「レーダー照射」事件の本質と安倍政権の韓国敵視外交

 異常に一方的、感情的な韓国に対する外交的攻撃が「レーダー照射」事件という形で繰り広げられた。日本政府は「火器管制レーダーを照射した」「危険極まりない行為だ」「事実を認めろ」「謝罪せよ」と口汚くののしり、挙げ句の果てに「韓国は話にならない」と交渉を打ち切った。政府だけでなく全てのメディアがこれに同調し、感情的に韓国を非難している。この事態の本質は何なのか、そして実際にはどんなことが起こったのか、振り返ることが必要だ。
 まず、今回の「事件」は徴用工判決、「慰安婦財団」解散、国際観艦式での旭日旗問題などへの対応と同じ一連のもので、安倍政権の韓国に対する植民地宗主国的態度が現れたものだ。彼らは植民地支配の不法・無効を主張する文在寅政権と対決し、嫌韓、差別排外主義を煽り、傲慢に振る舞っている。安倍政権主導の官製ヘイトが本質である。
 第2に朝鮮半島・東アジアの平和と安定を巡り、全く反対方向を向く文政権と安倍政権が衝突したのだ。文政権は第2回米朝会談の成功と朝鮮半島の非核化・平和をめざし、南北間の協力と制裁の緩和をめざしている。その一環として遭難漁船の人命救助はあった。安倍政権は、北朝鮮を敵視し、朝鮮半島の平和に反対し、制裁による屈服を迫る路線に固執している。今回の事件は、火器管制レーダーを照射したかどうかが問題なのではなく、それを契機に正反対の政治路線が対立したのである。

印象操作が溢れかえる日本側発表
 安倍政権の「レーダー照射事件」に関する宣伝、批判ははじめから意図的なもの、イメージ操作を極めて色濃く持っていた。
 「事件」は1月20日に起こった。日本側は韓国海軍の駆逐艦「クァンゲト・デワン(広開土大王)」から日本の自衛隊の哨戒機P1が「火器管制レーダー」を照射された、「火器管制レーダー照射は発砲寸前と考えられる危険極まりない行為だ」と韓国側を非難した。
 しかし、日本側は「事件」が起こった場所を「能登半島沖の、日本の排他的経済水域(EEZ)内」としか明らかにせず、あたかも韓国側、あるいは遭難したとされる北朝鮮の漁船が日本の領域で不法なことをしていたかのような印象を与えようとした。実際には「独島の北東200キロの公海上」(韓国側発表)で日韓双方がEEZを主張する「日韓暫定水域」であり、韓国軍艦がいても、北朝鮮の遭難漁船がいても何の不思議もない海域だ。能登半島とは数百キロ離れ半島沖とは強弁に過ぎる。事件の場所さえ自分の都合のいいようにしか言わない印象操作の酷さである。
 二つ目の印象操作は防衛省発表の「クァンゲト・デワン」の写真である。TVで何度も流された写真は右舷側上空から撮影したもので、艦尾の火器管制(照準用)レーダーがP1の方を向いている。照準用レーダーは細い電波のビームを相手にまっすぐ向けるので、視聴者は当然、「ああ、レーダーを照射されている」という印象を受ける。しかし、これも全くの印象操作だ。後に防衛省が公表したP1の飛行経路図によれば、P1が同艦の右舷側から撮影できるのは最も接近したD地点である。韓国側は照準レーダーは作動させていないが、レーダーと連動した光学カメラを向けていたと公表しているから、レーダーがP1を向いていても不思議はない。しかし、実際にP1がレーダー照射を受けたとされるのは、それからずっと離れたG地点だ。その時の位置は左舷側で、レーダーが向いているかどうか分からないほど遠い。だから自衛隊が提示した写真は何の証拠にもならない。

誰も取り上げない自衛隊機の行動の意味
 日本政府はもちろん、日本のメディアが一切取り上げないが、最も重大な問題はP1がどんなタイミングで接近行動を取ったかと言うことだ。韓国側が公表したビデオの映像は、韓国警備救難艦「サンボンギョ」の搭載小型艇から撮影したもので、P1が「クァンゲト・デワン」の近くを高度150m程で飛んでいることが分かる。P1がこの救難艦とボートに最も接近したのはこれよりも早い段階で(1)地点である。その時の状況を考えてみれば、日本側の行動の乱暴さ、危険性がよく分かる。韓国側は日韓暫定水域で遭難した北朝鮮の漁船と思われる船舶の乗組員を救助するために行動していた。南北間は関係改善が進んだと行っても、本当に遭難漁船かどうか判断はつかない。これまでの例から工作船という可能性も絶対ないとはいえない。だから万一のことを考えて、海洋警察庁だけでなく海軍まで出動していたのだ。そして、まさに遭難漁船と思われる船に救難艦の小型搭載艇が慎重に近づいている、そのときに威嚇するかのように低空で日の丸を付けた大型の哨戒機が接近してきたのだ。救助をしている当事者にしてみれば、無神経極まりない、威圧的な行動に我慢ができなかったことだろう。いい加減にしろと思っていたに違いない。
 日本の哨戒機は何をしていたのか。哨戒機は二つの目的を持っていた。一つは「瀬取り」監視と北朝鮮に対する経済封鎖を徹底し、北朝鮮を締め上げることだ。そのため韓国の海洋警察と海軍が何をしているのか嗅ぎ回るために低空で接近して監視していたのだ。もう一つは韓国海軍の軍事情報の収集だ。韓国海軍の駆逐艦がどの周波数でどんな特性の電波を出しているか。それを収集していたのだ。これは戦時にどこの軍艦がレーダーを当ててきたかを知るために、さらにそのレーダーを電子妨害装置ECMで妨害するために情報を集めて回っているのだ。それが本来のP1の任務である。
 人命救助のために、引いては南北の緊張緩和のために行動している韓国軍艦と、緊張激化と制裁徹底のために接近してきた自衛隊機、そのどちらが正しいことをしていたのか。低空飛行での威圧に対して、韓国政府が謝罪を求めたことは全く正しい。まずは日本側が謝罪すべき案件であったのだ。

作為的に仕立て上げた茶番劇
 この事件で日本側は韓国側がレーダーに関わる軍事情報を絶対に出せないことを分かっていた。照準用レーダーの電波情報など出せるはずがない。他国に知られたら、有事にその周波数で電波妨害をされて照準ができなくなり、武装解除されたのと同じになる。従って「交換に日本側もP1の情報を出す」と言っても絶対に出さなくてすむことを分かった上で、相手を情報公開で難詰し、自分の方から大きな政治問題に仕立て上げたのだ。意図的な演出、相手を感情的に批判し、決めつつけるだけの茶番劇を行ったのだ。
 照準レーダー照射があったのかどうかは不明である。日本側は受けたと言い、韓国側は捜索レーダーは使ったが照準レーダーは使ってないという。日本側が政治問題化した時点で真相は明らかにできなくなった。しかし、万一照準レーダーを浴びたとしても、自動的に危険が迫っていたわけではない。現にP1は大砲が向いておらず危険はないと確認している。ビデオを見ても1度目の照射で危険を感じて離脱を図ってもいない。危険ではなかったのだ。
 せいぜい事務レベルでの抗議と今後の防止協議程度で終わるべき問題を、官邸主導で次々と一方的韓国批判を浴びせかけ大騒ぎにさせたのだ。事件を一方的に公表した、協議中にも関わらず問答無用でビデオを公表した、データを見せろと一方的に要求する、最後には勝手に協議を打ち切る。「事実を認めろ」「謝罪せよ」「証拠を出せ」と言いたいことだけ繰り返す。はじめから話し合いなど目的ではないと誰もが分かることだ。
 この大騒ぎの犯人は誰か。それは誰が得をしたのか見れば自明だ。大法院判決で日本企業が次々敗北し、資産の差し押さえが始まる時に、日本政府の無策、外交のなさを批判されることを、この韓国批判の大合唱でごまかした。ほとんど全てのメディア、ほとんどの政党をこの大合唱にひきずりこみ、政府を支持させた。嫌韓、排外主義の感情的煽動を煽り、国内の世論を嫌韓、右傾化させ、右翼的な自己の政治基盤を固めた。得をしたのは安倍自民党であり、7月の参議院選挙を念頭に置いた周到な宣伝であったことが分かる。

 ただし、自己の都合で日韓関係を対立激化させ見通せなくさせたつけは自分で払わなければならない。事件直後に、日本側は「日常的頻繁に韓国軍艦に対して自衛隊機が低空威嚇飛行をしている、やめるべきだ」と批判された。日本政府は「高度150m、距離500mは守っており、脅威は与えていない」と開き直った。しかし、高度60m、距離540mの飛行をしていた証拠を突きつけられて反論さえできなかった。完全に敗北である。また「防空識別圏に中国機が入ってきた」と毎回大騒ぎしているのに、この件では哨戒機が堂々と韓国、中国の防空識別圏に入っており、日本側のダブルスタンダードも明らかになっている。
 より重要なことは、このような目先の利害で官製ヘイトを煽る安倍政権のやり方は、米朝会談が間近に迫り、これから朝鮮半島とアジア情勢の根本的変化が進んでいく中で、歴史の流れから全く取り残され、より一層の孤立と無力化を余儀なくされるだろうということだ。

2019年2月9日
リブ・イン・ピース☆9+25