦略上必要か否かではない。必要か否かという問題では、「米軍は日本がタダで造ってくれる新基地は欲しい」という一言に尽きる。だからこそ米国は執拗に「現行案が最善」という言葉を繰り返している。 問題の核心は、日本にある米軍基地面積の75%が沖縄県に集中し、沖縄本島の面積の約2割を米軍基地が占有するという、日米安保の異常な沖縄基地押しつけ問題である。中でも普天間基地は住宅密集地の中にある世界一危険な老朽飛行場であり、04年の沖国大ヘリ墜落事故をはじめ甚大な被害を与え続けている。一刻も早く閉鎖しなければならない。メディアは移設先が見つからなければ普天間飛行場を閉鎖できないかのような報道をしているが、それは真っ赤なウソである。海兵隊の演習施設としての普天間飛行場は閉鎖できるし、代替地など必要ない。そのことをメディアはきちんと報じるべきである。 ※海兵隊のグアム全面移転で、普天間の代替地としての辺野古新基地は必要ない(リブ・イン・ピース☆9+25) 現に米軍高官・支配層の中からは、“二義的問題である”普天間問題を長びかせることで、日米関係を悪化させることへの懸念が生まれている。だが他方では辺野古新基地建設を白紙に戻すことで基地撤去を求める声に勢いを与え、全国の米軍基地の存在そのもの、日米安保そのものの問題として噴出し収拾がつかなくなることを恐れている。 ※「普天間、現行計画で」局長級協議で米(読売新聞) 日米安保は本来の「極東条項」から大きく逸脱し、米軍基地がイラク・アフガン戦争への出撃基地となってきただけでなく、米軍再編によって、従来の安保の枠組みを超え出て、米軍と自衛隊がグローバルな規模で軍事介入を行う全く新しい軍事同盟へと変質させられてきている。鳩山政権はすべきことは、このような安保の変質を拒否し、辺野古新基地建設と米軍再編を定めたロードマップ(日米最終合意)を見直し、対等と平等の関係に基づく対米再交渉へと舵を切ることである。鳩山政権は、自民党政権が採用してきた中国や北朝鮮を敵視し軍事対決を煽るやり方を見直し、平和外交によって東アジア・極東の軍事的政治的緊張の緩和へと進むべきである。今大きなチャンスにある。本土から、普天間撤去、辺野古新基地反対の声をさらに大きくしよう。日米安保の見直し、日米地位協定の見直し、米軍基地削減・撤去の声を上げよう。 2010年2月2日 |