徴用工問題「解決策」は解決ではない
日本政府・企業は、謝罪し、賠償に応じよ
日米韓による、中国・北朝鮮包囲網反対

 3月6日、韓国・尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は、徴用工問題について、日本企業に命じられた賠償分を財団が肩代わりする「解決策」を発表しました。日本の岸田政権はこれを受け入れて決着としようとしています。私たちはこのような、被害者を置き去りにし、日本の戦争責任を不問に付す「解決策」を認めることはできません。岸田政権が、このような「解決策」を韓国の被害者と国民に強要することに断固反対します。

「解決策」は日本政府と企業の免罪
 2018年秋、戦時中日本で強制労働させられた韓国人元徴用工が、日本製鉄と三菱重工業に損害賠償を求めた2つの訴訟で、韓国大法院(最高裁)は、企業側に損害賠償を支払うよう命じました。当時の安倍政権はじめ日本政府は、この判決について「賠償問題は1965年の日韓請求権協定で解決済み」「国際法違反」となじり、被告企業は判決を無視し賠償金を支払ってきませんでした。
 今回の「解決策」は、韓国政府傘下の日帝強制動員被害者支援財団が、請求権協定で恩恵を受けた韓国側企業(ポスコなど)から寄付金を集め、大法院判決で勝訴した被害者に賠償金を支給するというものです。日本の被告企業(日本製鉄、三菱重工業)は関与せず、資金も拠出しません。
 これは、日鉄と三菱重工の「損害賠償責任」を認めた大法院判決を真っ向から否定し、日本政府と企業を免罪するものです。強制動員に対する日本政府の謝罪も、企業の謝罪と賠償も含まれていません。大法院の判決を拒否・無視してきた日本政府の言いなりといってよい内容です。侵略と植民地支配の被害者である原告が、20年以上にわたる苦闘の末にようやくつかみ取った勝訴判決を無力化させるものです。加害者の日本政府と企業は、自らの責任に頬被りし、「金を誰が払うか」という「韓国の国内問題」であるかのように扱って「高みの見物」を決め込み、韓国に強要したのがこの「解決策」です。韓国政府は1月に「解決策」を有力案として公表した後、被告企業による財団への拠出を求めていましたが、それにすらには日本側は応じませんでした。
 韓国側は、日本側に「誠意ある呼応」を求めていますが、日本側の対応は岸田政権が歴代内閣の「歴史認識」を「全体として引き継ぐ」ことを表明するだけです。この「歴史認識」自体が日本による侵略と植民地支配の責任をあいまいにしたもの(2015年の「安倍談話」も当然含まれる)である上に、それを「引き継ぐ」とだけ言って、改めて「お詫び」を表明することを避けるのが目的です。自衛隊OBの佐藤正久参議院議員は「反省とおわびを日韓関係の文脈で、今この時点で読み上げるのは絶対にしてはいけない」と、国会で岸田に言い含めていました。

「請求権協定で解決」は事実ではない
慰謝料は請求権協定の対象外、個人の請求権は消滅せず

 日本政府は、大法院判決を「国際法違反」と韓国を批判し、「ゴールポストを動かす」韓国を非難してきました。しかし、歴史的事実に基づかない主張です。日韓請求権協定では解決していません。
 まず、大法院判決が問題にした「不当な植民地支配の下で行われた不法行為に対する慰謝料」としての損害賠償は、日韓請求権協定では解決していません。なぜならば、日本は、韓国(朝鮮半島)に対する植民地支配をいまだに不法・不当と認めていないからです。一方、韓国は当然ながら不当と見なしています。日韓請求権協定と同時に結ばれた「日韓基本条約」は、1910年の「韓国併合」の不法性について棚上げしたまま結ばれました。不当・不法であれば慰謝料が問題になりますが、そうでなければ問題にならなりません。この点で日韓の共通認識がない限り、解決しようがありません。請求権協定は、賠償の問題は明確にされないまま結ばれたのです。
 さらに、日韓請求権協定で消滅したのは、国際法上の「外交保護権」(私人が某国によって損害を受けた場合に、その私人が国籍を持つ国が、某国の国家責任を追及する権限)のみであり、個人の請求権は消滅していません。これについては、日本政府も「日韓請求権協議におきまして、両国間の請求権の問題は最終かつ完全に解決したわけでございます。その意味するところでございますけれども、これは外交保護権を相互に放棄したということで、いわゆる個人の請求権そのものを、国内法的な意味で消滅させたというものではございません」(1991年8月27日、柳井俊二条約局長)と明確に述べています。ところが、2000年頃に、戦争責任を巡るいくつかの裁判で日本政府が不利になる例が出てきたため、突如解釈を変更し、「個人請求権も解決済み」と言いだしたのです。
 「ゴールポスト」を動かしたのはいったいどちらでしょうか? 以上の理由から、「請求権協定で解決ずみ」は事実ではなく、大法院判決も「国際法違反」などではありません。

日米韓で中国・北朝鮮包囲網を作るための「解決策」と「日韓正常化」
 今回の動きの背後には、米バイデン政権の強い働きかけがあったといわれています。日米が手を組んで、韓国国内からの反対の声を押しきって「解決策」を打ち出すよう尹政権に圧力をかけ、屈服させたのです。韓国が「解決策」を発表後、バイデン政権は即座にこれを「歴史的合意」と歓迎しました。4月6日に尹錫悦大統領が国賓として訪米することも発表しました。
 バイデン政権の目的は、中国や朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に対する包囲に韓国を引きずり込み、日米韓の強固な包囲網を形成することです。バイデン政権は「統合抑止力」、すなわち「米国が敵に対する際、同盟国やパートナー国とともに対峙する」戦略を掲げています。日韓の対立はその戦略に大きな障害であり、「日米韓同盟」を復活させることが必要なのです。「解決策」の発表後、その動きは急速に進められようとしています。日米韓3国による安全保障協議の枠組みが検討され、韓国がクアッド(日・米・オーストラリア・インド)に参加する可能性もあります。
 日韓の間でも、3月16日に尹錫悦大統領が訪日し、「シャトル外交」再開。日韓秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)の正常化などで合意しました。日本が大法院判決への事実上の報復として導入した、韓国向けの輸出規制についても解除を決めました。その他、「日韓安全保障対話」や「日韓次官戦略対話」の早期再開、経済安全保障に関する協議を立ち上げ、などを確認しました。
 さらに日米韓の連携によって半導体産業を強化し、中国とのデカップリング(経済関係の切り離し)を推進することも狙っています。
 こうした日米韓の連携で弾みを付けた上で、5月の広島G7サミットで世界的な中国包囲網の形成を確認しようとしているのです。サミットに韓国を招くことも決めました。私たちは、中国・北朝鮮包囲網のための、韓国への「解決策」強要に反対します。

日本国内から、「『解決策』は解決ではない」「日本政府・企業は謝罪し、賠償に応じよ」の声を
 尹政権による「解決策」は、韓国国内で支持されている訳ではありません。世論調査では、「日本の謝罪と賠償がなく反対」が59%と過半数を占め、「韓日関係と国益のため賛成」は35%にとどまっています(3月8〜9日、ギャラップによる)。韓国メディアでも、尹大統領訪日について岸田首相から「直接的な謝罪への言及がなかった」と批判的に報道されています。
 611の市民団体でつくる「歴史正義と平和な韓日関係のための共同行動」は3月7日、国会前で集会を開き「政府が『植民支配は違法』というわが国の憲法の根本的な秩序を自ら損ねた。日本が真に痛切な反省をしているのなら、今からでも謝罪し、韓国大法院の判決に従うべきだ」とする宣言文を発表しました。日韓首脳会談翌日の18日には、ソウル市庁広場で大規模集会を開催し1万3千人の市民が集まりました。政府に徴用問題の解決策の撤回を求める署名運動も始めました。
 徴用工裁判の原告も、「私は日本から謝罪を受ける前に死んでも死に切れません」(三菱重工訴訟原告の梁錦徳(ヤン・クンドク)さん)と訴えています。原告の一部は、賠償命令を受けた三菱重工業の債権の取り立てを求めて、ソウル中央地裁に提訴しました。
 韓国と日本の政府の間で「解決策」で合意したとしても、日本の植民地支配の被害者と韓国市民にそれを押しつけることでは、真の日韓友好を築くことなどできません。
 そもそも、日本の戦争責任の問題は、韓国ではなく日本の問題です。日本国内では、「強制動員問題解決と過去清算のための共同行動」が「歴史に目を閉ざし、被害者を置き去りにしたままでは解決にならない!」とする声明を出し、「コリアNGOセンター」など、在日コリアンを中心とした団体も、「解決策」への批判の声を上げています。それでも、極右からリベラルまで含め、政治家、評論家、マスコミ、ネット世論など、ほとんどが「解決策」を歓迎し、岸田政権の対応を支持しています。世論調査でも、韓国政府の「解決策」について「評価する」が55%で、「評価しない」28%を大きく上回っています(朝日新聞、3月18〜19日)。
 私たちは、日本人の責任として、こうした日本社会の雰囲気を変えなければならないと思います。日本国内から、「『解決策』は解決ではない」「日本政府・企業は謝罪し、賠償に応じよ」の声をあげましょう。歴史の真実を学び、日本の責任に真摯に向き合い、被害者への保障を実現するための声を広げるための活動を続けていきましょう。

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2023年3月27日
リブ・イン・ピース☆9+25