テレビ番組紹介 (2017年6月)
NHKスペシャル 「変貌するPKO現場からの報告」が示したもの
報告書からも隠された事実――7月10日、自衛隊は戦闘のまっただ中にいた!!

 2017年5月27日、南スーダンに派遣されていた自衛隊PKO部隊で最後まで現地に残っていた第11次隊の約40人が帰還した。自衛隊が派遣されていた南スーダンの首都ジュバの状況は極めて深刻で、政府軍と前副大統領派の反政府勢力との戦闘が起こっており、いつ自衛隊員に犠牲者が出てもおかしくなかったという状況だった。
 安倍政権はこの南スーダンの状況を隠ぺいし続けた。昨年7月にジュバで過去最大の大規模な戦闘が起こり数百人が死んだ。自衛隊部隊は日々報告(日報)に戦闘があったと書いた。政府はこの日報を「破棄した」と内容を隠した。意図的な情報隠蔽が暴露され、内容が明らかになっても政府は法的な意味での「戦闘」はなかった、「衝突」に過ぎないから問題ないと開き直っている。
 ところが、「戦闘があった」どころか、自衛隊の部隊は長時間にわたって激しい戦闘のまっただ中にいたのであり、施設には機関銃や小銃弾が当たり(これも隠し通した)、自衛隊員に死傷者が出なかったのは運がよかったためにすぎなかったのだ。この番組はNHKが防衛省に何度も取材を試みたが拒否され、独自の取材、映像、自衛隊員の証言を元に現地の生々しい様子を伝えた番組で、現実に戦闘が起こっていた事実が明らかになった。

PKOに何が起こっていたのか最前線からの報告
 2011年7月、6年前に独立した新しい国、南スーダンに国連は「独立戦争後の平和維持」と「国造り」を名目にPKO部隊を派遣した。しかし当初から極めて厳しい政治的軍事的対立が予想され、内戦の危機が指摘されていた。PKO5原則が満たされていないにもかかわらず、日本政府は自衛隊の施設部隊を派遣した。派遣された隊員たちは「この国のために何かできたらいいと思った、道路をまっすぐして人に感謝されるとやりがいがあった。」と番組の中で述べている。
 しかし、当初の予想通り2013年12月には大統領を率いる政府軍と前副大統領を支持する反政府勢力との間で大規模な内戦が勃発した。もはや日本のPKO派遣の条件が明らかになり立たず、即刻撤退させるべきであるにもかかわらず、政府は部隊を南スーダンに送り続けた。武力衝突が頻発するもとで、自衛隊は宿営地にこもり、宿営地内の道路補修や施設建設しかできないようになっていた。そして、昨年7月7日以降の大規模な内戦、戦闘が起こったのだ。
 すでに、市内では政府軍と反政府勢力が点在して各地で小競り合いが起きていた。そのため部隊は7月8日宿営地から7キロ離れたUNハウス地区で道路補修を行う予定であったが、活動中止の決定がされた。自衛隊が戦闘に巻き込まれる可能性が現実に生じたからだ。
 
 ジュバのPKO部隊の宿営地は、日本やイン ドなど六カ国が駐屯するUNトンピン地区 と中国などが宿営しているPKOの司令部が あるUNハウスの2つがある。

 7月10日午前11:00に自衛隊宿営地すぐそばでの銃撃戦が起こった。自衛隊宿営地に隣接するビルに反政府軍が立てこもり、自衛隊の頭越しに反対側にいる政府軍部隊と激しい銃撃戦が始まった。ただちに警備担当隊員に対して一斉退避命令がだされた。監視塔には銃弾が直撃し、倉庫、給水塔にも撃ち込まれた。自衛隊の宿営地の前を政府軍の戦車が走行し、反政府軍が立てこもるビルに向けて戦車砲で砲撃した。自衛隊員たちは防弾チョッキにヘルメットをかぶりプレハブ製の宿舎に隠れた。頭の上を銃弾が飛び交い、戦車砲が炸裂する中で自衛隊員に死傷者が出なかったのは運がよかったからに過ぎない。

宿舎中に銃撃音が鳴り響き隊員パニックに陥った。戦車砲の炸裂する衝撃波、風圧はものすごいものだった。戦闘が激しくなり家族宛に遺書を書く隊員。(隊員の証言より)

 

 この番組で明らかにされるまで自衛隊が被弾していた事実は完全に隠されていた。

 中国の部隊が宿営しているUNハウスに2000人の市民が助けを求めて避難してきた。逃げ込んだ避難民の中に反政府勢力の戦闘員が紛れ込み、避難民を守る中国軍部隊の装甲車にロケット弾が直撃し2人が死亡した。さらにUNハウスの宿舎にもロケット弾が直撃。銃弾が200箇所近く撃ち込まれた。
 自衛隊がいるUNトンピンにも5000人以上の市民が避難先を求めてきた。警備担当のルワンダ隊司令官は、たとえ隊員が危険な目に遭っても避難民を守らなければいけないと受け入れを決断した。





 すぐに、避難民はルワンダ隊の宿営地から自衛隊の目の前の通路にも移動してきた。
 避難民に反政府軍が紛れ込んでいて政府軍と反政府勢力の争いに巻き込まれる危険性が生じた。

 ルワンダ隊に砲弾3発が撃ち込まれた。事態が一気に悪化した。ロケット弾が隊長室を直撃し、部屋は一瞬にして破壊された。隊員、避難民が巻き込まれ大けがを負う。

 宿舎外からの攻撃に対して、自衛隊の隣にいたバングラデシュの施設隊が打ち返し、自衛隊は戦闘の渦中に置かれることになる。事態が沈静化するまで数日かかった。



 これら南スーダンの治安情勢については、明らかにしろという声が日本国内で高まっていたが、政府は実態を明らかにせず、隠した。

 現場では警備を担当する隊員たちは身を守る必要なら撃てと指示が出ていて、一人一人が武器を使うべきかの判断を攻められていた。

憲法で禁じられた武力の行使にあたらないよう一発の重みと向き合ってきた。人を殺す可能性もある、易々と撃てない使わないことが最善であると思う。(隊員のことば)

 その後番組は、内戦に巻き込まれ、「住民保護のため」に一方に荷担して武力行使せざるを得なくなっている国連PKOの現状と、それに参加するオランダの関わり方を取り上げる。危険性、困難さ、見通しの暗さなど全部の情報をあるがままに公開し、PKO参加の可否も含めて議論をするオランダの紹介は、全部の情報を隠して国民にわからないようにし、安倍内閣の思惑だけで自衛隊員を危険な場所に送り込む日本政府の立場と全く対照的である。意図的に皮肉っているとしか受け取れない。
 昨年のジュバの大規模な戦闘のあと、安倍政権は何をしたか。とうていPKO5原則を持たさないと自衛隊の撤退を模索したか。とんでもない、現地の危険な状況を隠した上で、彼らがやったのは、11次隊の部隊に戦争法に基づく「宿営地共同防護」「かけつけ警護」の任務を付与することであった。要するに、宿営地が撃たれるようなことがあれば、撃ち返せ。NGOや国連部隊が襲われたら撃ちまくって救出せよ、南スーダンで戦闘をしてこいということである。安倍政権が自らの「国際貢献」「積極的平和主義」の実績作りのために自衛隊員を人身御供にして戦地に送ったことを忘れてはならない。
 そして、憲法9条が改悪され戦闘部隊としての自衛隊が明記されるようなことがあれば、戦闘は合憲となり、かならず死傷者がでることになるだろう。

2017年6月16日
リブ・イン・ピース☆9+25