78年目の敗戦記念日が来ました。岸田首相は、今年も侵略戦争と植民地支配で未曽有の被害を与えた周辺諸国への謝罪・追悼を行いませんでした。侵略国家が真っ先に謝罪と追悼すべき被害者を無視して、自国の被害者だけを追悼するのは、国のために犠牲になったものは追悼するから、お国の為に戦いえという靖国思想と変わりません。平和の誓いとはとうてい言えません。追悼式の式辞で岸田首相は「積極的平和主義の旗の下、国際社会と手を携え、世界が直面する課題の解決に取り組む」と強調しましたが、直面する課題とは「中国の脅威」のことで、米国との軍事同盟の下で対中国戦争の準備をする宣言としか受け取れません。侵略戦争をなかったことにして、さらに次の戦争を準備するというとんでもない宣言です。 それだけではありません。岸田首相は8月6日に広島で、「核をなくし、対話を通じた信頼関係で平和を実現すべき」「核兵器の存在を認めて核の脅しで安全を守るやり方では平和を実現できない」という松井広島市長と被爆者の声に対して、核兵器禁止条約に一言も触れずに全く無視し、核兵器の保持を前提に、核抑止力の優位で抑止する、それが平和だという「G7ヒロシマビジョン」を持ち出して米国の核兵器を擁護し、正当化しました。被爆国の首相が核兵器禁止条約に加盟せよという願いを無視するばかりか、核兵器保有国に対して核軍備縮小の要求さえせず、あっけらかんと核戦力肯定、必要論を主張している事にはあきれる他ありません。 中国との戦争を煽る麻生発言 一連の発言の中で極めつきは麻生副総裁が台湾で行った講演です。中国と「戦う覚悟を持て」という講演は好戦的、挑発的で決して許されません。日本を対中戦争に導こうとする岸田政権の進路と思惑を示しており、徹底的に批判し撤回させなければなりません。 麻生副総裁の発言は、8日、現職の副総裁としては初めて訪台し、台湾外交部などが主催するシンポジウム「ケダガランフォーラム」で基調講演として行ったものです。単なる個人、一政治家としてではなく、元首相、自民党の副総裁が公的に行ったものです。メディアは麻生氏の軽率・言い過ぎ・暴走であるかのように言いいますが、全く違います。自民党の鈴木政調副会長は「政府と調整した結果だ」と認めており、岸田を代弁する発言で極めて重大です。講演要旨は以下の通りです。 「日本と台湾を取り巻く環境は大きく変化した。平時から非常時に変わりつつある」 「台湾海峡を含むこの地域で戦争を起こさせない」ためには「抑止力が必要だ」「抑止力には能力、行使の意志、相手に伝える」があり、今は非常時で、行使の決意を含む抑止力が必要だと述べたのです。 その上で、「今ほど日本、台湾、アメリカをはじめとした有志の国々に強い抑止力を機能させる覚悟が求められている時代はない」「戦う覚悟だ」「いざとなったら、台湾海峡の安定のために防衛力を使うという明確な意思を相手に伝えることが抑止力になる」などとと強調しています。 麻生発言は、あからさまに中国を相手として、台湾をめぐって「戦う覚悟」を持てと戦争の準備と決意を煽り立てる異常極まりないものです。それは日中の平和共存を頭から否定し、両国間に対立と戦争を煽るとんでもない発言です。その問題点を徹底的に批判しなければなりません。 日中共同声明、平和友好条約を踏みにじる妄言 まず第1に、あきれるような露骨な内政干渉と中国敵視です。あからさまに台湾の中国からの分裂(独立)を煽り、それを支えるために日本は「戦う覚悟」を持てとぶち上げています。戦争を弄び、どこまで無責任なのでしょうか。1972年の「日中共同声明」は「日本は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する」「中国政府は、台湾が中国の領土の不可分の一部であること表明し、日本は、この中国の立場を十分理解し、尊重する」としました。台湾は中国の一部であると認めたから、日本は台湾との外交関係を解消したのです。45年前の1978年には「日中友好平和条約」が締結されました。日本が友好平和条約を結び、不戦、友好を相互に確認したのは中国ただ一国です。この条約は、@両国は、主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則の基礎の上に、両国間の恒久的な平和友好関係を発展させる。A両国は、・・・すべての紛争を平和的手段により解決し及び武力又は武力による威嚇に訴えない(以上一条)。B両国は、・・・覇権を求めるべきではなく、また、覇権を確立しようとする他のいかなる国又は国の集団による試みにも反対する(二条)。C平等及び互恵並びに内政に対する相互不干渉の原則に従い、両国間の経済関係及び文化関係の一層の発展並びに両国民の交流の促進のために努力する(三条)と確認しました。言うまでもなく現在の日中関係の基礎には「一つの中国」「台湾はその一部」「平和友好」があるのです。これらを全部否定し、中国の内政問題である台湾問題に介入して中国から分裂させようとし、平和友好を踏みにじって戦争する覚悟を持てというのは、国際条約を否定し、これまでの日本政府の立場さえ全面否定するとんでもない主張です。 憲法の戦争放棄・武力不行使・威嚇放棄さえ踏みにじる 第2に、環境が「大変化」したと戦争の覚悟をあおり、対中戦争に備えよと呼びかける、そのために軍事力(抑止力)を強化せよという主張は、戦争放棄、武力不行使、武力による威嚇を否定した日本国憲法を否定する立場です。「平和」のためには相手を上回る抑止力が必要だという主張は、政府が従来言ってきた「専守防衛」さえ踏みにじるものです。これは「安保3文書」の抑止力論で「ミサイル防衛」だけでは足りない、相手に手を出させない攻撃力(抑止力)が必要だという主張と共通です。軍事力の威嚇で相手を抑え込む、相手を上回る軍事力の追求は、際限ない軍拡競争を引き起こすだけでなく、地域の緊張を高め、戦争の危険を高めるとんでもない主張です。現に日中関係を悪化させておいて、戦争に近づけようとするものです。平和外交の否定であり、日中だけでなく地域の貿易や協力を後退させる危険極まりにない主張です。麻生副総理の言動は日中だけでなく、アジア全体に対立激化と戦争を引き込もうとするものです。秋に岸田首相は訪中を考えていますが、麻生発言は日中の友好改善をぶち壊す行為です。麻生発言が政府と調整済みなら岸田首相は関係改善と友好強化に行くのではなく、日米同盟を背景に中国を威嚇に行くということです。 侵略と植民地支配に対する無反省の厚顔無恥 第3に、何より歴史を忘れ、書き換えようとする傲慢な行為です。1945年の敗戦から78年、麻生副総裁は日本が侵略戦争と植民地支配で中国、台湾を初めアジアで何千万人もの人を殺し、被害を与えたことを全く反省していないと言うほかありません。その反省がないからこそ、平和友好ではなく戦争と「戦う覚悟」を煽り立て、戦争前夜と騒ぎ立て、そういう世相に持ち込もうとしているのです。再び戦争に日本も、台湾も、中国も引きずり込もうとする人物を許してはなりません。 第4に、麻生発言は、再び戦場にされると感じ、危機感を募らせている南西諸島の人々に恐怖と脅威を与え命を危険にさらすものです。「戦う覚悟」といいますが、南西諸島の人々にとっては戦場になること、戦争で犠牲を押しつけられることを受け入れろ、再び家族が殺される覚悟せよとせまるものです。受け入れられるはずがありません。南西諸島の人々が怒って反対し糾弾するのは当たり前です。「台湾有事」と関係して「沖縄は対中戦争準備に協力すべき」「日本の一部だから我慢して当たり前」と南西諸島の人々、戦争準備に反対する人々をあたかも「非国民」であるかのようにののしるヘイトが広がっています。麻生発言はこれらのヘイト、沖縄差別を助長するもの、戦争に反対する人々を押さえ付けるものです。 最後に、台湾の人々にとっても麻生発言は迷惑極まりない、命を脅かすものです。麻生副総裁は台湾で来年の総統選挙では「中国寄りの候補者を選べば台湾は滅びる」と民進党と蔡英文をほめたたえましたが完全な内政干渉です。何より台湾では世論が戦争になることを嫌い「現状維持」を選んでおり、即時独立など主張する人はごく少数に過ぎないのに、分裂せよ(独立せよ)、戦おうと煽り立てるのは犯罪的行為です。戦争になって台湾や中国、そして日本の人々にとんでもない被害が出ても、麻生は自分のせいではないと考えるのでしょう。しかし、戦争に追いやられて、命を奪われる人々にとって笑い事では済まされません。 麻生発言を徹底追及し、対中戦争準備に反対しよう 安倍元首相や安倍派、自民党の右翼的議員は「台湾有事は日本有事」と言い続け、中国に内政干渉し、政治的対決をふっかけてきました。麻生発言はさらにエスカレートしています。対中戦争を「戦う覚悟を持て」というのは戦争するぞと相手に突きつけることに他なりません。それと歩調を合わせて対中戦争の準備を進めています。岸田政権は「敵基地攻撃能力」として1500発もの長距離巡航ミサイル装備を進めています。戦後初めて本格的に他国を攻撃する手段を手に入れるつもりです。彼らは米国の指示通り2027年に戦争ができる状態を作ろうとしています。それは7月に日本戦略センターが元大臣や官僚、自衛隊幹部を集めて行った机上演習が2027年に対中戦争開始をシナリオにし、そのための法的、制度的準備を追求していることからも明らかです。メディアは「中国の脅威」[中国が台湾・尖閣に攻めてくる」と煽り立てていますが、実際に軍事挑発を繰り返し、軍事的包囲と戦争準備を進めているのは米日の方です。敗戦78年目の夏に、再び中国に戦争をふっかけ、アジア全体を戦争に巻き込む策動など許せません。麻生発言を糾弾し、その撤回、麻生の議員辞職を要求していきましょう。岸田政権の対中戦争準備を阻止する世論と運動を作り上げていきましょう。 2023年8月19日 |
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