(1)9月15日、米バイデン大統領、英ジョンソン首相、豪モリスン首相が共同で会見を開き、米英豪3国が対中国で新しい軍事同盟AUKUSを結成したことを公表しました。 3首脳の声明はAUKUSが、(1)インド太平洋での外交・安全保障・防衛協力の強化のための3国間のパートナーシップの創設であり、(2)最初の行動はオーストラリアに8隻の原子力潜水艦艦隊を取得させること、(3)さらに、今後の軍事技術の核心となるサイバー能力、人工知能、量子技術、海底活動能力で技術協力を3国間で進めることを確認しました。(4)モリスン首相は原潜はオーストラリアのアデレードで造られることを確認し、3国首脳はオーストラリアが核兵器の取得を行うつもりがないこと、国際原子力機関IAEAと核拡散防止条約NPTの非核保有国の義務を遵守すると表明しました。 私たちは、この新しい対中国の軍事同盟に反対し、インド太平洋で対立と軍事的緊張を煽ることに反対します。 (2)AUKUSは名指しこそしていませんが明らかに対中国を念頭に置いた新しい軍事同盟創設です。しかも、対中で最も強硬ですぐさま共同歩調で軍事行動に踏み出せる米英豪3国を対中軍事同盟の核とすることを意味します。対中国で対決姿勢が鮮明でない欧州、法的政治的制約がつきまとう日本や韓国、クアッドに参加しつつも非同盟を維持するインドに対して、米はAUKUSに結集する3国が強硬線を示すことでリーダーシップを取ろうとしているのです。この同盟は今後の対中国軍事包囲、軍事挑発と戦争準備態勢構築で最も危険な役割を果たします。新しくこのような軍事同盟を作る事自体が南シナ海と東シナ海・台湾海峡をめぐる国々と地域で政治的緊張を高め、軍拡競争を煽り、軍事的不安定性を高め、戦争の危険を作りだすものです。 AUKUSの危険な第一歩はオーストラリアに原子力潜水艦艦隊を保有させることです。それは中国の戦略ミサイル(SLBM)潜水艦が潜む最もセンシティブな南シナ海での軍事力のバランスを米に有利に変えることを直接狙ってます。中国が保有する原子力潜水艦はSLBM型が6隻、攻撃型が6隻です(他に通常型の攻撃型潜水艦があります)。米は太平洋と大西洋に分かれるとはいえ14隻のSLBM型と54隻の攻撃型をもっています。英はSLBM型4隻と攻撃型7隻ですが、太平洋への派遣能力は極めて限られます。そこにオーストラリアが8隻の原潜をもち南シナ海で行動する米軍に加わるなら影響は極めて大くなります。中国はこの将来の増強に対抗措置を執らざるを得なくなります。そしてそれは中国に対抗意識を持つ地域各国の対応する軍拡を引き起こし、この地域に新しい軍拡競争をもたらすことは自明です。 中国外交部の趙立堅報道官は9月16日にAUKUS結成を「米英豪の原子力潜水艦協力は地域の平和と安定を深刻に損ない、軍拡競争と激化させ、国際的な核不拡散の努力を損なうものだ」と批判しましたが、まさにその通りです。 (3)今年、米国はオーストラリアと並んで欧州諸国の軍事力を太平洋に結集させて対中軍事包囲の体制を示しました。英は空母クイーンエリザベスとその艦隊(オランダの駆逐艦が含まれます)を、仏は強襲揚陸艦部隊と海兵隊を、ドイツも駆逐艦を送り込みました。米を軸に日豪がホストとなって各国が南シナ海、台湾海峡、東シナ海、日本で多数の共同訓練と演習を行いました。米日豪印4カ国(クアッド)はインド洋・太平洋での共同訓練に続き、現在首脳会議が開かれています。これらの活発な軍事行動は、アフガニスタン戦争に変わって、米の次の戦争準備、競争戦略の標的が中国に向けられていることを示しています。 米国の現在の対中軍事戦略の柱には「海洋プレッシャー戦略」が置かれています。日本や南西諸島などの第1列島線をミサイル基地・要塞化し、そこを舞台・戦場として中国を包囲し、戦闘態勢を作ろうというものです。この戦略で南シナ海包囲では距離が近いオーストラリアの比重は大きくなります。南シナ海へ豪海軍を出撃させるだけでなく、中国の攻撃先を分散させるためにも米軍の展開拠点を増やし、配備部隊の増強が追求されています。AUKUSはこの米豪関係を強化し、同盟国として更に貢献させるものです。加えて来年から2隻の哨戒艦艇を太平洋に常駐させ「グローバル・ブリテン」をめざす英国に、補給、基地提供でオーストラリアの支援を強化しようというものです。 (4)3国首相はいずれもオーストラリアの原潜保有は核兵器保有ではない、IAEAとNPTの非核保有国の義務に従うと表明しています。しかし、元来原潜は長距離進出力と強力な打撃力を持つものです。これまで原潜保有国で核攻撃力を持たない国はありませんでした。声明ではオーストラリアの原潜がSLBM型ではないと明記されていません。また現在米の攻撃型原潜は核ミサイルを搭載しておらず、潜水艦発射が可能な核搭載型トマホークは中距離核全廃条約INFとの関係で一旦は廃止されたましたが、INFを破棄した米国がいつ復活させるか分かりません。米国が核トマホークを再び生産すれば、オーストラリアが核武装することはすぐに可能になるでしょう。原潜艦隊の保有が核兵器保有と核拡散につながる危険性を否定できないのです。 さらに、オーストラリアの原潜は米、英の攻撃型原潜に基づいて開発するとされていますが、両国の原潜の原子炉の核燃料は濃縮度93%という兵器級の高濃縮ウランであり、直ちに核兵器に転用が可能なグレードです。4%程度の低濃縮ウランを使う発電用原子炉とはまったく異なります。そして、オーストラリアのように原潜建造に乗り出せば、軍事機密を口実に高濃縮ウランに係わるIAEAやNPTの査察を回避できるのです。すでに韓国などが原潜保有を検討しています。オーストラリアの原潜に倣って他の国が核武装への突破口として原潜保有に踏みだし、核拡散と核軍拡核競争が始まる危険性があるのです。人ごとではなく、日本の支配層、タカ派政権こそ原潜保有、場合によっては中国攻撃用のSLBM潜水艦開発に進みかねない危険性を持っています。 (5)世界の反戦平和運動、米国が押しつけようとしている「新冷戦」に反対する運動はAUKUSに強い反対の声を上げています。米中「新冷戦」、インド太平洋で軍拡競争と戦争の推進力になるからです。 米国がアフガニスタン戦争から敗北し撤退を余儀なくされながら、すぐさま中国に矛先を向け新しい軍事同盟を作ったことには呆れるほかありません。次々と戦争を求める米国の戦争国家としての姿が顕著です。国連総会で「新冷戦を求めない」と演説しても何の説得力もありません。 しかし、米国の力がますます限定されていることは確かです。アフガニスタンからの撤退もそうです。今回のAUKUS結成も、オーストラリアに通常型潜水艦12隻の契約を破棄されたフランスとEUの怒りと不信をもたらしています。AUKUSで外から緊張激化を押しつけられるマレーシア、インドネシアなどASEAN諸国から批判と不満が吹き出しています。米国や欧州諸国がインド太平洋戦略を次々と発表して群がってくるのは、中国と並んで世界最大の成長センターであるASEANへの参入を狙っているからです。しかし、中国やASEANの経済成長は平和と安定を必要条件とします。米やAUKUSが押しつけようとしていることは、これら地域の諸国の願いとは真っ向から反するものです。 茂木外相はAUKUS創設を歓迎しました。日本政府はこの対中軍事同盟に歩調を合わせて対中対決に進むつもりです。私たちは対中戦争と軍事対決の準備には反対です。AUKUSに反対すると共に、日本政府にAUKUS歓迎の撤回を要求します。米国が準備する次の戦争構想では、南西諸島をはじめとする日本全体が戦場になり、自衛隊と在日米軍が最先頭で多大な犠牲を払いながら戦うことが前提になっています。国と経済全体を滅ぼすような計画に自分から志願して参加するなどまともとは思われません。直ちに平和外交、諸国との平和共存と経済協力を進めるための外交に方針転換することを求めます。 2021年9月23日 |
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