野田政権は、日米軍事一体化と沖縄への基地押しつけをすすめるために、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が4月中旬に予定する人工衛星打ち上げを最大限利用しようとしています。3月30日に安全保障会議を開き、田中直紀防衛相から自衛隊に「破壊措置命令」を発令しました。これは、大臣の許可を必要とせず、現場の判断で迎撃ミサイル発射を可能とするものです。 ※防衛相が「破壊措置命令」、北朝鮮ミサイルに備え(朝日新聞) 自衛隊の「BMD(弾道ミサイル防衛)統合任務部隊」は海上配備型迎撃ミサイル(SM3)を搭載したイージス艦を日本海に1隻と東シナ海に2隻の計3隻展開させ、地上発射迎撃ミサイル・パトリオット(PAC3)を沖縄本島(那覇市、南城市)、宮古島、石垣島と東京首都圏へ配備を始めています。また、石垣、宮古、与那国の3島には、陸上自衛隊員約400人を派遣しています。 ※自衛隊部隊 沖縄県内で順次展開(NHKニュース) ※PAC3迎撃態勢整う…都心など首都圏3か所も(読売新聞) ※那覇と宮古島にPAC3到着 自衛隊700人展開へ(朝日新聞) 日本政府は「ロケット発射問題」を利用して、(1)北朝鮮の脅威を一層あおり、北朝鮮と中国との軍事対決を鮮明にすること、(2)沖縄に米軍基地と自衛隊を受け入れさせること、(3)日米一体となったミサイル防衛と有事態勢の実戦演習を行うことを狙っているのです。 それは、北朝鮮と中国に戦争の脅威を与え、朝鮮半島・東アジア地域での軍事的緊張を一気に高めるものであり、私たちは強く反対します。 ※北“ミサイル”迎撃態勢に隠された狙い(ANNニュース) 狙いその1・北朝鮮の脅威を一層あおり、孤立化政策を一段と強化すること 今回の大騒ぎで政府が狙っていること、その第一は、北朝鮮の脅威を一層あおり、その孤立化を一段と強化することです。北朝鮮が打ち上げを発表して以降、打ち上げ予定の1ヶ月も前から、新聞、ニュース、ワイドショーなどが繰り返し取り上げています。人工衛星は「長距離弾道ミサイル」だとして、「部品の落下」と「ミサイル」を撃ち込まれるような事態を意図的に混同して、北朝鮮の「非道な行為」に対して日本を防衛しなければならない、という雰囲気を作りだしています。 もちろん、人工衛星を打ち上げるロケットは弾道ミサイルにもなりえます。従って、人工衛星の打ち上げと弾道ミサイル実験を区別することは無意味です。逆に言えば、北朝鮮の人工衛星打ち上げを非難して迎撃ミサイルまで準備するというのであれば、日本を含む欧米のロケット大国の人工衛星の打ち上げにも反対し、その危険性に備えなければならないはずです。しかし、政府も、諸政党も、マスコミも、この単純な事実を覆い隠し、「北ミサイル騒動」を演出しています。北朝鮮を敵視し孤立化させ軍事対決を強めることは東アジアと朝鮮半島の軍事的緊張を高めることになります。残念ながら日本共産党を含めて、国会に議席を持つすべての政党が、「北ミサイル騒動」に加担しています。 北朝鮮包囲網を作り、挑発を行ってきた日米韓に、北の人工衛星打ち上げ実験を批判する資格はありません。日本と韓国を出撃基地とする米軍、およびそれと協力する日本・韓国の軍事力は、北朝鮮にとって大きな脅威です。今この時も、米韓は3月1日から4月30日まで、合同の野外機動訓練「フォールイーグル」を、韓国全土で実施しています。北朝鮮の強い中止要求を無視して強行されたこの訓練は、韓国軍とともに沖縄駐留海兵隊3000人を含む米軍1万1000人が参加し、朝鮮半島有事を想定した陸・海・空の訓練を行っています。北朝鮮への戦争挑発そのものです。 ※米韓が大規模上陸訓練 沖縄駐留米海兵隊も参加(産経新聞) ※米韓両軍が射撃訓練 「米韓軍の連携、北に見せる」(産経新聞) ※米韓合同上陸訓練、在日米軍6千人を動員(読売新聞) 狙いその2・沖縄に米軍基地と自衛隊を受け入れさせること 政府の第二の狙いは、沖縄に米軍基地と自衛隊配備を受け入れさせることです。 米軍普天間基地の辺野古への移設は、沖縄県民の頑強な抵抗によって一歩も進まない状況に追い込まれています。政府は、北朝鮮のロケットが沖縄方面の上空を通過することを利用して、その脅威をあおり立て、在日米軍の沖縄駐留の必要性を強調し、事態を好転させることを目論んでいます。しかし、沖縄への迎撃ミサイル配備や軍備の増強は、北に対する備えであるかのように見せかけつつ、実は中国に対する軍事的圧力を強めることが真の狙いです。政府は、近年中国への対抗意識をむき出しにし、沖縄・南西諸島方面への自衛隊配備を強化しようとしています。2010年の「新防衛大綱」で南西地域の防衛態勢の強化を掲げ、とりわけ ※「動的防衛力」の名の下に、「武力紛争」を準備する新防衛大綱の危険(リブ・イン・ピース☆9+25) しかし、第二次大戦末期に戦場とされ、家族が日本軍に殺害されたり「集団自決」に追い込まれた経験を持つ沖縄県民にとって自衛隊は旧日本軍同様沖縄に侵入する軍隊です。このような沖縄の人々の抵抗感を押さえつけ自衛隊配備を受け入れさせるために、政府は北朝鮮のロケット発射を絶好の機会として利用しているのです。防衛省幹部は「大綱の実現が加速する可能性がある」と語ったといいます。 実際、仲井真沖縄県知事は、田中防衛相に「必要にして十分な対応を迅速に的確にとっていただきたい」と伝え、「PAC3配備は防衛技術上の問題で政府の判断を排除する理由はない」と早々に受け入れを表明しました。沖縄の人々の民意を受けて辺野古埋め立てアセスメントに対しては厳しい姿勢を貫いている仲井真知事を、政府は「北朝鮮ロケット発射」問題で揺さぶろうとしているのです。 3月30日、「破壊措置命令」発動の夜、航空自衛隊の三重県白山分屯地から20台の車両で、海上自衛隊呉基地に向かったPAC3の部隊は、呉から沖縄に向け出発しました。三重県白山分屯地、滋賀県あいばの基地、岐阜県各務原基地の各部隊が沖縄に向けて移動・展開しています。沖縄にPAC3を配備することは今回が初めてです。 ※仲井真知事、PAC3配備を容認(琉球新報) ※防衛相 沖縄知事らにPAC3配備を説明(日テレニュース) ※沖縄知事、辺野古移設「不可能」 埋め立てアセスでも(朝日新聞) ※「不適切」404件 アセス知事意見(沖縄タイムス) 狙いその3・日米一体となったミサイル防衛と有事態勢の実戦演習 政府の第三の狙いは、今回のミサイル防衛と有事態勢の実戦演習をすることです。それはまた、日米軍事一体化を一層深化させます。 ミサイル防衛は、日米軍事一体の運用そのものです。米のミサイル防衛体制のなかで日本が部分的な役割を担うに過ぎません。衛星の発射基地から発射状況、衛星の飛来状況などをすべて米軍に依存しています。具体的には、(1)北朝鮮の発射基地の状況は米の偵察衛星などが情報収集、(2)北米航空防衛司令部(米コロラド州)に伝達、(3)米太平洋軍(ハワイ)に伝達、(4)自衛隊航空総隊司令部と防衛省中央指揮所(市ヶ谷)に伝達という経路になっています。 ※北ミサイル徹底追尾…レーダー・イージス艦で(読売新聞) 米軍再編の一環として、BMD統合任務部隊を指揮する自衛隊航空総隊司令部は3月26日、在日米軍司令部がある米軍横田基地(東京都福生市)に移転しました。情報共有、役割分担調整などを行う「共同統合運用調整所」は今回の「ミサイル防衛」が初の本格運用となります。発射の瞬間は米の早期警戒衛星の探知情報などを受け、地上の警戒管制部隊やイージス艦のレーダーが追尾して軌道や落下地点を予測します。すでに米軍が、電子偵察機コブラボールやAWACSを日本周辺海域に飛ばし、警戒監視しています。米軍が「迎撃対象」と判断し迎撃を指示すれば、自衛隊は迎撃ミサイルを発射します。それは、専守防衛を逸脱する先制攻撃、集団的自衛権行使を意味します。 ※空自の航空総隊司令部、米軍横田基地へ移転 連携を強化(朝日新聞) ※「北」ミサイル 日米の共同対処を強化せよ(4月1日付・読売社説) また政府は、有事態勢の実戦演習としても利用しようとしています。市町村の防災無線に音声で自動通知する全国瞬時警報システム(Jアラート)などを活用し、ロケット発射と日本上空通過の2種類の広報を準備しています。 ※[「衛星」打ち上げ問題]ちぐはぐな政府の対応(沖縄タイムス) 「破壊措置命令」を撤回させよう 以上のように仰々しく準備されている「ミサイル防衛」ですが、もし部品が落下してきても打ち落とせる可能性はほとんどありません。ピストルの弾をピストルで打ち落とすといわれるぐらいの困難さです。もともとあらかじめ計算された軌道で飛行するミサイルを迎撃するためのもので、それさえ迎撃実験は何度も失敗しています。不規則に落下してくる部品の軌道を正確に予測して打ち落とすことは不可能です。 ※北の「衛星」迎撃準備進むも…確率「0%」!?(スポニチ) また、PAC3の射程範囲は約20kmしかなく、有効なのは配備した宮古島、石垣島や石垣島の上空付近にたまたま落下した場合だけです。しかも比較的地上付近で迎撃することになるため、仮に破壊しても落下する破片のリスクの方が高まるといわれています。 要するに、政府は落下してくる部品を打ち落とせるなどとは本気で考えていません。「北朝鮮はとんでもない国だ」、「その脅威には備えなければならない」、「そのためには沖縄の米軍と自衛隊が必要だ」等々と緊張をあおることこそが目的なのです。 ※北の「衛星」打ち上げ ミサイル防衛でよいのか(東京新聞) 「破壊措置命令」がターゲットとしているのは、北朝鮮だけでなくむしろ中国です。自衛隊イージス艦の東シナ海などへの展開、沖縄の米軍基地、自衛隊配備、日米軍事一体化と実戦演習など、以上のすべての動きは、中国に対する軍事的対抗策の具体化でもあります。 PAC3は、三菱重工がライセンス生産しており、ミサイル1発に5億円、1システムに600億円が費やされています。こうした壮大な無駄遣いでもあります。 最後に私たちは、人工衛星を打ち上げる権利は、すべての国家が有していると考えますが、人工衛星を打ち上げるロケットは弾道ミサイルに転用できる技術であり、朝鮮半島の軍事的緊張を高めることにつながりかねないことから北朝鮮の打ち上げに賛成することはできません。しかしながら北朝鮮にこのような対応を強い、軍事的緊張を高めているのは他でもない日米韓の側であることは間違いありません。 私たちは日本に住むものとして、日本政府に対して要求していかなければなりません。ロケット発射を口実とした反北朝鮮キャンペーンをやめるべきです。沖縄の米軍基地強化、自衛隊配備、日米軍事一体化のために利用するのに反対です。日本政府は戦争挑発の迎撃方針を中止すべきです。野田首相は「破壊措置命令」を撤回すべきです。
2012年4月8日 |
Tweet |