百田氏と自民党議員によるウソと暴言 6月25日、安倍首相に近い若手議員の勉強会「文化芸術懇話会」の講演で作家の百田尚樹氏が「沖縄の2つの新聞はつぶさなあかん」と発言し、さらに参加した議員らが「マスコミを懲らしめるには広告料収入がなくなるのが一番」(大西英男議員)、「沖縄のゆがんだ世論を正しい方向に持って行く」(長尾敬議員)などと続いて発言して盛り上がり、拍手喝采したと報じられました。大西議員はいまだに「マスコミを懲らしめる」発言を撤回していません。百田氏は「冗談だった」と言っていますが、民主主義の根幹にかかわる重大事案を「冗談」ではすまされません。松井一郎大阪府知事は「百田さんにも言論の自由がある」と百田氏を擁護しました。権力を持つ者が、批判的なメディアをつぶす言論の自由などありません。百田氏はこれ以外にも「普天間住民は商売目当てであとからやってきた」「1000万円以上の基地収入を得ている」「もとは田んぼの中」など沖縄の歴史を全く歪曲した発言を繰り返しました。歴史歪曲は基地押しつけ正当化のためです。
安倍首相は当初開き直り「私的会合」などと人ごとのように語っていましたが、問題が大きくなるとみるや一転し、7月3日には「大変残念で、沖縄の皆さまの気持ちを傷つけたとすれば、申し訳ないと思っている」と述べました。しかしこんなものは謝罪でもなんでもありません。この会合は自民党本部で開催され、加藤官房副長官、萩生田光一党総裁特別補佐など安倍政権の中枢を担う議員をはじめ37人が出席しています。私的会合どころではありません。安倍自民党政権による、基地反対世論を代弁する沖縄主要メディアへの言論圧殺事件なのです。 安倍首相はこのことを真正面から認め、謝罪し、責任をとるべきです。 沖縄の世論を封じ込めることは許されない 標的にされたのは「沖縄タイムス」と「琉球新報」の2紙です。沖縄では新聞販売のシェアがこの2紙で90%を占め(販売数は両紙がほぼ拮抗)、併読する人も多いと言われています。それだけこの2紙への支持が大きいということです。百田氏の発言に対して、6月26日沖縄タイムスと琉球新報の編集局長連名で抗議声明を出しました。ライバル紙の共同声明ははじめてのことです。それだけ両紙の危機感と怒りが強いのです。沖縄にはかつて米軍や政権に近い新聞も10以上ありましたが、戦争反対と平和を社是と掲げた2紙が県民の支持を得て残りました。米軍基地に反対する記事も積極的に展開しています。この2紙をつぶせということは、沖縄県民の口を封じ、目や耳をもぎ取ることに等しいのです。 土地から住民を追い出して造った普天間基地 百田氏はウソをつくな
沖縄タイムスと琉球新報の編集局長は7月2日記者会見を開き、百田氏が「二紙をつぶせ」と言ったことよりも、沖縄の世論を「ゆがんでいる」と侮辱したこと、普天間の歴史をねつ造したことに対する怒りが強かったと語りました。世論に影響力のある流行作家が勝手にウソの歴史をでっち上げて語ることの無責任性を指弾しました。 二つの新聞は百田氏の発言に対して明確に反論し、9000人以上が住んでいた土地のど真ん中を勝手に接収し基地を建設したこと、75%以上の地主は200万円以下の土地代しかもらっていないなどの検証をし反駁しています。そもそも土地と住居を強制的に奪われた人に対する保障が1000万円であろうがいくらであろうが額の過多がその苦痛を減じるものではないのはいうまでもないことです。 米軍が住民を追い出して基地建設 普天間飛行場は戦争末期、沖縄戦において1945年4月に本島に上陸した米軍が住民を強制排除し、占拠した土地に建設したものです。本土決戦に備え、米軍用滑走路にすべく建設が始められたのです。 米軍は土地接収後、居住していた住民を野嵩収容所などに送り、立ち入りを禁止にしました。住民は1年半にも渡って強制収容された後46年9月に出された帰村許可を皮切りに、かつて居住していた地域に帰ることが許されました。しかし、建設された飛行場区域内で暮らしていた人々は帰ることができず、周辺への居住を余儀なくされました。神山、中原、新城、宜野湾などの地域ではいまでも多くの土地が接収されたままです(参照:沖縄タイムス、琉球新報など)。 基地と基地被害の受け入れさせるために ウソの歴史を吹聴 百田氏は、“基地周辺に「選んで住んだ」”とか“学校が出て行かない”などと周辺に住んだ者の責任であるかのように言っています。しかし現在の飛行場施設内には宜野湾村役場(当時)や住居、畑、馬場、国の天然記念物に戦前指定されていた「宜野湾並松」などがあり、住民の生活環境自体が米軍によって奪われたのです。 住民を排除し、広大な土地を暴力的・強制的に奪っておいて、やむなくその周辺に居住した人に対して「選んで住んだ」「住民は我慢せよ、イヤなら引っ越せ」とは、甚だしい侮辱です。生まれた場所で、愛着のある学校に通うのは当たり前のことです。沖縄を故郷とする住民が我慢しなければならない理由はありません。米軍基地こそ出て行くべきです。 言論圧殺発言も偶然ではない「文化芸術懇話会」 メディアへの露骨な介入を繰り返してきた安倍政権 メディアへの露骨な介入、統制を先導してきたのは安倍政権自身です。政権発足後から安倍首相は、NHK経営委員への百田氏ら右翼の送り込み、朝日新聞バッシング、報道ステーションへの介入、アベノミクス批判報道への自粛要請等々、少しでも安倍政権やその政策に批判的なメディアを攻撃し、報道規制を強要してきました。その結果各メディアが自粛をするようになり、政権を公然と批判するのは、沖縄の2紙や「東京新聞」などに限られるという異常事態が生まれています。
それだけではありません。「文化芸術懇話会」なるものは、安倍政権にとって好ましい文化・芸術を推進するためのもの、価値観や芸術的指向などに政権が介入し統制していくという基本思想をもとにしているのです。脱原発や平和に取り組む「リベラル系」芸術家・文化人に対抗するために立ち上げられた会とされます。 かつてドイツ・ナチスが、前衛的・先進的な芸術などを弾圧した例、戦時下の日本で「風紀を乱す」「非国民」などとして様々な芸術・文化活動、風俗が規制・統制されたことを想起させます。長尾敬衆院議員は「沖縄はタイムス、新報の牙城の中で、左翼勢力に完全に乗っ取られちゃっている」と発言していますが、これこそ基地によって生活が破壊される県民の当然の思いを「左翼勢力」などとレッテルを貼り、「偏向報道はつぶすのが当然」という世論を醸し出そうとしているのです。教科書に政府見解を書かせるのと同様です。 自民党議員に対するテレビ出演自粛要請、TBSアンケート回答拒否指示。リベラル系議員勉強会の中止指令等政権批判というよりも安倍批判を封じ込めるという強権・強硬姿勢は批判を恐れるというもろさと表裏一体のものです。 右翼団体と結びついた「文化芸術懇話会」 安倍応援団の若手勉強会「文化芸術懇話会」は右翼団体「日本会議」や「美しい日本をつくる会」と密接な結びつきをもっています。百田尚樹氏は「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の代表発起人であり、「日本会議」が改憲運動のために立ち上げた会です。勉強会の中心木原稔議員は、「熊本県親学推進議員連盟」設立に関わり、日本国憲法のもとですすめられてきた戦後の民主主義教育を攻撃しています。そもそも安倍内閣自体が「日本会議内閣」と言われているのです。 もっとも「懇話会」は、沖縄基地の歴史も見ようとしない若手議員が百田氏のウソ発言に拍手喝采するという低レベルにあり、「文化・芸術」を云々するというより、“有名人を呼んで安倍首相をもり立てよう”程度のことをやろうとして、墓穴を掘ったというのが実態かもしれません。そもそも百田氏は「人間のくず」「南京大虐殺はなかった」などの発言をして批判にさらされた張本人です。その人物を講師として迎えること自体がこの会の危険性を表しています。 言論圧殺に抗議し、戦争法反対・新基地反対の声を「本土」からあげよう 百田氏発言の中にある根深い沖縄差別と蔑視こそ問題 この問題を、単なる百田氏と沖縄県、自民党と沖縄基地の問題とすることなどできません。「本土」に住む者の責任として、私たちこそ大きな声を上げて、沖縄への口封じに抗議しなければなりません。7月6日に那覇市で行われた安保法制地方公聴会では、「沖縄の人々を見下している」「沖縄差別、蔑視」といった自民党政権の姿勢がまず批判されました。そして安倍政権が進める戦争法によって「再び沖縄が捨て石にされる」「米軍と自衛隊が来て戦争が起こったら基地の集中する沖縄が一番に狙われる」(稲嶺氏)、「軍隊は住民を守らないというのが沖縄戦の教訓だ」(太田氏)、「米国の要望に応えていったら、自衛隊の活動は際限がなくなる」(高峰氏)等と述べて憲法違反の戦争法の危険性が訴えられました。政府側参考人でさえ、“政府が拡大解釈する危険がある”“軍事より外交を優先すべきだ”などと懸念を述べました。 百田氏は、これらの発言を「ゆがめられた世論」と断じ、圧殺せよといっているのです。 「本土」でこそ、辺野古新基地反対と戦争法反対を声高く訴えよう 戦争法が成立し、軍事的緊張が高まれば、沖縄はもっとも戦争の危険が高まる地域になります。沖縄の人々は何度もNOを表明しているにもかかわらず、日本政府は辺野古新基地建設のための工事を強行しています。「南西重視」で八重山諸島に陸上自衛隊基地を置き、さらに辺野古新基地を米軍・自衛隊共用にしようとさえ画策しています。県民の四人に一人が犠牲になった沖縄戦。「本土決戦」の捨て石にしようとした沖縄。戦争法で再び沖縄を捨て石にしてはなりません。 沖縄の声に耳を傾け、自分たち自身の問題と捉え、「本土」でこそ辺野古新基地反対、戦争法反対を声高く訴えましょう。
2015年7月11日 |
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