橋下大阪市長への抗議文

  リブ・イン・ピース☆9+25は、橋下市長が8月21日と24日に行った、日本軍「慰安婦」問題に関する発言について抗議し、謝罪・撤回を求める抗議文を27日付で送りました。



大阪市長 橋下 徹 様

【抗議文】
橋下市長は日本軍「慰安婦」問題での「強制連行はなかった」などとする
一連の発言を撤回し、被害者に謝罪せよ

2012年8月27日
リブ・イン・ピース☆9+25

 日本軍「慰安婦」問題は、旧日本軍の支配、管理下において、植民地や占領地、侵略先の戦場から少女を拉致、甘言、ウソなどで連行し、日本軍の存在したありとあらゆる場所に慰安所を設置し、監禁状態にした少女たちを連日多数の兵に強かんさせたという、まれに見る戦争犯罪である。
 「慰安婦」の調達から慰安所の管理運営に至るまで、軍の指揮の下に組織的に遂行された。これは歴史的事実である。橋下市長はこの中で「拉致による連行」だけが問題であるかのように描き出すが、そんなことはだれも問題にしていない。
 橋下市長は8月21日と24日、日本軍「慰安婦」問題について言及したが、これは下記の通りウソに満ちているばかりか、被害者の心情を傷つけ尊厳を貶める発言であり、とても看過できない。
 一連の発言に抗議し、謝罪と撤回を求める。

 1,「強制連行はなかった」などというゴマカシをやめ、撤回せよ
 橋下市長は「強制連行はなかった」というのが日本政府の統一した立場であるかのように主張している。しかし日本政府の立場は、現政権に至るまで、1993年に出された河野官房長官談話だ。
 河野談話の重要な点は、下記に引用したとおり、「慰安婦」被害に対する軍の関与を認めたということだ。
 「慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した。慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。」

 橋下市長は「強制連行の証拠はない」といい、河野談話の曖昧さが問題であるかのように主張しているが、河野談話で述べているのは「軍の関与」であって、そこに曖昧さはない。

 橋下市長は「強制連行はなかったというのが日本政府の立場」の論拠として、2007年の安倍内閣の閣議決定を挙げている。しかしこの閣議決定は「政府が集めた文書資料に強制連行の直接的な記述がなかった」というものに過ぎず、そんなことは河野談話を出す根拠となった調査の時点から自明のことだった。文書資料が発見されないという事実程度では、軍の関与を否定する論拠にはならなかった。
 なによりも安倍政権自身が、河野談話を踏襲する立場を否定することはできなかった。安倍首相は「慰安婦」問題を否定したいあまり「狭義の強制連行」などという珍論を持ち出したために、米国をはじめとした国際的批判をうけ、被害者に対してではなくブッシュ大統領に謝罪したという愚行を、私たちは忘れていない。

 橋下市長が主張するような「日本の官憲が軍が暴行脅迫を持って人さらいで連れてきた」などということは、争点でも何でもない。
 朝鮮半島・台湾の旧植民地の被害者の多くは「いい仕事がある」などと業者に騙され、軍用列車などで戦地に連れて行かれ、慰安所では暴力に支配され逃げ出すこともできなかった。一方中国大陸や東南アジアの被害者は、占領軍である日本軍に、暴力をもって拉致監禁され、「慰安婦」にさせられた。
 橋下市長はどんなイメージをもって強制連行という言葉を口にしているのかは知らないけれど、甘言や就労詐欺をもって戦地に連れて行かれたことも「強制」に他ならない。
 そしてなによりも、日本軍「慰安婦」問題の本質は、被害者がどうやって戦地に連れて行かれたかということではない。「慰安婦」問題の本質は、性奴隷的な慰安所生活の強制性にあるのだ。
 ありもしない争点を、さも重要事のように膨らませて、真実をねじ曲げるのはやめよ。

 2,韓国に証拠を出せと迫るまでもなく、日本国内に証拠はある
 橋下市長は「「慰安婦」という人たちが軍に暴行脅迫を受けて連れてこられてという証拠はない。あるなら韓国の皆さんに出してもらいたい」と言った。
 前述したようにそんなことは争点でも何でもない。しかしそんなことは韓国に求めるまでもなく、日本国内で歴史的事実として確定している。多くの被害者が裁判を闘うなかで、多く被害事実を認定されているのだ。

 2004年12月の中国人「慰安婦」訴訟では、東京高裁は「日本軍構成員によって、駐屯地近くに住む中国人女性(少女も含む)を強制的に拉致・連行して強姦し、監禁状態にして連日強姦を繰り返す行為、いわゆる慰安婦状態にする事件があった」と判決文で認定している。
 ほかにも東京地裁判決、山口地裁下関支部判決などで、本人の意に反して「慰安婦」にさせられた女性がいたと事実認定されている。

 橋下市長は証拠がないと主張するが、これはまるで証言など証拠に値しないかのように聞こえる。しかし裁判では文書資料などなくとも被害事実を認定しているのだ。
 1998年4月の関釜裁判山口地裁下関判決では「慰安婦原告らは自らが慰安婦であった屈辱の過去を長く隠し続け、本訴にいたって初めてこれを明かした事実とその重みに鑑みれば、本訴における同原告らの陳述や供述は、むしろ、同原告らの打ち消し難い原体験に属するものとして、その信用性は高いと評価」している。

 橋下市長の「証拠がない」という主張は、元弁護士とは到底思えない発想だ。そもそも日本軍が「若い女性を暴行脅迫して拉致連行してこい」などという命令書を出すなどとは誰も考えていないし、そんなあるはずもない証拠がなければ歴史の事実ではないなどと言っているのは、歴史の事実を直視したくない人だけだ。証言も、歴史を証明する証拠として十分耐えうるものなのである。
 それとも弁護士出身の橋下市長は、司法による事実認定まで否定するつもりなのだろうか。

 3,戦時性暴力が問題ないとは到底許し難い
   発言を撤回し、被害者に謝罪せよ

 橋下市長は、強制が問題ではなく「慰安婦」の存在そのものが原因なのであれば、「軍において、いわゆる戦争状態においてね、慰安婦制度っていうのが今から考えると非常に倫理的に問題な制度かもわからないけど、当時の時代背景において、慰安婦制度っていうものがどういうものだったのかってことをきちんと議論しなきゃいけない」と発言した。
 私たちは前述したように、「慰安婦」問題の本質は性奴隷的な慰安所生活の強制性にあると考えている。
 ところが橋下市長の発言は、戦時下であれば、当時の社会情勢に照らせば、「慰安婦」制度は問題ないというふうにしか聞こえない。これは戦時性暴力は当然といっているのも同じではないか。
 「慰安婦」制度は当時においても国際法に違反しており、日本の刑法にも違反する犯罪行為だった。甘言を弄し拉致監禁する行為が犯罪でなくて何であろうか。

 ここで同じく1998年4月の関釜裁判山口地裁下関判決で被害事実を認定された、原告の李順徳さんの陳述と供述を引用したい。李順徳さんは、「腹一杯に」食べられるところに連れて行ってやる」と騙され、慰安所に連れて行かれた。声をかけたのは朝鮮人ブローカーだったが、翌日軍用列車と軍用トラックに乗せられてから一貫して日本軍が拉致に関わり、1945年までの8年間慰安所に監禁された。
 「陸軍駐屯地に入れられて4日目に、星が3個ついたミヤザキという年配の将校が小屋に入ってきて。同女に対して執拗に性交を迫り、これに抵抗できなくなった同女を3日間にわたり毎晩犯した。その後、多くの軍人が小屋の前に行列を作り、昭和20年(1945年)8月の解放の時まで約8年間、毎日朝9時から、平日は8、9人、日曜日は17、8人の軍人が、小屋の中で同女を強姦し続けた。」

 橋下市長に問いたい。これが、戦時であれば、当時の社会常識に照らせば、当然のことなのか?!「拉致による強制連行」でなかったから許されるのか。
 これは過去の「歴史」の事柄ではない。今も生きている、80歳代、90歳代の被害者たちの身の上に起こった出来事なのだ。「当時の社会情勢に照らせば」という言葉が、今を生きる被害者に通用する理屈なのか?!
 戦時性暴力は今日でも、戦争・紛争のあるところで繰り返し起こっている。被害者の多くは、「二度と自分たちのような被害者を生み出したくない」という切実な思いから、苦しい過去の体験を証言している。橋下市長の言葉は、勇気をもって名乗り出た被害者の心情を逆なでし、踏みにじる、セカンドレイプにも等しい行為だ。
 絶対に許すことができない。

 橋下市長は発言を撤回し、被害者に謝罪せよ!